LOGIN『画面の向こうの彼らに、夢を抱くほど憧れてしまった』 スーツアクターを夢見る佐伯 良太。 ある日良太は通り魔事件に巻き込まれてしまい、志半ばにして命を落とす。 だが彼は見知らぬ世界に暮らすアデーレという少女として、新たな命を与えられたのだった。 ここはロントゥーサ島。魔獣が現れる辺境の小島。 十六歳となったアデーレは、貴族に仕えるメイド、そして素性を隠し人々を守る『火竜の巫女』という二つの肩書を背負い、日々を懸命に生きていく。 それは、今も憧れを抱く特撮番組の主人公たちのような……そんな生活である。
View More人々の悲鳴が町に響き渡る。
人を押しのけ、物を押しのけ逃げ惑う人々。
荷車に繋がれた馬は
文字通りの阿鼻叫喚。誰もが自らの命を守るため、必死なのだ。
そして人々が去った後には、一際大きな巨人が割れた石畳の上に佇んでいた。
仁王立ちするその巨人は、人々から魔獣と呼ばれ恐れられる怪物である。
身長は隣に建つ白壁の二階建て住居と同等。
浅黒く筋骨隆々の身体からは血管が浮き上がり、血走る単眼の中央では黄金の瞳がぎらつく。
それは衛兵達からサイクロプスと名付けられており、高頻度で人里に姿を現す魔獣だ。
「お前、逃げなくていいのかァ?」
腐った血液の悪臭が混じる吐息が、地響きのような声と共にまき散らされる。
サイクロプスの眼下には壁際まで追い詰められた者が一人、壁に背を向け佇んでいた。
その人物の顔や服装は外套によって隠され、表情は伺えない。
だが、この状況下で恐れを知らぬ人間がいるだろうか。
この者は太刀打ちできないほどに巨大な存在から、獲物として目を付けられているのだ。
自らがこの場の強者であると確信しているサイクロプスは、裂けたように大きな口をにやつかせる。
サイクロプスの剛拳が、建物二階の外壁を貫く。
崩れた壁の一部が地面に落ち、細かな破片が土埃を上げながら路面を跳ねる。
それでもサイクロプスは下の人間を気にすることなく、埋もれた腕を勢いよく引き抜く。
周囲にまき散らされる破片。埃や塵が開いた大穴から煙のように噴き出す。
サイクロプスの手には、屋根を支えるための太い
こん棒として扱うには少々短く、強度も足りない木材だ。
それでも力任せに振り下ろせば、人間など原形を留めぬ肉塊にするには十分だろう。
「怯えろ、怯えろ。オレは人間が怯えるの、大好きだ」
傍から見れば恐怖から口も利けない状態なのだと考えるのが自然であろう。
だが一切反応がないとなれば、短気な魔物はいよいよ苛立ちを隠せなくなる。
歓喜していたサイクロプスの表情は険しくなり、歯ぎしりが騒音のように鳴り響く。
「お前、もういい。死ね」
握りしめる梁をフードの人物に目掛け、一切の躊躇なく振り下ろすサイクロプス。
直後、木材のひしゃげる乾いた音が、飛散する大量の木片と共に響き渡った。
――サイクロプスの一つ目が、大きく見開かれる。
突風でなびく外套。
振り下ろされた梁は、フードの人物に届いてはいなかったのだ。
右腕はまるで梁を受け止めるかのようにサイクロプスに向け伸ばされ、その手には赤く輝く竜紋の錠前が握られていた。
踊り狂うような風が、顔を覆うフードを剥がす。
その下から現れたのは、切れ長の目でサイクロプスを睨みつける少女だった。
青年間近を思わせる整った容姿に、ブラウンの瞳と大洋の青を思い起こさせるダークブルーの髪。
フリルの付いた白色のキャップを被る姿は、どこかの家に仕える使用人を思わせる格好だ。
少女は息を荒げるサイクロプスを
「これで時間は稼げたね、アデーレ」
竜紋の錠前から声が放たれる。
だが無機物が喋るという状況に、アデーレと呼ばれた少女は一切の驚きを見せない。
「誰もいないよね、ロックン」
「もちろん。いつでもやっちゃいなよ!」
錠前の声に合わせ、アデーレが駆け出す。
呆然とするサイクロプスは、少女が自身の股下をくぐり背後へ回ったことに気付けずにいた。
少女は駆け出した勢いのままサイクロプスの方へ振り返り、今度は左腕を外套の外に晒す。
その手には錠前とセットになっているのであろう、炎を模した鍵が握られている。
右手の錠前、左手の鍵。
慌てて振り返るサイクロプス。
正対したアデーレは、両手を自らの前方に突き出す。
彼女はゆっくりと目を閉じ、鍵を錠前に差し込む。
鍵が完全に差し込まれると、錠前から赤い炎が噴き出し周囲に熱波を放つ。
熱い風が吹き荒れ、激しく舞い上がる外套の下から白いエプロンドレスを身に着けた黒いドレスが現れる。
衣服は赤々と燃える炎の光に照らされ、無数の火の粉が熱風と共に宙を舞う。
しかし炎が周囲に燃え移ることはなく、彼女の手の内を包み込むように燃え盛っていた。
その様子を前にして、余裕の態度を見せていたサイクロプスが警戒するように後ずさる。
前髪を風にたなびかせながら、アデーレは熱を帯びた空気を肺に溜めるように短い深呼吸をした。
「……行くよッ」
カチャリと鳴る鍵の回転に合わせ、錠前から火花が飛び散る。
その直後、錠前が纏っていた炎がアデーレの身体を包み込み、炎は赤いオーラへと姿を変えていく。
火の粉は輝く粒子へと姿を変え、オーラはアデーレの全身に取り込まれ纏っていた服を別のものへと変形させる。
キャップは両側が上に反ったつばを持ち、竜の翼を模した飾りで彩られたワインレッドの帽子へ。
外套が熱風に吹き飛ばされ、白色のロングワンピースとその上に羽織った赤色のロングコートが姿を現す。
キャップの下にまとめられていたダークブルーの長い髪が風になびく。
オーラはなびく髪に集まり、その髪色をルビーのような鮮やかな赤へと変化させた。
「
サイクロプスが呟き、後ずさる。
歯を食いしばり、手に持っていた梁の残骸を彼女めがけて投げつける。
アデーレはそれを避けようとせず、まばゆい光に包まれる右手で大きく薙ぐ。
粉砕される木材。
アデーレの手に握られていたのは、赤々と輝く長大な金属の塊。
噴き上がる炎がそのまま刃へと変容したかのような、強烈な熱を帯びる片刃の大剣へと姿を変えていたのだ。
自身の身の丈よりも長い剣を片手で掲げ、切っ先をサイクロプスに向けるアデーレ。
その顔に一切の情は存在しない。
「この島に害を成すのは、私が決して許さないから」
大剣を両手で構え直すアデーレ。
ロングブーツの靴裏が石畳を砕き、足元の地面がわずかにえぐれる。そのままつま先で強く地面を蹴り、石畳の破片を跳ばしながらサイクロプスとの間合いを一瞬で詰める。
身を守ろうとサイクロプスは腕を構えるが遅すぎだ。
アデーレの方がより早く、巨大な剣でサイクロプスの巨大な体を切り上げていた。
「……あ。もうすぐお客様がいらっしゃるんだった」
袈裟懸けに両断され、引火した炎で燃え上がるサイクロプスを背にアデーレがつぶやく。
火の加護が消失した衣服は、黒いワンピースと白いエプロンドレスへと戻っていた。
ダークブルーへと戻った髪もまとめられ、しっかりとキャップも被っている。
今も熱を帯びる錠前をスカートのポケットにしまった後、アデーレは落ちていた外套を拾い上げ埃を払う。
そして再び外套を身にまとうと、本来の業務に戻るためその場を後にするのだった。
白色の炎を纏い、新たな力を会得したアデーレ。 冷たい月明りによる手痛い攻撃を受けたためか、いよいよエヴァの顔から余裕というものが消え失せる。 彼女は無言のまま、その結晶で作られた鋭利な腕をアデーレへと向ける。 それに呼応するように、脚を止めていた周囲の魔獣たちが一斉に動き出す。 これまでと変わらない、数による一斉襲撃でアデーレを圧倒しようという魂胆だろう。 背中の触手を伸ばしたエヴァも、両腕を広げながら迫り来る。 魔獣たちがアデーレの間合いに入った瞬間、彼女はその場で回転しながら後方に移動する。 その間、柄の両端に刃が付くフラムアルクスが、手首の捻りによって波打つように中空を舞う。 揺らめく姿はそよ風。しかし敵を切り裂くその瞬間、刃は光の筋となって魔獣の体を一閃する。 しかし、エヴァは身を逸らすことで流れるような斬撃を回避。 回避する彼女をアデーレは深追いせず、一気に距離を離してから燃え盛る炎の矢をフラムアルクスにつがえる。「諦めの悪いことで」 吐き捨てるようなエヴァの言葉に続き、双方の間合いに結晶魔獣が割って入る。 直後、アデーレの手から炎の矢が放たれ、それは一直線に結晶魔獣の胴体を貫く。 抜けてきた矢をエヴァは紙一重で回避するも、今度は射抜かれた魔獣の爆発が彼女を後方へ押し返す。 刃の斬撃と矢の一撃を合わせたアデーレの動きは、舞いを奉納する巫女のそれを思わせる。 白いコートを大きくなびかせ、時折ずれる帽子の位置を直す姿は壮美にも映る。 そのトリッキーな戦闘スタイルは、魔獣たちを確実に翻弄していく。 普段の火竜の力とは正反対となる動きは、もはや別の戦士といっても過言ではない。「いいね……体が軽いっ」 その場で軽く跳躍し、眼下に目掛け弓を構えるアデーレ。 大きく燃え盛る右腕から多数の矢が一斉に生成され、魔獣目掛け放たれる。 炎の矢は白い光跡を残しながら地面へと降り注ぎ、群れとなった魔獣を無作為に貫いていく。 上空からの射掛けは止むことを知らず、白い流星雨が魔獣の群れを打倒していく。 対するエヴァも、降り注ぐ矢を瞬間移動の如き素早さで回避すると、背中の触手で地面を叩き飛び上がる。 結晶の刃となった腕がアデーレを捉え、彼女の心臓を貫かんと突き出される。 しかしフラムアルクスと研ぎ澄まされた腕がぶつかり合い、エヴァの
フラムディウスが纏う白い炎。 それは燃え盛るほどに周囲の熱を奪い、肌を刺すような冷気を常に放ち続ける。 その冷たさとは裏腹に、新しく宿った力が自然と馴染む感覚がアデーレに高揚感を抱かせた。「月の明かりは冷たい光。そして聖火の一側面さ」「月……月の女神の力を持ち出すとは」 驚愕の様相を見せるエヴァに対し、アンロックンは得意げに笑ってみせる。 月光を象徴する白い明かりが揺らめき、結晶片に反射し瞬く。 想定外の力を目の当たりにした結晶魔獣たちは動きを止め、アデーレから間合いを取るように動く。 数多の禍々しい結晶が散らばるその中心で、アデーレは寒々しくも美しい立ち振る舞いを見せていた。 口の先からは白い息を漏らし、北国の冬を思わせる空気は吸うたびに体の火照りを冷ます。 内に宿る力は変わらず熱を宿しているが、それでもフラムディウスが纏う冷気の炎は肌寒い。 変身時のアデーレが肌寒く感じるのならば、生身の人間には耐えがたいはずだ。 しかし、この凍てつく炎こそが新たなる力。 彼女は自分の顔の前で剣を構え、周囲の魔獣を睨みつける。「ですが、ここで引くわけにはいかないのですよッ」 エヴァの体から生える触手が伸び、アデーレの体を貫かんと突き進む。 結晶魔獣たちも、その四肢を振り乱しながら地面を蹴り、彼女に向け迫り来る。 それらを一瞥したアデーレは、すぐさまフラムディウスを構えなおして両足で地面を踏みしめる。 回避ではない、防御の体制。 牙のように鋭い触手の先端は刃で受け流し、流れるように身を翻して先頭の結晶魔獣の腕を受け止め、押し返す。 そこから身を屈めると、すぐさまフラムディウスを横一線に振り払い、体勢を崩した結晶魔獣を一刀両断してみせる。 すかさず背後から迫った触手を切り払い、三方から来る魔獣の腕をかがんで回避。 その姿勢のまま地面を蹴って、地面を滑りながら魔獣の股下をくぐり包囲を抜ける。 刃が動くたびに揺れる炎が、光の軌跡を生み出す。「ヴェスティリア、鍵を更に回し続けるんだ」「もう一度?」「月神の力にはよりふさわしい【形】があるんだ。さあ」 アンロックンの指示に従い、フラムディウスの鍵穴に入ったままの鍵を見る。 それはまるで彼女に更なる力の解放を促すように意匠を輝かせていた。
アデーレを襲う絶体絶命の連鎖。 金属と岩の激しい衝突音が鳴り続け、叩きつけるような衝撃に脚は震える。 唯一の救いは、フラムディウスの強度が今もなお保たれていることくらいか……。「……っ?」 息を詰め、ただ一点を睨み続けるアデーレ。 その時、背中に触れる結晶から冷気が伝わってくる。 明らかに異常なその温度の変化に気付き、彼女は視線を横に向ける。 その直後だった。 結晶の表面に何の前触れもなく大きな亀裂が生じ、同時にアデーレを襲う圧力が一気に弱まる。「今だっ、押し返せ!!」 アンロックンの言葉にうなずいて答え、渾身の力を脚に込めるアデーレ。 その力に耐えられない結晶は、彼女の足を起点にその亀裂を大きくしていく。 そしてアデーレは、自らを覆う全ての瓦礫を押し返さんと、今出せる全力で大結晶を蹴り上げる。 押し返す力により瓦礫は押し退けられ、彼女の体が弾け飛ぶようにして瓦礫の外へと飛び出す。 先程のような引き寄せる力はなく、アデーレの体は重力に従い正しく落下する。「アイツの中にいたんだね」 彼女が空中で振り返ると、そこには無数の瓦礫により体を補強した巨大結晶の魔獣が。 体から伸びる二本の触手を掲げ、何対もの節足により巨体を支える異形だ。 先ほどまでアデーレが埋もれていたのは、あの魔獣の体内だった。 空中で回転し、姿勢を正したところで陥没した穴の底に着地するアデーレ。 魔獣は彼女の存在を認識していないのか、港町の方に向けてゆっくりとその歩みを進める。 あの巨大な魔獣がロントゥーサの港町へ侵攻しているのは明らかだ。 結晶の魔獣はアデーレのみならず、人間では対処することがまず不可能である。 もしも魔獣が町に到達すれば、町やそこに暮らす人々に大きな被害をもたらすだろう。 悠然と進む魔獣を睨み、その体に張り付こうとアデーレは跳躍の姿勢を取る。 しかし、魔獣の体から剥き出しの結晶が大量に剥がれ落ち、それらが膨張すると見慣れた結晶魔獣の姿へと成長する。 それらは巨大魔獣の体から次々と生まれていき、アデーレの周囲にも飛来してくる。「アイツ、何でもありなの?」「そういう事だろうね……避けてッ!」 飛来する魔獣を避けつつ、結晶魔獣を睨むアデーレ。 そんな彼女の怒りが通じるはずもなく、魔獣は次々にその数を増やしていく。 今までのアデ
穏やかな口調で話すアデーレの言葉に、アンロックンは静かに耳を傾ける。 そして彼女が粗方話し終えたというところで、小さくうなずくような仕草を見せた。「なるほど。キーザか……」 錠前の依り代が揺れ動き、乾いた音が鳴り響く。「結晶の魔女って話だったけど、イェキュブ以外にも魔女がいるってことなんだね」「うん。そもそも魔女は信仰している上位存在と契約を結んだ人間が、ああいう姿になったものだから」「つまりその上位存在っていうのはたくさんいると」 「その通り」と、うなずくような動作を見せるアンロックン。 その金属音にアデーレは耳を傾けながら、頭の中を整理するためゆっくりと深呼吸をする。「キーザは結晶の上位生命体を信仰する魔女のことで、銀のムトゥラっていう長の意識を共有しているんだ」「意識の共有……ああ、集合意識ってやつか」 前世で見たフィクション作品でも馴染みのある設定のためか、アデーレの理解は早い。 同時に、そのような存在がこの世界にいることにわずかながらの恐怖を覚える。 なぜなら、あの結晶は生命を侵食する力を持つ。 つまり侵食された生命は意識すら銀のムトゥラのものに上書きされ、文字通りの傀儡とされてしまうのだ。 癒しの光に身を包みながらも、その表情をしかめるアデーレ。 イェキュブとは異なる危険性を持つ魔女を前に、改めて結晶魔獣の恐ろしさを痛感する。「僕の見立てだけど、アデーレが見た巨大結晶が新しい力を得た銀のムトゥラじゃないかな」「新しい力?」「ああ。君が嫌というほど苦しめられた、あのエネルギーを吸収する能力のことさ」 アンロックンの言葉に、アデーレはなるほどとうなずく。 ヴェスティリアの攻撃を無効化する結晶魔獣の力には、特殊な対応を余儀なくされてきた。 巨大結晶に対しダメージを与えられたのも、自爆に等しいエネルギーを込めた一撃を加えたときのみだ。「でも大丈夫。もうあの魔獣たちの好きなようにはさせないよ」 アデーレの胸の上で、アンロックンが誇らしげに揺れる。 まともな対策が存在しないために、ベルシビュラに頼りっぱなしになっていた現状。 しかし今ここにアンロックンがいるということは、その状況を覆す一手があるということだ。 アンロックンの言葉で、今日までの苦労が報われたとアデーレは胸をなでおろす。 単独行動と
ロベルトがダニエレを連れて屋敷を出てしばらく経った頃。「なるほどなるほど。エスティラ様は彼の言葉をそのように解釈したと」「ええ。おかしな魔獣も増えていたし、その可能性は高いと思わない?」 応接室に集まった数名の衛兵たち。 彼らの中心に立つ馴染みの指揮官が、エスティラの言葉に対し肯定しつつうなずく。 その様子を、並んで立つメリナとラヴィニア、そしてサウダーテ夫妻が静かに見守っている。「結晶の体を持つ魔獣は水に弱い。故にこの島から出ることは出来ないと」 それは、ダニエレが独り言のようにつぶやいていた言葉からの推測だった。 プルトの言葉を加味すれば、その考えは結果的に正しいもので
その日、島は異様な静寂に包まれていた。 遺跡での事件は、脱出に成功した調査隊の口から島中へと広がり、衛兵隊によって厳戒態勢が引かれることとなった。 夜間外出は制限され、裏切り者であるエヴァ・アソニティスの行方は今もなお不明のままだ。 時折夜風が窓を叩く。 小さな家鳴りが人の足音のように響き、息をひそめる人々は聞き耳を立てる。 珍しく晴れた空からは、満天の星と欠けた月が静かなロントゥーサ島を照らし出していた……。 ◇ メリナは一人、寝室に戻らず貯蔵庫に籠っていた。 鍵をかけたドアに背中を預け、膝を抱えながらうずくまって座る。 普段仕事で被っているキャップは
トカゲの住処となっていた建物から脱出を果たしたアデーレ。 しかし何がきっかけになったのか、廃墟のあらゆる隙間から結晶を背負うトカゲが姿を現し、瓦礫の上から人間たちを睨みつけてくる。 トカゲが積極的でないことに皆安心しつつも、何をきっかけに襲われるのか分からない。 大通りの円形広場に集まったアデーレたちは、トカゲを刺激しないよう物音を立てずに身を寄せ合っていた。「今は地上へ戻
延々と地下へと続く長い階段を、人間の集団が降りていく。 ランタンの灯りは彼らの周辺しか照らすことができず、進む先には光の届かない暗闇が広がる。 先を見通すことができない彼らには、この階段が地の底まで続いているのではないかと不安を抱くことだろう。 ただ一人、異なる世界の前世を記憶するアデーレは違った。 踏み入れた地下遺跡の階段を一歩ずつ踏みしめる度、前世で見た洋画のワンシーン