お嬢様、あなたの『推し巫女(ヒーロー)』、私なんですが

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last updateLast Updated : 2025-12-12
By:  蕪菁Updated just now
Language: Japanese
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『画面の向こうの彼らに、夢を抱くほど憧れてしまった』 スーツアクターを夢見る佐伯 良太。 ある日良太は通り魔事件に巻き込まれてしまい、志半ばにして命を落とす。 だが彼は見知らぬ世界に暮らすアデーレという少女として、新たな命を与えられたのだった。 ここはロントゥーサ島。魔獣が現れる辺境の小島。 十六歳となったアデーレは、貴族に仕えるメイド、そして素性を隠し人々を守る『火竜の巫女』という二つの肩書を背負い、日々を懸命に生きていく。 それは、今も憧れを抱く特撮番組の主人公たちのような……そんな生活である。

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Chapter 1

1-1【憧れのあなたに恥じない為に】

 人々の悲鳴が町に響き渡る。

 人を押しのけ、物を押しのけ逃げ惑う人々。

 荷車に繋がれた馬はくびきから解き放たれ、明後日の方向に走り去る。

 文字通りの阿鼻叫喚。誰もが自らの命を守るため、必死なのだ。

 そして人々が去った後には、一際大きな巨人が割れた石畳の上に佇んでいた。

 仁王立ちするその巨人は、人々から魔獣と呼ばれ恐れられる怪物である。

 身長は隣に建つ白壁の二階建て住居と同等。

 浅黒く筋骨隆々の身体からは血管が浮き上がり、血走る単眼の中央では黄金の瞳がぎらつく。

 それは衛兵達からサイクロプスと名付けられており、高頻度で人里に姿を現す魔獣だ。

「お前、逃げなくていいのかァ?」

 腐った血液の悪臭が混じる吐息が、地響きのような声と共にまき散らされる。

 サイクロプスの眼下には壁際まで追い詰められた者が一人、壁に背を向け佇んでいた。

 その人物の顔や服装は外套によって隠され、表情は伺えない。

 だが、この状況下で恐れを知らぬ人間がいるだろうか。

 この者は太刀打ちできないほどに巨大な存在から、獲物として目を付けられているのだ。

 自らがこの場の強者であると確信しているサイクロプスは、裂けたように大きな口をにやつかせる。

 サイクロプスの剛拳が、建物二階の外壁を貫く。

 崩れた壁の一部が地面に落ち、細かな破片が土埃を上げながら路面を跳ねる。

 幸いなことに、降り注ぐ破片がフードの人物に当たることはなかった。

 それでもサイクロプスは下の人間を気にすることなく、埋もれた腕を勢いよく引き抜く。

 周囲にまき散らされる破片。埃や塵が開いた大穴から煙のように噴き出す。

 サイクロプスの手には、屋根を支えるための太いはりが握られていた。

 こん棒として扱うには少々短く、強度も足りない木材だ。

 それでも力任せに振り下ろせば、人間など原形を留めぬ肉塊にするには十分だろう。

「怯えろ、怯えろ。オレは人間が怯えるの、大好きだ」

 人間は答えない。

 傍から見れば恐怖から口も利けない状態なのだと考えるのが自然であろう。

 だが一切反応がないとなれば、短気な魔物はいよいよ苛立ちを隠せなくなる。

 歓喜していたサイクロプスの表情は険しくなり、歯ぎしりが騒音のように鳴り響く。

「お前、もういい。死ね」

 握りしめる梁をフードの人物に目掛け、一切の躊躇なく振り下ろすサイクロプス。

 直後、木材のひしゃげる乾いた音が、飛散する大量の木片と共に響き渡った。

 ――サイクロプスの一つ目が、大きく見開かれる。

 突風でなびく外套。

 振り下ろされた梁は、フードの人物に届いてはいなかったのだ。

 右腕はまるで梁を受け止めるかのようにサイクロプスに向け伸ばされ、その手には赤く輝く竜紋の錠前が握られていた。

 踊り狂うような風が、顔を覆うフードを剥がす。

 その下から現れたのは、切れ長の目でサイクロプスを睨みつける少女だった。

 青年間近を思わせる整った容姿に、ブラウンの瞳と大洋の青を思い起こさせるダークブルーの髪。

 フリルの付いた白色のキャップを被る姿は、どこかの家に仕える使用人を思わせる格好だ。

 少女は息を荒げるサイクロプスを一瞥いちべつすると、右手をゆっくりと下げる。

「これで時間は稼げたね、アデーレ」

 竜紋の錠前から声が放たれる。

 だが無機物が喋るという状況に、アデーレと呼ばれた少女は一切の驚きを見せない。

「誰もいないよね、ロックン」

「もちろん。いつでもやっちゃいなよ!」

 錠前の声に合わせ、アデーレが駆け出す。

 呆然とするサイクロプスは、少女が自身の股下をくぐり背後へ回ったことに気付けずにいた。

 少女は駆け出した勢いのままサイクロプスの方へ振り返り、今度は左腕を外套の外に晒す。

 その手には錠前とセットになっているのであろう、炎を模した鍵が握られている。

 右手の錠前、左手の鍵。

 慌てて振り返るサイクロプス。

 正対したアデーレは、両手を自らの前方に突き出す。

 彼女はゆっくりと目を閉じ、鍵を錠前に差し込む。

 鍵が完全に差し込まれると、錠前から赤い炎が噴き出し周囲に熱波を放つ。

 熱い風が吹き荒れ、激しく舞い上がる外套の下から白いエプロンドレスを身に着けた黒いドレスが現れる。

 衣服は赤々と燃える炎の光に照らされ、無数の火の粉が熱風と共に宙を舞う。

 しかし炎が周囲に燃え移ることはなく、彼女の手の内を包み込むように燃え盛っていた。

 その様子を前にして、余裕の態度を見せていたサイクロプスが警戒するように後ずさる。

 前髪を風にたなびかせながら、アデーレは熱を帯びた空気を肺に溜めるように短い深呼吸をした。

「……行くよッ」

 目を開き、左手に力を込め、手にした鍵を時計回りに回す。

 カチャリと鳴る鍵の回転に合わせ、錠前から火花が飛び散る。

 その直後、錠前が纏っていた炎がアデーレの身体を包み込み、炎は赤いオーラへと姿を変えていく。

 火の粉は輝く粒子へと姿を変え、オーラはアデーレの全身に取り込まれ纏っていた服を別のものへと変形させる。

 キャップは両側が上に反ったつばを持ち、竜の翼を模した飾りで彩られたワインレッドの帽子へ。

 外套が熱風に吹き飛ばされ、白色のロングワンピースとその上に羽織った赤色のロングコートが姿を現す。

 キャップの下にまとめられていたダークブルーの長い髪が風になびく。

 オーラはなびく髪に集まり、その髪色をルビーのような鮮やかな赤へと変化させた。

火竜の巫女ヴェスティリア……ッ」

 サイクロプスが呟き、後ずさる。

 歯を食いしばり、手に持っていた梁の残骸を彼女めがけて投げつける。

 アデーレはそれを避けようとせず、まばゆい光に包まれる右手で大きく薙ぐ。

 粉砕される木材。

 アデーレの手に握られていたのは、赤々と輝く長大な金属の塊。

 噴き上がる炎がそのまま刃へと変容したかのような、強烈な熱を帯びる片刃の大剣へと姿を変えていたのだ。

 自身の身の丈よりも長い剣を片手で掲げ、切っ先をサイクロプスに向けるアデーレ。

 その顔に一切の情は存在しない。

「この島に害を成すのは、私が決して許さないから」

 大剣を両手で構え直すアデーレ。

 ロングブーツの靴裏が石畳を砕き、足元の地面がわずかにえぐれる。

 そのままつま先で強く地面を蹴り、石畳の破片を跳ばしながらサイクロプスとの間合いを一瞬で詰める。

 身を守ろうとサイクロプスは腕を構えるが遅すぎだ。

 アデーレの方がより早く、巨大な剣でサイクロプスの巨大な体を切り上げていた。

「……あ。もうすぐお客様がいらっしゃるんだった」

 袈裟懸けに両断され、引火した炎で燃え上がるサイクロプスを背にアデーレがつぶやく。

 火の加護が消失した衣服は、黒いワンピースと白いエプロンドレスへと戻っていた。

 ダークブルーへと戻った髪もまとめられ、しっかりとキャップも被っている。

 今も熱を帯びる錠前をスカートのポケットにしまった後、アデーレは落ちていた外套を拾い上げ埃を払う。

 そして再び外套を身にまとうと、本来の業務に戻るためその場を後にするのだった。

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1-2【佐伯 良太、享年二十一歳】
          第一章【紅蓮のメイドは夢を抱く】 ある日の日本。曇天の町並み。 家族葬向けの小さな斎場の入り口に、葬儀が執り行われる人物の名前が書かれた電子看板が置かれていた。 【故 佐伯 良太 儀 葬儀式場】  享年二十一歳。  佐伯 良太は、あまりにも短い生涯を終えてしまった。  生まれは都会。幼少の頃より両親は不仲で、小学生の頃に二人は離婚した。  親権を有する母親には虐待癖があり、母子家庭ということを加味すれば、家庭環境は最悪と言わざるを得ない。  朝食の用意は自分で行い、母が朝帰りする前に学校へと向かう。  恵まれない環境は自らの人間関係にも影響し、友人と呼べる相手は皆無に等しかった。  学校側は彼の置かれた状況を把握しつつも、有効な手段を取ることはできずに実質放置状態である。  朝早く家を出て、できるだけ遅く帰宅するという日々を送っていた良太。  このような生活は、得てして人格形成に悪影響を及ぼす。  小学校高学年の頃には不登校も目立ち、周りからは悪童として疎まれるようになっていた。  中学生になってからの良太は、一部の集団からいじめの標的とされていた。  良太の粗暴な外見が幸いしたと言えるのか、暴力行為は周りが躊躇し手を出されるようなことはなかった。  代わりに、その多くは表に出ないような陰
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2-4【魂、目覚めよ】
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