Se connecter馬車の元へ辿り着くと、そこには何故かユリウスがいた。「ステラ」相変わらず冷たい表情でこちらを見つめるユリウスだが、その黄金の瞳はとても優しい。この場にユリウスがいる意味がわからず、私は首を傾げた。ここでユリウスと待ち合わせをした覚えはない。「ロイ殿下。うちのステラが大変お世話になりました。それでは」私の隣にいたロイに会釈をし、ユリウスが私の手を引く。そうして私はユリウスの元へと移動した……と、思われた。しかし実際はロイが私の空いている方の手を掴み、それを阻止したことによって、その場に留まることになった。右手をユリウスに、左手をロイに掴まれ、どちらにも行けない状態となる。「婚約者である僕が最後までエスコートするよ。お義兄様」「…そのように呼ばないでください。俺はアナタの義理の兄になるつもりはありません」「おかしなことを言うね、ユリウス。僕とステラは結婚するんだよ?ユリウスに拒否権はないよ?」「おかしなことを言っているのは殿下の方です。そもそもその結婚がありえないと言っているのです」「僕は婚約者なのに?」「その婚約は無効です」…また始まった。2人が顔を合わせればいつもこうだ。ユリウスは不愉快そうに、ロイは笑顔で互いを睨み合っている。午前中も見た一触即発な空気に、私は頭を抱えた。「ステラはフランドルから出ません。ステラはこの先もずっとステラ・フランドルです」「囲うの?ステラを?ステラの幸せを願うならステラは自由であるべきだ。ステラは将来、ステラ・ミラディアになるんだよ」「違います」「違わないよ」…終わらない。このまま2人を放置すると永遠に
中庭のお茶会会場に着くと、私とロイは机を挟んで向き合う形で座り、苺のデザートとお茶を堪能しながら、世間話に花を咲かせていた。ロイとの婚約は不満だが、別にロイのことが嫌いだという訳ではない。むしろロイとの時間は普通に楽しく、時間もあっという間に過ぎていった。「結婚しようか、ステラ」「…っ!…は、はい?」突然、美しい笑みを浮かべ、甘い瞳でとんでもないことを言ってきたロイに、思わず口に含んでいた紅茶を吹き出しそうになる。だが、私はそれを何とか堪えて飲むと、この帝国の皇太子であるロイに怪訝な視線を向けた。急に一体なんなんだ。「…申し訳ありませんがロイ様と結婚はできません。そもそも私はこの婚約を破棄するつもりなんです」「破棄?どうして?」「私は孤児出身です。身分が違いすぎます」「今は公爵令嬢じゃないか」「元はどこの馬の骨かもわからない者です」「元はだろう?今は公爵令嬢だよ」「…」何を言っても変わらないロイに嫌気が差し、私は露骨に嫌な顔をする。この皇太子には〝元孤児〟という肩書きは何の意味もなさないようだ。ならば、攻め方を変えよう。「…愛してもいない人と結婚なんてしたくないですよね?ロイ様はこの帝国の皇太子であり、次期皇帝です。ロイ様よりも強い権力を持つ者など、現皇帝陛下しかおりません。ならば公爵令嬢と結婚しなくてもいいはずです。愛する人と結婚すべきです」すぅと瞳を細め、すまし顔でただ淡々と言葉を並べる。私は今、文武両道才色兼備完全無欠と称えられたあの頃のリタだった。誰にも反論の余地を与えない、そんな雰囲気を意図的に作る。「ステラは本当に意地悪だね?僕の気持ちなんてもうわかっているだろう?」「わかってい
ロイとユリウスと私。フランドル公爵邸内の中庭で、何故か揃ってしまった私たち3人の空気は殺伐としていた。ロイかユリウス、どちらかがこの場から離れればよいものを、どちらも何故かこの場から離れようとはしない。私を挟んで、ずっと小さな言い争いを続けている。仕方がないので、私は何とか2人の間に入り、その争いを収めていた。ーーーそして、現在。私はロイとの約束通り、ロイと共に宮殿へと向かい、お茶会会場へと続く中庭の綺麗に整備された道を歩いていた。「今日のお茶会にはステラの大好きな苺のデザートを用意してあるよ。この前絶賛していたタルトもあるからね」「え!本当ですか!」「うん。本当」ロイの嬉しすぎるお知らせに思わず声が上ずる。そんな私をロイは12歳の私を見る時と同じように優しく見つめた。「…んん、楽しみです」ロイの柔らかな見守るような視線に恥ずかしくなり、私は軽く咳払いをし、平静を装う。つい、テンションが上がり、子どものような反応をしてしまった。今の私は12歳の子どもではなく、19歳の大人なのだからちゃんとしないと。だが、さすがロイだ。私の羞恥心にもすぐに気づいたようで、それはそれはもうおかしそうに口元を緩めている。何も言われていないが、揶揄われている気分だ。「今日のステラはまるでひまわりの妖精だね。子どもの君と初めて出会ったあの時を思い出すなぁ」ロイの隣を歩く私をまじまじと見つめ、ロイが感慨深そうにそのルビー色の瞳を細める。ちょうど中庭に咲いている花たちも黄色系統の花が多かったので〝ひまわりの妖精〟なんて言葉が出たのだろう。夫人と同じようなことを言うものだから、私は何だか面白くて笑ってしまった。「ん?ステラ?」
夫人の様子におろおろしていると、夫人はゆっくりと悲しげに口を開いた。「わ、私たちは家族よ…?そんな他人行儀な呼び方はやめて…?私とダリルのことは、お母様、お父様と呼んで…?」眉を下げ、この世の終わりだ、と言いたげな夫人の表情に、思わず肩の力が抜ける。まさかの私の呼び方一つで、こんなにも嘆いていたとは。呼び方について気にするところも、本当にユリウスとよく似ている。ユリウスも最初は様付けで呼ぶと「様を付けるな」と、とてもうるさかったものだ。無言でただ静かに頷く公爵と、寂しそうな夫人に、私は心の中で苦笑いを浮かべた。「わかりました。お母様、お父様」だが、表向きはにこやかな笑顔を作り、目の前に座る夫人と公爵をじっと見つめた。「はぁい。お母様ですよ?」「…」私に改めて希望通りに呼ばれ、夫人は本当に嬉しそうに笑い、公爵は無表情だが満足げに視線を伏せている。私の新しい家族は、私を本当の家族と認め、愛情を持ってくれているようだ。そんな大人からのまっすぐな愛をステラとして受け取ることは、生まれて初めてだった。その為、どうすればいいのかわからなかったが、私はその愛が嬉しくて嬉しくて堪らなかった。*****公爵家全員での朝食後。まだまだ宮殿に行くには時間があったので、私は中庭でたまたま時間の空いていたユリウスと共にベンチに座り、穏やかな時を過ごしていた。…まぁ、本当にユリウスの時間が〝たまたま〟空いていたのかは正直不明なところはあるが。ユリウスはとにかく自分の時間を削ってでも、私との時間を作ろうとするところがあるので、ユリウスの言葉をそのまま受け取ることはできない。「それでそこにいた猫がね、それはもう見事な白色で
「今日のステラのコーデ、とっても素敵よ。ユリウスとダリルの瞳と同じ色のコーデね」 広く長い机を挟み、向こう側に座る公爵夫人が私に優しい眼差しを向ける。 それから夫人は、自身がダリルと呼んだ隣に座る公爵の方を見ると「とても可愛らしいわよね?あなた?」と同意を求めていた。 公爵はそんな夫人に、ユリウスとよく似た冷たい表情で、ただただ静かに頷いた。 いつものように、公爵夫妻と私の隣に座るユリウスと共に食堂で朝食を食べる、この穏やかな時間が私は嫌いではない。 むしろ、好きな時間の一つだ。 ちなみに今の私の服装は、夫人が気がついた通り、ユリウスと公爵の瞳と同じ色、つまり黄色のワンピースを着ていた。 さらに髪型もユリウスの要望通り、鎖骨より少し長い栗色の髪をゆるく巻き、ポニーテールにしていた。 これといって、こうしたいという希望もなかったので、今日の私は全身ユリウスの要望通りになっていた。 「今日はロイ殿下とお会いする約束があるのでしょう?一体何をする予定なのかしら?お母様気になるわ~。湖で船上デート?お忍びで街に行って劇場デート?あの美しい中庭でお茶会デートも捨てがたいわねぇ」 「…中庭でお茶会をすると聞いております」 楽しそうな夫人に、何とか笑顔で答えると、夫人はその笑みを深めた。 「まぁ!お茶会!素敵ねぇ…。今日のステラはまるでひまわりの妖精のようだから、中庭に現れたアナタを見てきっと殿下も見惚れてしまうわね」 「は、はは。そうでしょうか…?」 「そうよぉ」 何故か私以上に盛り上がり、当事者意識のある夫人に、私は力なく笑う。 ただロイと会うだけの予定なのだが、夫人の中では、私とロイがデートをする
「おはようございます、ステラ様」寝間着である私たちとは違い、きっちりと執事服に身を包むセスがこちらに微笑む。そしていつものように私にだけ挨拶をすると、私の言葉など待たずに、布団をガバッと勢いよく剥いだ。それにより、朝の肌寒い空気に急に晒される状態となる。さすがにこれにはユリウスも目を覚ますだろう。「ユリウス様、俺のお嬢様であるステラ様が困っております。早急にその手をお離しください」「…」「ステラ様には朝食へ向けての準備もございます」「…」「ユリウス様、そんな目で見られても無駄です。俺の主はステラ様のみ。ステラ様の命令しか聞き入れるつもりはございません」私に向ける微笑みとは違い、何の感情もない表情で、セスはユリウスに私を離すように言い続ける。だが、ユリウスはそんなセスに答えず、ただただ無言の圧力をかけていた。この帝国中の誰もが震え上がるのではないのかと思えるほど、恐ろしく冷たいユリウスの圧。しかし、セスは何故か屈さず、ただ淡々としている。一体、どんな心臓をしているのか。毛でも生えているのか。変わらぬセスの様子に、感心していると、ユリウスはようやく名残惜しそうに私を離した。ユリウスから解放されたことによって、私はやっと体を起こす。そんな私にセスは「お手をどうぞ」と自然な流れで手を差し伸べてきた。その手をいつも通り取ったーーーその時。「ちょっと!セス様!」突然、扉の方から愛らしい声の持ち主の不満げな声が聞こえてきた。「ステラ様専属メイドである私を差し置いて何ステラ様のお世話を焼こうとしているんですか!私がステラ様のお世話をするんです!」愛らしい声の持ち主、メアリーが頬を膨らませ、力強い足取りで、ず







