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朝比奈未涼
朝比奈未涼
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Novels by 朝比奈未涼

推し変には、ご注意を。

推し変には、ご注意を。

主人公、天音(24)の世界は薔薇色だ。何故なら彼女にはたくさんの推しという一番星がいるから。つい1ヶ月前まで、人気アイドル翡翠(20)を熱烈に推していた天音。しかしその熱がある日突然冷め、駆け出しアイドル透(19)にあっさり推し変する。それを知った翡翠は、静かに、だが確実に狂い始めていく。推し変を繰り返す女×そんな女に執着してしまったアイドル。狂わされた愛の行く末は?これは薔薇色だと信じていた世界が、静かに壊れていく話。
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Chapter: 7. 薔薇色の世界…?
side天音 ゆっくりといつものように、まぶたを開ける。 だが、いつもと同じはずなのに、何もかもが違った。 体を沈めるマットレスはふわふわで心地が良く、掛けられた布団は肌触りがとてもいい。 目に映る天井は見慣れたものとは違い、高級ホテルのような清潔感があり、私の知っている生活感がそこにはなかった。 ぼんやりとしていた思考は、いつもとは違うここに、はっきりとし始めた。 ーーーここ、どこ。 知らない場所に、慌てて体を起こす。 ここを取り囲む大きな窓の外の空は暗く、星が瞬いており、その下には小さなビル群が光を放っている。 見たことのない景色だ。 「おはよう、天音さん」 右隣から聞き覚えのある甘い声が私を呼ぶ。 バッと勢いよく声のする方へ視線を向ければ、そこには大きなベッドに腰掛け微笑む翡翠がいた。 どうして、翡翠が? それに、名前も…。 そこまで考えて、意識を手放す前のことを思い出す。 そうだ。私、翡翠と交流券を使って、話をしていたんだった。 コーヒーを飲んで、少しお菓子を食べて、手を握られて、たくさん話をした。 4ヶ月前と同じように、楽しいひと時を過ごして、それから…。 『好き〝だった〟。ファン〝だった〟。ぜーんぶ、過去形。ねねさんにとって、俺はもうねねさんの一番星じゃないんでしょ?』 そう、私は翡翠に嘘をついて怒らせた。 だから一生懸命弁明しようとしたけれど…。 急に思考が鈍くなって、どんどん意識が遠のいていって。 『俺をもう一度、一番星だと心から言えるように頑張ろうね、天音さん』 最後に翡翠にそう言われて、意識を手放したのだ。 何故、あの時急に意識を失ったのか。 何故、今目の前に翡翠がいるのか。 そしてここは一体、どこなのか。 何もわからない状況に、わけがわからなくなる。 そんな私の様子に気づいたのか、何も言えずただただ翡翠を見つめる私に、翡翠は柔らかく笑った。 いつも見てきた翡翠の笑顔。それなのに、どこか仄暗いと感じてしまうのは気のせいなのか。 「天音さん、一つずつ説明するね。まず天音さんはあの時、急に寝ちゃったんだよ。よっぽど疲れてたんだね。だから俺の家に連れて帰ってきたんだ」 「…え」 翡翠に丁寧に説明されても、状況がうまく飲み込めない。 あの場で急に寝てしまったなんてあり得ないし、仮に寝
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-02
Chapter: 6. 壊れた世界。
あのゲリラライブを境に、ねねさんは変わってしまった。〝ねね〟のアカウントは動かなくなり、毎日のライブ配信にも来なくなった。ゲリラライブ後にあった、握手会にも当然現れなかった。どうして、どうして。動かない、現れない、ねねさんに不安が募り、気が狂いそうになる。ねねさんのことばかり頭に浮かんで、何も手につかなくなる。眠れなくなった。そのせいで、不調も続いた。今が大事な時期だというのに。それでも、ねねさんを見ることは辞められなかった。〝ねね〟のアカウントを見て、今日も動きがない、と肩を落として、今度は〝天音〟のアカウントを見る。〝天音〟では、ねねさんは普通の日常を送っていて、ますます何故、〝ねね〟を動かさないのかわからなくなった。そんな日々が続いた、ある日のこと。俺は今日も楽屋でスマホを触りながら、自分の出番を待っていた。すると、スマホに嬉しい通知が来た。〝ねね〟がコメントしました。と。「…っ!」ねねさんだ!やっと来たねねさんの動きに、心臓が高鳴る。一体、何を言っているのだろうか。今まで〝ねね〟を動かさなかった理由でも並べられているのだろうか。それとも案外いつも通りに、翡翠について楽しそうに言葉を並べているのか。何であれ、ねねさんからの言葉ならなんでもいい。なんでも嬉しい。はやる気持ちを抑えて、通知をタップする。…が、そこに現れた言葉に、俺は言葉を失った。『LOVEの透くん、眩しすぎない?』は?1週間ぶりに出てきた言葉が、これ?自分の目を疑って、慌てて、アカウント名を見る。しかし、間違いなく、ねねさんのアカウントだ。な、何、これ。意味がわからなかったが、習慣のように、ねねさんのプロフィールへと飛ぶと、そこには信じられない文字があった。『透くんは私の一番星。』自分の中の何かが静かに崩れていく。ゆっくり、ゆっくりと、腐敗して、もう元には戻れない。ねねさんの一番星は俺でしょ。仄暗い感情が俺を支配して、どんどん暗闇へと引きずり込んでいく。透って、誰。ねぇ、ねねさん。スマホを見つめたまま、俺はそこから動けなくなった。まるで蔦に囚われたように。*****翌る日も翌る日も、ねねさんはSNSで俺ではない推しの話をする。『透くんのあのまっすぐな瞳。絶対に彼は大物になる!』『今日も透くん、かっこいい!ライ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-30
Chapter: 5.変わる世界。
デビュー前、最初で最後の握手会が終わり、俺は見事、デビューを勝ち取った。 そこからは毎日が嵐のようで、忙しい日々を送った。 デビューがゴールではない。 デビューはスタートだ。 romanceとしてデビューした俺たちは、トップアイドルになるために、さらなる努力と活動を続けた。 シングルの発売による、たくさんの準備。 MV撮影、ジャケット撮影。 番宣に地上波に出て、雑誌に載って。 romanceのアカウントで、ライブ配信をできるだけ毎日し、個人アカでも配信、投稿をした。 モデルの仕事、CMの仕事、歌、ドラマ、バラエティ。 俺たちはとにかく引っ張りだこで、その中でも群を抜いて、俺にはいろいろなところからオファーがきた。 その合間を縫うように、ファンに会うイベントも行われる。 このファンに会える時間が、俺にとって特別で大切なものだった。 ライブ配信でも、SNSでも、いつもねねさんに会えるけど、直接会えるのは、イベントでだけだ。 やはり、ねねさんとは直接会って話がしたい。 ねねさんはどんな現場でも、必ず俺に会いに来てくれた。 ライブ、地方のイベント、握手会、サイン会。 ラジオの収録に、ゲリライベント。 その中で俺はいつもねねさんを探して、その姿を見つけては嬉しくなっていた。 ねねさんは俺を輝かせる太陽であり、俺の神様だ。 ねねさんさえいれば、どんなに辛くても大変でも、頑張ろうと思える。 輝こうと立ち上がれる。 忙しい毎日に、失われた日常に、有名になればなるほど増えるアンチに、いつだって心が曇らされる。 けれど、神様の言葉一つで、俺はその曇りを晴らせた。 romanceとして、デビューして2年。 romanceはスター街道を駆け上がり、ついには誰もが知る、スーパーアイドルへと成長した。 歌を出せば、必ずバズり、誰しもが口ずさむ。 romanceが使っていた、となると、あれよあれよと売れてしまい、品切れに。 雑誌に登場した日には、その雑誌は入手困難となり、ライブのチケットはとんでもない倍率で、現場に行けれないファンが続出していた。 ねねさんはいつも、俺に言ってくれる。 『翡翠は私の一番星だよ』と。 光り輝き続ける俺を、ねねさんは自分のことのように、喜んでくれていた。 2年経っても、それは変わらなかった。 ねねさ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-30
Chapter: 4.君が世界。
side翡翠 昔からなんでもできたし、なんでも持っていた。 身長も気がつけば高くなっていたし、スタイルもよかった。 顔も整っており、「かっこいいね」と、当然のように言われて生きてきた。 高3の春。 友達とノリで、アイドルのサバイバル番組に応募してみた。 「翡翠ならアイドルになれるっしょ!」 軽くそう言った友達に背中を押されて、俺は気がつけば、サバ番に参加していた。 俺の人生は、イージーモードだった。 だが、サバ番に参加したことにより、俺の価値観は全て脆く崩れ去った。 俺と同じように顔がいい男が、高身長の男が、骨格が優れている男が、掃いて捨てるほどいる。 彼らは容姿がいいだけではなく、幼少期から夢である芸能人になり、活躍するために努力を重ねており、何もして来なかった一般人の俺とは違った。 ある男は踊りができた。 見せられた踊りを瞬時に覚えるだけではなく、自分なりの解釈を入れ、誰よりも魅せる踊りをしていた。 ある男は歌声が綺麗だった。 一度聴くと忘れられないその声は、天性のものだったが、見えないところで、どう歌えば人を惹きつけるのか、研究と努力を惜しんでいなかった。 ある男は表情管理が、またある男は場を楽しませるトーク力が、またある男は自分の魅せ方をよくわかっていた。 俺が一番ではない世界。 俺が劣っている世界。 初めての世界に戸惑ったが、彼らと切磋琢磨し、磨かれていく時間は、何よりも楽しかった。 そしてそんな頑張っている俺の姿を見て、俺を応援してくれるファンという存在が、俺を嬉しくさせた。 ファンの存在が、俺を強くする。 辛い時、苦しい時に、あともう少しだけ、と踏ん張れる。 そんなファンの声が聞きたくて、気がつけば、俺はSNSでエゴサをすることが習慣になっていた。 SNSには、俺を応援する声で溢れている。 『夢島翡翠くん、かっこよくない?顔面が国宝』 『ダンスも歌も素人とは思えない!』 『骨格優勝!華がある!』 どの言葉も俺に力を与えてくれるものだ。 俺はその中で、あるアカウントを見つけた。 『翡翠は私の一番星』 そうシンプルに書かれたプロフィールの言葉。 そのアカウントは〝ねね〟と言い、毎日のように俺についてコメントをしていた。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-29
Chapter: 3. 懐かしい世界。
夢のような時間はあっという間に終わり、今度は幻のひとときがやって来た。 そう、1万人の中からたった10人しか選ばれない幻の交流券を使う時が来たのだ。 私はLOVEのメンバーの中からもちろん透くんを選び、透くんと個室でテーブル越しにお話をしていた。 交流時間はなんと5分もある為、テーブル上には飲み物やお菓子まで用意されており、椅子まである。 立ちっぱなしにならないようにとの、運営からの配慮なのだろう。 素晴らしい運営だ。 「透くん、今日もかっこよかった!ダンスまた上手くなったよね?あのステップのところとか、圧巻だったよ!」 透くんに手を握られたまま、とにかく熱くライブの感想を述べる。 私の言葉を聞くたびに、透くんは照れくさそうに笑ったり、嬉しそうにはにかんだりしていた。 「…ねねさんのおかげだよ。ライブ配信も、地方のイベントも、握手会も、ここ1ヶ月なんでも来てくれて、ずっと背中押してくれて。感謝してもしきれないよ」 キラキラとした眼差しで私を見つめる透くんに、ズキューン!と心臓が撃ち抜かれる。 まさに、沼である。 一度ハマったらもう戻れない。 やはり、透くんは素晴らしい存在だ。 「私、これからも透くんを推すよ!私の一番星は透くんだから!」 私はそう言って、笑顔で透くんの手を握り返した。 ***** 次の交流は、romanceのメンバーの誰かとだ。 もちろん私はromanceの中から、昔の推しである翡翠を選び、彼のいる個室の前へと移動していた。 この扉の先に、翡翠がいる。 透くんがいた個室と同じような扉を前に、しみじみとそう思う。 4ヶ月前は、お金と時間が許す限り、何度も何度も翡翠に会いに行った。 ライブにも、握手会にも、イベントにも。 その全てが今は透くんだ。 そんなことを考えていると、スタッフの方が私の電子チケットを改めて確認し、「どうぞ。時間は5分です」と丁寧に告げて、個室の扉を開けた。 すると扉の先には、透くんと同じようにテーブルの奥の椅子に腰掛けている翡翠がいた。 栗色のまっすぐな髪に、蛍光灯の光が当たり、天使の輪ができている。 キラキラと輝くそこから覗く顔は相変わらず端正で、日本中全ての人が「かっこいい」と騒ぐ理由も頷けた。 長い手足に、小さな顔。骨格まで完璧とは、さすが今をときめく翡翠である。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-27
Chapter: 2. 眩しい世界。
ライブ当日。私は開演30分前には、指定席に着き、ライブ開始を放心状態で待っていた。何故、放心状態なのか。それはとんでもない倍率を勝ち抜いて当日のチケットを取れただけでもすごいのに、いざ会場に来てみればなんとアリーナの最前列だったからだ。ほ、本当にこの席が自分の席なのか、と、ステージの近さにあらゆるものを疑ってしまう。見間違えではないか、表記ミスではないか、そもそも人違いではないか。このライブのチケットは電子チケットだ。当日まで席はわからず、会場の入場口にある端末にチケットを読み込んで、初めてどの席かわかる。もしかしたらここは私の席ではないかもしれない、と再びスマホを開いて、電子チケットを確認したが、そこにはやはり最前列、1-30と表示されていた。か、神が、神が私に微笑んでくれた…。一生分の運をここで使い果たしてしまった。電子チケットの内容を何度も何度も見て、うっとりする。そうしていると、電子チケットに見慣れない文字があることに気がついた。座席番号が表示されている、さらに下。そこには、〝メンバーとの交流券当選〟と書かれていた。「…へ」思わぬ神々しい〝当選〟という二文字に、声が漏れる。信じられない文言に、その文字を凝視するが、何度見てもその文字が変わることはない。ま、幻の交流券に当選してる…。この〝メンバーとの交流券〟とは、ライブ会場に集まっているファン1万人の中からたった10人が選ばれる、名の通りの券なのだ。各グループから好きなメンバーを1人ずつ選び、そのメンバーと握手ができ、少しだけ話せて、チェキまで撮れる。夢のような券なのだ。…が、たった10人しかその資格は得られない為、私ははなから交流券の当落は眼中になかった。当たるなど夢にも思っていなかった。たった1万人だけが得られるライブの席を勝ち取り、さらに最前列を引き当て、幻の交流券にまで当選しているとは。何もかもが上手くいき過ぎている。明日、私は死ぬのかな?身に余るほどの幸福に、私は静かに涙を流した。やはり、世界は薔薇色だ。推しが私の世界を幸せな色に染めてくれる。ああ、早く、透くんに会いたい。*****幸せの絶頂の中、ライブは始まった。会場が暗転し、大きなメインステージと花道とサブステージだけにライトが当てられる。それからメインステージの後ろにある大
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-12-27
推しに告白(嘘)されまして。

推しに告白(嘘)されまして。

鷹野高校風紀委員長・鉄崎柚子は、密かに推していた“バスケ部の王子”沢村悠里から、ある日、告白(嘘)される。またとない機会に、柚子は嘘とわかっていながらも、その告白を受け入れた。嘘から始まった2人の関係。その中で次第に本気で柚子に惹かれていく悠里。一方、柚子の後輩で一匹狼の華守千晴も、誰にも見せない想いを柚子に向けていた。 真面目鈍感ヒロイン×爽やか王子(のちに愛重め)×主人公にだけ懐く後輩(愛重め) 三人の“好き”が交差する、重たい愛が暴れ出す、ドタバタ三角関係ラブコメ開幕!
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Chapter: 52.関係の変化。
いろいろあった文化祭が終わり、1ヶ月。いよいよ冬休みが迫ってきた、とある日の昼休みのこと。窓の外に広がる寒空を横目に、私は暖かい教室で、雪乃と共に昼食を食べていた。いつも一緒に食べている悠里くんは、今日はバスケ部の用事があるらしい。悠里くんと付き合い始めた頃は、こうして雪乃と食べることの方が多かったが、今では、悠里くんと食べることの方が多かった。「何か久しぶりだねぇ、一緒に食べられるの」ふと、雪乃が今、私が思っていたことと同じことを口にする。「お互い違う相手と食べたり、用事があったりしたもんね。一緒に食べられるのは2週間ぶりくらいかな?」なので、私は雪乃の言葉にすぐに頷いた。悠里くんと一緒に食べる夢のような時間も好きだが、気心の知れた友人である雪乃と食べる時間も、安心感があり、楽しくて好きだ。「悠里くんが柚子とお昼一緒にするようになっちゃったもんねぇ。最初は付き合ってんの?本当に?て、感じだったのに、今ではこの学校の誰もが知る、ベストカップルなんだもん」「ふふ、まぁね」おかしそうに笑う雪乃に、私は少しだけ誇らしげに胸を張った。雪乃の言う通り、もうすっかり私は悠里くんの彼女として、板についており、誰もが私を悠里くんの彼女として認識している。私は完璧な悠里くんを不必要な好意から守る壁なのだ。「千晴くんとの噂も未だに健在ではあるけどね。でもやっぱ、公式は王子とだよねぇ。後夜祭の時も熱々すぎて、キス以上のことしてたし」「だ、だから!そんなことしてないってば!」ニヤニヤしている雪乃のいつものからかいに、つい大きな声でツッコミを入れる。文化祭後、事あるごとに雪乃は後夜祭での私と悠里くんのことについて、からかってきた。どうやらカップル席周辺で、聞き耳を立てていた生徒たちが、私たちがカーテンを閉め、キス以上のことをやり始めた、と勘違いしてしまったらしいのだ。その噂は瞬く間に広がり、しばらくは非常に恥ずかしい思いをした。あんなところでそんなことするはずがないのに、まるで真実のように語られ、困ったし、最終的には、生徒会長自らの指導が入った。「風紀委員長であるお前が何、一番に風紀を乱しているんだ」、と。とんでもない勘違いだ、濡れ衣だ、と一生懸命釈明したが、深めのキスを何度もしてしまったことは事実だったので、最後には謝罪した。もう公衆の面前で
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-31
Chapter: 51.溺れる甘さで。
「…どうしたの?」あまり見ない悠里くんの表情に心配になり、悠里くんの瞳を覗く。すると、悠里くんは暗い表情のまま、力なく笑った。「…自信がないんだ。俺が柚子の彼氏なのに、周りにはそう思われていなかったりするし、華守との方が仲良く見えるし…」伏せられた瞳は不安と寂しさで揺れている。そんなふうに思わなくてもいい、と今すぐ推しを安心させてあげたい。「私の彼氏は悠里くんだよ。確かに千晴と仲はいいけど、悠里くんのとは違うでしょ?千晴はただの後輩だから」そう言って、真剣に悠里くんを見つめる。だが、悠里くんの表情は未だに暗かった。推しが私のせいで悲しんでいることが辛い。「…違う、か。本当にそうかな。キスした仲なのに」「…っ」暗い声音が静かに訴えた内容に、肩を震わせる。あの時、触れた千晴の柔らかい唇を思い出してしまい、私の頬は熱を持った。千晴はただの後輩だ、と言ったそばから、こんなふうになるのは違う、と何とか千晴を自分の意識から追い出したいのだが、上手くいかない。あの焦がれるような甘い瞳を忘れられない。千晴のことを考え始め、おろおろし出した私を、悠里くんは苦しそうに見つめた。「…わかってる。あれは演技だって。嫉妬するものじゃないって。わかってるけど…」眉にシワを寄せ、悠里くんが辛そうに思いを吐く。それから一旦言葉を止め、ゆっくりと続けた。「俺ともまだなのに…」推しが辛そうに私を見ている。綺麗な瞳はどこか仄暗く、とてもじゃないが、大丈夫そうには見えない。その葛藤に私の胸はぎゅーんと締め付けられた。推しが苦しんでいる。それなのにキュンキュンしてしまう自分が、どれほど不謹慎であるかは、十分わかっている。けれど、あの悠里くんが、こんなにも甘く嫉妬してくれているのだ。例え演技だとしても、彼氏として真面目に私と向き合ってくれた結果だとしても、嬉しくて嬉しくて仕方ない。偽りの嫉妬でも私はいい。その嫉妬でぜひ、私を縛って欲しい。「…俺も柚子とキスしたい。ダメ?」上目遣いで、おそるおそるこちらを伺う悠里くんに、ついに私はやられてしまった。罪深すぎるその表情に、ゴクッと喉が鳴る。か、かっこよくて、かわいいなんて、反則だ。私の推し、悠里くんは、世界を救うのではなく、世界を破滅させるのかもしれない。「…うん」バクバクとうるさい心臓を抑
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-30
Chapter: 50.私の一番星。
輝く星空の下。グランドの上空には、色とりどりの生徒お手製の提灯が吊るされており、お祭りのような雰囲気が広がっている。文化祭の全てのプログラムを終えた生徒たちは、ここで、後夜祭という名の打ち上げをしていた。灯を灯された提灯の下には、テーブルが並べられており、軽食や飲み物がある。それを楽しむ生徒たちの視線の先には、メインステージがあり、そこでさまざまな催し物が行われていた。まず、行われたのは、生徒会による文化祭の結果発表だ。各部門の最優秀賞に選ばれたのは、出し物部門は、普通科三年の超大型迷路で、部活部門は、バドミントン部の占いの館だった。この結果を聞いた時、「悠里くんのクラスの吸血鬼カフェが最優秀賞じゃないのかぁ」とちょっと残念に思ったが、確かにあの迷路はなかなか面白かったので、納得できた。そして、最後。舞台部門なのだが、何と千晴たちのクラスの白雪王子が最優秀賞に選ばれた。あの盛り上がり方、おそらくぶっちぎりだったのだろう。結果を聞かずとも、何となくそうなのだろうとは思っていた。結果発表が終わった後、次に行われたのは、有志によるバンドのライブだった。この後はダンス部がダンスを披露するらしい。ステージ上のライブに、盛り上がる生徒たちの背中を見ながら、私はほっと一息ついていた。いろいろあったが、大きな問題もなく、無事終えられた。文化祭中の風紀委員長としての荷がやっと下りた瞬間だった。私は今、あの生徒たちの喧騒の中にはいない。生徒たちの喧騒の後ろ、少し高いところに用意された小さな個室のような場所で、悠里くんと2人でいた。何故個室のような、と表現したのかというと、悠里くんといるここは上下左右、後ろが木の壁に囲まれており、ステージの見える前方だけ壁がなく、空いているからだ。空いているそこからはグランド全体を見渡せるようになっていた。横にはカーテンもあるので、閉めれば、プライベートな空間にもできるようだ。この個室にぴったりと収まる2人掛けのソファに、私たちは肩を並べて座っていた。この小さすぎるソファでは、どうしても悠里くんと肩が触れ合ってしまう。それもタキシード姿の悠里くんと、だ。私と悠里くんは見事、ベストカップルに選ばれていた。その特典として、今、推しである悠里くんはタキシード姿で、私と共にカップル席にいてくれている。悠里くんが
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-29
Chapter: 49.お姫様にキスを。
まずは観客に背を向けて、両膝をつくと、私は千晴が眠っている棺桶を覗き込んだ。「お姫様は白雪王子を見て思いました。何と、美しい方なのだろう、と」ナレーションは止まることなく、予定通り進んでいく。そのナレーションに合わせて、改めて、私はじっと千晴を見た。色とりどりの花に囲まれて眠る千晴は、どこか幻想的で儚かった。正直棺桶内は観客席からはあまり見えない。ここまで精巧に作られているのは、きっとクラスメイトたちの趣味からなのだろう。長いまつ毛が白い肌に影を落とし、その可憐さに拍車をかけている。相変わらず、黙ってさえいれば、美しい子だ。千晴の美しさに見惚れながらも、私は練習通り、棺桶の蓋に手を置いた。それからゆっくりと、千晴に顔を近づけた。キスをするフリをするだけ。わかっているのに、心臓が早鐘を打つ。どんどんそれはスピードをあげ、今にも壊れてしまいそうだ。照れるところではない。これは演技だ。そう言い聞かせて、目を閉じた。頬に熱を感じながら。「そしてお姫様は白雪王子にキスを落としました」ナレーションに合わせて、キスをするフリをし終え、ゆっくりと顔をあげる。今の体勢が観客に背を向けるもので良かったと、心の底から思う。きっと今の私の顔は、真っ赤で、人様には見せられない。「すると、何ということでしょう。呪いが解け、白雪王子が目を覚ましたのです」それから今度は千晴が、ナレーションに合わせて、ゆっくりと上半身を起こした。「素敵なお方、どうか私と結婚を…」そんな千晴の手を取り、私は続ける。しかしナレーションの途中で、何故か千晴は私に迫ってきた。吐息が当たる、そんな距離。そこからまっすぐと千晴に私の瞳を覗かれて、ゆっくりと私の唇に千晴の唇が重ねられる。私のおでこにも触れた、あの熱だ。「…っ!」キスされた。数秒して、私はやっと状況を理解した。一瞬だけ触れた唇は、熱を帯びたまま、名残惜しそうに離れていく。「「「ぎゃ、ぎゃああああ!!!!!」」」次に会場を包んだのは、殺人事件でも起きたのではないか、と思うほどのとんでもない叫び声だった。間違いなく、数名は倒れているのでは?と、心配になる熱を背中に確かに感じる。この千晴の突然の行動に、ここまで予定通り進められていたナレーションも、さすがに止まってしまっていた。そして私は顔を真っ
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-28
Chapter: 48.舞台本番。
そこから私はあっという間にお姫様に仕立て上げられた。今、私が問題なく着ている水色と白色のパンツスタイルのドレスは、最初は男子生徒が着るものだったので、私にはかなり大きかった。だが、進学科の生徒たちは、私でも着られるようにと手を必死に動かし続け、何とか形にしてみせた。またいつもポニーテールにしている髪は、今は綺麗にまとめられており、頭には綺麗なティアラまである。生徒たちの手によって、軽く化粧までされて、私は誰がどう見ても、〝お姫様〟になっていた。「…う、うぅ。せ、先輩、本当にすみません…」全ての準備を終え、舞台裏に立っていると、本当に顔色の悪い男子生徒が、泣きながら謝罪してきた。その謝罪してきた生徒は、まさに昨日バスケ部の出し物のところにいた、あの顔色の悪い生徒で、何故彼があの時死にそうな顔をしていたのか、今になって理由がわかった。プレッシャーに耐えられなかった生徒とは、悠里くんの後輩である、バスケ部の彼だったようだ。「お、俺、ちゃんと裏方で先輩のサポートしますから…。本当、すみません」泣きじゃくる男子生徒に私はポンッと肩を叩いた。「大丈夫よ。あとは任せなさい」「ぜ、ぜんばーい!!!!!」力強い私の言葉に、ぶわぁ!と、また男子生徒は泣き出す。そんな男子生徒に困ったように笑っていると、突然、舞台裏が静まり返った。先ほどまでの喧騒がまるで嘘かのように、何も聞こえない。泣いていた男子生徒でさえも、それをやめ、ある場所に視線を奪われていた。この場にいる生徒たちが皆、視線の先で息を呑む。「先輩」全員の視線を奪っていた存在、千晴は嬉しそうに私の名前を呼んだ。いつもの金髪ではなく、ふわふわの黒髪から覗く、綺麗で美しい顔。スラリとした高身長に、周りの目を引くモデルのようなスタイル。ただでさえ、精巧な人形のような見た目の千晴が、白と金の王子様服を身にまとうことによって、その美しさに磨きがかかり、どこか浮世離れした存在になっていた。私は千晴を見て、何故、急にこの場にいた全員が息を呑んだのかわかった。私も気がつけば、周りの生徒たちと同じように千晴に視線を奪われ、息を呑んでいた。静かに心臓が脈打つ。何故なのかわからないが、千晴を見ていると、緊張してくる。千晴におでこへキスされた時と同じような感覚に、私は首を捻った。今はドキドキするような
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-27
Chapter: 47.お願いです!先輩!
カップルコンテストの掲示板から離れた後、私たちは限られた時間を目一杯楽しんだ。お化け屋敷は苦手なので入らなかったが、縁日に行ってヨーヨー釣りをしたり、美術部の展示物を見たり。いろいろなところを見て回り、クレープを食べ終えた私たちが次に向かった場所は、第二体育館にある、超大型迷路だった。 「面白かったね、悠里くん」そして第二体育館の超大型迷路から出た私の第一声はこれだった。「だね。ちょっと難しいのがまたよかったよね」それに悠里くんは笑顔で応えてくれる。そんな悠里くんに私は続けた。「うん。わかる。普通の迷路とはちょっと違う要素があるのがわくわくしたよね」「本当、それ。あの選択するところとか、ちょっと凝っててすごかったし」「わかる…!私も刺さった、あれ!あとその後の…」先ほどまで楽しんでいた迷路の感想を笑顔で言い合いながら、私たちは体育館の外を何となく歩く。私たちが今まさに楽しんでいた、3年普通科の〝超大型迷路〟は、本当になかなか面白いものだった。ただの迷路ではなく、所々にいろいろなギミックがあり、一筋縄ではいかないようになっていたのだ。行き止まりだと思っていた場所が押してみると扉になっていて進めたり、アイテムを揃えると、新たな道ができたり。初めての体験に、私は高揚していた。「…ふふ」笑顔で話し続ける私に、突然、悠里くんがおかしそうに目を細める。何の脈略もなく笑った悠里くんに、首を捻ると、悠里くんは柔らかく笑った。「…ごめん、柚子が可愛くて、つい」手の甲で口元を隠して笑う悠里くん。輝いて見えるのは、太陽の光を浴びているからなのか。推し、相変わらず尊い。「あ!いた!」悠里くんの笑顔に尊さを感じ、世界に感謝していると、少し遠くの方からそんな声が聞こえてきた。「…て、鉄子せ、じゃなくて、鉄崎先輩!」それからその声は私を後ろから呼び止めた。一体、誰に突然呼び止められたのか。私を呼び止めるのは、大体風紀委員の生徒だ。トラブル対応や、聞きたいことなどで、文化祭期間中、何度も何度も彼らに声をかけられてきた。だが、今、私に声をかけている者は、風紀委員の生徒の声でない。不思議に思いながらも、振り向くと、そこにはやはり面識のない女子生徒が2人立っていた。「きゅ、急に声をかけてごめんなさい!けど、緊急でして!」「た、助けてく
ปรับปรุงล่าสุด: 2026-01-26
The kiss of death!!〜イケメン悪魔5兄弟VS私!!〜

The kiss of death!!〜イケメン悪魔5兄弟VS私!!〜

ある日突然何故か魔界に強制召喚された咲良(24)はそこで魔界の王である悪魔に特級悪魔のとある兄弟たちと良好な関係を築かなければ人間界には帰さないと言われてしまう。 しかし咲良が良好な関係を築かなければならない特級悪魔の兄弟たちはもれなく全員、個性が強い上に欲望に忠実なクセしかない男たちであった。 咲良は無事特級悪魔兄弟たちと〝良好な関係〟を築き人間界へ帰れるのか?
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Chapter: 47.これからも
クラウスと一緒に過ごしていると、あっという間に夕食の時間がやってきた。先ほどまでクラウスと一緒にいたが、そのクラウスはほんの数十分前に、「あ!用事思い出した!」と言って、慌てて小屋から出て行ったので、私は今1人で食堂へと来ていた。もちろん今回も今朝と同じように形だけの夕食だ。ここで未だに食事を口にしていないのは、彼らを信用していないからでも、1年前の毒がトラウマになっているからでもない。ただそれが習慣になっただけだ。食堂では食べない。小屋に帰ってから自分で作った料理を食べる。ただそれだけ。もう見慣れてしまった食堂の扉を開ける。するとそこにはヘンリーだけが居た。他の兄弟たちはまだいないようだ。「早いね、ヘンリー」もう席に着いているヘンリーに視線を向けながら、いつもの席に私は腰を下ろす。「咲良も今日は早いな。バイトは?」「今日はもうないよ」「そうか」そして私たちはいつものように何となく世間話を始めた。今でこそ楽しくヘンリーと会話ができるが、最初の頃のヘンリーは腹で何を考えているか分からず、探り探り話していた。いや、今でも十分何を考えているのかわかりづらいし、腹黒そうだけど。『まずは俺だな。昨日も言ったがもう一度。俺の名前はヘンリー・ハワード。ハワード家の長男だ』『そうか。咲良が我が家に来ることを聞いて人間界の料理について調べ、作らせた料理だったのだが、残念だ。ふるさとの味が恋しいだろう?』『人間。俺の弟たちに何をした?お前はできる限り苦しんで死ね』今までのヘンリーのことを思い浮かべて思う。多分一番酷い目に遭わされてきた相手はヘンリーだわ。「…咲良、今日くらい一緒に夕食を食べないか?」「え」「俺が言えた義理ではないことはわかっている。それでも咲良と食事を取りたい」いつもの不敵な笑顔ではなく寂しそうに、そして何よりも申し訳なさそうに私を見つめるヘンリーに思わず目を見開く。見間違いor聞き間違いか?もう一度よくヘンリーを見てみるが、やはりそこには申し訳なさそうにしているヘンリーの姿があった。「…咲良は何度謝っても許さない、と言ったな。もちろん許して欲しいなど都合のいいことは思っていない。だが、どうか食事だけでも一緒にしてくれないだろうか?」「…」ヘンリーは私が怒ったあの日のことをずっと忘れていなかったらしい。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-21
Chapter: 46.変化
今日は学院はお休みだが、その分午後からバイトだ。つまり午前中は特に何も予定がない。なので私はバイトまでの暇つぶしに1人書庫へとやって来ていた。「…」私以外誰もいない書庫内を静寂が包む。集中して本を読むには最適な環境だ。そんな素敵すぎる環境の中、私は目の前にある机に何冊かギャレットおすすめの本を積むと、ゆったりと椅子に腰掛け、読書を始めた。もちろん今、読み始めた一冊もギャレットおすすめのものだ。ギャレットの選ぶ一冊にハズレはない。今日もわくわくしながらも読み始めた私だったが、やはり期待通りその本はとても面白く先が気になって仕方のない内容だった。さすがギャレットだ。やはりギャレットの選ぶ一冊にハズレはない。ギャレットに感心しながらも、時間を忘れページを捲り続けること数十分。突然、カンッ!と私の手の横ギリギリの机の上に矢が刺さった。「え」おう、デジャヴ。見覚えしかない矢に思わず苦笑する。おそらくこの矢を飛ばしたのはギャレットだろう。一応矢がどこから飛んできたのか、矢の出所を探ってみるが、何故かどこにもギャレットの姿はない。「?」ギャレットは悪魔じゃなくて忍者だったのかな?仕方がないのでギャレット本人を探すことは早々に止め、矢へと視線を向ける。すると矢には小さな紙が括り付けられていた。これでもう本人の姿がなくとも、この矢を飛ばしたのはギャレットであると確定した。ギャレットが私に初めて自分から話しかけてきたあの時と全く同じ状況だからだ。…いや、話しかけてきたと言うよりも矢を撃ってきたと言った方が正しいのかもれしないが。はは、と苦笑しながらも、紙が破れないように矢から紙を丁寧に取り、その紙を広げてみる。きっとあの時のように何かしらの文が書かれているのだろう。部屋に来い、とか、この本を探せ、だとか。そんなことを考えながらも紙を見てみたが、そこにはまさかの何も書かれていなかった。こちらの予想はどうやら外れてしまったらしい。「?」ただ私に向かって矢文が飛んできた謎の状況に私は首を傾げる。「…ギャレット、いるの?」それからもしかしたらギャレットご本人がここにいるのかもしれないと、誰もいない書庫内で何となくギャレットの名前を呼んでみた。「さすが俺の同志。名乗らなくても俺だってわかったんだ」すると本棚の後ろから満足げ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-17
Chapter: 45.今の彼らは
テオの作った偽物の世界から帰って数日。いよいよ明日、私は人間界へ帰る。いろいろあったが、テオとしっかり話し合い、決めた日取りだ。もちろん明日私が人間界へ帰ることを5兄弟たちも全員知っている。帰ることについては、全てテオから5兄弟たちに話すと言っていたので、私の口からは簡単にしか伝えていないが、特に問題はないはずだ。テオは本当に先回りし、いろいろしてくれる、気が利くいい子だ。そんなことを思いながらも、朝、いつものようにメイクを終え、もう見慣れた小屋から出ようとする。するとそれは突然聞こえてきた。「おーい!咲良ぁ!朝だぞー!俺様エドガー様が迎えに来てやったぞ!」ガンガンガンっ!と扉を強く叩く音と朝から元気なエドガーの声が聞こえる。本当に朝から元気だ。昨日の夜はあまり長居せずにすぐに小屋から出て行っていたので、またギャンブル帰りなのだろうか?朝から元気すぎるおそらくギャンブル帰りのエドガーに呆れながらも、私は扉に手を伸ばす。「…」そしてふと、初めてここへ来た朝のことを思い出した。そういえば、ここへ来たばかりの頃もこんなことがあったな、と。金で買収されたエドガーが私の名前だけの世話係になって、私のことを一度だけ迎えに来たっけ。『おおい!人間!朝だぞ!この俺様エドガー様が迎えに来てやったぞ!1秒たりとも俺を待たせるんじゃねぇ!今すぐ出て来い!』『おうおうおう!人間!俺様を待たせるとはどういう了見してんだ?おい!』『俺は次男のエドガー・ハワードだ。お前の不本意だが世話係にされた哀れな男だよ』あの日、初めてエドガーに会ったあの朝のことやエドガーの自己紹介を改めて思い浮かべる。あの時のエドガーには本当にただただ偉そうでクソガキだというイメージしかなかった。「…おーい?咲良?起きてんだろ?」出会ったばかりの1年以上前のエドガーのことを考えていると、扉の向こうからこちらの様子を伺うエドガーの声が聞こえてくる。「ごめんごめん。おはよう、エドガー」私はそんなエドガーの声を聞いて慌てて扉を開けた。出会ったばかりのエドガーなら扉を壊す勢いでずっと扉を叩き続けていたはずだ。そう考えるとエドガーの態度は随分変わったものだ。「おう、はよ」扉を開けると、こちらにニカッと笑いかけているエドガーが立っていた。改めて見ると本当に美形だ。ギャンブル
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-10
Chapter: 44.愛
結果から言おう。あの厨二病呪文はものすごく効果抜群だった。私に呪文を言われたギャレットは、「はぁぁぁ!?」と不満げに叫びながらも私を抱き抱え、「…」バッカスもとても不満そうにこちらを見つめて、2人揃って走り出した。そして現在。私はギャレットとバッカスによってまたテオの元へ戻ってきていた。強制的にここへ私を連れて来なければならなかった2人の不服そうな視線が私にグサグサと刺さるが気にしない。気にしている場合ではない。何故なら私たちの目の前に広がる景色が、先ほど見ていたものが嘘だったかのように、むちゃくちゃになっていたからだ。ここは先ほどまで、見慣れたただ人が行き交う街だったはずだ。それが今ではどうだ。おそらく激しく闘ったのであろう闘いの跡がところどころにあり、たくさんの建物が無惨に壊れている。こんなにもめちゃくちゃな街でヘンリーたちは無事なのだろうか。焦りながらも辺りを必死に探せば、この異常な街で平然と1人立っているテオと、その側で、大量の血を流して倒れているヘンリーたちの姿を見つけた。テオは本当にヘンリーたちを殺す気なのだ。「テオ!もうやめて!」この場で唯一立っていたテオに私は必死に叫び、テオを止める為にもテオの元へと駆け寄る。「…あぁ、咲良、やっと帰って来た。おかえり」そんな私を見て、おそらくヘンリーたちの血を浴びたテオが満足そうに笑う。その姿に私は恐怖を感じた。これがテオ…いや、魔王本来の姿なのだろうか。「ヘンリーたちをもう傷つけないで!あと話が全然違うことになっていたのはどう言うつもり!?説明して!何で人間界に帰さずに、こんなところに私を閉じ込めたの!?」それでも私は気を強く持ち、テオを責める。恐れて何も言えないようではこの問題は解決できない。「帰したくなかったからだよ。咲良とずっと一緒に2人だけで居たかった。咲良には僕だけがよかった。咲良にはずっと僕だけだったでしょ?それなのにどんどん咲良は自分の味方を増やして。僕を蔑ろにした」仄暗い雰囲気でテオがおかしそうに笑って私を見つめる。まるで私の方が悪いと言いたげ視線だ。どういう思考回路なんだよ!もう!「蔑ろになんてしていない!そもそも人間界に帰ることが永遠の別れでもないでしょ!?だから帰して!」「…そう思うのは記憶が戻ったからだよね?それまではここが
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-31
Chapter: 43.大切なもの
どこまで走ってもこの街には一切色がない。今、動いている私たち以外の全てがモノクロだ。そんな街を目の当たりにし、私はここが私の知っている世界ではなく、テオの作った世界なのだと、嫌というほどわかってしまった。こんな世界のどこに逃げれば、元の世界に帰れるのだろうか。そもそもヘンリーとエドガーとクラウスは無事なのだろうか。『咲良』ギャレットとバッカスと共に、街を駆け抜ける私の頭の中に、突然誰かの声が聞こえる。いや、これは誰かではない。ちゃんと私が知っている人物の声だ。『咲良、帰っておいで。じゃないとヘンリーもエドガーもクラウスも殺しちゃうよ。今一緒にいるギャレットとバッカスも、みーんな』テオだ。テオのおかしそうな声が頭の中で響く。何がどうなっているだ。テオはどうしてこんなことをするのか。私は何故、彼らを信じて彼らと逃げることを迷わず選べたのか。わからない。もうすぐでわかりそうなはずなのにどうしてもわからない。だが、彼らが…、ヘンリー、エドガー、ギャレット、クラウス、バッカスが殺されるのだけは絶対に嫌だった。「…ギャレット、バッカス」私は気がつくと、その場で足を止めていた。「…声が聞こえるの。テオが帰って来なければみんなを殺すって。どうしたら…」震える声を何とか抑えて、私は2人に視線を向ける。今どの選択をするのが最善なのか、状況を理解しないまま逃げ続けている私にはわからない。「構わない。そのまま逃げ続ければいい。もうすぐで咲良は帰れる」そんな私に答えたのはバッカスだった。無表情だが、優しい目でバッカスが私を見つめる。どうしてだろうか。すごく嫌な予感がする。「…ねぇ、もしかしてだけど、みんな自分の命を犠牲にして…とか、そんなおかしなこと考えていないよね?」嫌な予感を胸に秘めながらも、私は変な笑顔を浮かべる。自分で言ったことだが、彼らが自分の命を犠牲にするなんてあり得ない。彼らは魔界を滅ぼすと言われたほど己の欲望に忠実で自由な悪魔だ。そんな彼らが誰かの為に命を張るなんて。あり得ないはずなのに。「「…」」ギャレットとバッカスは私に答えることなく、曖昧な笑顔を浮かべた。ああ、そうなんだ。「そんなこと!私が望んでいると思うの!?私がみんなを殺してまで帰りたいなんて!」涙が溢れる。どうしてこうなってしまったのだ
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-30
Chapter: 42.消された記憶
「エドガー…」「…咲良っ、お前!」彼の名前…おそらくエドガーの名前を口に出してみると、目の前の男は驚いたように顔を上げた。彼の名前はエドガーだ。それだけは何故だかはっきりとわかる。「記憶が戻ったのか!?俺が誰だかわかってんのか!?」「…エドガーだよね。でもごめん。それ以上は…」信じられないものでも見るような目で、嬉しそうに私を見るエドガーだが、彼のことは名前しかわからないので、じわじわと申し訳なさが込み上がってくる。ぬか喜びさせているようで心苦しい。それでも私は今、新たにエドガーから情報を得ることができていた。どうやらエドガーの話によると私は何かを忘れており、どこかに閉じ込められているらしい。名前しか知らない人にそう言われても、不審にしか思えないが、何故かエドガーの言葉ならすんなりと受け入れられた。そしてずっと感じていた違和感の正体もきっとそれなのだと思った。「咲良!」私の名前を呼ぶ誰かの声がまた向こうから聞こえてくる。また知らないはずなのに知っている聞き慣れた声だ。声の主を確認しようと、声の方へと振り向くと、その声の主がいきなり私を抱きしめた。「咲良ぁ…、会いたかったよ。咲良ぁ」感極まった声でそう言っている彼はクラウスだ。「「「…」」」クラウスの後ろからヘンリー、ギャレット、バッカスも現れる。皆、感極まった顔でこちらを黙って見つめていた。彼らが一体何者なのかわからない。それでも何故か彼らの名前だけははっきりとわかる。「…クラウス。気持ちはわかるがそこまでだ。時間がない」その中でも、ヘンリーはすぐに冷静な表情を取り戻し、私に抱きついていたクラウスの腕を掴むと、さっさと私から引き剥がした。するとクラウスは「…はーい」と不満げにだが、すぐに私から離れた。「何一つ意味がわからないだろうが、どうか俺の話を聞いて欲しい」何も状況を理解できていない私をヘンリーが真剣な表情で見つめる。その表情にはどこか焦りも感じられた。本当に時間がないようだ。「まずは俺たちのことだ。俺たちはお前と契約をしている悪魔だ。お前の願いならどんなことでも叶える絶対の味方だと思って欲しい」「…うん」「そして今の状況だが、お前は人間界へ帰れていないどころか、テオ…魔王のギフトによって、作られた偽りの世界に閉じ込められている上に、これも魔王の
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-28
アリスは醒めない夢をみる。

アリスは醒めない夢をみる。

好奇心旺盛な女子高生、榊原アリスはある日突然目の前に現れた喋る白ウサギを追いかけて、不思議な世界へ迷い込んでしまう。 アリスが迷い込んだ不思議な世界。 そこはアリスが好きだった〝不思議の国のアリス〟とよく似た世界だった。 様々な個性豊かな不思議な世界の住人達と出会い、アリスは〝不思議の国のアリス〟とよく似た世界で、よく似た出来事に遭遇していく。 自分をこの世界に招いた白ウサギを探しながらも、〝不思議の国のアリス〟によく似たこの世界を徐々に楽しみ始めるアリス。 だが、しかし、この世界には、そしてアリスにはある秘密があった。 迷い込んだらもう帰れない。 アリスと不思議な世界の住人たちの世界へようこそ。
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Chapter: 20.happy end side白ウサギ
side白ウサギ「私はここに残りたい」裁判後、〝不思議の国のアリス〟の主人公と同じように意識を手放したアリスが次に目覚めた場所は、僕の小さな家だった。そして全てを知ったアリスは僕に力強くそう答えた。「…っ!アリス!」嬉しさのあまり思わず、僕はアリスに飛びつく。あぁ、やっと。やっとだ。ついにアリスを手に入れた!アリスがこの世界に残ることを決めた時、僕は歓喜で震えていた。ーーーやっとアリスがこの世界を選んでくれたから。アリスがこの世界を選ぶまで、僕は何度も何度も同じ時間を繰り返した。アリスは毎回、そして今回も、初めてこの世界で冒険していると思っているが、それはもう何十回と繰り返されてきたことだった。この世界の住人の誰も知らない真実。同じことを何度も何度も繰り返された世界。誰もが昨日と今日が、今日と明日が、同じであったこと、あることを知らない。…まぁ勘の鋭い者は薄々気づいていたかもしれないが。だが、そんなことどうでもいい。全てはアリスに正しい答えである、こちらの世界を選ばせる為に。アリスはいつもあちらの世界を選んだ。何故か帰ることに執着していた。アリスを殺した世界だというのに。いやこれには語弊がある。正しくは殺そうとした世界、だ。アリスは僕に「私はもうあっちでは死んでいるの?」と、自分の生死を尋ねた。僕はそんなアリスに「死んでいる」と答えたが、実はアリスはまだあちらで辛うじて生きていた。きっと体に魂を戻せば息を吹き返すだろう。だがそれがどうしたという?あのまま生きたってアリスはただ死んだように、死を望みながら、生きることしかできなかったはずだ。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-03
Chapter: 19.happy end.
帽子屋屋敷を出て、次に向かった場所はもちろん白ウサギが待っている女王様のお城。女王様のお城は帽子屋屋敷の倍広く、最初の頃は1人だとよく迷子になっていたが、ここでの生活も長いので、もう迷子になることはなくなった。今日も歩き慣れた廊下を歩いて、目的の場所へ向かっていると、メイドさんたちに会い、目的の場所へではなく、何室もある内の中で、1番豪華な応接室に案内された。「あぁ!私の可愛いアリス!」そこにはすでにソファに腰掛けている女王様と白ウサギがいた。そして私が部屋に入るなり、女王様は満面の笑みを私に向けた。「こんにちは!女王様!」私もそんな女王様に応えるように笑みを浮かべる。すると女王様はいつもの調子で「相変わらず愛らしい娘ね」とうっとりした顔で私を見た。「アリス、こっちへおいで」「うん」白ウサギに手招きで呼ばれ、私は白ウサギの隣に座る。女王様は机を挟んで、向かい側にゆったりと座っている。「女王様、白ウサギ、お仕事お疲れ様。はい、これ差し入れだよ」席に着くなり、私は手に持っていた袋からクッキーが入っている箱を取り出した。女王様の表情は、私がいるからなのか、とても上機嫌でにこやかだが、目の下には化粧でも隠し切れていない濃い隈があるし、どこか疲れたがある。それに対して白ウサギは飄々としているが。「帽子屋のお茶会のクッキーだよ。味はとっても保証します」「やったぁ!ありがとう、アリス」「さすが、私のアリスだわ。丁度甘いものが食べたかったのよ。そこのメイド、このクッキーに合う紅茶を用意しなさい」私作のクッキーではないのだが、このクッキーがとても美味しいことを、私は知っている。
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-03
Chapter: 18.不思議の国のアリス
「アリスー!起きてー!朝だよー!」目覚まし時計の代わりに、白ウサギの声が私に朝を告げる。この世界に留まることを決めて何日、何週間、何ヶ月経ったのかわからない。でも私は随分長いことここで生きた気がする。「まだぁ…あと5分…」「そう言って30分も寝続けてるでしょ!今日は帽子屋のところに行くんだよね?」まだまだ眠たい私は布団に潜って再び寝ようとしたが、それはバサァッ!と勢いよく白ウサギに布団を剥がされたことによって、阻止されてしまった。「うぅー!布団…っ」「はい、起きるー。おはよー」必死に布団を取り返そうとする私をひらりとかわして、白ウサギは私が起き上がらないと取れないような場所に布団を置く。…これはもう起きるしかない。ここは白ウサギと共に暮らしている小さな一軒家。もちろん帽子屋屋敷や女王様のお城みたいに豪華絢爛、超巨大な建物ではない。ごくごく普通の2人で住むには丁度よいサイズの木の家だ。ちなみに私がこの世界に残ることを決めた時に寝ていた部屋もこの家の部屋だった。今ではそこが私の部屋だ。いつもの水色のワンピースに袖を通して、身支度をする。それから白ウサギが用意してくれていた朝食を白ウサギと共に食べ始めた。「そういえば白ウサギは帽子屋の所には行かないの?」「うん。僕もアリスと行きたい気持ちは山々なんだけど、お城での仕事があってね」温かいスープを口にしながら、白ウサギを見つめれば、白ウサギが残念そうな顔をしてこちらを見る。あれからこの世界はいろいろ変わり、白ウサギはこの世界での何と宰相のようなポジションをすることになったらしい。なので、時折こうやって、お城に行かなければならない日があった。「そっか…。残念だね。あ!あとで差し入れ持って行くよ」「本当!忘れないでよ?アリス」2人でクスクス笑い合いながら朝食を食べる。幸せだなぁといつもこういった瞬間にふと感じた。何気ない日常に幸せを感じられる。元に戻る選択をしていれば、得られなかった幸せだ。本当にここへ残る選択をしてよかったと心から思った。*****この森を少し歩けば、帽子屋屋敷に着く。何度も歩いて見慣れてしまった帽子屋屋敷までの道のり。そういえば、この森でチェシャ猫に会ったんだよね。小さな私の上から降りてきた。それがチェシャ猫だった。「アーリス」チェシャ猫との出会
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-02
Chapter: 17.白ウサギ
瞼をゆっくりと開ける。まず私の視界に入ったのは、見慣れない天井だった。それから下に感じるのはふわふわのマットレス。それだけで私は知らない部屋のベッドの上で寝ていたことを察した。全部思い出した。私は榊原アリス。この夢のような物語は全て私が望んだことだった。生きることを諦め、自殺した私が。…私は死んだのか。「アリス」目を覚ました私に誰かが優しく声をかけてきた。この声は…「白ウサギ」体を起こして私に声をかけてきた声の主の名前を呼ぶ。ずっと私は白ウサギを探していた。会いたかった。ここへ迷い込む前からずっと。その白ウサギが今、私の目の前にいる。「…っ」気がつくと涙が溢れていた。真実を知ったことによって、白ウサギへの印象が随分変わった。私の願いを叶える為に、白ウサギはどれほど頑張ってくれたのだろう。頑張って頑張ってやっと私に会えた時、私が死にかけていたなんて。だから白ウサギはたまに泣きそうな、悲しそうな顔をしていたのだ。「泣かないで、アリス。笑って」泣き始めた私に対して、白ウサギは泣きじゃくる子どもをあやすように、優しくそう言って笑った。白ウサギの細く長い指が、私の涙を丁寧に拭う。「し、白ウサギ、ごめんね」「どうして謝るの」「だって、私は白ウサギが頑張っていたのに死のうとした…」「だから何?」止まらない涙を拭いながらも、謝る私に白ウサギが今度はおかしそうに笑う。「あんな形でしかアリスは救われなかった。ただそれだけだよ。肉体が死んでしまっても、魂さえ生きていれば魔法でどうにでもなるし。僕の方こそ遅くなってごめんね」そして最後はまたあの悲しそうな笑顔を浮かべて、私をまっすぐ見つめた。「ねぇ、白ウサギ」私の涙も落ち着いてきたところで、白ウサギの名前を再び呼ぶ。「何?」「ここはアナタが魔法で私の為に作り出した世界なんだよね?」「そうだよ」「世界が同じ1日を繰り返すのも、同じことしかできない登場人物たちも全て?」「そう」 私の質問に白ウサギがにこやかに淡々と答えていく。「アリスの望みは〝不思議の国のアリスのように冒険したい〟でしょ?だから毎日この世界はアリスの為に〝不思議の国のアリス〟の物語として動いているんだよ」「その登場人物たちには、私や白ウサギみたいに意思はあるの?」「もちろん。彼らは知らず知らずのうち
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-10-01
Chapter: 16.榊原アリス
私の名前は榊原アリス。日本有数の由緒ある一族、榊原家の娘、だった。家族は姉が2人と兄が2人。それから両親がいて大きなお屋敷には祖父母や使用人、たくさんの人がいた。あぁ、だけどそうだった。あそこにはたくさんの人がいたけれど、私の味方なんて誰一人いなかった。あそこには私の居場所などなかった。いや、あそこだけではない。世界中どこを探しても、そんな場所はなかった。何故なら私の髪が生まれつき色を持たず、日本人でありながら真っ白な髪だったから。血筋や伝統を重んじる榊原家において、私はただただ異質なものでしかなかった。「お前なんて産まなければよかった。お前は榊原の恥よ」物心ついた頃からそう実の母親に言われて生きてきた。榊原の恥と言われ、なるべく表舞台に私が立たないように幼少期からずっと家に閉じ込められて。幼い私の世界はあの家が全てだった。そして、その全てである家の中で、私はいつも孤独だった。「嫌っ!痛いっ!」グイッと白く長い私の髪を掴まれて、私は悲鳴にも聞き取れる声を上げる。「うるせぇな」「気持ち悪いんだよ」「化け物」私を囲って歪んだ笑みを浮かべる兄弟たち。彼らは毎日私を虐めた。「はっ離して!」頭皮と髪の境目が引き裂かれそうだ。だが、どんなに痛くても実際には、なかなか引き剥がされることはなく、髪と一緒に体が上へと持ち上げられていく。「気持ちが悪い」「何でそんな色なの?」「普通じゃない」「化け物」「近寄るな」「こっち見んな」「お前なんて生まれて来なければよかったのに」私に悪意を向けるのは決して兄弟たちだけではない。両親や祖父母、私の家族と呼べる存在は、全員私を見るたびに私に悪意をぶつけてきた。終わらない言葉の暴力。心も体も痛くて痛くて。抵抗しようともがいても、私にはなんの力もない。幼い私はただただその暴力を無力にも全て受けることしかできなかった。…だが、しかし。12歳の春。あの春だけは私は1人ではなかった。「白ウサギ!」私と同じ真っ白な子ウサギ。私はその子ウサギに大好きだった絵本、〝不思議の国のアリス〟から白ウサギの名前をもらい、〝白ウサギ〟と名付けた。この子ウサギの白ウサギは、榊原家の敷地内で弱っていた所を、たまたま私が見つけて、誰にも内緒で保護した子だった。そして私の部屋でこっそり飼っていた。白ウサギは名
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-09-29
Chapter: 15.裁判
ギィィィィッと、重みのある低音と共にゆっくりと扉が開かれる。「うわぁ…」扉の向こうに広がっていた世界は、絵本そのものの裁判会場で、思わずこんな時だが、感嘆の声が漏れてしまった。赤と白と黒のみで統一されたおかしな空間。罪人席には、帽子屋、チェシャ猫、ヤマネの姿があり、裁判長席には大きな座り心地の良さそうな椅子に腰掛けた女王様の姿がある。「…連れて来たぞ」「…」私たちがいるのは、そのちょうど中間あたりで、三月ウサギは裁判会場に入るなり、最悪の機嫌で女王様に声をかけた。だが、女王様は微笑むだけで返事を一切しない。無視だ。さらに目も笑っていない。「アリスよく来たわね、こちらへいらっしゃい」相変わらず目の笑っていない女王様が、私にそう優しく声をかけ、手招きをする。「…っ」なんて恐ろしい笑顔なのだろう。あまりにも美しく、そして他者の心を恐怖心で支配する女王様の笑みを見て、私は思わずその場で硬直してしまった。「あら?どうしたのかしら?早くいらっしゃい、私の可愛いアリス」そんな私を見てクスクスと少女のように女王様が笑う。いつまでもこうしている訳にはいかない。私の目的は帽子屋たちを助けることなのだから。私は意を決して、女王様の元へ一歩、また一歩と歩みを進めた。そして、やっとの思いで女王様の元へ辿りつくと、女王様はそんな私を見て満足げに微笑んだ。「アナタを待っていたのよ、アリス」「…」私はそんな女王様を恐れることなく、まっすぐ見つめた。恐ろしく、何よりも美しい、この女王様から、何度も言うが、私は帽子屋たちを助けなければならないのだ。今は怯んでいる場合ではないのだ、と自分を鼓舞する。「挑発的な眼差し、嫌いじゃないわ」何も言わず、ただ女王様を見つめ続けるだけの私に愉快そうに女王様はその瞳を細める。「さて、それでは裁判を始めましょうか」それから女王様は私から名残惜しそうに視線を逸らすと、裁判会場全体に目を向け、会場にそのよく通る声を響かせた。ーーーーついに裁判が始まるのだ。まず最初に口を開いたのは、女王様と帽子屋たちの間に立っていた、身なりの整った中年男性だった。「帽子屋、チェシャ猫、眠りネズミ、三月ウサギ。彼らの罪状は反逆罪でございます。先日のクロッケー大会の時、彼らはあろうことか我らが崇拝すべき絶対の存在であられる女王様に
ปรับปรุงล่าสุด: 2025-09-27
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