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朝比奈未涼
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Novels by 朝比奈未涼

アリスは醒めない夢をみる。

アリスは醒めない夢をみる。

好奇心旺盛な女子高生、榊原アリスはある日突然目の前に現れた喋る白ウサギを追いかけて、不思議な世界へ迷い込んでしまう。 アリスが迷い込んだ不思議な世界。 そこはアリスが好きだった〝不思議の国のアリス〟とよく似た世界だった。 様々な個性豊かな不思議な世界の住人達と出会い、アリスは〝不思議の国のアリス〟とよく似た世界で、よく似た出来事に遭遇していく。 自分をこの世界に招いた白ウサギを探しながらも、〝不思議の国のアリス〟によく似たこの世界を徐々に楽しみ始めるアリス。 だが、しかし、この世界には、そしてアリスにはある秘密があった。 迷い込んだらもう帰れない。 アリスと不思議な世界の住人たちの世界へようこそ。
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Chapter: 5.悪夢
1日の終わりには当然のように太陽が沈み、辺り一面が闇と静寂に支配される。この世界だってそうだ。ここはお茶会をしていた庭のお屋敷、帽子屋屋敷の数ある客室の中の1つである、豪華なお部屋。あの後、長い本当にながーいお茶会を明日のために終えた私たちは、各々何故か用意されていた部屋へと案内されていた。そのことを疑問に思い、何故なのかと聞くと、帽子屋曰く「客人は毎日のようにいるからね。慣れているのさ」とのこと。その後、三月ウサギとヤマネに視線を移していたので、おそらく〝毎日〟のお客様は三月ウサギとヤマネのことなのだと察した。「はぁー。疲れた!」用意されていたふわふわのベッドに私は体を沈める。今日1日だけで本当にたくさんのことがあった。まずは、喋る白ウサギが現れて、大きな穴に入って。EATMEセットで体が大きくなったり、小さくなったり。意地悪なチェシャ猫、お茶狂の帽子屋、乱暴な三月ウサギに、眠り続けるヤマネ。今日起きたことは、どれもヘンテコでおかしなことばかりだったが、まるであの不思議の国のアリスのアリスになり、絵本の世界を冒険しているようで楽しかった。明日は何が起きるのだろう。絵本と同じなら、明日はトランプ兵やハートの女王に会うことになるし、クロッケーの試合にも参加できる。だが、狂気のクロッケー大会は阻止しなければ。阻止する代わりにちゃんとしたクロッケーができるように私がきちんと教えよう。そしてみんなでクロッケーを楽しむんだ…。「……うん、なかなか、……いい」私は明日のことを考えながらも、ふわふわと襲いかかってくる眠気と戦い始めた。ーーーーーー白ウサギに会えたら必ず帰り方も聞かなくては。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー「嫌っ!痛いっ!」座り込む私の白く長い髪をグッと掴まれ、乱暴に上へと引っ張られる。それによって走る痛みに、私から悲鳴にも似た声が発せられ、この空間に響いた。「はっ、離して!」頭皮と髪の境目が引き裂かれそうだ。だが、どんなに痛くても、実際にはなかなか引き裂かれることはなく、たくさんの髪と一緒に私は強制的に上へと向けさせられた。「気持ちが悪い」「何でそんな色なの?」「普通じゃない」「化け物」「近寄るな」「こっち見んな」「お前なんて生まれて来なければよかったのに」気がつけば私の周
Last Updated: 2025-09-15
Chapter: 4.手がかり
どれくらいお茶をしていたのかわからない。だが、随分長い時間ここでお喋りをしていたことは確かだ。「つまりアリスはこことは違う世界から白ウサギを追ってやって来たんだね。だけど白ウサギの行方はわからないし、帰り方もわからない、と」「そう、そうなのよ」机を挟んで私の目の前に座る帽子屋が、私の話を的確にまとめてくれたので、私はうんうんと力強くそんな帽子屋に頷く。初めこそ、のんびり参加するわけにはいかないと、思っていたお茶会だったが、いざ参加してみると悪くなかった。悪くないどころかむしろよかった。お茶とお菓子は美味しい、何よりも一緒に話をする帽子屋は聞き上手で、話し上手なのだ。帽子屋との会話は思っていた以上に楽しく、飽きる暇がなかった。帽子屋との話が好きだと言っていたチェシャ猫の気持ちにも頷けた。「それで帽子屋は白ウサギの行方を知っているの?」「うーん。残念ながら今日は見ていないね」「そうなんだ…」帽子屋の答えに私はガクンと肩を落とす。まさか帽子屋も知らないとは。ここからどうやって白ウサギを探せばいいのだろうか。手がかりがなくなってしまった。「じゃあ、帽子屋。〝元の世界〟への帰り方は知ってる?」期待していた答えがもらえず、落ち込んでいると、今度はチェシャ猫がニンマリ顔で帽子屋にそう質問した。「そちらも残念ながら…。そもそも私たちには元の世界も何もそのような概念などないからね。逆に私が知りたいくらい実に興味を引く話だよ」興味深そうに笑う帽子屋にチェシャ猫は「帽子屋でも知らないのかぁ」と、変わらずニンマリ顔を浮かべる。私もチェシャ猫と同じように「知らないのか」と心の中で思いながらも、本日何杯目か忘れてしまったアップルティーに口を付けた。口に含んだ瞬間に広がる程よい甘さと、りんごのみずみずしさを感じる味が、私好みの味で、何杯でもいけてしまう。「あ」アップルティーを楽しむ私の耳に、何かを思い出したかのような帽子屋の声が届く。「クロッケー大会に行ってみるのはどうだろう?白ウサギも参加するかもしれない」「クロッケー大会だぁ!?」帽子屋の言葉に私が反応するよりも早く反応したのは、何故か今の今までお菓子に夢中で全然話に入ってこようとしなかった三月ウサギだ。「あんなクソ大会にまさか参加するとか言うんじゃねぇだろうな!?」「毎回行かない選
Last Updated: 2025-09-14
Chapter: 3.お茶会
チェシャ猫とどこまでも続く森を歩き続けてやって来たのは、大きなお屋敷の立派な庭だった。今まで歩いてきた森とは違い、ここの草木や花たちは綺麗に整えられており、人の手を感じる人工的な場所だ。そんな庭の開けた場所には、白いテーブルクロスがかけられたとても長い机があり、その上には大量のお菓子が並べられていた。どうやらここがチェシャ猫の言っていたお茶会の会場のようだ。「うぁ…」そこに広がっていた不思議の国のアリスのお茶会と同じ世界に、私は目を奪われ、感嘆の声を漏らしていた。絵本で見た世界そのものだ!「やぁチェシャ猫。先日ぶりかな?」私たちが庭へ訪れたことに気がついた、お洒落で特徴的な模様と装飾のハットをかぶった美青年がこちらへ声をかける。私たちに話しかけてきたのは、身なりからして、おそらく私たちが会いに来た帽子屋だろう。お洒落で特徴的な帽子をかぶっている不思議の国のアリスの登場人物と言えば帽子屋しかいない。「そうだね。帽子屋」チェシャ猫の受け答えを聞いて「やっぱり」と心の中で納得した。彼はやはり帽子屋だったようだ。「で、そちらの可愛らしいお嬢さんはどちら様かな?見かけない顔だけど」チェシャ猫とお互いに軽く挨拶を交わしたところで帽子屋は今度は私に話を振る。「こんにちは。私はアリス。白ウサギを探しているんだけど、帽子屋は白ウサギがどこへ行ったか知らない?」「おや、これは驚いた。お嬢さんは私の名前を知っているのかい?」「もちろん」私としては自己紹介などしなくとも、彼らのことは知っているので、さっさと白ウサギの情報を帽子屋から聞き出したかったのだが、帽子屋はそうではなかった。「それは何故なのか聞いてもいいかい?」すでに帽子屋のことを知っていた私を、帽子屋は興味深そうに見つめてきた。うっかりまだ自己紹介が終わってないのに〝帽子屋〟とか呼ぶんじゃなかった。少し……いや、かなりめんどくさいなと思いながらも、どう説明すればよいのか考える。絵本で読んだことがあるから、というのが彼らを知っている理由なのだが、今目の前で生きてる当人たちにそんなことを馬鹿正直に言っても、きっと信じられないだろうし、正直に答えるのは違う気がする。「そう言えばアリス、俺の名前も初めから知っていたよね」どのように伝えればよいのか、なかなかいい案が思い浮かばず、思案し続
Last Updated: 2025-09-13
Chapter: 2.チェシャ猫
「はぁ」初めこそ、この壮大な世界に興奮したし、感動もした。だが、いざ前へ進むとなると、あまりにも広すぎる世界にため息が出てしまう。もう何時間歩いたのかわからない。白ウサギに呼びかけても返事はないし、何よりも永遠と景色が変わらないので、自分がどこまで進んでいるのかもわからない。扉ももうとっくに見えなくなってしまっている。流石に疲れた。帰りたい。ふと帰ることを考えたのだが、そういえば帰り方が全くわからないことに気がついた。何も考えずにここまで来てしまったが、帰りはどうしたらいいのだろう。確か絵本の不思議の国のアリスでは、何やかんやで夢オチでした、目が覚めたらお姉ちゃんの膝の上でしたって話じゃなかったっけ?これも夢だとして帰りたくなったら目覚めてしまえばいいのかな?夢ならばと思い、頬をつまんでぐーっと思いっきり引っ張ってみる。「痛い」痛みを感じるということはここが夢ではなく、現実だということなのか。夢ではないのならますます帰り方がわからない。白ウサギを追いかけるよりも帰り方を深く考え始めていた時だった。「あっれー?人形が動いてる」どこからか可笑しそうに笑う声が聞こえてきたのだ。「……?誰かいるの?」どこから声が聞こえたのかわからず辺りを見渡す。誰かが居ればそれは大いに助かる。白ウサギの行方やこの不思議な世界からの帰り方など聞きたいことがたくさんある。「返事をして!!誰かいるの!!?」なかなか辺りを見渡しても誰も見当たらないので、今度は大きな声で誰かに呼びかけてみる。するとドスンッと突然上の方から大きな何かが降ってきた。いや、何かではない。降ってきたのは、ピンクと紫の服を着た派手な見た目の美少年だった。ふわふわのピンクの髪には紫の猫耳。「アナタもしかしてチェシャ猫?」私が知っているチェシャ猫とは随分身なりが違うが、色や猫耳、あと何よりそのニヤニヤしている表情が、いかにも私が知っている不思議の国のアリスのチェシャ猫にそっくりだったので本人に聞いてみた。ちなみに私の中でのチェシャ猫はそもそもこんな綺麗な美少年ではなくて、ただの色の派手な猫だ。「あれれー?俺のこと知ってんの?喋るお人形さん?」チェシャ猫が私の言葉を聞き、にんまりと笑う。「知ってる。あと私は人形じゃない」そんなチェシャ猫に私は人形ではないことを
Last Updated: 2025-09-13
Chapter: 1.おはよう、アリス
苦しい。辛い。消えてしまいたい。頭の中でぐるぐるぐるぐるそんな言葉ばかりが浮かんでは消える。「ねぇ、どうしたら私もここへ行けるんだろう」そう言って少女はまた絵本のページをゆっくりとめくった。少女の手にある1冊の絵本。それは少女のお気に入りの絵本で、少女はいつもその絵本を読んでいた。絵本のタイトルは〝不思議の国のアリス〟だ。絵本の世界は楽しいことばかり。どんな困難にあったって最後にはハッピーエンド。「私も幸せになれるのかな」少女は叶うはずのない言葉だと半ば諦めながらもそう呟いた。*****「おはよう、アリス」「へ?」朝、まだベッドの上。目覚めた私の上にちょこんと座っている白ウサギを見て、私は朝から間の抜けた声を出した。え、今この白ウサギ喋った?流暢に〝おはよう〟って挨拶してきた?自分の耳をどうしても疑ってしまう出来事に頭の中がたくさんの疑問で埋め尽くされ、理解が追いつかない。そもそも喋るだけでもおかしなことなのに、よく見ればこの白ウサギはおしゃれな服まで着ていた。水色と白のスーツに赤の蝶ネクタイは普通におしゃれで、白ウサギにもよく似合っており、可愛い。じゃなくて。「お、おはよう?」これも違う気がする。喋るおしゃれ白ウサギに対して色々考えた結果、私から出てきた言葉は〝おはよう〟の一言のみ。もっと今言うべき言葉があるはずなのに。「ふふっ、アリスは変わらないね。さぁ、行こう!」白ウサギはいまだにベッドの上で状況を飲み込めずにいる私なんて気にも留めず、嬉しそうに笑うと、ピョンッと私の上から飛び降りて走り出した。「え、ちょっ、待って!どこ行くの!?」訳が分からなかったが、とりあえず私も体を起こして白ウサギの後を追うために走り出す。まずは部屋を出て、階段を降りた。それから廊下の突き当たりを曲がって玄関へ。え!?もしかして外に出ちゃうの!?今の私の格好は当然寝起きなのでパジャマだ。しかもこの純日本人には珍しすぎる長い白髪も寝癖でぐちゃぐちゃ。私だって一応これでも華のJK、今のこの格好が外に出られるような格好ではないことくらいすぐに判断できる。それでも私は足を止めなかった。ただただ無我夢中で白ウサギの後を追った。ガチャッと白ウサギが器用に玄関の扉を開けて、予想通り外へ出てしまう。そして……白ウサギは飛び込
Last Updated: 2025-09-13
The kiss of death!!〜イケメン悪魔5兄弟VS私!!〜

The kiss of death!!〜イケメン悪魔5兄弟VS私!!〜

ある日突然何故か魔界に強制召喚された咲良(24)はそこで魔界の王である悪魔に特級悪魔のとある兄弟たちと良好な関係を築かなければ人間界には帰さないと言われてしまう。 しかし咲良が良好な関係を築かなければならない特級悪魔の兄弟たちはもれなく全員、個性が強い上に欲望に忠実なクセしかない男たちであった。 咲良は無事特級悪魔兄弟たちと〝良好な関係〟を築き人間界へ帰れるのか?
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Chapter: 6.素敵なバイト先
そしてあっという間に放課後になった。今日は一日中兄弟たちと同じ教室で座学を受けていたが朝のエドガーとの交流以外特に彼らと交流することはなかった。それよりも悪魔の学問とは一体なんだ!一応短大まで学んできた身だが内容が一切理解できない。人間と学ぶことが根本的に違いすぎる。魔法学とか魔界歴史学とかならまあ言葉だけだがわからないこともない。だが契約学とか生物欲望学とかその辺になると訳がわからない。そもそもこれを真面目に受けることが果たして正解なのか?「…」本日一日の文句を心に秘めながら帰り支度をする。学院から家への道は兄弟の誰かが送迎することになっているらしい。そうヘンリーが言っていた。だがもうこの教室には兄弟の誰もいない。そもそも兄弟の誰かというよりも買収されて私の世話係になったエドガーがちゃんと報酬分働くべきなのでは?もちろんエドガーもこの教室にはもういない。ちゃんと報酬分働けー!バカ野郎ー!そう思ったが仕方ない。朝来た道を帰ればよいのだと気にしないことにした。それに誰もいない方がこちらも好都合だ。とりあえず今朝見た求人の喫茶店に今すぐ向かおう!お腹が減って死にそう!私は気を取り直して求人広告に書いてあった喫茶店に向かうことにした。街行く人たちに場所を聞きながら。そうして素敵で親切な人に恵まれた私は割とすぐに喫茶店ナイトメアに着いた。喫茶店ナイトメアの外観はピンクと白で統一されており、ものすごく可愛い。早速ここで働かせてもらう。そう思って扉に手をかけようとした時だった。「もしかしてバイト希望の子?」少しだけハスキーな声に後ろから声をかけられたのは。「はい、そうです」何とタイミングがいいのだろうと私は振り向く。するとそこには可愛らしいメイド服に身を包んだ女の子が立っていた。ハスキーな声の感じ的に少年くらいだと思ったがどうやら私の後ろに立っていたのは美少女だったようだ。明るいふわふわのピンク色の髪はまとめてポニーテールされており、私を見つめる瞳は青色でまるでビー玉のようだ。年齢はおそらく中学生から高校生くらいの年齢だろうか。とんでもなく美少女で愛らしい彼女だが何故か見覚えがある。んー?こんな美少女すぎる知人いたかな?「表からだと目立ってしまうからこっちから入って!お話聞かせて!」美少女をまじまじと
Last Updated: 2025-09-15
Chapter: 5.24歳学院へ行く(不本意)
「あー。お腹空いた」「はぁ?お前体調悪いから飯食えねぇんだろ?」朝食後、一応朝らしいが全く太陽の出ていない薄暗い街を私の世話係らしいエドガーと共に学院へ行くために歩く。思わずポツリと出た私の本音にエドガーは眉間にしわを寄せた。おっといけない。そう言えばそうだった。よく考えれば昨日の昼から私はご飯を食べていない。いろいろあって忘れていたが流石にお腹が空いてくる。「だいぶ回復してきたの。昼食はどうすればいいの?」私を変なものでも見るような目で見るエドガーに適当にそう言って私は昼食のことをエドガーに聞いてみることにした。流石に一日断食はキツい。そろそろ固形の何かをお腹に入れたい。「あ?そんなもん学院の食堂で食べるかその辺の売店とかで買って食べるかだろ」「…食堂ってまさかお金いる?」「人間の食堂は無料で飯食べれるのか?」「まあ、食べられないところの方が多いかな」「ふーん。学院の食堂は有料だ」魔界の金なんてないのだが?エドガーのめんどくさそうな昼食の説明を受けて心の中で私は思わずきつめにツッコミを入れた。こんなにも違う文明、生物なのに通貨だけ日本円だとは考えにくい。人間の世界の中だけでも数えきれないほどの通貨が使われているというのに。このままでは兄弟たちと良好な関係を築く前に餓死エンドだ。働かなければ。せめて自分の食だけでも自立できるように。そんなことを思いながら街を歩いているとふとある求人の広告が目に留まった。「ちょいちょい。エドガー。ストップ」「あ?」求人の広告をよく見たいので私を学院へ連れて行かなければならないエドガーを止めて求人の内容を確認する。エドガーは不満そうだが無視だ。人間メイド喫茶店、可愛い子募集中!賄い付き!時給2000ペールから!求人にはそう書かれてあった。「…」これ人間である私に向きすぎな案件じゃない?「エドガー。時給2000ペールってどうなの?」「ん?そりゃあ随分いい時給だろ。働くのか?」「…まぁ」「じゃあ俺がもっといい時給の仕事紹介してやるから取り分半分寄越せ」「はぁ?」私に背を向けたまま一応私を待っているエドガーに時給のことを聞いてみるとエドガーがどこか悪そうな笑みを浮かべてこちらに振り向く。そんなエドガーの台詞に私は思わず呆れた声を出した。何で取り分半分も渡さなければい
Last Updated: 2025-09-14
Chapter: 4.ご兄弟とご対面
エドガーと特に何か話すでもなくやってきたのは家の中にある食堂だ。そこにはすでに他の兄弟たちも来ており、私たちが着いた時には席に座って私たちを待っている状態だった。「咲良、おはよう。昨日はよく眠れたか?」まず私にそう声をかけてきたのは長兄、ヘンリーだ。相変わらず何を考えているわからない笑顔で私を見つめるヘンリーにもうすでに思うところがあるがぐっとそれを堪える。ほぼ小屋のような埃っぽい場所によく客人を招いたな、と言葉が出そうになるが我慢だ。「おかげさまで。昨日はありがとう」「それはよかった。昨日と少々顔が違うから何かあったのかと思ったよ。昨日はもう少し落ち着いた雰囲気に見えたからな」「ふふふ、ご心配どうも。何もなかったですよー」にっこりと笑う私に少しだけ安心したように笑うヘンリーに殺意が湧く。顔が違うって化粧のこと言ってるよね?化粧詐欺師で悪かったな!おい!「それでは食事の前に自己紹介といこうか」ヘンリーに挨拶をした後、私が席についたタイミングを見てヘンリーが兄弟たちにそう声をかける。そしてヘンリーを含む兄弟たちの自己紹介が始まった。「まずは俺だな。昨日も言ったがもう一度。俺の名前はヘンリー・ハワード。ハワード家の長男だ」最初に口を開いたのはヘンリーだ。にっこりと笑っているが腹では何を考えているかわからない、何なら目までは笑っていないところが怖い。「俺は次男のエドガー・ハワードだ。お前の不本意だが世話係にされた哀れな男だよ」次に口を開いたのはエドガーだった。本当に嫌そうな顔で天を仰ぐ姿は美しいし絵になるが普通に腹が立つ。こちらもこんな男では哀れである。被害者面すんな!「…三男のギャレット・ハワード。話しかけてくるなよな、人間」エドガーの次に口を開いたのは暗そうな印象のあるギャレットと名乗る男だった。ギャレットはこちらをチラリと見て、すぐに視線を逸らす。深緑色の真っ直ぐな髪と灰色の瞳。おまけに顔も綺麗で見た目は暗さを吹き飛ばす勢いで派手で明るい。悪魔はカラフルな瞳だけではなく綺麗なことも条件なのだろうか。「はいはーい。次僕ね!四男のクラウス・ハワードだよ!いろいろ仲良くやっていこーね!夜とか特に!」次に口を開いたのは明るい笑顔が印象的なクラウスと名乗る男だった。妖艶に微笑み私にウインク&投げキスをする姿にどんなに美し
Last Updated: 2025-09-13
Chapter: 3.私のうるさいお世話係
夢ならば覚めて欲しいと何度も願った。だが目覚めて周りを何度見渡しても、そこに広がっていたのは見慣れた私の部屋ではなく、見慣れない薄汚い小さな部屋だった。はーい!私、桐堂咲良!24歳!社会人4年目!今日も元気に会社に出社しまーす!と言えないのが現状だ。昨晩のことは夢ではなかった。目を覚まして部屋の中を何度も何度も歩いて改めて私は今の状況を飲み込んだ。それからとりあえずいつものように身支度を整え始めた。顔を洗った後カバンにたまたま入っていた携帯用のスキンケア用品で何とか肌を整えて制服に着替える。赤と黒のブレザーの制服を着た感想はコスプレだ。24歳ではとてもじゃないが着こなせない。不満しかないが仕方ないのでそのまま今度はメイクを始める。これもまたカバンにいつも入れていた必要最低限のメイク用品で顔を仕上げた。鏡に映る私を改めて見つめる。昨日出会った魔王やヘンリーのように真っ赤ではなく日本人らしい真っ黒な見慣れた瞳がこちらを休んだにも関わらず疲れた目で見ている。胸まである栗色の直毛は癖ひとつなく正直時間のない朝には助かる髪質だ。直毛すぎて巻き髪とかはあまり楽しめないけれど。もちろん地毛は黒だ。染めている。「…はぁ」今日の化粧のできに思わず朝からため息が溢れる。もっと大人っぽい化粧が好きなのだが、今手元にあるものではこのくらいの化粧しかできない。化粧により完成した顔は少しだけ背伸びをした幼さの残る女の顔だった。私の持ち物はカバンの中にあったものが全てだった。基礎化粧品とスマホとスマホの充電器と財布。後は仕事に必要なものとかお父さんに無理矢理持たされている塩とか。こんなことになるならもっとちゃんとしたものを持っていたのに。ガンガンガン!と突然扉の外から非常に激しく扉を叩かれ、思わず私は肩を揺らす。ただでさえ壊れそうな扉が今にも破壊されそうな勢いだ。「おおい!人間!朝だぞ!この俺様エドガー様が迎えに来てやったぞ!1秒たりとも俺を待たせるんじゃねぇ!今すぐ出て来い!」扉の向こうから苛立った様子のエドガーと名乗る男の声が聞こえる。それと同時にずっと破壊しそうな勢いで扉も叩かれる。壊さないでくれ!そう思った私は急いで扉の方へ向かい、扉を開けた。「おうおうおう!人間!俺様を待たせるとはどういう了見してんだ?おい!」扉を開くとそこに
Last Updated: 2025-09-13
Chapter: 2.胡散臭い魔王の右腕
「失礼するぞ、テオ」大きな扉が開かれ、そこに立っていた美青年が自称魔王に淡々と声をかける。短すぎず長すぎない綺麗な丁寧にセットされた漆黒の黒髪に、切れ長の赤い瞳。彼も自称魔王に負けず劣らずとても美しいがこちらを黙って見つめる姿は氷のように冷たい。年齢は私と同じくらいかその落ち着いた雰囲気から年上にも見える。何だこの世界。イケメンであることとカラフルな目であることがここに住む条件なのか?「待っていたよ、ヘンリー。紹介するよ、彼女が今回の留学生だ」「…?」おっと?美しいが冷たい印象の少年…自称魔王がヘンリーと呼ばれた男に声をかけられた瞬間柔らかく笑う。先程まで冷たい表情しか浮かべていなかったのでそのギャップに思わず自称魔王を二度見した。え?二重人格?人変わりすぎじゃない?「初めまして。俺の名前はヘンリー・ハワードだ。今日から君の留学生活をサポートするハワード家の長男でもある」こちらに歩み寄り、微笑みながらも右手を出してきたヘンリーの手を私は取る。「初めまして。この度学院に留学させて頂くことになりました、桐堂 咲良と申します。これからいろいろとお世話になります。どうぞよろしくお願い致します」そして私もヘンリーと同じように微笑んだ。まるで取引先との挨拶である。お互いに営業スマイルが板についている。「敬語など必要ない。俺たちはこれから共に過ごすのだから。遠慮はしないで欲しい。よろしく、咲良」「わかった。よろしく、ヘンリー」社交辞令をお互い交わしたところで手を離す。なーんかこのヘンリーって人、すごく胡散臭い感じがするんだよね。いい人ではなさそうな感じがすごくする。「咲良、彼は私の右腕でもある優秀な悪魔だ。困ったことがあれば何でも彼に聞くといい。ヘンリー、彼女にはまだ何も説明してやれていない。帰る道中にでも説明をしてくれ」私たちの挨拶が終わったタイミングを見て自称魔王が私、ヘンリーと順番に声をかけ微笑む。なーにが!〝咲良〟だ!さっきまで〝お前〟だったでしょうが!やはり二重人格確定!「わかった。じゃあ行こう、咲良」「うん」自称魔王に慣れた様子で返事をし、私に声をかけてからヘンリーが歩き始める。私はそんなヘンリーの後を追うように一緒に歩き始めた。ちらりと謁見の間のような部屋から出る前に自称…いや自称ではなくおそらく魔
Last Updated: 2025-09-13
Chapter: 1.Welcome to Devil's world!!
短大を卒業して4度目の春が来た。社会人4年目、24歳にもなると毎年少しずつ後輩ができ、すっかり会社での私の立ち位置は新人から中堅になった。つまり任される仕事が増えた。疲労感しかない顔で一歩一歩何とか足を踏み出して、一人暮らしのマンションの階段を登る。仕事帰りにこの階段を登る度に引っ越しが頭の中をチラつく。家賃と部屋の綺麗さを優先した結果がこれだ。そろそろせめてエレベーターのあるマンションに引っ越そう。今日も決意を固めたところでやっと自分の家の前に着き、ふぅと一息をつく。それから鞄から予め出しておいた鍵で家の鍵を開けると私はいつものようにドアノブを回し扉を開けた。ここからはいわゆるナイトルーティーンだ。4年も見てきた玄関で靴を脱いで…、て、あれ?いつものように機械的に靴を脱いで、家に入って、鞄をソファに投げて…とやりたいところだがそれができない。何故なら目の前に広がっているのは私の家の中ではなく、全く見覚えのない薄暗い大きな部屋だったからだ。それに気づいた私はバタンッと一度扉を閉めた。疲れすぎて帰る家を間違えたか?そう思って家の番号を確認してみるが、扉の横のプレートに書かれてある家の番号は私の家の番号302だ。じーっと間違いのないように注意深く見てもその数字が変わることはない。疲れてるんだな。それも相当。あんな幻覚を見るほど疲れているのだと自分を納得させて再び扉を開ける。「…」しかし私の目の前に広がっていたのは先程と同じ全く見覚えのない薄暗い大きな部屋だった。何だ、ここ。何度も扉を開け閉めし続ける訳にもいかないのでとりあえず疑問に思いながらも一応私の家に入ってみる。よく見るとこの大きな部屋は薄暗いだけではなく所々にギラギラと輝く装飾品があり、すごく豪華絢爛な部屋に見えた。私が立っている足元にはレッドカーペットのようなものが敷いてあり、その先にはでかでかと王様が座るような豪華な椅子がある。そしてその椅子には誰かが深々と腰を下ろしていた。まるでお伽噺話に出てくるあるファンタジーな国を治める王様の謁見の間のような雰囲気がここにはある。薄暗いし、魔王城、とかどうだろか。いーや!冷静に分析している場合か!ここどこ!?私の家に何があった!?「|桐堂咲良《とうどうさくら》」訳がわからないまま立ち尽くしていると王座のような
Last Updated: 2025-09-13
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