LOGIN結婚から五年後。春の陽光が、リビングに優しく差し込んでいた。「ママー!」小さな声が響く。三歳になる娘、霧島美月が走ってくる。「どうしたの、美月?」リリムが優しく抱き上げる。「パパは?」「お仕事から帰ってくるわよ」「早く帰ってきてほしいな」「もうすぐよ」美月は、黒い髪に金色の瞳を持つ可愛らしい女の子だった。人間と悪魔の血を引く、特別な存在。「ただいま」玄関のドアが開く。「パパ!」美月が駆け寄る。「おお、美月」総一が娘を抱き上げる。「今日も元気だったか?」「うん!」「良い子だったな」総一は今、大学病院で臨床心理士として働いていた。多くの患者を救い、高い評価を得ている。「お疲れ様」リリムが迎える。「ああ、ただいま」二人は軽くキスを交わす。「今日はどうだった?」「忙しかったよ。でも、充実してた」「そう」夕食の準備をしながら、リリムが聞く。「そういえば、カイから連絡があったわ」「カイから?」「ええ。週末、みんなで集まろうって」「いいな。久しぶりに会いたいな」週末。神崎研究所に、懐かしいメンバーが集まった。「久しぶり!」カイと美優が、二人の息子を連れてやってくる。「カイ、美優ちゃん」「元気だった?」「ああ、元気だよ」カイは今、IT企業でエンジニアとして働いている。美優は図書館司書として、子育てと仕事
春。桜が満開の季節。ついに、この日がやってきた。「緊張するな……」控室で、総一が鏡を見つめている。真っ白なタキシードに身を包んだ姿は、いつもとは違って見える。「大丈夫か?」カイが声をかける。「ああ……いや、緊張してる」「当たり前だろ」カイが笑う。「人生で一番大事な日なんだから」「そうだな」高橋も隣にいる。「霧島君、おめでとうございます」「ありがとうございます」「リリムさんは素敵な方ですね」「ええ。俺には勿体ないくらいです」「そんなことないですよ」神崎が入ってくる。「そろそろ時間ですよ」「分かりました」総一が深呼吸する。「行こう」一方、花嫁の控室では。「わあ、リリムさん、すごく綺麗……」美優が感動している。純白のウェディングドレスに身を包んだリリムは、まさに天使のようだった。「ありがとう、美優ちゃん」リリムが微笑む。「でも、緊張するわ」「大丈夫ですよ」麗奈が励ます。「リリムさんなら、絶対に素敵な花嫁になれます」「そうかしら……」「そうですよ」ヴェルダが優しく言う。「あなたは今日、世界で一番美しい」「ヴェルダさん……」リリムの目に涙が浮かぶ。「泣いちゃダメよ」セラフィーネが慌てる。「化粧が崩れちゃう」「ごめんなさい」リリムが涙を拭う。「でも、嬉しくて」
イストリアとの戦いから一週間。街は平和を取り戻していた。「ふう……」神崎研究所のリビングで、総一が伸びをする。「やっと落ち着いたな」「そうね」リリムも隣でくつろいでいる。「長い戦いだったわ」「本当にな」この数年間、様々な敵と戦ってきた。契約暴走者、地獄の回収官、そしてイストリア。すべてが終わり、ようやく平和が訪れた。「でも、これで終わりじゃないわよ」リリムが総一を見る。「これから、新しい人生が始まるの」「新しい人生……」「そうよ。卒業して、就職して、そして……」リリムが指輪を見つめる。「結婚」「ああ」総一が微笑む。「もうすぐだな」「楽しみね♡」その日の午後、大学で卒業論文の発表があった。「では、霧島総一君、お願いします」教授に呼ばれて、総一が前に出る。「私の卒業論文のテーマは『愛と契約の心理学』です」教室がざわつく。「愛と契約?」「はい。人間関係における心理的契約と、その中での愛情の役割について研究しました」総一が説明を始める。「人間は、様々な関係において暗黙の契約を結んでいます」「暗黙の契約?」「例えば、恋人同士では『お互いを大切にする』という契約があります」「なるほど」「そして、その契約を支えるのが愛情です」総一が続ける。「愛があるから、人は契約を守ろうとする」教授が頷く。「興味深い視点ですね」「ありがとうございます」「具体的なデータはありますか?」「はい」総一が資料を配る。「アンケート調査とインタビューを行いました」発表は一時間ほど続いた。最後に、教授が評価を述べる。「非常に優れた研究です」「ありがとうございます」「特に、愛と契約の関係性について、新しい視点を提供してくれました」「恐縮です」「これは、優秀論文賞に値しますね」教室から拍手が起こる。「やったじゃん、総一」リリムが後ろの席から声をかける。「お前もな」リリムも同じように卒業論文を発表し、高評価を得ていた。夕方、二人は大学のキャンパスを歩いていた。「四年間、あっという間だったわね」「そうだな」「色々なことがあったわ」「ああ」心理学研究会での活動。サークルの仲間たち。そして、二人で過ごした時間。「でも、一番の思い出は……」リリムが総一を見る。「あなたと一緒にいられたこと」
イストリアの宣戦布告から六日。明日、ついに決戦の日を迎える。「みんな、集まってくれてありがとう」夜、神崎研究所のリビングに全員が集まっていた。総一、リリム、カイ、美優、麗奈、高橋、ヴェルダ、神崎、セラフィーネ、エリス。この数年間、共に戦ってきた仲間たちだ。「明日、イストリアとの最終決戦が始まる」総一が真剣な顔で言う。「正直、勝てる保証はない」「でも……」リリムが続ける。「わたしたちは負けるわけにはいかない」「そうだな」カイが頷く。「この街の人たち、みんなを守らなきゃ」「俺たちにできることは?」高橋が聞く。「戦闘は総一とリリムに任せる」ヴェルダが答える。「あなたたちには、街の人々を避難させてほしい」「避難?」「ええ。戦いが始まれば、街は戦場になる」「分かりました」麗奈が決意を固める。「私たちにできることをやります」「ありがとう」総一が感謝する。「みんながいてくれて、本当に心強い」「当たり前だろ」カイが笑う。「俺たち、仲間じゃないか」「そうね」美優も微笑む。「ずっと一緒に戦ってきたんですから」「一緒に……」総一が呟く。「そうだな。一人じゃない」「もちろんよ」リリムが総一の手を握る。「わたしたちには、こんなに素敵な仲間がいるんだから」その夜、総一は一人で屋上にいた。「明日か……」星空を見上げながら、これまでのことを思い返す。リリムとの出会い。様々な敵との戦い。仲間たちとの絆。そして、リリムへの愛。「絶対に守ってみせる」総一が決意を新たにする。「この世界も、リリムも」「総一」背後から声がする。振り返ると、リリムが立っていた。「どうした?」「一人で考え込んでるでしょ」リリムが隣に座る。「分かるのよ、あなたのこと」「そうか」「心配してるんでしょ?」「ああ」総一が正直に答える。「明日、本当に勝てるのかって」「大丈夫よ」リリムが総一を抱きしめる。「わたしたちには、愛があるもの」「愛……」「そうよ。愛は何よりも強い力なの」「でも、イストリアは強すぎる」「強くても、わたしたちの愛には敵わないわ」リリムが総一を見つめる。「信じて。わたしたちの絆を」「ああ」総一がリリムを抱き返す。「信じるよ。お前となら、何でもできる」「ありがとう」二人は静
大学四年の秋。総一とリリムは、もうすぐ卒業を迎えようとしていた。「あと半年で卒業か……」朝、神崎研究所で総一が呟く。「早いわね」リリムも感慨深げだ。「大学生活、楽しかったわ」「ああ」「卒業したら、本当に結婚するのよね?」「当然だ」総一がリリムの手を握る。「約束しただろ」「うん♡」幸せな朝のひととき。でも、その平和は長くは続かなかった。「緊急事態です」ヴェルダが慌てて入ってくる。「地獄から連絡が」「地獄から?」「はい。契約システムに異常が発生しているとのことです」「契約システムに異常?」リリムが驚く。「どういうこと?」「詳細は不明ですが、すぐに来てほしいとのことです」神崎研究所のリビングに、メンバーが集まった。総一、リリム、ヴェルダ、神崎、セラフィーネ、エリス。「状況を説明します」ヴェルダがモニターを起動する。画面には、地獄の契約システムの図が表示されている。「現在、契約システム全体に不具合が発生しています」「不具合?」「はい。契約が勝手に解除されたり、逆に強制的に成立したり……」「それって、すごく危険じゃない」リリムが心配そうに言う。「ええ。このままでは、人間界にも影響が出ます」その時、突然空間が歪んだ。「何?」黒い裂け目から、一人の人物が現れた。黒いローブに身を包み、顔は仮面で隠されている。「久しぶりだな、リリム」低い声が響く。「あなたは……」リリムが驚愕する。「まさか、イストリア?」「正解だ」仮面の男が笑う。「イストリアって誰だ?」総一が聞く。「かつて地獄と天界の両方で最高位契約者と呼ばれた存在よ」リリムが震える声で答える。「でも、千年前に死んだはず……」「死んだ? いや、ただ次元の狭間に隠れていただけだ」イストリアが続ける。「そして今、戻ってきた。この世界を変えるために」「世界を変える?」「そうだ。既存の契約システムは欠陥だらけだ」イストリアが手を広げる。「感情に左右され、不公平で、非効率的だ」「だから?」「だから、私が新しいシステムを構築する」「新しいシステム?」「すべての願いが自動的に叶う世界だ」イストリアの言葉に、全員が息を呑む。「すべての願いが叶うって……」「そうだ。願いさえあれば、契約も代償も必要ない」「そんなこと、でき
六月の金曜日。大学の授業が終わり、週末を迎えた。「今週も疲れたわね」リリムが伸びをする。「そうだな」総一も頷く。「心理学の課題、結構大変だった」「でも、楽しいわよね」「ああ」二人で神崎研究所に帰る道を歩く。「ねえ、総一」「ん?」「今夜、特別な夜にしない?」リリムが意味深に微笑む。「特別な夜?」「そうよ。二人だけの時間」「……何を企んでるんだ」「企んでないわよ」リリムが総一の腕に抱きつく。「ただ、たまには二人でゆっくり過ごしたいなって」「まあ、確かに最近忙しかったからな」「でしょ?」神崎研究所に着くと、ヴェルダが出迎えてくれた。「お帰りなさい」「ただいま」「今夜は特別なディナーを用意しました」「特別なディナー?」総一が驚く。「はい。リリムさんからのリクエストです」「リリム……」「ふふふ♡」リリムが得意げに笑う。「今夜は二人きりで、特別なディナーなの」「二人きり?」「そうよ。ヴェルダさんたちも外出するって」「え?」ヴェルダが微笑む。「今夜は神崎さんとエリスさんと、映画を見に行くことにしました」「そうなんですか……」「二人でゆっくり過ごしてください」「ありがとうございます」夕方、研究所の住人たちが次々と外出していった。「じゃあ、行ってきます」「楽しんできてください」静かになった研究所。