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54.娘の懇願、国王の決断

last update Huling Na-update: 2025-07-10 17:22:33

執務室で山積みの書類に目を通していると、遠くからドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。やがてその音が耳元に迫るほど大きくなる。このような足音は、ろくな知らせでないことの証だ。何か懸念すべき事態かと、私は身構えた。

――バンッ!

「お父様!私を、もう一度バギーニャ王国へ行かせてくださいっ!!」

現れたのは第二王女のアンナだった。息を切らし、肩でハアハアと呼吸を整えている。

「アンナ?一体どうしたと言うのだ?そんなに慌てて」

あまりにも唐突な発言に、私は思わず椅子から立ち上がりアンナに駆け寄った。

「バギーニャ王国に、怪しい女が入り込んでいると聞きまして。バギーニャは隣国ですし、もしや我々の国に脅威をもたらす存在ではと…ぜひ、私が偵察に伺いたいのです!」

アンナは、もっともらしい理由を付け加え再訪を懇願してきた。しかし、アンナがバギーニャのルシアン王子に夢中だということは王宮では今や誰もが知る公然の秘密だ。私も当然、その熱烈な恋心を知悉している。

(なるほど。偵察、か。建前としては悪くない。だが、真の目的はルシアン王子に会うことだな)

アンナの顔には、隠しきれない焦燥とルシアン王子への一途な想いが渦巻いている。だが、これを利用しない手はない。バギ

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