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第2話

Author: 観月明
私は体をひねって、和也の手をかわした。

だが彼は気にする様子もなく、むしろ強引に私の肩を抱き寄せた。

「信じろ。俺のそばにいればいい。悪いようにはしないし、苦労もさせない」

少し間を置き、彼は腕時計に視線を落とした。

「市内のジュエリーショップに新作のダイヤの指輪が入ったらしい。一番でかいやつを選んで、お前の姉さんにプロポーズするつもりだ」

彼は、私の姉にプロポーズするために、指輪を買いに行くという。

その前に、私は彼の「秘密の愛人」として扱われる。

突然、強烈な吐き気が喉の奥からこみ上げた。胃の中がひっくり返るように荒れ狂った。

だが和也は、そんな私に構う暇もなかった。

「俺は行く、お前は自分でタクシーでも呼んで帰れ。ここで厄介を起こすなよ」

そう言い残すと、彼の車はあっという間に走り去った。

私は一人、街角に取り残された。手にはしわくちゃの妊娠検査報告書を握りしめたまま。

……

夕暮れになっても、彼の言葉が頭の中にこびりついていた。

――お前に価値があるのは、俺のそばにいる時だけだ。

そうなのだろうか。

私は目を伏せた。誰が決めたというのか、彼のそばにいる時だけ価値があるなどと。

数日前、指導教授から海外共同研究への同行を誘われていた。

ただ妊娠が分かったばかりで、断っていた。

しかし今となっては、もう迷いは一切なかった。

私は勢いよくスマホを取り出し、指先で素早くメッセージを打った。

【先生、考え直しました。その研究、ぜひ参加させてください】

すると指導教授からは、ほとんど即返信が来た。

【よかった。明日出発だ。こちらで手配しておく】

その瞬間、張り詰めていた神経がようやく少しだけ緩んだ。

それでも、まだ平らなままの腹に手を当てると、胸の奥が鈍く痛んだ。

明日から、荒木和也――あなたには、もう二度と会うことはない。

タクシーに乗り込み、窓を開けると冷たい風が一気に吹き込んできた。

思わず体が縮こまる。

私の実の母はキャバクラ嬢で、父に近づくため、ある手を使って父のベットに潜り込んだらしい。

もともとは金を巻き上げるだけのつもりだったが、よりによって一度で私を身ごもってしまったのだ。

父は中絶費用を渡し、堕ろすよう命じたが、母は表向きは承諾しながら、すぐに海外へ逃げ、そして私を産んだ。

後になって親子鑑定を持ち、「パパに会いたい」と泣きつく幼い私を連れて現れた時、神代家は大混乱だった。

名誉を重んじる神代家は醜聞を恐れ、最終的に母に大金を渡して黙らせ、完全に姿を消させた。

去る前、母は私は邪魔だと言って、神代家に置き去りにした。

こうして私は、神代家で最も余計な存在になった。

父は冷たく、義母は私を嫌悪し、異母姉である神代晴(かみしろ はる)は、私を一生の敵のように扱った。

そして必然のように、私は小学校から高校までずっと彼女と同じ学校だった。

彼女の最大の楽しみは、新しい環境のたびに、私が隠し子であることを人前で暴くことだった。

中学の入学式では、全校生徒の前で私の出自を大声で言いふらした。

高校ではクラス替え初日の休み時間に、私の席へ押しかけ、私が隠し子だとクラス中に広めた。

やがて神代家には表に出せない隠し子がいると全校が知ることになる。

この十数年、罵倒と孤立といじめが当たり前の日常だった。

私は慣れるしかなかった。沈黙し、耐え、反抗することもやめた。

和也との出会いは、高校二年の秋深くのことだった。

あの日、晴は数人の女子を連れて廊下で私を囲み、バケツの水を私に浴びせた。

氷のように冷たい水が一気に制服を濡らし、肌に服が張り付いた。

それは全身が震えるほどの冷たさだった。

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