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第5話

Penulis: 鈴鳴りん
尻から地面に落ちただけのはずだった。

それなのに、腹の奥だけが、抉られるように痛んだ。

「絵梨!」

慎也は私には目もくれず、その場に膝をついた。必死に絵梨の名を呼びながら、彼女の胸元に手を当てる。

「絵梨と腹の子に万が一のことがあったら、絶対に許さない!」

陽翔の両親も、支え合うようにして駆け寄ってきた。

「なんて恐ろしい女なの……!つかさを死なせたばかりか、絵梨まで殺そうとするなんて!」

陽翔の父は杖を握りしめ、怒鳴りながら私に向かって振り下ろした。

私は痛みに耐えながら、とっさに腕で頭をかばった。立ち上がろうとしても、腹の痛みがひどく、体に力が入らない。

「この疫病神が……!うちの血を絶やす気か!」

「あなた、もっと打って!今日こそ分からせてやらなきゃ、この女はまた同じことをするわ!」

重く振り下ろされた杖が、私の頭を打った。

視界がぐらりと揺れる。

私は歯を食いしばり、痛みに耐えながら、その杖を必死につかんだ。

「何だ、やり返すつもりか!」

その声が響いた直後、絵梨が目を覚ました。

彼女は胸元を押さえ、堰を切ったように泣き出す。

慎也は痛ましげに顔を歪め、絵梨を大事そうに抱き寄せた。

「絵梨、聞こえるか?大丈夫だ、俺がついてる。すぐ病院に連れていくからな」

彼は絵梨を抱き上げると、私の横をまっすぐ通り過ぎた。

私を見ることはなかった。

ほんの一瞬でさえ。

私はその場に崩れたまま、全身の痛みに息を詰まらせていた。

腹の奥が熱く、重く、何か大切なものが体の中から流れ出ていくようだった。

そして、足元に広がる赤を見た。

その瞬間、ようやく分かった。

生理が遅れていたのは、悲しみで体調を崩していたからではなかった。

私は、妊娠していたのだ。

けれど、お腹にいたはずの子は、もういない。

父親の手で、殺された。

痛みをこらえながら、自分で救急車を呼んだ。

病院に運ばれ、いくつもの検査を受けたあと、手渡されたエコー写真には、妊娠八週とはっきり記されていた。

医師は気の毒そうに目を伏せた。

「残念ですが……赤ちゃんは、もう助かりません。

このまま処置に入ります。子宮の中をきれいにする必要があります」

私はエコー写真を握りしめたまま、ぽつりと涙を落とした。

つかさを失ったばかりなのに、この子まで守れなかった。

手術はすぐに行われた。

術後、まだ麻酔の名残で体が重いころ、慎也から電話がかかってきた。出た途端、彼は一方的に私を責め立てた。

「お前は少し取り乱しているだけだと思っていた。けど、まさか妊婦に手を出すなんてな。絵梨は今、大事な時期なんだぞ。

絵梨に何かあったらどうするつもりだったんだ。母子ともに危なかったかもしれないんだぞ。そうなれば、お前は人殺しだ。

つかさのことは不幸な事故だった。つらいのは分かる。けど、自分の子を守れなかったからって、他人の子まで巻き込むのは違うだろ。

絵梨はただ、うっかりつかさの名前を出してしまっただけだ。それを首まで絞めるなんて……紗月、お前、本当におかしいぞ」

私は、もうどこか麻痺していたのかもしれない。

私が、人殺し?

消毒液の匂いが染みついたシーツを握りしめ、私は冷たく問い返した。

「慎也。自分には何の罪もないとでも思っているの?」

二人の子どもを死なせたのは、ほかでもない彼だった。

「どういう意味だ。ちゃんと説明しろ、紗月」

彼が言い終える前に、私は電話を切った。

その夜、私は弱りきった体を引きずるようにして家へ戻った。

すべてを片づける余裕なんてなかった。普段着る服だけをバッグに詰め、そのまま出ていくことにした。

家を出る前に、離婚届とエコー写真をリビングの目につく場所に置いた。

他人の子なら、彼はためらいもなく殺せる。

なら、自分の子にも同じように無関心でいられるのか。

それだけは、知りたかった。

この街を離れる前に、私は霊園へ向かった。

つかさに、好きだったものを持っていくつもりだった。

けれどベビー用品店を一回りして、私はようやく思い知らされた。

つかさは、私の子に生まれたせいで、ずっと我慢ばかりしていたのだと。

陽翔のせいで、私は莫大な借金を背負った。

つかさには、必要最低限のものをそろえるだけで精一杯だった。

一歳の子ども向けのおもちゃは、こんなにもたくさんある。

それなのに、つかさは、そのどれにも触れたことがなかった。

私は埋め合わせをするように、目についたものをいくつも買い込んだ。

そして、つかさの墓前に一つずつ並べた。

声をかけようとしても、喉が詰まって、うまく言葉にならなかった。

頭に浮かぶのは、小さな手を伸ばして、たどたどしく声を上げるつかさの姿ばかりだった。
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