Share

第10話

Author: 鈴鳴りん
本当の意味で幼なじみだったのは、慎也と紗月のほうだった。

陽翔と絵梨が二人の輪に加わったのは、中学に入ってからだ。

「慎也、待ってよ!」

「慎也、クラスの子にいじめられた」

「お父さんとお母さん、出張でいないの。今夜は慎也の家に泊まっていいって」

「慎也って……ほんと、なんでそんなに意地悪なの?」

思い返せば、紗月はいつだってまぶしかった。

笑うときも、怒るときも、泣きそうな顔で強がるときも、彼女は誰よりも鮮やかに慎也の記憶の中にいた。

すべてが少しずつおかしくなり始めたのは、絵梨が現れてからだった。

……

慎也は弁護士を通して、私に連絡を取ってきた。

相手が何も言わなくても、電話の向こうにいるのが誰なのかはすぐに分かった。

「証拠が足りないことくらい、分かっているわ。諦めろと説得するつもりなら、何を言っても無駄よ」

慎也は日記にもメッセージの履歴にも、決定的な証拠を残していなかった。

すぐに彼らを刑務所へ送るのは難しい。

けれど、構わなかった。

今の私には、時間だけはいくらでもある。

「一審で終わると思わないで。だめなら控訴する。あなたたち全員に、必
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 愛という名の共謀   第11話

    「プロポーズした日、俺は本気だった」慎也は低い声で言った。「お前を守りたかった。けど結局、全部裏目に出た。お前が何より大事にしていたつかさを傷つけて……俺たちの子まで奪った。ごめん、紗月。本当に悪かった。許してもらえるなんて思ってない。でも……それでも、後悔してるんだ。心から」話しているうちに、慎也の声は少しずつ掠れていった。けれど私の中に湧いたのは、同情ではなく、吐き気にも似た嫌悪感だけだった。「結局、あなたは何も変わっていないのね」私は冷たく言った。「私を引き戻すためなら、今度は反省しているふりまでするんだ」私は迷わず背を向けた。ドアを開けようとした、そのときだった。背後から、慎也の声が聞こえた。「離婚届には、もう署名した」私の手が止まる。続く言葉に、指先がドアノブに食い込んだ。「絵梨は、俺が殺した。遺体は海に沈めた」その日のうちに、警察は関係各所と連携し、海で捜索を始めた。やがて、絵梨の遺体が引き上げられた。海水に浸かっていた遺体はすでに腐敗が進み、生前の面影などほとんど残っていなかった。慎也は、自分が犯したことをすべて認めた。そして同時に、陽翔のことも供述した。つかさを殺す計画を立てたのは、陽翔だった。自分で手を下さなかっただけで、方法を考え、慎也に実行させていたのだ。つかさの命を奪った罪。絵梨を殺した罪。そして、私のお腹にいた子まで奪った罪。すべてが明るみに出た。判決の日、慎也は不気味なほど静かだった。一方の陽翔は、最後まで現実を受け入れようとしなかった。法廷で声を荒らげ、椅子から立ち上がる。「あれは俺の子だぞ!俺がいなければ、あの子だってこの世に生まれてこなかったんだ!あんな小さい子、まだ何も分からない赤ん坊じゃないか!赤ん坊が一人死んだくらいで、なんで俺だけがここまで責められるんだよ!」その場にいた誰もが、息を呑んだ。陽翔はなおも喚き続けようとしたが、すぐに係官に両脇を押さえられ、そのまま法廷から連れ出された。法廷を出ると、陽翔の両親と鉢合わせた。避けて通ろうとしたのに、二人はいきなりその場に膝をつき、私の行く手を塞いだ。「紗月、お願いだよ。陽翔は取り返しのつかないことをした。でも、あんたたち、一度は夫婦だった

  • 愛という名の共謀   第10話

    本当の意味で幼なじみだったのは、慎也と紗月のほうだった。陽翔と絵梨が二人の輪に加わったのは、中学に入ってからだ。「慎也、待ってよ!」「慎也、クラスの子にいじめられた」「お父さんとお母さん、出張でいないの。今夜は慎也の家に泊まっていいって」「慎也って……ほんと、なんでそんなに意地悪なの?」思い返せば、紗月はいつだってまぶしかった。笑うときも、怒るときも、泣きそうな顔で強がるときも、彼女は誰よりも鮮やかに慎也の記憶の中にいた。すべてが少しずつおかしくなり始めたのは、絵梨が現れてからだった。……慎也は弁護士を通して、私に連絡を取ってきた。相手が何も言わなくても、電話の向こうにいるのが誰なのかはすぐに分かった。「証拠が足りないことくらい、分かっているわ。諦めろと説得するつもりなら、何を言っても無駄よ」慎也は日記にもメッセージの履歴にも、決定的な証拠を残していなかった。すぐに彼らを刑務所へ送るのは難しい。けれど、構わなかった。今の私には、時間だけはいくらでもある。「一審で終わると思わないで。だめなら控訴する。あなたたち全員に、必ず罪を償わせるまで、私は絶対に諦めない」誰一人、逃がさない。慎也が口を開いたとき、その声は少し掠れていた。「紗月、ごめん……少しだけ、話をさせてくれないか。絵梨のことは、本当に悪かった。お前がいなくなってから、やっと気づいたんだ。俺が本当に愛していたのは、お前だったんだって。今まで俺がしてきたことは、最低だった。俺はずっと絵梨を愛しているつもりでいた。でも、俺たちはこんなに長い時間を一緒に過ごしてきたのに、俺は……紗月。俺たち、昔みたいには戻れないか?」その言葉を聞いて、私はただ、笑いたくなるほど皮肉だと思った。「つかさを殺しておいて、まだ私に許されると思っているの?」私は思わず笑った。「慎也。死ぬべきだったのは、あなたのほうよ」電話の向こうで、慎也が息を呑む気配がした。「陽翔にも伝えて。あなたたち三人を、私は絶対に許さない。示談にも応じないし、途中で手を引くつもりもない。もう、あなたと直接話すことは何もない。用があるなら弁護士に言って。二度と私に連絡してこないで。あなたの声なんて、もう一生聞きたくない」慎也は長い沈黙のあと、

  • 愛という名の共謀   第9話

    「まさか、あの女があそこまでするなんて思わないじゃない。私とこの子が無事だったからよかったけど、一歩間違えたら本当に殺されていたのよ。それなのに、何日経っても顔も見せないなんて。紗月って、昔からすぐ自分だけが可哀想みたいな顔をするのよ。ほんと、変わらないんだから」慎也は拳を握ったまま、低い声で告げた。「紗月が、離婚したいと言っている」さっきまで紗月の妊娠を不快そうにしていた絵梨の目が、ぱっと輝いた。彼女は緩みそうになる口元を必死に押さえながら、慎也を見上げる。「本当に?紗月って、あんなに大事にされていたのに、何も分かっていないのね。自分の子を守れなかったからって、周りに当たり散らしているだけじゃない。でもね、慎也。紗月があなたの子を産むかもしれないと思うと、私、やっぱり嫌なの。私だけを愛してるって言ってくれたでしょう?それなのに、どうして紗月との子どもなんて作ったの?つかさちゃんの時と同じように、その子も……」慎也は、自分の耳を疑った。「もう黙れ!」思わず怒鳴ると、絵梨の肩がびくりと跳ねた。「お前は……どうしてそんなことを平気で言えるんだ」慎也は息を整えるように一度目を閉じ、それから絵梨を睨んだ。「正直に言え。陽翔が生きていることを、紗月に話したのはお前なのか」慎也が絵梨に声を荒らげたのは、初めてだった。絵梨は呆然と彼を見つめた。やがて我に返ると、信じられないというように目を潤ませる。「慎也……怖いよ。そんなふうに怒鳴られたら、お腹の子にもよくないでしょう?私、紗月のことを悪く言いたかったわけじゃないのに。どうして私が責められるの?」絵梨はまばたきをしただけで、すぐに涙を浮かべた。これまでの慎也なら、その顔を見るだけで折れていた。けれど今回は違った。彼の怒りは、少しも収まらなかった。慎也は絵梨の手首をつかみ、逃がさないように力を込めた。「もう一度聞く。陽翔のことを紗月に話したのは、お前なのか」絵梨は小さく肩をすくめ、痛いと訴えながら身をよじった。「そんなに強く握らないでよ……あれはただ、うっかり口が滑っただけなの」「うっかり、だと?」慎也の声が低く震えた。「さっきの電話、全部聞いていた。お前、わざと紗月を追い詰めたんだろ! 俺の前では、

  • 愛という名の共謀   第8話

    「篠宮先生、都会ってどんなところですか?きれいですか?」子どもたちの問いに、私はうなずいた。外の世界は広くて、見たことのないものがたくさんあって、とても賑やかな場所なのだと話した。そして、いつかみんなにも、自分の目でその景色を見に行ってほしいと伝えた。すると、一人の子が首をかしげた。「そんなにいいところなら、先生はどうしてここに来たんですか?」私は一瞬、言葉に詰まった。忘れたはずのあの日々が、また目の前にちらついた。たった一週間のうちに、私は人がどれほど平気で人を傷つけ、どれほど残酷になれるのかを思い知らされた。けれど、子どもたちの澄んだ目を見ていると、そんな現実を口にする気にはなれなかった。だから私は、少し笑って答えた。「ここも、とてもきれいな場所だからよ。来たくても来られない人が、たくさんいるくらいにね」夕凪町での私の一番大きな悩みは、明日の授業をどうするか、それくらいだった。半月後、弁護士から新しいスマホに連絡が入った。【篠宮様、江坂慎也氏らを相手取った訴訟につきまして、裁判所に訴状が受理されました。近日中に先方へ通知が届く見込みです】私は唇を結び、ゆっくりと顔を上げた。夕凪町の空は、どこまでも青かった。けれど、つかさはもう二度とこの空を見ることはできない。……慎也が血眼になって紗月を捜していた頃、彼のもとにも裁判所からの通知が届いた。それとほとんど同じ頃、陽翔から電話がかかってきた。「おい、どういうことだよ。お前、俺のことを紗月に話したのか?俺が生きてるって、あいつにバラしたのかよ!あれから一年以上経ってるんだぞ。それなのに今になって、紗月が俺を訴えやがった!」慎也の手が震えた。次の瞬間、彼は弾かれたように立ち上がる。「何だって?」電話の向こうで、陽翔はまだ怒鳴り続けていた。けれど慎也には、言い返す余裕などなかった。日記には、陽翔の偽装死についてはっきり書いた覚えがない。紗月が知っているのは、せいぜい、つかさの死に自分が関わっていたことくらいだと思っていた。だが、違った。紗月はもう、すべてを知っている。だとしたら――いったい、どこで知ったのか。慎也の顔から、すっと表情が消えた。彼は車のキーをつかむと、そのまま大股で家を出た。

  • 愛という名の共謀   第7話

    視線を落とすと、離婚届の下にもう一枚、検査結果の用紙が挟まっていた。そこには、はっきりと記されている。江坂紗月、妊娠八週。慎也は真っ青な顔で、その場に立ち尽くした。妊娠八週。紗月が、妊娠していた。自分の子を、身ごもっていた。その意味を理解した瞬間、慎也の口元が抑えきれずに緩んだ。紗月との間に、子どもができたのだ。けれど、すぐに視線は離婚届へ戻る。慎也はしばらくそれを見つめたあと、ふっと笑みを消し、離婚届をろくに読みもせずテーブルの端へ押しやった。大丈夫だ。紗月には、もう自分以外に頼れる相手などいない。それに、今の紗月はつかさを失って傷ついている。そんな彼女が、お腹の子まで手放せるはずがない。子どもがいるなら、紗月は必ず戻ってくる。慎也はそう信じていた。うれしさと焦りが入り混じり、じっとしていられなくなった慎也は、家の中を何度か歩き回ったあと、慌てて紗月に電話をかけた。けれど、つながらない。別の番号からかけても、結果は同じだった。慎也の胸に、じわじわと焦りが広がっていく。彼はすぐ秘書に電話を入れた。「何としてでも妻の居場所を探せ。見つけたらすぐ連絡しろ。俺が迎えに行く」妊娠八週なら、まだお腹が目立つ時期ではない。気づかなかったのも無理はなかった。けれど、あのとき自分は紗月を蹴った。もし、お腹の子に何かあったら――そこまで考えて、慎也は苛立つように自分の太ももを叩いた。すぐに紗月へメッセージを送る。【紗月、俺が悪かった】【検査結果を見た。赤ちゃんがいたんだな】【体は大丈夫か?今どこにいる】【頼むから返事をしてくれ】【帰ってきてくれ。これからは三人でちゃんとやり直そう】【つかさの分まで、この子を大事にしよう】何通も送った。けれど、返事は一向に来なかった。浮き立っていた気持ちが、少しずつ冷えていく。慎也はローテーブルの上に置かれた離婚届を見つめたまま、ようやくソファに腰を下ろした。そして、この数日間に起きたことを、ひとつずつ思い返し始めた。ふと、昨日の紗月の言葉が頭をよぎった瞬間、慎也ははっと顔を上げた。「慎也。自分には何の罪もないとでも思っているの?」昨日、紗月がそう問い返したとき、その瞳には深い悲しみと憎しみが滲

  • 愛という名の共謀   第6話

    墓前を離れる前に、私は小さな金の延べ棒を二つ、墓石のそばの目立たない場所にそっと忍ばせた。「つかさ。ママ、ずっと考えていたの。でも、本当にあなたのものだと言えるのは、これしかなかった。本当はね、一年に一本ずつ買って、いつかあなたが大きくなったときに持たせてあげるつもりだったの。借金取りが家まで押しかけてきたときも、これだけはどうしても売れなかった」言い終えた途端、私は顔を両手で覆って泣き崩れた。張り詰めていたものが、そこでようやく切れた気がした。空が暮れかける頃になって、私はやっと立ち上がった。「次に来るときは、必ずあなたを苦しめた人たちに、ちゃんと罪を償わせるから」……翌朝早く、私は空港へ向かった。そこで初めて、慎也から何十件ものメッセージが届いていることに気づいた。【絵梨が無事だったからまだよかった。もし腹の子にまで何かあったら、お前を一生許さなかった】【少しは自分が何をしたのか考えろ。あの状態の絵梨に手を出すなんて】【一度、本気で病院に行ったほうがいい。今のお前はまともじゃない】【絵梨は目を覚ましてからずっと泣いてる。眠っていても急に怯えて起きるんだぞ】【今すぐ来て謝れ】【返事くらいしろ。見てるんだろ】下へスクロールしても、似たようなメッセージばかりが続いていた。もう読む気にはなれなかった。最後のほうで、慎也はようやく短い一文だけを送ってきていた。【明日帰ったら、一度ちゃんと話そう】私はそのメッセージを最後に、彼をブロックした。そして、そのまま飛行機に乗った。続きは、弁護士と話してもらえばいい。つかさを殺したことには、何も感じなかったのかもしれない。けれど、自分の子の命まで、その足で絶ったと知っても、本当に平気でいられるのだろうか。……慎也は病院で絵梨のそばにつき、リンゴの皮をむいていた。けれど、手元が狂い、刃先が指をかすめる。絵梨はそれを横目で見て、不満そうに唇を尖らせた。「慎也、せっかく一緒にいられるのに、どうしてそんなに上の空なの?誰のこと考えてるの?」慎也は答えなかった。ただ、無意識にスマホへ目を向ける。返事は、まだ一通も来ていない。あれだけメッセージを送ったのに、紗月からは何の反応もなかった。怒るべきなのだろう。

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status