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第4話

Penulis: 鈴鳴りん
押し問答になりかけたとき、絵梨がこちらへ歩いてきて、私の腕にそっと手を添えた。

「お父さん、お母さん。紗月はまだ、気持ちの整理がついていないんだと思う。少しだけ分かってあげて。だって、娘を亡くしたばかりなんだから」

お父さん、お母さん?

私が思わず目を見開くと、絵梨は待っていたかのように、にこりと笑った。

「二人がこの先、寂しい思いをするのは見ていられなくて。だから私、二人の娘になることにしたの。この子が生まれたら、おじいちゃん、おばあちゃんって呼ばせてあげられるし」

よくもそんなことが言えたものだ。

胸の奥から、吐き気にも似た嫌悪感が込み上げてきた。

陽翔は死んでいない。

ならば、命日と呼ばれる今日に、この家が悲しみに包まれるはずもなかった。

四人は何事もなかったように庭でバーベキューを始め、私は一人で二階へ上がり、つかさのものをまとめた。

服。哺乳瓶。使いかけのタオル。

どれも、あの子が確かにここにいた証だった。

途中で一度だけ、慎也が様子を見に来た。

彼はドアのそばに立ち、困ったようにため息をつく。

「紗月、家ならまだしも、ここでまで感情的になるなよ。あの二人だって、つらいんだ。

つかさの物を全部持っていくなんて、そこまでしなくてもいいだろ」

私は答えなかった。

手も止めなかった。

つかさに関わるものを、この人たちのそばに一つだって残しておきたくなかった。

荷物をまとめて部屋を出ようとしたとき、絵梨がふいに私のバッグを奪い取った。

「何が入ってるの?」

そう言いながら、絵梨は指先でつまむようにして、つかさの服を一枚ずつ引っ張り出していく。

私はバッグの反対側を掴んだ。

「つかさのものよ。触らないで」

「やだ、そんなに怒らなくてもいいじゃない。ちょっと見るくらい、いいでしょ?」

私が止めようとすればするほど、絵梨は面白がるように中を漁った。

やがて私たちは、バッグを挟んで引っ張り合う形になった。

「放して!」

絵梨は悪意を隠そうともせず、唇の端を上げた。

「嫌だって言ったら?」

次の瞬間、強く引かれた拍子に、私の手の中でバッグの紐がぶつりと切れた。

絵梨はそれを見るなり、わざとらしく「あっ」と声を上げた。

私が一瞬気を取られた、その隙だった。

彼女はつかさの遺品を奪い取ると、誰もいない庭へ駆け出し、火のついたばかりの炭の中へ放り込んだ。

乾いた綿の服に火が移り、炎が一気に立ち上がる。

頭の中が真っ白になった。

私は反射的に駆け寄り、まだ燃え残っていたおもちゃを素手で火の中から掻き出した。

焦げた匂いが鼻を刺す。

つかさのおもちゃは黒く焼け焦げ、私の手の甲には、熱で赤く腫れた水ぶくれが浮かんでいた。

「絵梨!」

血走った目で睨み上げると、絵梨は腕を組んだまま、余裕ぶった笑みを浮かべていた。

「何?

死人のものなんて、燃やしてしまうのが普通でしょう。いつまでも残しておいたら、縁起が悪いじゃない」

その言葉で、頭の中が真っ白になった。

手の甲の痛みさえ、もう感じなかった。

気づいたときには、私は絵梨に飛びかかり、その首に両手をかけていた。

本気で力を込めた。

けれど、絵梨は苦しげに顔を歪めながらも、なお私を煽るように唇を動かした。

「さっきの……陽翔が生きてるって話。どこまで知ってるの?」

そして、私の表情を見た絵梨は、かすかに笑った。

「……なんだ。もう気づいてたんだ。

そうよ。私のお腹の子は陽翔の子。あの人は死んでなんかいないし、破産もしていない。あなたが必死に借金を返している間、陽翔は私のために、惜しみなくお金を使ってくれていたわ。

つかさちゃんも、本当にしぶとい子だったわ。何度も消そうとしたのに、なかなか思い通りにならなくて」

絵梨は苦しげに息を吸い、それでも唇の端を歪めた。

「でも、最後はあっけなかったわね。肺結核で死ぬなんて」

その瞬間、頭の中で何かがぷつりと切れた。

この女を、この場でめちゃくちゃにしてやりたい。

そんな衝動を抑えきれないまま、私はさらに指に力を込めた。

「つかさに何をしたの!」

絵梨の顔が苦しげに歪み、目尻に涙が滲む。

それでも彼女は、掠れた声で言った。

「慎也が……肺結核の患者の痰を、あの子に飲ませたのよ」

耳の奥で、嫌な音がした。

次の瞬間、視界が真っ赤に染まった。

「死ね……!」

喉の奥から、押し殺したような声が漏れた。

私は絵梨の首を掴んだまま、何度も激しく揺さぶった。

頭に血が上っていた私は、ここが白川家だということさえ忘れていた。

「紗月!お前、何してるんだ!」

異変に気づいた慎也が、血相を変えて駆け寄ってくる。

それでも、私は手を放さなかった。

むしろ、さらに指に力を込めた。

あと少しだった。

絵梨の瞳から、少しずつ焦点が消えていく。

けれど次の瞬間、駆け込んできた慎也の足が、私の腹を思いきり蹴りつけた。

鈍い痛みが腹の奥に突き刺さる。

手から力が抜け、私はその場でよろめいた。

そして、そのまま床に崩れ落ちた。
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