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第3話

Penulis: 鈴鳴りん
扉の向こうから絵梨の笑い声が聞こえただけで、慎也の目元は分かりやすく和らいだ。

普段は私を気遣うふりをしているくせに、その瞬間、私の存在など忘れたようだった。

「絵梨も来ていたのか」

私より先に扉を開けて中へ入った慎也の声は、隠しきれないほど弾んでいた。口元も、無意識のうちにほころんでいる。

私があとに続いて部屋に入ると、それまで賑やかだった空気がふっと止まった。

陽翔の両親の顔から、分かりやすく笑みが消える。

絵梨は七か月になるお腹を撫でながら、ちらりと私を見た。それから、何でもないことのように首を傾げる。

「つかさちゃんは?」

言った直後、今さら気づいたというように、絵梨は慌てて口元を押さえた。

「あ……ごめんね、紗月。お腹の子が生まれたら、つかさちゃんと一緒に遊ばせたいって、ずっと思っていたから。つい」

そこで彼女は、傷口に塩を塗るように続けた。

「つかさちゃんが肺結核で亡くなったこと、すっかり忘れていて」

本当にうっかりなのか、わざとなのか。

そんなこと、絵梨自身が一番よく分かっているはずだった。

「絵梨、あなた……」

私が言い終えるより先に、慎也がすっと私の前に立ちはだかった。

まるで私から守るように絵梨の肩へ手を添え、彼女をソファに座らせる。

「大丈夫だ。紗月も、そんなことで責めたりしない」

低く穏やかな声でそう言ってから、彼は振り返って私を見た。

「そうだろ?」

娘を殺した二人が、何食わぬ顔で私の前に立っている。

声を抑えようとすればするほど、喉の奥が震えた。

「うっかり口にしたのか、わざと言ったのか。あなたが一番分かっているでしょう」

その瞬間、慎也の眉がわずかに寄った。

「紗月」

名前を呼んだだけだった。

けれど、その低い声だけで、これ以上は許さないと言われているのが分かった。

絵梨は一瞬目を丸くし、それから顔を覆ってすすり泣き始めた。

「ごめんなさい、おじさん、おばさん。陽翔のこともあったから、少し顔を見に来ただけだったの。紗月が嫌な思いをするなら、私、帰るね。

つかさちゃんのことだって、あの子が小さい頃から知ってるんだよ。そんなふうに言われるなんて、悲しいよ」

絵梨は片手で腰を支え、大きなお腹をかばいながら、つらそうに立ち上がろうとした。

腰がソファから少し浮いた、そのときだった。

陽翔の母がつかつかと歩み寄り、何の前触れもなく私の頬を打った。

乾いた音が部屋に響く。

あまりのことに、私は呆然とその場に立ち尽くした。

陽翔の母は私の服をつかむと、玄関のほうへ乱暴に押しやった。

「この疫病神。この家で歓迎されていないのは、あんたのほうよ!

うちの息子を破産させて、飛び降りるところまで追い込んだくせに、今度はたった一人のかわいい孫まで死なせるなんて!

あんたと関わる人間は、みんな不幸になる。二度とこの家の敷居をまたがないで。出ていきなさい!」

周囲から見えない角度で、絵梨が私に向かってうっすらと口元を歪めた。

挑発しているのは明らかだった。

陽翔の母に腕をつかまれ、私は数歩よろめいた。それでも慎也は、まるで私が絵梨に危害を加えるとでも思っているかのように、彼女の前にしっかりと立ちはだかっている。

そして、無様に引きずられる私を、冷ややかな目で見下ろしていた。

「何よ、その目は。この家に来る資格がないのは、あんたのほうでしょう」

陽翔の母は、憎しみを隠そうともせずに吐き捨てた。

「あのとき陽翔を結婚させるなら、絵梨を選ばせるべきだったのよ。あんたみたいな疫病神じゃなくて!

出ていけ!」

私は乱暴に玄関の外へ突き飛ばされた。

けれど、ドアが閉められようとした瞬間、とっさに手を伸ばして押し止めた。

幼い頃から、私は陽翔の両親にはいつも丁寧に接してきた。結婚してからは、実の親のように気を配ってきたつもりだった。

それなのに、私は昨日、一つだけ大事なことを見落としていた。

陽翔の偽装死に、彼の両親は本当に関わっていなかったのか。

「あんた、まだ何か用?」

私は陽翔の母をまっすぐ見据えたまま、低い声で問い返した。

「陽翔が生きていることを、あなたたちは本当に知らなかったの?」

その瞬間、部屋にいた四人の顔色がわずかに変わった。

やっぱり。

この人たちは、最初からみんなで私を騙していたのだ。

隠しているものを全部暴いてやろうとした、そのときだった。

「紗月!」

慎也が低く、強い声で私を遮った。

「つかさを亡くして、頭がおかしくなったのか」

彼は足早に近づいてきた。

両手で私の肩を支えるようなふりをしながら、その指は骨に食い込むほど強く私を押さえつけている。

「そんなことを言い続けるなら、一度、精神科で診てもらったほうがいい」

私は慎也を見つめた。

もう、失望すら湧いてこなかった。

胸の奥に残っていたわずかな情さえ、音もなく冷えていく。
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