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第2話

Author: サンニイチ
「お母さん!」

僕は興奮して近づいた。

しかし、母は僕の体を通り抜けて歩いて行ってしまった。

もう、母に触れることすらできないんだ。

僕は母の後ろをついて行き、恐る恐る言いたいことを口にした。けれど母には僕の声は聞こえていない。

それに母が戻ってきたのは、僕を心配したからじゃなかった。車のキーを忘れただけだ。

母の視線が僕の部屋のドアに向けられた時、僕はまるで悪いことをした子供のように、焦って言い訳をした。

「わざと死んだわけじゃないんだ。部屋も汚しちゃってごめんね、お母さん。僕、片づけ……

もう手伝えないんだ……僕、もう、死んじゃったから……」

母は寝室の入り口で立ち止まり、何事もないような口調で言った。

「帰ってきたのに出てこないなんて、偉くなったもんだね。すっかり態度も大きくなって、拗ねてるの?

でも言っておくけど、拗ねたって無駄よ。あなたが運悪くハズレを引いたのだから、誰のせいでもないでしょ」

僕がまだドアを開けないので、母は少し怒ってドアノブを回した。ちょうどその時、圭太が走ってきた。

「お母さん、早く。遊園地、もうすぐ開いちゃうよ」

母は寝室に入るのを諦め、不機嫌そうに車のキーを手に取りながら外へ向かった。

「夜まで遊んでくるから、夕飯はいらないわ。テーブルの唐揚げは、あなたが食べなさいよ。不公平だなんて言わないでよね。

圭太だって食べてないんだから。それに、今回はくじを引かせたりもしなかったでしょ。これで十分、あなたを甘やかしてるわよ」

テーブルの上にあった唐揚げは、昨日、圭太が食べ残したものだった。

昨日、母がスーパーから帰ってきた時、この唐揚げを一パックだけ買ってきて、僕と圭太にくじを引かせたのだ。そしてまた僕はハズレを引いてしまった。

僕はずっと肉を食べていなかったので、その時、思わず唐揚げに触れてしまった。

すると母は僕の手を真っ赤になるまで叩き、嫌そうに大声で叱った。

「ルールをすっかり忘れたの?あなたがハズレを引いたんだから、唐揚げは圭太のものよ!あなたには関係ないの。もう一度触ったら、手を切り落とすからね。

あなたみたいに食いしん坊な子は見たことないわ。まるで私が酷い仕打ちをして、毎日ご飯を食べさせてないみたいじゃない」

それなのに、今日は僕に食べろと言ってきた。

母はやっぱり優しい。

僕は嬉しかった。でも、今はただの魂で、唐揚げに触ることさえできないのを忘れていた。

そこへ窓から野良猫が飛び込んできて、唐揚げを奪い去ってしまった。

猫はウーッと僕を威嚇し、僕には止める術もなく、ただ悲しくなって隅っこにうずくまるしかなかった。

どれくらい経っただろうか。両親と圭太が帰ってきた。みんなの顔は喜びに溢れていた。

「お母さん、パンダってすごく大きいんだね。フワフワしてて、すごく好き!お母さん、買ってよ」

母は彼のおでこにキスをし、甘やかすように言った。

「パンダって、買えるわけないでしょ」

圭太はフンと後ろに下がった。

「キスしないでよ。まだくじ引いてないんだから。兄ちゃんに見られたら、また不公平だって泣くかもよ。

でも、もしかしたらもう部屋で泣いてるかもね。今日は兄ちゃんの誕生日だし」

母はテーブルを一瞥した。

唐揚げはもう無かった。

母は淡々と鼻で笑い、断言するような口調で言った。

「もし当たりを引けたら、私だってキスしてあげたわよ。でも、あの子は運が悪かった。引けなかったのよ。

それに、唐揚げも食べてるし、わざと出て来ないだけよ。兄ちゃんは心が狭いから、放っておきなさい」

誰も僕に気づかない。そして誰も、僕がもう自分の部屋で死んでいることにも気づいていない。

母は夜食の準備をしながら、おかしな口調で僕の部屋に向かって声を張り上げた。

「くじを引く時間よ?じゃあ、圭太の好きなものばかり作っちゃうけどね。後で不公平だって泣かないでよね」

テレビを見ていた父が苛立たしげに言った。

「ほっとけ!引かなくていい。圭太の好きなものを作れ。優太なんか好きにさせておけ!

ここまで育ててやったのに、感謝もせずにふて腐れるなんて、この恩知らずめ!」

僕は傍らで思った。

引いたところで、何が変わるというのだろう?この十年、食卓にはいつも圭太の好きなものばかりで、僕はただ黙って白ご飯を食べてきた。

せめて、両親は僕を飢え死にさせなかった。

そうだろう?

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