LOGIN第一印象は、すげえ変わった王妃だなと思った。 わざわざ俺達のいる危険なアジトに潜入して、呆気なく自分の身分を明かすし。 しかも略奪や破壊行為をやめたら、俺達の故郷を返してやると提案までしてきた。 自分が損しかしてないのに? 馬鹿な女だ。そう思っていたのに。 案の定フィシが裏切り、夜中に部屋に暗殺者を送り込んでまで俺を殺そうとして。 だけど王妃が身を挺し、俺を助けて…… 「こんな昨日、今日会った相手を守ろうと捨て身で飛び込むなんて、あんたは馬鹿なのか!」 そう言って怒鳴ればヘラヘラと笑う。 こんな変な女、見たことない。 それにめちゃくちゃ鈍い。 俺が男装した妹だと本気で思ってる。 命を助けられた。けど大恩を恩着せがましく言わない。 性悪妻とかいう噂は全部嘘だった。 相当変わった王妃。 ……何て面白いんだ! 一緒にベッドに寝転び、俺が男だと分かった瞬間の、あの時の引き攣った顔もそう。 勝手に王宮に住み着いた俺の世話をなんだかんだ焼いてくれるし。 時にたくましく、強かで、鈍くて、常にローランド王のことを考えてる。 しかもローランド王もまた…… こりゃ、付け入る隙もねえな。 そう思って諦めていたのに。 あの性悪看護師リジーの一件で、アデリンと一緒に俺達は南の町に移り住んだ。 出産に育児、共同生活。 アデリン達と過ごす時間は本当に楽しくて。 いっそこのままローランド王と本当に離婚してくれたらなあって考えたりもしたけど…… やっぱり来るんだよな。ローランド王は。 だってこの男がアデリン以外を愛するわけないだろう? 分かってたけどさ。 レェーヴン一味を率いてこの王に楯突いてみようか? なんてな。 そんな事を考えながら、
私はホイットニー。 このクブルク国の王妃陛下、アデリナ様の侍女だ。 アデリナ様は性悪妻で、実家の加護を盾にローランド様を財布代わりにしてるだとか、税金を無駄遣いしてるとか言われてるけど、それは絶対に違う。 「キャアアアアアッ!ホイットニー! 今日、ローランド様と目が合ったの…! あのツンとした表情、あの見下したような冷たい瞳! 堪らないわ…!カッコ良すぎて心臓が止まってしまうかと思ったわ!」 ご覧の通り。 アデリナ様はすごくローランド様を愛されていらっしゃるのです。 お顔を真っ赤にして好きな人のことを話す、とても可愛らしいお方。 私はそんなアデリナ様が大好きです。 だけどある日を境に、アデリナ様はお変わりになられた。 「ホイットニー! 私はあの男と離婚したい……!」 ……作戦を変えられたのかしら? だってあんなに好きだった方と別れたいだなんて。まるで別の人のよう。 それにアデリナ様は自分がアデリナ様じゃないと私に言ってくるのです。それも真剣な顔して。 アデリナ様。 アデリナ様……いいえ、あなたはアデリナ様です。 だって……じゃなきゃ。あのアデリナ様はどこへ行ったというのですか? 幸せになって欲しかったのです。 ローランド様は寂しい幼少期を過ごされ、愛を知らないお方だからこそ、アデリナ様に愛を教えて貰いたかったのです。 でも今は……あの方はきっと本当のアデリナ様では無いのだろうけれど、生前アデリナ様が懸命に取り組んできた事を生かし、結果的にクブルクのために動かれていらっしゃる。 悪くはありません。アデリナ様と同じくらい愛くるしいお方です。 それにローランド様は今のアデリナ様をおそらく……… こうな
私はクブルク国内の有力な侯爵家の次男。 自分で言うのも何だが、頭がいい。 この国の王でいらっしゃるローランド・フォン・クブルク王。 ローランド王に仕えてからは、誰よりも彼を優先し、誠心誠意尽くしてきた。 早くに前王を亡くし、二十代前半で王となられたローランド王。 彼がいつも人にも自分にも厳しいのは、国の危機的情勢を考えての事である。 威厳を保ち、クブルク侵略に目を光らせているぞという周辺国へのアピールでもある。 そんなローランド王が半ば強引に娶らされたのが、マレハユガ大帝国の第一皇女、アデリナ王妃だ。 はっきり言って私も当初は、アデリナ王妃が大嫌いだった。 ローランド王を自身のプライドの為にあちこち引っ張り回し、高いものを買わせ、貶して嘲笑う。 完全なる性悪妻。お可哀想なローランド王。 癒しが欲しいであろうに。 だが……ある日を境にあの王妃は変わった。 しかも180度。というよりもう別人だ。 私が一番初めに驚いたのはまずこれだ。 アデリナ王妃はルナール一派の問題解決の際に、荒れた鉱山から金を見つけ、それを最適なタイミングで届けて欲しいと私に直接依頼をしてきた。 そんな馬鹿なと思いながらも、急いで調査を進めると…… 何と。あの鉱山には通常の倍近い金が含まれている事が判明したのだ! 何ということだ……! 無価値だと思われていた鉱山を購入したのは、この為だったのか……! 私はこれまで自分が間違っていたことを悔い改めた。 アデリナ王妃は……性悪妻と見せかけてこのクブルク国を救う、女神様だったのだと!! それ以降、私は女神様をひっそりと敬うようになった。 時々—————— 「めが…‥じゃない、王妃陛下。」
リジーの件以降、王宮で私の悪口を言い、責め立てていた官僚や兵、侍女達はすっかり勢いを失い、大人しくなっていた。 皆あの時は、まるで魔法にかかっていたみたいだと口を揃えて言ったそうだ。 彼らには降格や謹慎処分、減給など、罪の重さに応じて処罰が下された。 あれからリジーはサディーク国の修道院で真面目に働いているという。 東部地方の守護神となったルナール一派は、時々レェーヴと連絡を取り合い、外敵からクブルクを守ってくれている。 軍事協定を結んだアルバ達もまた、諸外国の動きを把握し、軍備やクブルク国の防衛に協力してくれている。 サディーク国では「聖女祭」という祭ができたそうで、建てられた巨大な聖女像は明らかに私だった。放っておこう。 ちなみにローランドが私を探す時に使ったという聖遺物、あの十字架は、私が触るとまたすぐ使えるようになったみたいだ。 [癒しの力を使いました 聖遺物の力が全回復しました] ………って感じで。 皆の親密度は大体安定している。 だが皆かなり数字が高い(…何で?)。 そしていつも賑やかな現場には、今日もあの人がやって来る。 爽やかな銀の髪を上品に靡かせ「氷の王」と呼ばれ、皆から恐れられていた男。 愛を知らず、誰よりも愛を求めていた人。 だがそれは最早過去の話。 「アデリナ。やっと会えたな。 今日も綺麗だ。 愛してるよ。」 周囲の男達には目もくれず、ローランドは片膝を落とし、今日も欠かさず私の手の甲にキスをした。 そして私だけに最高の笑顔と、最高の愛の囁きを送る。 今や彼の異名は「溺愛王」。 アデリナ王妃と息子のヴァレンティン王子をどこまでも愛する王と言われ、多くの国民達に親しまれている。 私が初めてアデリナに憑依したあの日。 離婚してと迫ったあの時。 誰があの最悪な出会いから、こうなることを予測できただろうか?
◇ 「か、体が持たない………」 散々ローランドに求められるのは幸せなんだけれど、とにかく容赦がない。 というより回数と時間が半端ない。何であんなに元気なの?あれが王の資質!? いや、関係ないか。 「ええ?うふふ。アデリナ様ってば。 愛されていて本当にお幸せそうですね。」 今日もホイットニーは可愛くうふふ〜と笑ってティータイムの為のお茶菓子セットを用意してくれている。 「だから言っただろ。 今ベタベタしたら逆効果だって! ローランド王はお前にベタ惚れなんだ。 煽ってどーする」 ブツブツと文句を言いながら、今日もレェーヴは私の向かいの席で焼きたてのクッキーをつまみ食いしている。 「アデリナ様。いくらあの時子供が産まれたら消えると約束したからって、まさか本当に消えるだなんて。 ……全く。陛下には貴方しかいないんですから。 今後は勝手に消えたりしないで下さいね。 分かりましたか?」 その隣でイグナイトが説教を垂れ、チョコレートケーキを上品に味わっている。 明らかに方向性が違う気がする。 もうローランドの事は諦めたのかな? そう言えばイグナイトの持っていたローランドのあの写真集、今度こっそり見せて貰おうかな。 特にNo.6の、ローランドの肉体美のやつ… 「いや、アデリナ様。 もしローランド王と離婚したくなったら、その時はぜひ我がサディーク国へ! 貴方ならば聖女として、皆から大歓迎されるでしょう。」 さらにその隣にはオディロン王太子。 なぜいる? そして—————— 「アデリナ様……ヴァレンティン様、すっごく可愛いです! もし彼が少し大きくなったら、僕が剣術を教えても良いでしょうか?」
「アオイ。好きだ……」 から始まったローランドとの甘いスキンシップ。 ソファの奥に私を押し倒し、片膝を乗せて体重をかけてくる。 「ん……ローラ……ン、」 体温の高い掌が頬を撫で、やがてローランドはソファを軋ませ、私の唇にキスをした。 キスってこんなに気持ちいいものだっけ? 「はあっ……アオイ。 産後の調子はどうなんだ? どこも悪くはないのか?」 「っ、はあ……っ、大、丈夫ですよ。 癒しの力があるからかな?」 「そうか。……なら思う存分、愛し合えるな。」 「え?」 熱い吐息と伴に唇にまたキスされ、掌で頬を優しく撫でられ、そのうちキスは頬、首筋、鎖骨へと移っていった。 首筋に至ってはキスマークが付くほど強く吸われた。 熱い……どうしよう? だんだん目が覚めてきた。 「っ、はあっ……アオイ。」 「ローランド……っ。」 狭いソファの上で見つめ合い、これでもかと言わんばかりに体を密着させる。 獰猛な獣のように鋭い目をしたローランドが、心地よさそうに甘い息を吐いた。 「お前に好きだとか、愛してるだとか言われたらもう、我慢ができない。 覚悟するんだな、アオイ。」 ローランドはさっと立ち上がると、そのまま私を軽々と抱えてベッドへ下ろした。 「え?あの……?ローランド?」 「アオイ。これまでずっとお前を抱きたくて我慢していたんだ。 今夜はもう……離してやらないからな。」 ローランドの目はやはり獣のようにギラギラと鋭く光っていた。 私も顔を赤くして、ローランドの激情を