ほら。ルナールからすっかり穏やかな雰囲気が消えてしまった。
合わせて周囲の一味達も殺気立ち、一斉に剣を構える。 こちらの兵二人も咄嗟に剣を構えたが、明らかに不利だった。 待機した騎兵達との距離もある。 もしこのタイミングで襲われたら私達ジ・エンドだ。「ローランド………!
いいですか?あの人は、ルナールは実は女性なんです……っ、 本当は心優しくて傷つきやすい。 だから……」この窮地を乗り切ろうと、振り向いてローランドに耳打ちする。周囲には聞こえない様に。
ローランドが引いてくれるのを期待して。「何?
お前は一体何を言ってるんだ、アデリナ。 あれはどう見ても男だ。」「いや、だから…あ〜もう!とにかく交渉がうまくいったら全部教えるから、とにかくここは大人しくしといて下さい!」
「それは無理だ。お前がこんな男に触れるのを、黙って見ている訳にはいかない。」
「な、何言ってるんですか!
私がルナールにセクハラするとでも? 心配ありませんよ、そんな事しませんから」「?いや、そうじゃなくて……」
「ふうん?噂じゃローランド王とアデリナ王妃の仲は冷え切ってると聞いていたが…実際はそうじゃないみたいだな。」
急に椅子から立ち上がったルナールが、相変わらず私を抱き締めたまま離さない、意味不明なローランドを逆に睨み付ける。
「……お前達には仲間を沢山殺されて、不満だってある。
あの土地を返して欲しいと何度訴えても耳を貸さなかった冷酷な王め。 ……だが今はその王妃サマを信じてみようじゃないか。」ふとルナールから殺気が消えた。
それに伴い周囲も暗黙の了解◇ フィシ達は城の牢獄に閉じ込めてある。 王妃殺害未遂の罪も大きいが、この世界の契約書はかなり大きな意味を持つそうで、破れば相応の罰が下されるんだとか。 だからローランドも私との離婚を渋ってるのかも? 今後どうなるか分からないが、とにかく今夜はルナールを守れたし、良しとしよう。 「今夜はルナールと一緒に寝ます。 心配しないで。」 「いや……心配しかない!! 駄目だ!アデリナ!あれは間違いなく男だ! お前は一体何を言ってるんだ! お前は私の妻だぞ!もっと自覚しろ! だめだ、アデリナ!アデリナ!!!」 頑なにルナールを男と疑うローランドが、すごい剣幕で引き止めてきたが、とりあえず部屋から追い出して鍵を閉めた。 元々私がいた寝室にはレェーヴを押し付けた。 「は〜。これだから鈍感男は。」 「アデリナ、来い。」 「?貴方のベッドはあっちよ?」 なぜかルナールが人のベッドに横たわり、嬉しそうにシーツを叩いて呼んでる。 「えー、いいだろ? だって俺達友達だろ?一緒に寝ようぜ。」 どうやら私は「友達」というワードに弱いらしい。 長く主婦をして、夫の浮気に全神経注いで辟易していたせいか、友達と何かをして楽しむという事も忘れていた様だ。 「っ、しょうがないわね〜。」 とか言いつつ自分の口角は緩みまくりだ。 そっと狭いベッドに横になる。 ただ思った以上に狭いから、どうしてもルナールに体はくっついてしまう。 「アデリナ。お前、いい匂いするな。」 「そう?軽くお風呂入ったからかな。」 すん、とルナールが人の頭の匂いを嗅ぐ。 ひゃー!やっぱり山賊として、しかも頭領として長年男装してきたルナールの男らしさは、大したものだ。 これ絶対、知らない女なら惚れちゃうやつ。 白髪に近い綺麗な髪がさらりと枕に落ち、薄い灰色の
勇ましいローランドの姿に毎回ドキドキしてしまう。 これはルナールやリジーが惚れて当たり前。 やっぱり男主人公優遇されすぎ! 「あのっ、ありがとうございます。陛下。 私を話を信じてくれて。」 汗をかき、まだ息の乱れたローランドを見上げて私は素直に礼を言った。 「…当たり前だろう。夫が妻を信じなくてどうする。」 《今夜ルナールが奇襲される》 そんな、まだ起きてもいない事をローランドはあっさりと信じ、こうして来てくれた。 私の夫、本当に完璧だなぁ。 強いし、そして何だかんだでちゃんと守ってくれてる。 いくら政略結婚とはいえ、アデリナは一応妻だし、それが義務だもんね? たまに訳分からない誘惑もするけど本当にいい男だ。 暗殺者達は皆捕えられ、フィシは即座に拘束された。 「アデリナ………」 ふとローランドが手を伸ばし何か言いかけたけど、私はルナールの服が破れてる事に気付いて大慌て。 「ルナール…!服、破れてる!」 「え?ああ、本当だ。最初の一撃の時に奴らの剣が掠ったのか」 しかも胸元だ。 この場にいるのは私以外全員男! 誰にも聞かれないようにルナールにそっと耳打ちした。 「こっちへ来て、一緒に着替えましょう。」 「え?」 「大丈夫、貴方が女だって事、私には分かってるわ。」 「………!!………ふうん。 じゃあ、お願いしようかな?」 奥にある男性用のドレスルームに連れて行こうとすると、なぜかルナールに笑われてしまう。 「?とにかく、急いで。」 「アデリナ?」 不安そうな顔してローランドが私達を引き止めた。 「大丈夫です。ちょっとルナールを着替えさせるだけですから。 陛
やばい…!男主人公かっこよ過ぎ! あの後、まさにローランドが勢い良く部屋に突入してきた。 一本に束ねた綺麗な銀髪を揺らし、私とルナールを庇う様に前に立ち、暗殺者達を次から次へと華麗に倒していった。 血とか、血とか(動揺して2回言うよね)は本当にえぐいんだけど、目の前のローランドがあまりに無敵過ぎてつい見惚れてしまう。 その後に入ってきた味方の兵達も、見事に暗殺しゃ達を倒していった。 これがクブルクの真の実力。 だからアデリナは戦争で苦労したんだよね。 ローランドは勿論だけど、クブルク兵達も強過ぎ……! 敵にしたら厄介だけど味方なら心強すぎる! 「やめ、ローランド王、こっ、これには深い訳がっ」 とか何とか、床にへたり込んで言い訳をしているフィシにローランドは剣を向けた。 怖い顔して。久々に見る氷の王! 「私の妻を殺そうとした時点で重罪だ。 フィシ。王妃暗殺未遂と契約違反により、お前には厳しい罰を与える。」 「ひいっ………!」 ローランドは、以前私によく見せていた氷の様な眼差しをフィシに向けた。 一瞬にしてその場は制圧され、兵達はまだ動ける暗殺者達を捕縛していった。 圧倒的勝利である。 「……っ、何でっ、フィシの企みが分かったんだ?」 ルナールは唖然とした様子で、私の両腕を強く握った。 ルナール。良かった。何ともなくて…… 「何で……?うーん。 まあ、直感というか何というか。」 「だとしても………!!こんな昨日、今日会った相手を守ろうと捨て身で飛び込むなんて、あんたは馬鹿なのか!」 「確かに……! でも、ほら。ローラ……じゃない、陛下を信じてたから。」
私とローランドは同じ寝室、他の兵達は別の部屋へ。 そしてルナールとレェーヴは同室。 城の灯は消え、外で吹く風が時々窓ガラスを揺らす。 静まり返った寝室。 そこに複数の人の姿が現れた。 あの卑怯なフィシが、ルナールの元に暗殺者を送り込んだのだ。 気配を感じたルナールが目を覚まし、身構えた時にはすでに武器を手にした暗殺者達にベッドを囲まれていた。 「何だ!貴様らは……!」 後から大きな足音を立て部屋に入って来たフィシは、悪役っぽい顔をして笑う。 「お前、あのソーカル族の生き残りなんだな? 私は昔からとても我儘でな。 あの王妃がくれるという金山も欲しいが、鉄が採れるあの土地も手放したくはないのだよ。 だからなあ。 お前が死ねば契約は無効だろう? だから……死ぬっ!!!」 「くっ……!このっ、卑怯者!」 「ルナール様!」 飛び起きたレェーヴも手に短剣を携えるが間に合わない。 暗殺者達が一斉にルナールに襲いかかった。 「ルナール……………!!!」 「…………っ、!?王妃っ!?」 開いた扉からフィシの後ろをすり抜け、私はルナールをギュッと抱き締め、ベッドの床下にそのまま派手にダイブした。 急に標的が視界から消え暗殺者達の動きが止まる。 「王妃……!なぜ、ここに!」 パッと明かりが灯り一同騒然となる。 「フィシ・ガドル。 誓約を破って、ルナールを亡き者にしようとしたわね! あんたは最低よ、このクズっ! 約束を破ればあの金山は二度とあんたの手には渡らないわ!本当に馬鹿な男!」 とりあえずルナールは守れたようだけど、床にダイブ
◇◇◇ 「いや、はっはっはっはっ。 まさかクブルクの王妃陛下があの鉱山の価値を見抜いて、購入していたとは驚きですな!」 ここはフィシの住む城。 城内のあらゆる場所に豪華な装飾の付いた剣や盾、絵画、調度品、宝石の付いた贅沢品などが並んでいた。金持ちアピールがひどい。 無事に交渉を成立させた私とローランドに加え、騎兵達、ルナールと側近のレェーヴなどが城に招かれ、派手な宴会が行われていた。 やはりフィシは金に飛びついた。 使いの者を送りあの鉱山を調べさせ、すぐに契約書を交わすと言い出した。 〜契約書 “フィシ・ガドルはメレフ一帯を手放す代わりに、アデリナ・フリーデル・クブルクからあの鉱山を貰い受ける。 そして今後一切、メレフ一帯の土地とルナール達には手を出さない。 一方のルナールは、メレフ一帯に戻る代わりに今後一切の略奪・破壊行為を行わない。 どちらもその約束を破れば厳しく罰する” (乙) ルナール フィシ・ガドル (甲) アデリナ・フリーデル・クブルク〜 目標達成……! これで無事、ルナールに故郷を渡せるし、ローランドの悩みも解決! 本当はこの、おデブでいかにも悪役貴族って感じのフィシにあの金山を譲るのは勿体無い気もするけど。 しかも終始ルナールはフィシを睨みつけていた。 それも当たり前だ。だってルナールのソーカル一族はこの男によって滅ぼされたのだから。 しかも確か騙し討ち同然というエピソードだった。 本当に最低な男! 今は金山を手に入れられるとウキウキしているけど、すぐに裏切りそうなゲス感が満載だ。 警戒しておこう。 あれからローランドはずっとムスッとしたままフィシの隣の席で酒を飲んでいる。 なのに、その横にいる私を時々何か言いた気にジッと見たりする。 何で怒ってんの? そして何でチラチラ見てんの? 全
「何?お前があのローランド王だと?」 ほら。ルナールからすっかり穏やかな雰囲気が消えてしまった。 合わせて周囲の一味達も殺気立ち、一斉に剣を構える。 こちらの兵二人も咄嗟に剣を構えたが、明らかに不利だった。 待機した騎兵達との距離もある。 もしこのタイミングで襲われたら私達ジ・エンドだ。 「ローランド………! いいですか?あの人は、ルナールは実は女性なんです……っ、 本当は心優しくて傷つきやすい。 だから……」 この窮地を乗り切ろうと、振り向いてローランドに耳打ちする。周囲には聞こえない様に。 ローランドが引いてくれるのを期待して。 「何? お前は一体何を言ってるんだ、アデリナ。 あれはどう見ても男だ。」 「いや、だから…あ〜もう!とにかく交渉がうまくいったら全部教えるから、とにかくここは大人しくしといて下さい!」 「それは無理だ。お前がこんな男に触れるのを、黙って見ている訳にはいかない。」 「な、何言ってるんですか! 私がルナールにセクハラするとでも? 心配ありませんよ、そんな事しませんから」 「?いや、そうじゃなくて……」 「ふうん?噂じゃローランド王とアデリナ王妃の仲は冷え切ってると聞いていたが…実際はそうじゃないみたいだな。」 急に椅子から立ち上がったルナールが、相変わらず私を抱き締めたまま離さない、意味不明なローランドを逆に睨み付ける。 「……お前達には仲間を沢山殺されて、不満だってある。 あの土地を返して欲しいと何度訴えても耳を貸さなかった冷酷な王め。 ……だが今はその王妃サマを信じてみようじゃないか。」 ふとルナールから殺気が消えた。 それに伴い周囲も暗黙の了解