愛の行方〜天才外科医の華麗なる転身〜

愛の行方〜天才外科医の華麗なる転身〜

last updateDernière mise à jour : 2026-01-17
Par:  東雲桃矢Complété
Langue: Japanese
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東京の大病院で働く明里は、苦労の末にずっと想いを寄せていた不動産会社の社長、月ノ宮成也と結婚する。 だが、夢見ていた幸せな結婚生活とは程遠い日々を過ごす。 そんな中、妊娠が発覚。これで夫との関係も良好になると思って帰宅すると、成也は別の女性といて……。

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Chapitre 1

1話

「おめでとうございます。ご懐妊です」

 眼の前に座る女医は、心の底から祝福するように、明里に優しい笑みを浮かべた。「ご懐妊」の意味を理解するのに数秒かかり、幸せがじわじわと湧き水のように込み上げてくる。

「本当ですか……!?」

「はい。見てください。これがあなたの赤ちゃんですよ」

 女医は腹部エコーでモニターに映った小さな命を指差す。まだ人らしい形はしていないが、小さなそれは確かに動いている。そう、自分の中で。

 まだ形すらなしていない我が子に、愛しさで胸がいっぱいになる。これが母性。私は母親になるのだと、明里は幸せを噛みしめる。

「次の検査は来週ですね。なにかあったらすぐに電話してください」

「はい、ありがとうございます」

「あとで旦那さんと一緒にいらしてくださいね。それと、安定期はまだ先ですので、安静に」

「はい」

 明里は女医に何度も頭を下げ、熱くなる目頭を押さえて診察室から出ると、待合室へ行く。幸い受付前の席が空いていたのでそこに座ると、お腹を擦った。自然と口角が上がっていく。

(もしかしたら、この子がきっかけで、成也さんとうまくいくかも……)

 頭では可能性の話だと思っていても、気持ち的には100%うまくいくと思い込む。

 明里は外科医として働いており、不動産会社の社長である月ノ宮成也と結婚している。交際期間は幸せそのものだったが、結婚して家に入ると、地獄が待ち受けていた。

 釣った魚に餌はやらないと言わんばかりに、冷たい態度の夫。女なのに外科医の明里が気に食わない義両親。そして夫の生命の恩人でもあるという、幼馴染の榎本ミア。

 成也の実家はこの4人で完成しているように感じて、明里の居場所はどこにもなかった。特に、花瓶事件が置きてからは……。

 頻繁に月ノ宮家に出入りしているミアが、花瓶を運んでいる明里を背後から押して怪我をさせた。すぐに駆け寄った義母に説明しようとしたが、ミアが大声で喚いて邪魔をしたのだ。その上、明里がわざと花瓶を割ったと嘘をついた。

 花瓶は義母のお気に入り。義母は明里が真実を訴えても聞く耳を持たずに、ミアの言葉だけを信じた。それから月ノ宮家では「明里はミアに濡れ衣を着せようとした最低女」と認識され、ずっと冷たい態度を取られてきた。

(でも、それも今日でおしまい)

 ドキドキしながら家のドアを開けると、信じがたい光景が広がっていた。玄関で成也とミアがキスをしていたのだ。それも、ミアが明里の服とエプロンを身に着けて。

「あらぁ、帰ってきたの?」

「何、してるの……。その服は、私の……」

「違うわ。月ノ宮家の嫁の服よ」

 外出準備を済ませた義母が、会話に割って入る。彼女は明里をてっぺんから爪先まで舐め回すように見ると、鼻で笑う。

「仕事してる女って、色気も可愛げもなくていやね。ねぇ、ミアちゃん」

「本当ね。仕事が恋人の女って、負け組よねぇ」

「まったくだわ。それじゃ、ミアちゃん。あとはよろしくね」

 義母はミアに笑いかけ、明里を押しのけて家を出た。

「成也さん、あなたは私と結婚してるんでしょ? なんでそんなことを……」

「戸籍上なんて、無意味な話はよすんだ」

 成也はうんざりしたような顔をして、ため息をつく。その顔には、面倒事を起こすなと書いてあるような気がして、明里の気持ちはどんどん暗くなっていく。

(前はこんな人じゃなかったのに)

 うつむき、昔のことを思い出す。

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YOKO
YOKO
で出しからムカつき嫌悪する。ゴミ屑旦那と愛人とその富豪家族に。プンプン!
2026-01-31 15:33:06
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1話
「おめでとうございます。ご懐妊です」 眼の前に座る女医は、心の底から祝福するように、明里に優しい笑みを浮かべた。「ご懐妊」の意味を理解するのに数秒かかり、幸せがじわじわと湧き水のように込み上げてくる。「本当ですか……!?」「はい。見てください。これがあなたの赤ちゃんですよ」 女医は腹部エコーでモニターに映った小さな命を指差す。まだ人らしい形はしていないが、小さなそれは確かに動いている。そう、自分の中で。 まだ形すらなしていない我が子に、愛しさで胸がいっぱいになる。これが母性。私は母親になるのだと、明里は幸せを噛みしめる。「次の検査は来週ですね。なにかあったらすぐに電話してください」「はい、ありがとうございます」「あとで旦那さんと一緒にいらしてくださいね。それと、安定期はまだ先ですので、安静に」「はい」 明里は女医に何度も頭を下げ、熱くなる目頭を押さえて診察室から出ると、待合室へ行く。幸い受付前の席が空いていたのでそこに座ると、お腹を擦った。自然と口角が上がっていく。(もしかしたら、この子がきっかけで、成也さんとうまくいくかも……) 頭では可能性の話だと思っていても、気持ち的には100%うまくいくと思い込む。 明里は外科医として働いており、不動産会社の社長である月ノ宮成也と結婚している。交際期間は幸せそのものだったが、結婚して家に入ると、地獄が待ち受けていた。 釣った魚に餌はやらないと言わんばかりに、冷たい態度の夫。女なのに外科医の明里が気に食わない義両親。そして夫の生命の恩人でもあるという、幼馴染の榎本ミア。 成也の実家はこの4人で完成しているように感じて、明里の居場所はどこにもなかった。特に、花瓶事件が置きてからは……。 頻繁に月ノ宮家に出入りしているミアが、花瓶を運んでいる明里を背後から押して怪我をさせた。すぐに駆け寄った義母に説明しようとしたが、ミアが大声で喚いて邪魔をしたのだ。その上、明里がわざと花瓶を割ったと嘘をついた。 花瓶は義母のお気に入り。義母は明里が真実を訴えても聞く耳を持たずに、ミアの言葉だけを信じた。それから月ノ宮家では「明里はミアに濡れ衣を着せようとした最低女」と認識され、ずっと冷たい態度を取られてきた。(でも、それも今日でおしまい) ドキドキしながら家のドアを開けると、信じがたい光景が広がっていた。玄
last updateDernière mise à jour : 2025-12-27
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2話
 高校の頃、明里はひとりぼっちだった。元々友達は多くなく、学年カーストでは下の方で、目立たない地味な生徒なりに学校生活を謳歌していた。 だが、学年カースト上位の女子の財布がなくなり、穏やかな日常が壊された。あろうことか、親友と思っていた子に売られたのだ。「明里が盗んだのを見た」 親友は明里のカバンをひっくり返し、女子の財布を見つけると、皆に見えるように掲げた後、女子に財布を返す。「ダメだよ。叔父さんに何も買ってもらえないからって、人の財布を盗んじゃ」 それから親友は、デタラメを周囲に吹き込んだ。「明里は叔父さんと暮らしてるの。体を売ったり、バイトをしたりして生活費を家に入れてるから、頭がおかしくなっちゃったのね。可哀想な子なの。許してあげて」 この嘘を信じ込んだ周囲は、親友を優しくて勇気がある子、明里を金のためになんでもするアバズレと認識し、明里をターゲットにいじめが起こった。 明里がいじめられる度に親友がかばい、親友の株が上がる。馬鹿らしい茶番劇が毎日のように繰り返された。 そんな日々に終止符を打ったのが、隣のクラスの成也だった。休み時間、いつものように後ろ手に縛られ、蹴られている明里の前に立つと、ある音声を流した。『明里っていい子ぶっててムカつくんだよね。財布盗んだのは私なんだけど、誰も気付かないの。私はカースト上位に行けたし、明里は惨めな毎日を送ってるし、ホント最高』 それは親友の声だ。「どうしてそんなものを?」「お前と同じクラスに、友達がいてさ。そいつから話聞いておかしいと思ったんだ。お前みたいな真面目ちゃんが、そんなことするわけないって」「私、あなたと接点なんてないはずだけど……」 成也は顔も整っているし、実家が太い。学校ではちょっとした有名人だ。そんな彼と明里に、接点などほとんどない。廊下をすれ違ったって、会話どころか、挨拶することすらないほどに。「図書委員やってるだろ? 俺、よく図書室に行くから見かけるんだよ。真面目でいい子だなって、ずっと見てた。うちのクラスの奴がいけなくなった時、率先して出てくれたこともあったよな」 明里の目から、涙が零れてくる。今まで誰も自分を見てくれないと思っていた。まさか隣のクラスに、こんなに見てくれてた人がいるだなんて、思ってもみなかった。「俺さ、あーいう曲がった奴嫌いなんだよね。またな
last updateDernière mise à jour : 2025-12-27
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3話
 明里はデパートで必要最低限のものを買うと、そのままカフェで休むついでに、病院近くのホテルを予約する。糖分を接種して、イライラが収まりつつあるタイミングで、電話が鳴った。「もう、誰なの……」 スマホをカバンから取り出し、ディスプレイに表示された名前を見て、げんなりする。 篠崎茂樹。今は亡き母の弟で、明里の養父だ。母が生きていた頃は優しかったが、母が亡くなると本性を現し、冷たく当たるようになった。それだけでは飽き足らず、明里に残された母の遺産にまで手を付けようとした。幸い、手続きをしている間に明里が成人したため、酒や煙草になることはなく、無事医大に通うことができた。 医大を卒業した後に手切れ金として100万円を渡して縁切りを試みたが、未だにこうしてしつこく連絡してくる。「もしもし?」 カフェを出ると、不機嫌が声に滲まないように努力しながら、電話に出る。「おい、どこにいる? いや、それはどうでもいいか。金をよこせ」 横暴なかつての養父に、心底呆れ返る。断ると病院に来てまで暴れかねないから厄介だ。「それとお前、せっかく月ノ宮家に嫁いだってのに、何してくれてるんだ」「なんのこと?」「とぼけるなよ、ドブス。お前、旦那の女叩いたんだって? お前みたいなの、結婚してもらえただけありがたいだろうが。養ってもらってるんだから、感謝しろ」 茂樹の横暴な言動と態度はいつものことだが、こればかりは言い返さなくては気がすまない。「あのひとは浮気したの。それに、私は」「うるせぇ!」 茂樹は声を荒げ、明里の言葉を強制的に止める。これはいつものことだ。怒鳴られると、明里は何も言えなくなる。茂樹はそれを分かっていて、気に入らないと声を荒げた。「来週、パーティーがあるらしい。お前も参加して、お嬢さんに謝って来い。俺がクビになったらお前のせいだからな」 茂樹は言いたいことだけ言うと、電話を切った。 明里はため息をつくと、カフェに戻る。 パーティーには出たくないが、出ないと茂樹に何をされるか分からない。 運命とは奇妙なもので、茂樹は成也が社長を務める不動産会社で働いている。明里が社長と結婚したと分かると、これみよがしにごますりをし、役員に上り詰めた。だからこそ、茂樹は明里が成也の機嫌を損ねるのを良しとせず、理不尽なことを強要するのだ。 たとえ向こうが悪くとも、彼
last updateDernière mise à jour : 2025-12-27
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4話
 成也を探していると、義母に捕まってしまった。「何をグズグズしてるの、使えない嫁ね」 腕を引かれ、連れてこられた先には数人のマダムがいる。義母同様厚化粧で、性格の悪さが滲み出ている。「皆さん、見てくださる? これがうちの財産を目当てに、成也と結婚したアバズレよ。女のくせに、いっちょ前に医者になんかなっちゃって」「あら、やだわ」「地味で陰気臭い女ね」「ミアちゃんのほうが成也くんとお似合いなのにね」「おでこに傷があって、気持ち悪い」 マダム達は品定めをするように明里を見ると、クスクス笑う。言い返したいが、そんなことをしても味方はいない。もっと惨めになるだけだ。 黙ってこらえていると、マダム達はつまらないのか、鼻で笑い、どこか行けとジェスチャーをする。「まともに挨拶もできないんだから、この女。ごめんなさいね、皆さん。ほら、あなたはさっさとミアちゃんに謝ってきなさい」 義母は明里の背中を押す。危うく転びそうになったが、なんとかこらえてお腹を守る。(ヒールなんて履いてこなくてよかった……) 明里はミアを探しに行く。本当は謝罪などしたくないが、しなければ茂樹に何をされるのか分かったものではない。「やっと来たか」 ワイングラスを片手に持つ茂樹は、明里を見つけると腕を引っ張り、壁際に連れて行く。すでに出来上がっており、酒臭い。「金は持ってきただろうな?」「もう充分でしょ。これで最後にして」 明里は小声で言い、数十万円が入った封筒を手渡す。茂樹はひったくるように封筒を取り、中身を確認すると内ポケットに大事にしまいこんだ。「生意気言うな。なんのためにお前を育ててやったと思ってる? 死ぬまで孝行しろ」 何故姉の娘である自分に、こうも横暴でいられるのだろう? 茂樹と顔を合わせる度に、疑問に思う。だが、この疑問も無意味だ。きっと茂樹が理不尽で金に汚い男だからだろう。「お嬢さん達は向こうにいる。さっさと土下座してこい」 茂樹が指差す先には、成也とミアがいる。ミアは露出度の高いドレスを着て、寄せた胸を押し付けるように、成也の腕にしがみついていた。 ミアは明里に気づくと、成也になにか声をかけ、近づいてくる。「よく来れたわね」 ミアは意地悪な笑みを浮かべる。茂樹はもういない。きっと酒をおかわりしに言ったのだろう。「仕方なくよ」「愛されてない女
last updateDernière mise à jour : 2025-12-27
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5話
「赤ちゃんは無事ですよ。けど、不安定な状態です」 声がする方を見ると、産婦人科の担当女医が、深刻そうに顔をしかめていた。「無理しないでくださいよ、先輩。先輩が運ばれてきたって聞いた時、生きた心地がしませんでしたよ」 担当女医、もとい、医大時代の後輩でもある春香は、明里の手を握る。「ごめんなさい……」「謝ることはありませんよ。けど、本当に安静にしてくださいね? 危ない状況でしたよ。お母さんの精神不安は、お腹の子にも伝わるんですから」「そうね、気をつける」 春香の言葉を聞き、明里は離婚を決意した。このまま成也と……、正確には、あの家にいたら、この子は確実に死んでしまう。 特にミアは、明里が成也の子を宿したと知れば、何をしてくるか分からない。あの手この手でこの子を殺しに来るに違いない。そんなこと、させるわけにはいかない。この子は明里にとって希望なのだから。 数日後、退院した明里は市役所へ行き、離婚届に記入すると、あの家に戻った。 義両親はいないが、成也とミアがリビングでイチャついている。膝の上にミアを乗せて、お菓子を分け合いながら映画を流している。映画鑑賞をする予定だったのだろうが、イチャつくのに夢中で、映画などほとんど見ていなければ、明里が帰宅したことにも気づいていない。 明里がテレビを消して、やっと彼女の存在に気づいた。「帰ったのか」「仮病にしては長い入院だったね。そっちのほうが心配してもらえると思ったの?」 ミアはニヤニヤしながら明里を見上げる。この顔を見るのも今日で最後だと思えば、この程度の嫌味、なんてことない。「成也さんと大事な話があるの。席を外してくださる?」「はぁ? なんであんたなんかに命令されなきゃいけないの?」「ミア、すぐに終わらせるから、俺の部屋で待っててくれ」「成也がそう言うなら……。この女になにかされたら、すぐに呼んでね」 ミアは見せつけるように成也の頬にキスをすると、明里を鼻で笑い、リビングから出ていく。「まぁ、座れよ。退院して疲れてるだろ」 成也は座り直すと、テーブルの上にあるゴミを横に寄せながら言う。(そんな薄っぺらい気遣い、いらない) 明里はソファに座らず、離婚届とボールペンを成也の前に置いた。「離婚して。財産分与も、慰謝料もいらない」 成也は目を丸くしたが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべ、
last updateDernière mise à jour : 2025-12-27
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6話
 1歩あの家から離れる度に思い出すのは、優しかった成也との思い出。「ずっと大事にするから」「誕生日おめでとう。君を産んでくれた両親に、心から感謝してるよ」「結婚しよう。俺達なら、きっといい夫婦になれる」 今となっては、すべて嘘っぱちの言葉。分かっていても、幸せだった記憶が引き留めようとする。「馬鹿だな、私」 立ち止まり、ため息をつくのと同時に、何者かが後ろから明里に抱きついた。驚きのあまり、声も出ない。「へへ、捨てられたんだろ? 俺が慰めてやるよ」「い、いや!」 男の手が明里の体を這いずり回る。 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い! 必死に身を捩るが、男は離れない。むしろ更に強く抱きつき、明里の耳を舐める。「ひっ!」「へへ、たまんねぇな。もっと聞かせろよ」 男の手が、ブラウスのボタンに伸びる。「や、やめて……!」「なにしとんのや!」 ドスの利いた低い声が聞こえるのと同時に、男が引き剥がされる。茶髪の美丈夫が、男を投げ飛ばしていた。「恥を知れ」 美丈夫は伸びてる男に吐き捨てるように言うと、明里に駆け寄り、抱き起こしてくれた。「大丈夫か、明里」 美丈夫のぬくもりに安堵して気が抜け、意識を手放す……。 明里は夢を見ていた。成也がまだ優しかった頃の夢を。 遊園地に行ったことがないという明里を、遊園地に連れていき、たくさんはしゃいだ。懐かしい記憶。「子供ができたら、また来よう」 将来をほのめかすような言葉に、胸が熱くなったものだ。「ん……」 目を覚ますと知らない部屋にいた。高級な調度品が並ぶ部屋には、生活感が感じられない。どこかのホテルだろうと推測する。 上体を起こして見回すと、自分がベッドに寝ていることに気づく。服はシルクのパジャマになっていた。「いったい、誰が……」 困惑しているとドアが開き、若い女性が入ってくる。女性は明里を見ると、目を丸くし、それから嬉しそうに笑う。「旦那様、明里さんが目を覚ましましたよ!」 女性は大声で叫びながら、部屋から出ていく。「だ、誰……?」 残された明里は、ぽかんとドアを見ることしかできない。 ドアは再びすぐに開かれ、先程の女性と美丈夫が入ってくる。さっき助けてくれた人だと気づくと、明里はベッドから出ようとする。「ゆっくりしとって」 美丈夫は関西訛りで、人懐っこい笑みを浮
last updateDernière mise à jour : 2025-12-27
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7話
「あ、兄……!?」「ちなみにこの子は、うちの使用人の花蓮ちゃんや。君を着替えさせたのはこの子やから、安心してな」「よろしくお願いします」 涼に紹介された花蓮は嬉しそうにぺこりと一礼すると、にこにこしながらベッドの横にある椅子に座る。涼も椅子に座ると、明里の額に触れる。「あ、あの、状況がよく分からないのですが……」「あはは、やっと妹見つけられたのが嬉しくて、説明すっかり忘れとったわ」「しっかりしてくださいよ、旦那様」 涼と花蓮は笑い合う。明里からすれば、このふたりが兄妹だと言われたほうがしっくり来る。「話長なるけど、ちゃんと聞いてな。聞くも涙、語るも涙のお話を。あ、花蓮ちゃん。なんか飲みモン持ってきてくれる?」「はーい」 花蓮はベッド横に置いてある冷蔵庫からお茶を2本出し、ふたりの前に置く。「いやそこにあったんかい!」「あっはっはー、ありましたー」 ふたりはひとしきり笑い合い、花蓮が席を外すと、涼は真顔になって明里に向き合う。先程のおちゃらけた雰囲気は微塵もない。「どこから話そかな……。まず、神宮寺の説明軽くしよか。神宮寺は関西1の不動産会社でな。特に親父の代からは業績もようなってん。それは俺等のおふくろの支えあってこそなんやけどな」「あの、本当に私のことなんですか? そんな話、母からされたことありませんし……」「君のお母さんはみどりさん。君は明里ちゃん。そうやろ?」 母の名前を当てられて、言葉を失う。この男は確かに母と目元が似ている。だが、信じられない。「まぁ最後まで聞いとってや。親父は調子に乗って、浮気をするようになってな。で、お袋が邪魔になったわけ。しかも、お腹には明里ちゃんがおる。女の子って判明して、余計邪魔になったんや。女の子は嫁ぐしかできひんって。せやから、大学も行けるくらいの慰謝料を口止め料としてお袋に押し付けて、追い出したっちゅーわけや。ひどい話やろ?」「はぁ……。あの、なんで今になって私を探し出したんですか?」「親父も歳やから、遺産を分けたりなんだりする準備しとったんや。それで近辺調査してみたらびっくり。お袋は追い出されてた上に、妹がおることまで発覚してん。親父は認めへんかったし、探すことも許してくれへんかった。ま、ずっと寝たきりでなーんにもできひんから、勝手に探しとったわけやけど」 涼はなははと笑い、お茶
last updateDernière mise à jour : 2025-12-28
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8話
「分かりました……」「ん、ええ子」 大きな手で撫でられ、安堵する。こんな安心感を得られたのは、何年ぶりだろう?「さてと、話したいことはまだぎょうさんあるけど、明里はまだ起きたばっかやしな。話は明日にでもしよか。せや、お腹空いてへん?」 口で答える前に、お腹が情けなく鳴いた。「あ……」「なはは、減っとるみたいやな。ほな、一緒に食べ行こか。っと、その前に着替えやな。クローゼットにさらぴんの服があるさかい、それ着てな。着とったやつは破けてもうたからな。勝手に捨てるの悪いから一応取っといてあるんやけど、どないする?」 何を着ていたのかは思い出せないが、きっと思い入れがあるような服ではないだろう。なんせ、何をするか分からない人達の元へ会いに行くために着ていた服なのだから。「処分していただけますか」「ほな、花蓮ちゃんに頼んどくわ。シャワールームは向こうにあるさかい、汗流したかったら、浴びてきてええよ。それとも、ゆっくり湯船に浸かりたい?」「いえ、大丈夫です」「そう? 遠慮せんで、ゆっくりしてきてな」 涼は明里の頭をわしゃわしゃ撫でると、隣室へ消えていった。隣室からは、涼と花蓮の楽しげな話し声が聞こえてくる。「汗、流さないと……」 クローゼットを開けると、高級ブランドの紙袋がふたつ入っていた。それぞれ違うブランドで、片方は下着メーカーだ。中を見てみると、ご丁寧にタグが切ってある。明里は着替えを紙袋から出して、シャワールームへ向かう。 湯船はあるものの、小さめであまり入る気はしなかった。明里はシャワーから水を出して適温のお湯にすると、髪を洗いながら状況を整理する。(あの人は、生き別れの兄……。母は関西にいたことがあって、関西のお金持ちと結婚してて、不倫されて追い出されて……) そこまでまとめたところで、小さく笑った。それが苦笑なのか自嘲なのか、はたまた別物なのか、自分でも分からない。 ただ、不幸な結婚をしたのも母親譲りなのかと思うと、笑いが込み上げてきた。きっと疲れているのだろう。 髪を乾かし、着替えを済ませて彼らの元へ行くと、ふたりは目を輝かせ、明里を見る。「おぉ、流石俺の妹や。めっちゃかわええ。よう似合うとる」「うんうん、やっぱり知的な女性には、紺色が似合いますね」「あの、えっと……」 ここまでべた褒めされるのも久しい。それも、よ
last updateDernière mise à jour : 2025-12-28
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9話
 連れてこられたのは、高級料亭。それも、3人では広すぎるような個室だ。結局何が食べたいか思いつかず、脂っこくないものと言ったら、料亭に連れてこられたというわけだ。「ほな、生き別れ兄妹の再会に、乾杯」 3人でお猪口で乾杯する。明里は湯呑みで煎茶だが。「あの……」「ん?」「私まだ、状況が把握できてなくて」「なはは、せやろなぁ。俺が君の立場でも、そうなる思うわ。いきなり胡散臭い関西人が兄ですなんて、納得も理解もしきれんって。念の為に、あとでDNA鑑定しよか。そっちのほうが、明里も納得するやろ?」「えぇ、まぁ……」「悪いけど、君のことは調べさせてもらったわ」「調べるって……?」 不安が顔に出ていたのか、涼は慌てて顔の前で手を振って否定する。「あー、変な意味ちゃうで? ほら、俺は男で明里は女の子やん? 万が一、お互い知らずに交際とかしとったらまずいやろ? メインはそういう間違いがないように、やったんやけど……」 涼が言葉を切り、目線を泳がせると、何故か花蓮がハンカチで目元を覆った。「お嬢様、ご苦労が多くて可哀想……」「え……?」「元々会いに行くつもりではおったんや。けど、助けが必要な状況やったら、急いで駆けつけよう思うて、身辺調査もさせてもらったんや。外科医として優秀。やのに、恩着せがましい養父に、浮気をする夫。そして浮気を公認するどころか、君に強く当たる義両親……。こんなん、放っておけへん。で、急いで駆けつけたら、悪漢に襲われとるし……。ほんま、間に合ってよかったわ」「そう、でしたか……」「奇しくも、君の夫はライバル会社やしなぁ……」 苦虫を噛み潰したような顔をした涼を見て、成也も不動産会社の社長だったことを思い出した。そう、“思い出した〟のだ。それだけ希薄な夫婦生活だったのだと改めて実感する。「ま、そのへんはどうでもええわ。今は明里が最優先や。ちょっと外出するには大荷物やったけど、どこか行こうとしてたん?」「私、離婚したんです」 明里の言葉に、ふたりは目を見開く。いくら調べてたとはいえ、把握してなかったのだろう。当然だ、再会する約10分前に離婚届にサインをしてもらったのだから。「離婚したというか、離婚届を書いてもらって、宿泊予定のホテルに向かってる最中でした」「じゃあ、行き先に困ってたん?」「困ってたというか、しばらくウィ
last updateDernière mise à jour : 2025-12-28
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10話
「はい、子供がいます。妊娠2ヶ月です」「旦那さんは知っとるん?」「いえ……。色々あって、言えるような状況じゃなくて……。ないでしょうが、もし機会があっても、言うつもりはありません」「さよか。尊重するわ。そんなら、知り合いの不動産屋に話通して、病院近くの物件、用意したる。今は赤ちゃんに専念して、落ち着いたらまた考えてくれたらええ」「ありがとうございます」「ええって。これも親父の代わりの罪滅ぼしや。にしても、嬉しいなぁ。妹に再会出来ただけでも万々歳やのに、姪っ子か甥っ子もできるなんて、俺は幸せ者や」 噛みしめるように言う涼にも、その隣でしみじみ頷いている花蓮にも、愛着が湧いてきた。彼らとの生活は、きっと楽しいものになるだろう。「花蓮ちゃん、君も関東に残ってくれへん? 明里のサポートしたってや」「もちろんです!」「え?」「隣同士の部屋借りとくさかい、困りごとがあったら、花蓮ちゃんに頼ってや。つわりとか大変やろし」「家事は得意なので、任せてください」 花蓮は力強く自分の胸を叩く。力が強すぎたのか、軽くむせる。それがおかしくて、明里は笑った。「はい、ありがとうございます」「ん、素直でええ子。困りごとがあったら、すぐに頼り。なんでも力になったる」 涼は明里の手を力強く握る。自分はひとりじゃないと実感し、気が抜ける。「ありがとう、兄さん」 心の底から、兄と呼べた瞬間だった。 涼は仕事がはやく、翌日の午後には、新居に引っ越せた。角部屋で家具付き。隣の部屋は花蓮だから、ご近所トラブルもないだろう。「俺は帰るけど、時々遊びに来るからな。なんかあったら、すぐに連絡するんやで?」「分かってますって」 過保護な兄に苦笑しながら、花蓮と見送る。 涼と花蓮のサポートは手厚く、明里は出産するまで、安心してマンションで過ごせた。涼は最低でもひと月に1回は顔を見せ、妊婦でも食べやすいものを買ってきてくれるし、毎回手を握ったり、頭を撫でたりして、安心させてくれた。 花蓮は1日に1回は顔を見に来て、つわりで動けない時は代わりに家事をして、においつわりでも食べられるものを調べて提供したり、洗剤を無香料のものに買い替えてくれたりした。 不安になってすすり泣いていれば、夜でも駆けつけ、抱きしめてくれた。 おかげで荒んだ結婚生活でボロボロになっていた身も心も回復
last updateDernière mise à jour : 2025-12-28
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