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第3話

Author: ムギちゃん
車内の空気は灼けるように熱く、和沙の一呼吸ごとに、まるで焼けた砂利を喉に流し込んでいるようだった。

「助けて……」

彼女は必死に窓を叩く。

閉ざされた車内は蒸し風呂のように、温度がどんどん上がっていく。

高熱で意識はぐらぐらと揺れ、息苦しさは限界を越えようとしていた。目の前の景色がぼやけていく。

彼女は窓を割るために、手探りで何か硬いものを探した。

指先に触れたのは、心美が後部座席に投げ捨てた「永遠に離れない」置物だった。

一瞬、手が止まる。次の瞬間、震える腕でそれを振り上げ、全力で窓に叩きつけた。

ガン、ガン、と鈍い音が車内に響く。

ようやく、窓に小さなヒビが入った。

その衝撃で、置物もひび割れ始めた。

鋭利な破片が手のひらに突き刺さり、血が滲み出した。

彼女はもう痛みなど感じなかった。歯を食いしばり、ひたすら叩き続ける。

そして澄んだ破裂音とともに、人形は完全に壊れ、車の窓ガラスも蜘蛛の巣のようにひび割れた。

残された力を振り絞り、彼女は肘で窓に体当たりした。

ガシャッ

ガラスが割れ、外の空気が一気に流れ込んでくる。一瞬、意識がはっきりした。

和沙は手足を使い、惨めな姿で狭い窓の破れ口から這い出し、地面に転がり落ちた。

全身はすでに冷や汗でびしょ濡れ。彼女は激しい息遣いで、よろめきながら立ち上がる。

高熱と窒息感で全身の力が抜け、足元は綿のようにふらついていた。

焼けるように熱い車体に手をついて、彼女はふらつきながら歩き始めた。

だが数歩進んだところで、視界が大きく揺らぎ、真っ暗になった。

意識の最後、遠くで救急車のサイレンが聞こえたような気がした。

意識が光と闇のあわいを漂う。

耳元で、誰かの焦った声がかすかに聞こえる。

「……体温が異常に高い。熱中症による高熱性けいれん、呼吸と循環に異常あり。緊急です。

ご家族の方は?署名が必要です。

お嬢さん、聞こえますか?ご家族の連絡先を教えてください」

朦朧とした中、乾いた唇がかすかに動いた。つい、ひとつの電話番号を無意識に呟いた。

「宗太……」

再び目を開けたとき、見えたのは真っ白な天井だった。そしてその視界の中に、うっすらと無精髭が浮かんだ、憔悴した宗太の顔が現れた。

彼は和沙が目を覚ましたのを見るや否や、安堵と喜びが入り混じった目で、彼女を抱きしめようと手を伸ばした。

「和沙、目が覚めたか?」

反射的に、彼女は顔をそむけ、彼の手を避けた。

宗太の手が空中で硬直し、心配そうな表情も一瞬で凍りついた。

慌てて、謝罪の言葉が飛び出した。

「ごめん、和沙、本当にごめん……

一日中眠ってて、もう二度とこんな怖い思いさせないでくれ」

宗太は潤んだ目で彼女を見つめ、声もわずかに震えていた。

「全部、俺のせいだ……心美の犬が動物病院で驚いて、裏口から逃げちゃって……

パニックになって探しに行って……いつドアがロックされたのか、本当に気づかなかったんだ……」

彼女は無表情のまま、その言い訳を聞いていた。

「そう、心美の犬を探している間に、私はあなたの車の中で死にかけてた」

彼女の白くなった顔と、包帯で厚く覆われた手のひらを見て、宗太の胸が締めつけられる。

「本当にごめん、全部俺が悪い」

彼は彼女のもう片方の手をしっかり握りしめた。

「もう二度とこんなことしない。絶対に君を傷つけたりしない」

だが和沙は黙ってその手を引きはがした。

その冷たい拒絶に、宗太の表情には痛みと罪悪感が浮かぶ。

何かを思い出したように、彼はポケットからジュエリーボックスを取り出した。

中には、二つの人形が寄り添うデザインのネックレスが入っていた。

「君がくれた置物、壊れちゃったから」

彼は少し気まずそうに、でもどこか期待を込めて言った。

「新しいのを用意したんだ。俺たち、また永遠に一緒でいよう?」

彼女の首にかけようとしたその時、彼のスマホの着信音が鳴った。

表示された名前は、心美だった。

宗太の手が止まり、一瞬目をそらす。動揺した視線が和沙へと向けられた。

結局、彼はネックレスを彼女の手にそっと渡し、立ち上がって電話を取りに行こうとした。

病室のドアまで来たところで、彼は振り返った。まるで弁解するように、慌てて口を開いた。

「和沙、分かってるだろ?俺たちの関係、まだ公にできないんだ。だから、あいつとは……もう少しだけ、芝居を続けないといけない。

ちゃんと戻ってくるから、いい子で待っててくれ」

そう言って、足早に病室を後にした。

閉まったドアを見つめながら、和沙は口元に、どこか虚ろな笑みを浮かべた。

そう、芝居。

彼女、和沙は、宗太が世界に見せるための芝居に使っている、ただの道具にすぎなかった。

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