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第2話

ผู้เขียน: やまいま
私は廊下をまっすぐ進み、特別診療室の前で足を止める。

扉は半開きだった。

中では若樹が医師と声を潜めて話をしている。

尚美は隣のソファにもたれ、栄養ゼリーを口に運んでいた。

医師の机の上には、私のカルテが広げられている。

「この患者さんの胃切除後のデータは非常に参考になります。この数値をもとにすれば、尚美さん専用の胃のケアプログラムを組むことができます」

若樹は静かにうなずき、尚美の髪を優しく撫でる。

「聞いただろ?これから胃の調子が悪くなったら、我慢しないでここへ来ればいい」

尚美は甘えるように彼の肩へ寄りかかり、小さなケーキを一口かじる。

机の上に広げられたカルテには私の血液型、胃の切除範囲、術後の合併症まで細かく記録されている。

どの文字も、私が命を削って残した記録だった。

それが今では、他人のための参考資料として扱われている。

診療室を出た若樹は、私の姿に気づく。

驚いた様子もなく歩み寄り、そのまま自然に私の肩を抱く。

「清?どうしてここに?ちょうどよかった。尚美は胃腸が弱いだろ。先生が、清のカルテを参考にすれば……」

「私のカルテを、あの人に渡したのね」

私は彼の言葉を遮る。

若樹は私を見下ろし、困ったように笑う。「データを借りただけだよ。返さないわけじゃない。清、そんなことで怒るな」

私は何も答えなかった。

家へ戻ると、私はスマホを開く。三日後の片道航空券を予約する。

行き先は指定しない。システムが自動で決めた場所へ行く、それだけだ。

予約完了の通知が画面に表示された瞬間、指先が小さく震えた。

怖いからじゃない。

ようやく、この場所を離れられるからだ。

翌日の夕方、私は森山家へ向かう。

兄の真人(まさと)は玄関を開けて、全身ずぶ濡れの私を見るなり、とっさに身を横へずらしてリビングを隠した。

声を潜めて言う。「その靴じゃカーペットが汚れる。尚美が昨日敷かせたばかりなんだ」

私は足元へ視線を落とす。

職人が織り上げた高級カーペット。よく見ると、尚美のイニシャルがさりげなく織り込まれている。

私は一歩も動かなかった。

そのとき、母の和子(わこ)が階段を下りてくる。

私を見るなり眉をひそめた。

「清?来るなら先に連絡くらいしなさい。明日は尚美の帰国祝いのパーティーなのよ。こんなタイミングで来て騒ぎを起こさないでちょうだい」

私のほうが、この人の実の娘なのに。

久しぶりに会った母の第一声は、「どうしたの、そのびしょ濡れは?」ではなかった。

ただ――騒ぎを起こさないでちょうだい、だった。

私は地下の納戸へ通される。

真人は折りたたみ椅子を一脚置き、自分はワインセラーにもたれながらグラスを傾ける。

私は静かに口を開く。「お母さん。若樹が私の胃の手術記録を尚美に渡したの。私の手術データを、美容やケアのために使わせてる」

和子の表情が一瞬だけ固まる。そして、ため息をついた。

「あのカルテの件なら……実は、お父さんと私が許可したの。尚美は昔から体が弱いでしょう?若樹があの子を気遣うのは当然よ。そんなに気にしなくていいじゃない」

私は椅子の肘掛けを強く握り締める。

「お父さんとお母さんが決めたの?私の気持ちは、一度でも考えた?」

真人はスマホを取り出し、一枚の決算資料を私へ突きつける。

「清。お母さんとお父さんだって好きでやったわけじゃない。

お父さんの会社、去年は倒産寸前だった。若樹が四十億円出資してくれたから、なんとか持ち直したんだ」

真人は画面の数字を指で叩き、感情のない声で続ける。

「今の森山家は、若樹の資本なしじゃ成り立たない。たかがカルテ一冊のために、家族全員を路頭に迷わせるつもりか?」

和子は私の前まで来て、そっと私の手を握る。

「清、お母さんだって清がつらいのは分かってる。でも、尚美は小さい頃からうちで大事に育ててきた子なの。苦労なんて何一つ知らない。少しの我慢もできないのよ」

和子は少し間を置き、私を見つめる。

「でも、清は違うでしょう?田舎で暮らしたこともあるし、苦労も経験してきた。清は強い子だから」

そして最後に、まるで当然のことのように言った。

「もし若樹の心の中に、どうしても尚美がいるなら……清が少し我慢してあげればいいじゃない。妻としての立場は、ちゃんと清のままなんだから。それで十分でしょう?」

尚美ばかりを優先してきた人たちだと、ずっと分かっていた。

それでも、本人たちの口から、こんなにも当たり前のように言われると、胸の奥から、言葉にできない痛みが静かに込み上げてくるのだった。

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