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第196話
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愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第233話
苑はひどく単刀直入に尋ねた。特に和樹は男だ。苑は自分が美しく男を惹きつける容姿を持っていることは認めている。だが男なら誰でも自分を見たら夢中になるほど自惚れてはいなかった。和樹は軽く笑った。「君は警戒心が強いですね」苑は「その通りです」と言った。人生の平手打ちが彼女をそうさせずにはいられなかったのだ。苑はその言葉には答えず和樹の返事を待った。「君が私に有益だからです」和樹は笑みを収めひどく真剣に言った。「白石さん、君が私から受ける優遇は、ただ一つの理由、君の能力です」能力？！苑の仕事上の能力、アシスタントとしての能力か。もしそうだとしたら、すべて蓮との七年間で培われたものだ。これは苑が蓮から得た最大の収穫と言えるだろうか。苑は和樹の肯定を否定しなかった。だが自惚れもしなかった。「今田さん。上には上がいます」「そうですね。だが私が知る人間の中で君は最も優れています。だから私は君を守りたいのです。もちろん君が私にその機会をくれるなら」和樹は正式に苑を誘ったのだ。今田家の状況を苑は把握していた。前回半ば冗談半ば本気で和樹と三ヶ月の約束をしてから苑はずっと注目していた。苑という女は確信のないことはしない。何事をする前にもまず把握する。だからここ数日苑が何もしていないように見えても、苑が何をしたかは彼女自身だけが知っている。苑は数秒黙った。「今田さん。あなたも先ほど私に注意してくれましたね。今私は自分の身を守れるかどうかも分かりません。あなたは巻き添えになるのを恐れないのですか」「懸念がないと言えば嘘になる。だが投資にはリスクがつきものだ」和樹は苑を投資と見なしている。和樹は先ほど苑の能力を評価していると言った。和樹が苑に与えたのは常に肯定だった。これは苑にとって美貌やその他を褒められるよりずっと価値があった。苑は数秒考えた。「考えさせていただきます。そしてこのような時に私に機会を与えてくださる冒険心にも感謝します」「感謝の言葉はもういいです。君もそれが空虚なものだとご存じですね。本当に感謝しているなら誠意を見せてください」和樹も建前は言わなかった。苑は頷いた。「はい」和樹は目の前の風情ある小さな庭を見た。苑にまだもっ
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第232話
「申し訳ありません。島崎様はどなたともお会いになりません。お引き取りください！」早朝の薄霧の中、グレーのコートを着た和樹が無情に断られていた。だが和樹は怒らなかった。それどころか態度は謙虚だった。「どうか島崎様にお伝えください、私は様の『鏡円』という作品の購入者です。重要なことがありお会いしてお伝えしなければならないのです……」「申し訳ありませんが鏡円の持ち主はもう見つかっております。旦那様、これ以上ご迷惑をおかけになるなら警察に通報いたします」再び断られた。今回の拒絶に立っていた和樹はもう何も言わなかった。苑は遠くない場所に立っていた。もう十分になる。この十分の間、苑は彼らの会話をすべて聞いていた。苑は歩み寄った。和樹が呆然としている時に静かに声をかけた。「今田さん、おはようございます」今はチューリッヒの午前九時。まだ朝と言える。和樹は横目で苑を見た。そして顔に珍しい笑みを浮かべた。「どうやら私は……」「ありがとうございます！」苑は和樹が何を言いたいのか分かっていた。先ほど和樹を見た時、苑はまだ悪意を持って彼が自分を尾行してきたのだと推測していた。苑がずっと後をつけてきて和樹が島崎和人（しまざきかずと）つまり天の手の執事と話しているのを見るまでは。ただ苑のために一度会わせてほしいと頼むために。和樹はもうすべてを理解していた。和樹は多くを語らずただ苑に尋ねた。「今から入りますか」「急ぎません」苑はひどく落ち着いていた。もう来たのだ。会うのは急ぐ必要はない。それに和樹がこうして自分のために駆けつけてくれたことも苑には責任がある。美穂が先に天の手を見つけてくれたのだ。苑は和樹に一言知らせて彼にこれ以上心配させないように、そして和樹にこんな遠くまで来させないようにするべきだった。「今田さんが私のためにこんな遠くまで」さらには先ほど彼のためにあんなにへりくだって執事と話していた。苑はそれをすべて見ていた。「本当に申し訳ありません、そして感謝しています」「そう丁寧になられるとかえって恐縮です」和樹は苑を助けると約束したが実際には助けられなかった。「今田さん。物事は必ずしも結果だけを見るものではありません。過程は結果より
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第231話
苑は飛行機の中で一度眠った。とても深い深い眠りだった。苑は夢も見た。自分が小さな女の子になり、お父さんとお母さんと一緒にいる夢だ。苑はお姫様のように可愛がられていた。その夢はあまりに美しく、苑は目覚めたくなかった。目を開けた時、苑はまだ夢の中の幸福に心を奪われていた。天は苑の無念を知り、夢でそれを補ってくれたのだろうか。だが夢は夢だ。それに決して現実にはならない夢だ。苑が飛行機を降りた時はちょうど早朝だった。空気は湿った涼しさを含みとても心地よい。さすがは最も住みやすい街だ。本当に全身が爽快になる感覚がある。苑は静かにしばらく立ち、顔を上げ、空を見、深呼吸をした。長時間座っていた疲労から心身を解放してから、ようやく携帯を取り出し開いた。不在着信とメッセージが鳴りやまない。意外なことに最も多かったのは蒼真ではなく美桜からだった。【苑さん、ご飯食べに帰りなさい！】【苑さん、お母さんに電話ちょうだい！】【苑さん、お母さんがついてるから、何も怖がらなくていいのよ】【苑さん、帰りたくないならそれでもいい。でもどこにいるか教えてちょうだい、心配させないで】このメッセージを見て苑は密かに笑った。これは自分が騒ぎを起こして逃亡したとでも思われているのか？苑はこちらへ来ることばかり考えていて、そのことはすっかり忘れていた。だが他人がどう思おうと苑は気にしない。しかし美桜の心配は本物だ。今二つの都市には時差があることを思い、苑は美桜に電話せずメッセージを返した。【お義母さん、私は元気です。大丈夫ですよ】美桜に返信し終えると、苑はまた美穂からのメッセージを見た。電話番号だった。おそらく天の手と連絡が取れるのだろう。それに天の手に関する情報もいくつかあった。苑は美穂にあれほど傷つけるようなことを言ったのに。それでも美穂は気にせず相変わらず助けてくれた。美穂もまた良い女性だ。美桜と同じように自分に本当に良くしてくれる。それに比べて自分は少し恩知らずだった。苑は感謝だけ返した。【ありがとう】最後に苑は蒼真のメッセージを見た。たったの【ハニー】だけだった。その後ろには何もなかった。最後まで送信されなかったのか、それとも間違えて
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第230話
「空港だ！」蒼真の答えは少しも意外ではなかった。照平は続いて長いため息をついた。「嫁さんを娶れば親を忘れる……哀れな美桜叔母様、まだ彼女の良い次男坊のことを心配しているのに。うう……痛っ……」照平のからかいは蹴りを一発食らって悲鳴で終わった。そしておとなしくなった。「まだお前の嫁さんがそこへ何をしに行ったか調べていない。おそらくお前自身が彼女に聞くしかないだろうな」照平は蹴られた痛い脚を揉んだ。「それに一つ言うべきかどうか分からないことがあるんだが」「なら言うな」「言わなきゃお前はもっと俺を蹴るだろうが」照平は一言で言えば「M」なのだ。蒼真は襟元を引いた。照平はボタンが引きちぎられる前に正直に言った。「朝倉蓮の奥さんも行っている。しかもお前の嫁さんより前にだ。お前、彼女たちは約束して行ったと思うかそれともお前の嫁さんが招待されて行ったと思うか」その言葉が終わるなり照平は首筋に冷たいものを感じた。照平は生存本能からきっぱりと言った。「そんな目で見るなよ。俺もさっき知ったばかりなんだ。それにそんなに緊張してどうする。芹沢琴音がお前の嫁さんとこれだけ長く争って一度でも勝ったことがあるか」その言葉は空気中の殺気をうまく消し去った。蒼真は気だるげだった。「そのことをお前は俺に聞くのか」「じゃあ誰に聞くんだ。朝倉蓮にか」照平は本当に死の淵をさまよっていた。照平が言い終わると蒼真が尋ねた。「何時の飛行機だ」「二時間後だ。今から朝倉蓮を探しに行くか天城家に戻るかどちらも間に合う」照平は親切に注意した。蒼真は膝の上の手で薬指の指輪を軽く回した。携帯を取り出し電話をかけた。「苑がチューリッヒへ何をしに」「あんたどこにいるの。家族全員があんたを待ってるのよ」美穂は問いに答えなかった。蒼真の瞳の奥の幽玄な光が深くなった。「俺は苑のことを聞いている」「苑は家にいないわ。電話も電源が切れてる。お義母さんもう連絡がつかなかったら行方不明届を出すって心配してるわよ」美穂は蒼真とはぐらかした。「天城美穂」蒼真は音量を上げて彼女のフルネームを呼んだ。次の瞬間美穂の声が耳膜を突き破った。「お義母さん、次男坊の電話よ。あなたが話して」蒼真がまだ携帯
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第229話
佳奈の震えがふと止まった。恐怖に満ちた瞳も再び蒼真を見た。佳奈は口で話せないが目で話せる。佳奈の眼差しは蒼真の答えを待っていた。実は佳奈が目覚めてからずっとこの問題を考えていた。蒼真はなぜ自分を救ったのか？佳奈には無数の答えがあった。だが本当の答えは蒼真しか知らない。今蒼真がそれを与えようとしている。だが佳奈は怖くて不安だった。だが避けられないと知っていた。佳奈が目を開けたその瞬間から来るべきものは必ず来るのだ。「実はお前も分かっているんだろう」蒼真は眉をひそめその整った顔立ちは佳奈の好みにぴったりだった。七年前に佳奈は一目で忘れられず、七年後もなお骨の髄まで焼き付いている。佳奈は喉の奥の緊張を飲み込んだ。佳奈は自分がどれほど不安で怖くてもこの男が自分に少しの同情も憐憫も抱かないことを知っていた。七年前と同じように。佳奈は首を振り目にも涙を浮かべた。蒼真は佳奈の打ちひしがれた様子を見て目に少しの憐れみも見せなかった。「佳奈。誰もが自分のしたことの代償を払わなければならない。お前も同じだ。分かるか」佳奈の涙はさらに激しく流れ頭を振って何かを弁解しようとしているようだった。「お前が今話せないことは分かっている。急ぐな。俺は七年かけてお前を目覚めさせたんだ。お前が口を開くのを待つ時間もまだ残されている。だから今急いで口を開く必要はない」蒼真の目は冷たく、まるで氷の層で覆われているかのようだった。佳奈が蒼真の前でどうあろうと蒼真は少しも心を動かさない。これは七年前と同じだ。だから佳奈はもう芝居をする必要はない。佳奈のすべての動きが止まりそしてもう蒼真を見ずに頭を下げた。空気は再び静寂に包まれた。足掛け半分の静寂の後、蒼真は静かに笑った。その笑いは蒼真の胸の奥から発せられたものだった。佳奈はそれに震えまた激しく頭を上げて蒼真を見た。蒼真の体が前に一歩動いた。蒼真の大きな影が覆いかぶさり、まるで巨大な網が佳奈を飲み込むかのようだ。「知ってるだろ。今すべての人間が俺がお前を必死に救ったのは俺がお前を愛しているからだと思っている。苑はなおさらそう思っている」佳奈は頭を上げて蒼真を見ていた。長いまつげが激しく震えふと声を発した。「わ、わ…
愛も縁も切れました。お元気でどうぞ 第228話
「天城さんがいらっしゃいました！」蒼真が来た時看護師が小声で佳奈に知らせた。佳奈は全身を震わせまだ不自由な指が緊張してシーツを固く握りしめた。実は佳奈が意識を取り戻したその瞬間から佳奈はこの日を恐れていた。だが避けられないと知っていた。だからもう目覚めていたのに何日も寝たふりをしていたのだ。そうだ。佳奈が目覚めたのは彼らが見たよりずっと早かった。「佳奈さん、緊張しないでください。天城さんはあなたのことをとても心配していますよ。この七年間私と斉藤先生以外で一番あなたに会いに来てくれたのは彼ですし、斉藤先生にあなたのリハビリを依頼したのも彼ですから」看護師は自分が知っていることをもう一度話し、ただ佳奈の情緒をなだめようとした。これは洋の指示だった。洋にとって佳奈はもうただの患者や研究対象ではなく、家族のようになっていた。他の人には分からないだろうが、看護師にははっきりと分かった。佳奈は美しい長いまつげを瞬かせ何も言わなかった。一対の恐怖に満ちた瞳は澄んでいて、佳奈を無害な少女のように見せていた。佳奈の年齢は重ねてきたが七年という時が止まっていたため、佳奈はどこか他人より七年少なく生きたような感覚があった。今佳奈の精神年齢はまだ七年前に止まっている。軽くドアをノックする音がして佳奈はまた身を震わせた。佳奈がドアを見つめているとドアが開かれすらりとした姿が視界に入ってきた。竹のように清らかで痩せていて七年前よりさらに立体的で背が高くなっていた。その顔もまた七年前よりさらに息をのむほど美しかった。佳奈は呼吸が止まり心臓が激しく震えた。そうしてまっすぐにまばたきもせず自分にどんどん近づいてくる男を見ていた。蒼真もまた深く澄んだ眼差しで佳奈を見ていた。佳奈の前に立ち止まるまで。そして蒼真は薄い唇をわずかに開いた。「佳奈。おめでとう」その言葉、ひどく軽いがひどく重かった。佳奈の体は制御不能に震えだした。看護師は慌てて佳奈の肩を軽く支えた。「佳奈さん、天城さんがあなたに話しかけていますよ。頷いて応えてあげてください」佳奈は看護師に促されて頷き蒼真を見ていたまぶたも伏せ、もう彼を直視しなくなった。蒼真の視線は佳奈が布団を掴む指に落ちた。細い皮が骨格を包み清
