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第399話

作者: 歩々花咲
苑がシャワーを浴び終えてパソコンの前に座ると、右下のメールボックスに不意に新着メッセージの通知がポップアップした。

差出人は篠原健太、件名は短い「今田和樹」だけ。

苑は添付ファイルを開き、数枚のぼやけた監視カメラのスクリーンショットが目に飛び込んできた。

一枚目の写真では、和樹が空港のVIP通路に立ち、サングラスをかけた外国人の男がそばに立っていた。

二人はひどく近く、何かを話しているようだった。

次の写真では、その外国人の男が黒いセダンに乗り込んでいた。

ナンバープレートは見えず、恐らく意図的に隠されていたのだろう。

だが半ば開いた車の窓から、かすかに運転席に座っている人が見えた。

健太は続けてまたメッセージを送ってきた。

【調べた。この外国人は島崎葵の従弟のデビットだ。二年前にスイスで「コクチョウ」という名のペーパーカンパニーを登録している。今田和樹はここ半年で彼と三回、密会している。直近は先週の水曜日だ】

先週の水曜日?

それは、まさしく自分が、出張していた日ではないか?

苑はスクリーンを見つめ、眼差しが次第に冷たくなった。

苑は別の暗号化されたフォルダを開いた。

中には健太が葵を調査するついでに収集した資料が入っていた。

案の定、葵の親族関係図には、確かにデビットという名の従弟がいた。

資料によれば、デビットはスイスで美術品投資会社を経営しているという。

「面白くなってきまたね」

苑は軽く喃々と呟き、指が無意識にテーブルを叩いていた。

苑の表情がおかしいのに気づき、蒼真は苑の後ろへ歩いていき、顎を自然に苑の肩に乗せ、視線がパソコンのスクリーンを掃った。

「今田和樹と島崎葵?」

「ええ」

苑はパソコンを蒼真の方へ向け、平淡な口調で口を開いた。

「こうしてみると、すべてが納得できます」

蒼真はついでに苑のマウスを受け取り、素早くファイルに目を通した。

目の奥に一抹の鋭い光がよぎった。

「どうやら、あのネックレスから、私はもう彼らの仕掛けた罠にはまっていたのですね」

「『鏡円』?割れた鏡が元に戻す?本当に皮肉です」

苑は心の中が苛立ち、指先が無意識に軽くテーブルを叩いていた。

思考は数ヶ月前のあの茶番のような親族の宴へ、そしてその後に起こったすべてへと漂っていた……

元々、苑は最初から罠に深くはまっていて
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