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第2話

Author: 苺タルト
どれほどその場に立ち尽くしていたのだろう。やがて、京介はどこか満たされたような表情で部屋から出てきた。そして、陽菜の姿を見た瞬間、その表情をわずかに凍りつかせた。

「陽菜?」

陽菜は赤く充血した目で彼を睨みつけ、声を震わせて問い詰めた。「京介、どうしてなの?」

京介は眉をひそめ、彼女の手を掴み階段の方へ向かった。「下で話そう。美羽がやっと寝たところなんだ」

その言葉に、陽菜の心は激しく痛んだ。充血した両目は真っ赤に染まり、涙が今にも零れ落ちそうだった。

車に乗ると、京介はタバコに火をつけた。タバコの火が京介の整った横顔をぼんやり照らす。だが、浮気を知られた焦りは一切見えなかった。

「陽菜、見たならもう隠しはしないよ。今、美羽に惹かれてるんだ。お前がどう思おうと、関係をやめる気はない。

でも安心しろ。俺の妻はお前だけだ。遊び飽きたら、ちゃんとお前のところに戻るから」

「ふざけないで!絶対認めないわ!」陽菜の心は刃物でえぐられたように痛み、涙が溢れ出した。「彼女と関係を続けるなら、離婚しましょう!」

京介に裏切られたことも、桃子が死んだ原因に、二人が関わっていたことも、耐えられなかった。

京介は小さく笑うと、いつもはめている黒い手袋を外した。そこには、小指を失った痕が生々しく残っている。

「陽菜、俺はお前と結婚するために、自分の指を切り落としてまで親に認めさせたんだ。それなのに離婚だと?絶対に許さない。

だから大人しくしてろ。少し遊んでいるだけだ。飽きればすぐに戻る」

陽菜は、その生々しい傷跡を見つめたまま、目を潤ませた。

6年前、陽菜の祖母が重い病気で倒れ、大学3年生だった彼女は大学を辞め、夜の店で働いていた。

その時出会ったのが京介だった。彼は陽菜を一目見た瞬間から、夢中でアプローチしていた。

身分違いだと反対されても、陽菜を妻に迎えるためなら、京介は自分の指を切り落としてまで親に認めさせた。

なのになぜ?なぜ自分のためにここまでしてくれた男が、今こうして私を愛していると語りながら、他の女を抱けるのか。

「それじゃ、桃子は?なぜあの子にそんな酷いことができたの?」

桃子の名が出ると、京介の目にわずかな陰りが差した。

「桃子は病気になってから、まともに笑えた日なんてなかったし、最初の移植は失敗した。だから、これ以上辛い思いをさせるより、終わらせてやったほうがいい。それに、誰かに迷惑をかけ続けることもなくなる。

そうだ、桃子には近いうちに会いに行くと伝えておいてくれ、残された時間、俺たちでちゃんとそばにいてやろう」

陽菜の胸は締め付けられ、桃子がすでに死んでいることを言おうとした。

だが、彼の目に浮かぶ薄っぺらい罪悪感を見て、何も言えなくなった。

彼は今や愛人に夢中で、もしかしたら桃子の死さえ、都合のいいこととして受け入れるかもしれない。

陽菜の青ざめた顔を見て、京介が何か言いかけた時、スマホが鳴った。通話ボタンを押した瞬間、甘く気だるそうな女の声が響く。

「ねぇ……京介さん、今どこにいるんですか?」

京介がその言葉を聞いて、すぐに電話を切り、待ちきれない様子で車を降りていくのを、陽菜はただ呆然と見ていた。

去り際、彼は何かを思い出したように振り向く。「陽菜、わかってるよな?俺は自分のものを勝手に触られるのが一番嫌いなんだ」

そう言い残し、彼は足早に去っていく。その背中を見つめながら、陽菜は胸を締めつけられるような痛みに耐えきれず、震える手で胸元を押さえた。そして、ゆっくりと自嘲するような笑みを浮かべる。

京介が以前署名した離婚届、ようやく役に立つ時が来たのだ……

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