第1001話

「な、なんだって？」

「植物状態になる可能性があります。覚悟しておいてください」

「そんな……」

海人の母は崩れ落ちそうになり、海人の父が慌てて支えた。

彼は比較的冷静だった。

「どうにかする手立ては？」

由樹は首を横に振った。そして清孝の方へ歩きながら言った。

「一ヶ月以内に意識が戻らなければ、うちの義姉に鍼灸を頼むしかない」

清孝の目が一瞬鋭くなり、鷹に小声で告げた。

「彼を先に休ませる」

鷹は頷いたが、まだ南に伝える前に——

「来依——！」

南の叫び声が響いた。

来依が、意識を失って倒れたのだ。

またしても病院内は慌ただしくなった。

鷹は由樹が来依の容体を確認している間に、南を引き寄せ、耳元で何かを囁いた。

南は混乱したまま尋ねた。

「どういうこと？海人、意識あるの？」

「確証はない」

鷹は海人の当時の状態を思い返し、手術中に目を覚ますとは思えない。

でも、終わった直後に少し目を覚まして、来依のことを心配して由樹に何か頼んだ可能性がある。

「由樹は俺たち側の人間だ。信じていい」

南は小さく頷き、再び来依のそばに戻った。

鷹はわざと海人と来依を同じ病室に入れるよう手配した。

隣では海人の母が海人の手を握り、泣き続けていた。

海人の父は何か言おうとしたが、言葉が出ず、時折涙を拭いてやることしかできなかった。

突然、海人の母が立ち上がり、海人を大阪へ連れて帰ると言い出した。

「ここじゃ治らない！大阪ならきっと……」

鷹が立ちはだかった。

「さっき海人を救ったのは高杉由樹、高杉家の次男坊です。彼にできないことを、他の誰ができるって言うんですか？」

海人の母は気づいていなかった。由樹がずっとマスクをしていたため、彼だとは分からなかった。

それを聞いて、海人の状態がどれだけ危険だったかをようやく理解した。

「私の可愛い海人……私の言うことを聞いてくれていれば、こんなことには……」

鷹は耳をかすめるように掻きながら、冷たい声で言った。

「伯母さん、何度も言ってますよね？あなたがいなければ、二人ともこんな目には遭ってないんです」

「……」

海人の母は反論できず、ただカーテンを乱暴に引いた。

病室の変更も申し出たが、許可は下りなかった。

海人が搬送中に無理をさせるのは避けるべきだと判断されたためだ。