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第1044話

Author: 楽恩
海人は、今日この日を計画していた。

清孝の言葉なんて、最初から気にしていなかった。

鷹が南に事情を説明するだろうと思っていたのに、まさか彼女が本当に紀香と一緒に石川まで行ってしまうとは。

「違う、偶然だ」

来依は南と話し込むうちに、紀香の様子を聞いた。

南は答えた。「清孝は来なかった。あの子、すごく怒ってる。今、一緒に写真を撮りに来てるところ」

「じゃあ、写真撮り終わったら早く戻ってきてよ。あんたがいないとお祝いできないでしょ」

石川と大阪はそれほど遠くない。南は時間を確認し、頷いた。

「お腹空いたら、先に何か食べて。ずっと待ってたらダメよ。飛行機に乗るときに連絡するから、それで時間合わせてね」

「了解!」

来依は電話を切ると、海人の腕にしがみついた。

「イチゴケーキが食べたい」

海人は彼女をそっと車に乗せ、五郎にケーキ屋に向かうよう指示した。

自分で車を降り、ケーキを買って戻ってきた。

来依はケーキを食べながら聞いた。

「じゃあ、清孝は離婚する気がないのに、なんでそんなこと言ったの?」

海人は答えた。「昨日、みんなが紀香に好きな人はいるのかって聞いてただろう?あんな反応見せられたら、彼も確認したくなるさ」

「何を?」

「紀香の離婚するって気持ちが本気かどうか」

来依は納得できなかった。

「で?確認して、やっぱり離婚しないんでしょ?意味ないじゃん」

「余計なことよ」

海人は昨夜の反省から、もう清孝の話題には深入りしたくなかった。

「もう、俺には理解不能」

来依は言った。「また白々しくしてるでしょ」

海人は話を逸らした。

「美味しい?一口ちょうだい?」

「檀野先生ってすごいよね。こんな甘ったるい物まで食べられるようになるなんて」

「ちょっと試してみるよ」

来依はスプーンで一口すくい、海人の口元に差し出した。

海人は少し迷ったが、結局食べた。

来依はじっと彼の様子を見ていた。

「どう?」

海人は飲み込んでから、「悪くない」と答えた。

来依は笑った。

「どうりで、今日はやけに元気で、色々と仕掛けてくると思った」

海人「……」

「もう大丈夫ってことね」

来依はそう言うと、また話を戻した。

「私はてっきり、清孝が新しい作戦に出たのかと思った。だから離婚するなんて言ったのかと」

海人の清孝に対する理
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