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第1045話

Author: 楽恩
ちょうどその時、部下の一人が報告に来た。

「服部夫人と奥様が大阪行きの便に乗りました。菊池社長とその奥様の結婚祝いに戻るようです」

清孝はすぐさま飛行機を手配し、自らも大阪へ飛んだ。

紀香は来依を見るなり、すぐに愚痴をこぼし始めた。

話しているうちに急に黙り込み、「ごめんね、せっかくのお祝いの日に、こんな話して……」と謝った。

来依はお茶を注いで差し出しながら言った。

「いいのよ、分かるわ」

「呼び出してお祝いさせるのも唐突だったよね。あんたは今、離婚の真っ最中なのに」

紀香は首を振った。

「いえ、縁起を担いででも、うまく離婚できたらって思って来たの」

海人と鷹は目を合わせ、お互い察して、その話題には関わらないことにした。

だが、まさかこのタイミングで清孝が現れるとは、誰も想像していなかった。

しかも、海人にご祝儀を差し出した。

「おめでとう」

「……」

海人は思わず来依を見た。彼女は笑っているようで、まったく笑っていないその表情に、海人の頭皮がピリピリした。

彼はご祝儀を受け取らなかった。

代わりに来依が受け取り、にっこりと笑って言った。

「ありがとう。離婚間近の藤屋さんが、うちの結婚を祝う余裕まであるとは、さすがですね」

清孝は顔色ひとつ変えず、席に着いて自分でお茶を注ぎ、一口飲んでから口を開いた。

「菊池夫人、それはどういう意味?俺がいつ離婚するって?」

来依は今までいろんなタイプの男を見てきたから、男の心理にもある程度の理解があった。

彼の一言で、すぐに酔っていたという言い訳を使うつもりだと気づいた。

「藤屋さんほどの立場のある方が、そんなにコロコロ言うことを変えていたら、今後誰も信じてくれなくなりますよ」

清孝の目には困惑が浮かんだ。

「コロコロ変えるって、どういう意味かな?」

来依が口を開く前に、紀香が先に言った。

「清孝、そういう手はもう通用しない。酔っていたとか、病気だったとか、そんな嘘で昨日の離婚するって言葉をなかったことにできると思ってるの?

来依さんのお祝いが終わったら、私たちは石川に戻って、離婚手続きするから」

「役所はもう閉まってるよ」

「だったら、職員を呼び戻せばいい」

清孝は内心焦っていたが、顔には出さなかった。

「君は残業が好きか?」

紀香は言葉に詰まった。

かつて彼
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