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第162話
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慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1154話
紀香が到着すると、佐夜子からメッセージが届いた。撮影現場までの送迎を手配したと連絡先が送られてきて、「空港を出たら連絡を」とだけ書いてある。「了解です」彼女はそう返事をして、指定された番号に電話をかけた。言われた通りに進み、迎えの人物を見つけた。「錦川先生ですね」その男は車のドアを開けながら自己紹介した。「神崎先生のアシスタントをしております。ジョーと呼んでください」自分にアシスタントがついたわけでもなく、「神崎先生」という言葉からしても、どうやら自分ではない。だとすれば、あの「神崎」は……名前に聞き覚えがある。すると隣の実咲が彼女の腕をつかんで興奮気味に言った。「神崎吉木先生よ！私、大ファンなの！私がやってるあの乙女ゲーム、彼の顔がモデルになってるキャラもいるの！本当にかっこいいんだから！」「……」紀香も吉木の名前は聞いたことがある。来依が以前、彼とちょっとした噂になっていたからだ。ただ、今回の仕事は仕事であり、私情は関係ない。今回の撮影は大型スクリーンに映されるプロモ用だと聞いている。大阪で公開されるかはわからないが、万が一海人が目にしたら──来依が多少怒るのは避けられない気がした。「錦川先生、私のメイク、どう？」今回の撮影は急だったため、飛行機では紀香も実咲も寝ていた。空港に着いてから、簡単に洗面所でメイク直しをして出てきたところだ。「最初から神埼吉木さんだって分かってたの？」メールの確認を任せていたはずなのに、まるで今知ったような反応だ。実咲は鏡を見ながら、メイクがまだ完璧じゃないと、慌ててポーチを取り出す。「だって、撮影対象には神崎先生の名前なんてなかったんだもん」「……は？」紀香は思わず驚いた。「そうだよ」実咲はうなずいた。「今回は曽木悦奈の撮影よ」「……は？？」紀香はぽかんとした顔で聞き返す。「曽木悦奈の撮影なのに、なんで神埼吉木の車に乗ってるの？」実咲はメイクの仕上がりを確認しながら、無邪気に鏡をパタンと閉じた。「だって、私は京極さんから先生に個人的に連絡があったと思ってたし、私の方には正式な業務メールしか届いてなかったんだもん。だからどうしてこうなったかは……私もわからないよ？」紀香「……」佐夜子からは「撮影がある」と
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1153話
「それに、私あのゲーム、ダウンロードすらしてないんだけど」ゲームの画面すら見てないのに、何を騒いでるのかと呆れる。海人は来依の肩に顎を乗せ、鼻先を首筋にすり寄せながら、彼女の香りを吸い込んだ。その低くて甘い声には、どこか拗ねた色がにじむ。「最近さ、ずっと俺に冷たくて、怒ってることも多いだろ？今日、他の男を見たいとか言い出すし……俺のこと飽きたんじゃないのか？昔の話までしちゃってさ、まるでお前の華の時代を邪魔したみたいに聞こえるんだけど。ねぇ、俺って、まだ足りてないのか？他の男を考えるなんて、ひどくない？」「……は？」来依は思わず吹き出してしまった。「あんた、本当に一度病院で頭の検査受けたら？」海人は真顔で頷く。「確かに、スキャンしたら恋愛脳＝来依って診断されるかもな」来依はつい笑ってしまい、彼の唇に軽くキスを落とす。海人はそのチャンスを逃さず、キスを深くした。ドライバーは何も言わず、静かに仕切りを上げた。車内の温度がじわじわと上昇する。来依の手が彼の首筋から腹筋に移動し、しばらくその硬さを楽しんだ。海人は彼女を強く抱きしめ、首筋に顔を埋めて呻いた。「菊池さんって、誘い方がずいぶんと回りくどいのね」彼の声はかすれていた。「帰ったら、衣装替えてサービスしてやるよ」その頃、一品旨の外では──海人に抱えられ急ぎ足で帰っていく来依を見て、実咲が紀香に小声で聞く。「もしかして……あれって、アレしに帰ったってこと？」紀香は経験はないけど、それくらいの勘はある。何より海人の性格を誰よりも知っている。お姉さん、最近安定期だし。さっきまで男の話で盛り上がってたし、まあ…当然よね。そう答える前――その時、不意に小さな声が耳元に。振り返ると、南が鷹に肩に担がれていた。「……」しかも鷹は前置きゼロ。ノンアル・セルフ運転・超速帰宅。車を停めるなり、車内で彼女を押し倒し、即・本題に突入。南が「部屋で」と言っても、彼はさらに激しさを増す。彼女の口から思わず声が漏れた。そのとき、彼の低くかすれた声が、恨みを込めて彼女を責めた。「ああ、他の男がいいって？」「まだ年のこと？」「俺が年くって満足させられないってか？」「じゃあ言ってみろよ、今──気持
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1152話
来依は実咲に聞いた。「このゲーム、どうやって遊ぶの？私もやってみたいわ。イケメンをたくさん見れば、子どももイケメンになるって言うし。うちの息子が南ちゃんの娘婿になるには、それくらいの準備が必要でしょ？」実咲は誰かとこういう話題を共有するのが大好きで、喜んで話そうとした。だが、隣の紀香にそっと肘でつつかれる。――彼女は知っている。海人も鷹も、そういう男たちだ。たとえ相手が2次元のキャラクターでも、来依や南さんが他の男に目を向けるのは許せないタイプ。ましてや実咲は自分の部下。何かあって責任を問われたらたまらない。紀香は全力でカバーに入った。「そのゲーム、自分だけで楽しんで。うちの姉は必要ないの。姉婿があれだけイケメンなんだから、子どもは絶対に3Dモデルよりかっこいいに決まってる」紀香はもう必死に目配せした。目が潰れるかと思うほどに。「はぁ……今日、目がちょっと調子悪いわ〜」実咲は下手な芝居をした。「……」来依と南は目を合わせて、くすっと笑った。来依が言う。「うちの妹、かわいいでしょ？」南も頷いた。「うん、かわいい。実咲ちゃんもすごくかわいい。私、好きだわ」実咲は、紀香と清孝の間に何かあったことを察しているだけに、紀香のサインをちゃんと受け取った。さっとスマホを引っ込めて、笑顔で言った。「このゲーム、別に大したことないよ。会社が作っただけの男たちだよ。二人の旦那さんには絶対かなわないから！現実世界であんなにモデルみたいにカッコいい人、見たことないし！」その後、彼女は紀香にウインクする。――どう？命、守ったでしょ？紀香もウインクで返す。――うん、守れた。二人のやりとりを見て、来依と南は笑いが止まらなかった。「若いって、いいわね」来依がしみじみ言うと、南も同意した。「ほんとに」来依はふと昔を思い出す。「私だって、昔はモテモテだったのよ……」「何の話で盛り上がってるの？」いつの間にか海人が来依の背後に現れ、丁寧に処理した魚と剥いたエビを差し出す。彼女の好きな料理もそっと皿に取り分けてくれる。「イケメンの話でもしてた？」「い、いえっ！」実咲は慌てて立ち上がった。「私のゲームの話をしてただけです！男なんていません、全部ゲームの中のキャラです！」
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1151話
国外に送ったのは、来依へのケジメでもあった。そして、清孝自身も今回の件で紀香に対して度が過ぎたことを自覚し、自らを省みるためでもある。飛行機が到着すると、南が迎えに来た。実咲はすぐに場に溶け込み、女四人であっという間に食事の約束を取り付けた。鷹と海人は少し遅れて歩いていた。前者は気だるげな足取りで口を開いた。「……由樹に頼まれたんだろ？」海人は逆に問い返す。「お前にも頼んだのか？」鷹は舌打ちしながら言った。「うちの嫁が前に塩成夫人のドレスを作ってさ、すごく気に入られたんだよ。で、塩成夫人って、伊賀家の長男の嫁とめっちゃ仲いいんだよな。その長男の嫁、塩成夫人の大ファンでさ、彼女の言うこと全部聞くって有名な話。お前に頼んでも無理だからって、俺を通して動かそうとしてるっぽい」海人の声に抑揚はなく、淡々と言った。「関わらないほうがいい」鷹は、興味深そうに片眉を上げた。「ほう？理由は？」海人は、飛行機に乗る前の出来事を簡潔に説明した。「確実に言えるのは、近いうちに南は全部を知る。お前が下手に動いたら、絶対に彼女に怒られる」鷹も別に深入りする気はなかった。両手を後ろに組み、肩を揺らしながら言う。「でもさ……由樹、追い詰められて暴走する可能性もあるぜ？」海人もそれを想定して、すでに対策は打っていた。一行は一品旨に到着。女四人が席を囲むと、止まることなくおしゃべりに夢中になった。海人と鷹は空気を読んで、向かいの席に座り、仕事の話を始める。「春香が本当に藤屋家を支えられるなら、これから塩成光と接触することもあるかもな」鷹は口元を歪めて笑う。「そういや、清孝って、塩成と裏で手を組んでたらしいぜ。ただ春香の手前、表には出さなかったみたいだけど」海人は茶を一口すする。「あれは元々、極秘プロジェクトだ。深入りしてたわけじゃない。将来的に接触があるかどうかは……本人次第だ」鷹は声を漏らして笑った。「お前は手助けしないし、俺も止めた。地位を守って藤屋家を発展させるためには、春香もあちこち顔を出すしかないだろう」海人は茶碗を指でゆっくり回しながら、視線を来依の方へと移す。途端に、穏やかな光が目元に差す。しかしその来依は、怨念こもった目で睨んできた。……海人は苦笑するしかなかっ
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1150話
「私……」来依は思わず罵りたくなる衝動を抑えた。最後には、何も言わなかった。口を開けば、どうせひどい言葉しか出ない。……胎教を考えて、やめておこう。紀香は来依が不機嫌になったのを察し、話題をそれ以上続けなかった。海人もこうなるのを予想していたのか、彼女を抱き寄せて優しく宥める。「だから、俺はあいつを助けない。あれは本当にやっちゃいけないことだった。俺、偉いでしょ？」来依は冷めた声で言った。「私があんたを無視してた時、無理やりまとわりついてきたのも、似たようなもんでしょ」「違うよ」海人は彼女の首筋に頬を寄せ、甘えるように言う。「俺はわかってたもん、お前の心の中に俺がいるって」来依は彼を押しのける。「どいてよ、息できない」海人は少し力を緩めたが、それでも彼女を離そうとはしなかった。「そんなに機嫌悪くしないで。何か食べたい物ある？ 買ってくるよ」「いらない」今の来依は、食べ物を楽しむ心境じゃなかった。別に海人に八つ当たりするつもりもないが、ただ心の中がもやもやしていた。「お姉ちゃん、アメあげる」前の席から紀香が手を伸ばしてきた。「前にお姉ちゃんが教えてくれたでしょ。甘い物は気分がよくなるって」来依は受け取って、彼女に微笑んだ。紀香はどう声をかけたらいいか分からず、頭をかいた。「こんなことなら、話さなきゃよかった……お姉ちゃん、今は特別な時期だし、ママの気分が悪いと赤ちゃんブサイクになるって聞いたよ」この話は、来依と南が妊娠初期に冗談交じりに話したことがあった。来依は深く息を吸って、気分を落ち着かせようとする。……けど、やっぱり我慢できずに一言。「やっぱり双子って、強引なところまでそっくりね」海人は、「実は直樹と明日香は、そこまで強引じゃなかった」と言いかけて、やめた。でも由樹は心葉はたしかに強引だった。今は、逆らわない方が正解だ。「そうだよね、だから俺は彼らと仲良くしてないんだ」来依は紀香を見つめ、清孝のことを思い出した。「……やっぱり、類は友を呼ぶのね」海人は心の中でホッとした。……危ない、危ない、自分はギリギリで線から外れてる。でも、来依の次の一言で、それも吹き飛んだ。「やっぱり、権力持ってる男って、みんなクズが多
慌てて元旦那を高嶺の花に譲った後彼が狂った 第1149話
「それだけしか知らないよ」来依はまた柿の種を紀香に渡した。海人はくすっと笑いながら言った。「本当に……誰かがゴシップを知ってると、その人が一番の親友になるんだな」「当たり前じゃない」彼女が堂々と認める姿に、海人の笑みはますます甘くなった。紀香はまた車の床に沈みたくなった。「続きは？」来依が催促する。紀香は口を開いた。「心葉が実の妹じゃないと分かった後、由樹の気持ちははっきりしてきたの。でも心葉は受け入れられなかった。しかも、心珠はずっと彼女に敵意を向けていて、由樹は心葉をかばうばかり。彼女のためなら、本当の妹すらないがしろにする勢いだった。心葉は、それが自分のせいで兄妹関係に亀裂が入るのが嫌だったの。それに彼女は、十数年間も心珠の人生を奪っていた自覚もある。心珠は山奥で育って、ようやく這い上がってきた……その苦労を思えば、やっぱり後ろめたさもあった。だから、高杉家から出て行ったのよ」来依は理解できなかった様子で言った。「……その話と、二人の感情のもつれって、何の関係があるの？それだけで心葉が、由樹をそこまで嫌うようになる？」紀香は頭をかいた。「実はね、心葉は、ずっと兄として接してきた由樹が、ある日突然異性としての好意を向けてきたってことが、受け入れられなかったの」「違う」海人がまた絶妙なタイミングで口を挟んできた。「心葉は、自分が由樹の実の妹じゃないと知る前から、やつの気持ちがおかしいって気づいてた。だからその時点で、すでにやつに対して拒否反応を持ってたんだ」紀香は「へぇ……」と声を漏らした。「そうだったんだ……」来依はちょっと呆れて言った。「あんたって、心珠……じゃなくて、心葉と親友なんでしょ？」紀香は気まずそうに笑いながら、「まあ、親友だけどね。彼女が話したくないことを無理に聞き出したくないし、嫌な気持ちにさせたくないから」来依は顔を横に向け、海人をじっと見つめた。その声はどこか冷たく、沈んでいた。「あんたさ、こんなに詳しく知ってるのに、なんで最初から言わなかったの？わざわざ話の途中に横から差し込んで、自分が一番知ってるって言いたいの？」海人は柿の種を来依の口に入れながら、低く優しい声で言った。「違うよ。ただの補足。より美味しくゴシップを楽しめるようにね」「ま
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