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第285話

作者: 結奈々
柚香は車のドアを閉めると、できるだけ急いで安江の病室へ向かった。

その部屋に近づくにつれて、胸の鼓動がどんどん速くなる。どうしてこんな複雑な気持ちになるのか、自分でもよくわからない。

二分後。

柚香は病室の前にたどり着いた。

母のベッドのそばに座っていたのは、スーツにネクタイ姿の男だった。横顔は整っていて、どこか隙がない。

柚香は足早に中へ入り、できるだけ落ち着いた声で言う。「あなた、誰ですか?どうして私の母の病室にいるんですか?」

男が声に気づいて振り向く。

その瞬間、柚香はようやく彼の顔をはっきりと見た。

監視カメラで見たときよりも、実物のほうがずっと落ち着いていて冷ややかだった。細く黒い目には、数えきれない経験をくぐり抜けてきたような静かな深みがある。全身からも、自然と人の上に立つような威圧感がにじみ出ていた。

これまでいろんな人を見てきた柚香は、ほとんど一瞬で、この男がただ者ではないと確信した。

もし敵なら、かなり厄介だ。

「君の母親の、昔の知り合いだ」

中年の男は口を開いた。そして柚香の顔を見た瞬間、わずかに言葉を止める。瞳の奥に、何か別の感情がよぎっ
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