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幼なじみのために息子の診断を拒んだ夫が狂った

幼なじみのために息子の診断を拒んだ夫が狂った

By:  氏家裕灯Completed
Language: Japanese
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息子は大動脈解離が破裂したため、緊急手術が必要だ。 私の夫は心臓外科の専門医だ。 でも私は、彼には連絡せずそのままタクシーで病院へ向かった。 前の人生では、私が必死に夫にお願いし、夫を救急車に同乗させ、息子を病院に連れてきてもらった。 彼は病院のベッドをすぐに手配してくれた。 けれど、夫はそのとき携帯電話を持ち忘れていた。 ちょうどその頃、彼の幼なじみである山田小梅が心筋梗塞で倒れ、夫に何度も電話をかけたが繋がらず、救急車の中で息を引き取った。 その後、夫は三ヶ月間失踪し、戻ってきたときには何事もなかったかのように振る舞っていた。 息子の誕生日には、夫が料理を作ると提案してきたほどだ。 しかし、その料理には薬が仕込まれていた。 夫は私の首を締めつけながら、私の喉を切り裂いた。 「お前が俺を家に呼び戻さなければ、小梅は死ななかったんだ!お前ら一家は人殺しだ。全員、彼女のために償うべきだ!」 次に目を覚ましたとき、私は息子が心臓病を発症したその日に戻っていた。 今度は夫は小梅からの電話を受け取ることができた。 それなのに、どういう訳か、後に彼が膝をついて私に許しを乞うことになるなんて。

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Chapter 1

第1話

「お義姉さん、あなたたちの気持ちはわかりますけど、本当に空いているベッドは一つもありません」

目の前にいるのは夫の見山直樹の同僚で、今日当直の医師である河口天野だった。

私は転生してからすぐに、車を運転して息子を連れて病院に来た。

だが、天野は息子を見るどころか、科の入り口で私たちをそのまま追い返した。

その間、息子は涙を流し続けていた。

病院に着くまでの道中で、息子はすでに痛みに耐えきれず体力を失っていた。

私の母は焦りながら何度も訴えかけるように叫んだ。

「どうしてベッドがないのよ!そこに空いてるベッドがあるじゃない!先生、そのベッドを使わせてください!」

天野は冷たい表情で答えた。

「あのベッドはすでに予約されています」

母は怒りを露わにした。

「病院のベッドが予約制だなんて、どういうことなの!普通は先着順じゃないの?うちの孫はこんなに重症なのに、ベッドがあっても使わせないなんて、これが医者のすることなの?」

「うるさいな」

天野は冷淡な声で言い放った。

「それにしても、あの子は全然心臓病には見えませんね。それに、うちの病院のベッドがどれほど手に入りにくいか知っていますか?なぜあなたたちが来たことで優先してベッドを用意しなきゃならないんです?」

母への言葉が終わると、天野は私に目を向けた。

「お義姉さん、あまり言いたくないけど、これ以上騒ぐなら警備員を呼びますよ」

天野の怒りをあらわにした顔は、まるで私たちが悪事を働いているかのような表情だった。

短い間に周囲には多くの患者の家族が集まり、次々に非難の声を上げ始めた。

「ここに入院してる人たちだって、みんな長い間待たされてるんだぞ。お前らは何様だ、来た途端ベッドを要求するなんて」

「仮病でここまで来て恥ずかしくないのか?そんなに入院したけりゃ病院を買い取ればいいだろう」

次々と飛び交う罵声。

息子は母の肩にうずくまりながら目を閉じ、汗まみれになり、体全体が痛みで震えていた。

「ママ……おばあちゃん……痛いよ……助けて……」

その言葉が胸に突き刺さり、私の全身を絶望感が覆った。

それでも、天野は息子の病状を信じようとしない。

母は必死に謝りながら言った。

「先生、私が言い過ぎました。お願いですから、まず孫を診てください。もう限界なんです」

しかし、天野は傲慢な態度を崩さず言い返した。

「うちの病院には規則があります。入院手続きが済んでいない患者には対応しません」

母はとうとう感情を抑えきれず、拳を振り上げて殴りかかろうとした。

私は慌ててそれを止めた。

そして天野を見上げて言った。

「天野先生、私の息子は普通の心臓病ではありません。大動脈解離の破裂です。この病気の緊急性は、あなたも知っているはずです。彼にはすぐに入院と手術が必要なんです」

私の真剣な表情に、天野は一瞬無関心な態度を引っ込めた。

しかし数秒後、彼は笑い始めた。

「よく演じられるものだね、高橋汐音。しかし、Googleでその病気を調べたとき、子どもがそんな病気にかかる可能性はゼロに近いって読まなかったの?そもそも直樹が、小梅のベッドを奪うために手段を選ばないって話してたけど、まさか子どもまで利用するとはね。本当に最低だ」

天野の言葉には軽蔑がにじみ出ていた。

生き返った私には、息子の病状の緊急性がわかっている。

成人が大動脈解離を発症する確率は10万分の1。

死亡率はほぼ100%。

そして子どもがこの病気になることはさらに稀だ。

全国でこの手術ができるのは、この科の主任ただ一人だけ。

私は天野に怒りをぶつけるわけにはいかない。

そして、彼に説明している時間もなかった。

痛みに唇が紫色になった息子を一瞥し、胸を締め付ける絶望が私を飲み込んだ。

天野が息子を入院させることはあり得ないとわかっていた。

だから私は、そのままベッドナースのオフィスに走り込んだ。

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