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幼なじみのために息子の診断を拒んだ夫が狂った

幼なじみのために息子の診断を拒んだ夫が狂った

By:  氏家裕灯Completed
Language: Japanese
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息子は大動脈解離が破裂したため、緊急手術が必要だ。 私の夫は心臓外科の専門医だ。 でも私は、彼には連絡せずそのままタクシーで病院へ向かった。 前の人生では、私が必死に夫にお願いし、夫を救急車に同乗させ、息子を病院に連れてきてもらった。 彼は病院のベッドをすぐに手配してくれた。 けれど、夫はそのとき携帯電話を持ち忘れていた。 ちょうどその頃、彼の幼なじみである山田小梅が心筋梗塞で倒れ、夫に何度も電話をかけたが繋がらず、救急車の中で息を引き取った。 その後、夫は三ヶ月間失踪し、戻ってきたときには何事もなかったかのように振る舞っていた。 息子の誕生日には、夫が料理を作ると提案してきたほどだ。 しかし、その料理には薬が仕込まれていた。 夫は私の首を締めつけながら、私の喉を切り裂いた。 「お前が俺を家に呼び戻さなければ、小梅は死ななかったんだ!お前ら一家は人殺しだ。全員、彼女のために償うべきだ!」 次に目を覚ましたとき、私は息子が心臓病を発症したその日に戻っていた。 今度は夫は小梅からの電話を受け取ることができた。 それなのに、どういう訳か、後に彼が膝をついて私に許しを乞うことになるなんて。

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Chapter 1

第1話

億万長者、鷹司誠一郎(たかつかさ せいいちろう)の妻となって二年。ようやく、元婚約者の星野寛祐(ほしの かんすけ)が、私との結婚の約束を思い出したらしい。

私設の邸宅前には、黒塗りの高級車がずらりと並んでいた。運転手たちが次々と荷物を降ろした。ブランド時計、宝石、オーダーメイドのドレス、果てはグランドピアノまで。

寛祐はバラの花びらが舞い散る中で、意気揚々と私に告げた。

「心瑚。言っただろう。咲良さんとの間に子供を作ったのは、兄貴が事故で亡くなり、彼女が義姉として我が家の血筋を残したいと願ったからだと。

赤子が生後一ヶ月を迎えたばかりだ。彼女との約束は果たした。だから、すぐに迎えに来たんだ」

私は温水プールに浸かっていた。産後のリハビリ運動を終えたばかりで、寛祐など構っている暇はない。

寛祐は眉をひそめ、まるで物分かりの悪い子供を諭すような口調で続けた。

「不機嫌なのは分かっている。だが、君は桐生家のお嬢様だ。何一つ不自由していない。夫を亡くしたばかりの咲良さんを、少しは哀れんでやれないのか?

二年待たせたのは悪かったが、俺は今、戻ってきた。三日後に式を挙げる。君がまだ俺を想っているのは知っているさ。でなければ、そんな挑発的なビキニ姿で俺に会うはずがない」

全てを掌握しているかのような彼の態度に、私は思わず笑ってしまった。

「あの人を追い出しなさい。私の水泳の邪魔よ」

馬鹿馬鹿しいにも程がある。

私は鷹司グループの跡取りを生んだばかりで、誠一郎がわざわざ私と子供を帰国させ、両親に顔を見せようとしていたのだ。

まさか、こんなくだらない疫病神に遭遇するとは……

寛祐は、世界限定モデルのアストンマーティンのドアにもたれかかり、まるでこの通り全体が彼の領地だとでも言いたげな、傲慢な姿勢だ。

ゆっくりとサングラスを外し、冷たい眉、深い眼差し、そして嘲笑的な笑みを浮かべた。

「分かったよ」彼はゆっくりと言った。「君は駆け引きをしているんだな。君には君のプライドがある。そして俺には、君が芝居を終えるのを待つ忍耐力がある。

その悪癖は、近づく者全てを攻撃することだ。損をするような真似はしないだろう。

だが、咲良さんは君とは違う。彼女は優しくて善良な性格だ。虐められても、ただこっそり涙を流すだけ。誰かが守ってやらなければならない」

その偽善的な優しさが含まれた口調を聞いて、私の胃がひっくり返りそうになった。

「心瑚。たとえ君と結婚したとしても、俺への愛を言い訳にして彼女を虐めることは許さないよ。俺の心の中では、咲良さんは永遠に君と同じくらい重要な存在なんだ」

二年前なら、この言葉で私は打ちのめされていただろう。

今となっては、ただただ退屈だ。

私は冷静に言い放った。「星野さん。なぜ私が待ち続けていると、そう思い込める?」

寛祐の表情が固まった。

「もしかして、私がもう誰かの女になっているかもしれない、なんて考えたこともないの?」

寛祐は私をしばらく見つめてから、この世で最も滑稽な冗談を聞いたかのように大声で笑い出した。

「誰かの女?俺たちは幼い頃から婚約していたんだぞ。この街の誰もが、君が俺のものだと知っている。この俺の女に、誰が手を出せるってんだ?」

彼は一歩踏み出し、私の身近に近づくと、愛おしむように私の頬に触れた。

「正直に言って、君は美人だが、性格は最悪だ。俺以外に、誰が我慢できる?」

ハァ。これこそが寛祐の本性だ。笑顔の裏に悪意を隠した、傲慢なナルシスト。

「心瑚、俺はこの二年、咲良さんと旅をしていたが、世間の消息に疎いわけじゃない」彼は続けた。「桐生家の商売は以前ほどではない。君と結婚したがる男など、どこにもいない。

君はもう二十五歳だ。俺と結婚しなければ、どうするつもりだ?自分の処女を墓場まで持っていく気か?」

私は冷たく口元を歪めた。

彼の心の中では、私は本当に何の取り柄もない女なのだろう。

私たちは幼馴染で、共に育った。

大学の卒業式の日、彼は皆の前で私にプロポーズし、私たちの物語は誰もが羨む愛のおとぎ話となった。

だが、結婚式の前夜、彼は私を裏切り、亡くなった兄の未亡人を妊娠させたのだ。

私が問い詰めたとき、彼は否定するどころか、堂々と言い放った。

「兄貴が死んで、咲良さんは悲嘆に暮れている。せめて血筋を残したいと願ったのだ。二年待ってくれ。子供が生まれたら、必ず盛大に君を娶る」

私の心は冷え切り、その場で婚約指輪をゴミ箱に投げ捨て、彼の連絡先を全てブロックした。

同年、鷹司グループが開催した盛大なビジネス晩餐会。全国のエリートたちがシャンパンを飲み交わし、権力を交換する場だった。

私は二人のセレブに隅に追い詰められ、婚約者が義姉に奪われたと公然と嘲笑された。

その時、鷹司グループの跡取り、鷹司誠一郎が私の世界に足を踏み入れた。

彼は私の腰に手を置き、鋭い威圧感を放ちながらホール全体を見渡した。

「桐生心瑚(きりゅう ここ)は俺の婚約者だ。彼女を侮辱する者は、俺を侮辱するに等しい」

誰も顔を上げようとはしなかった。私をいじめることなどできなくなった。

その後、誠一郎は私を誰もいないテラスに連れ出し、偽りの婚約を本物にする機会を求めた。

私は受け入れた。

「さて」寛祐の声が私を思い出から引き戻した。「この二年、君は俺をブロックしていたが、分かっている。君はただ俺に意地を張っていただけだ」

彼は私の足元で頭を擦りつけている白いペルシャ猫を指さした。

「そいつは、俺が婚約した年に君に買ってやった猫だ。もし本当に俺と縁を切りたかったなら、とっくに処分していたはずだ。だが、君はそうしなかった。大切に世話をしている。君はまだ俺を愛しているんだ、心瑚。君は俺を待っていたんだ」

その顔に浮かぶ純粋な自信を見て、私は心の中で冷笑した。

この二年間、私は誠一郎と結婚した後、めったに帰国しておらず、猫は両親が飼っていたのだ。

それに、こんなに可愛い命を、失敗した感情のせいで八つ当たりするなんて、ありえない。

彼は私の沈黙を屈服と誤解し、得意げに笑った。

「心配するな。三日後、この街始まって以来の盛大な結婚式を挙げてやる」

私はもう彼と無駄話をする気もなく、近くにあったプール用のホースを掴み、バルブをひねって彼に水を浴びせかけた。

「出て行け!」

彼は全身ずぶ濡れになり、髪から水滴が垂れ、スーツも台無しになったが、それでも笑っていた。

「さすが俺の女だ。二年前と同じくらい情熱的だな。やはり俺にまだ気持ちがあるんだと分かっていたさ」

彼は両腕を広げ、まるで洗礼を受けているかのように言った。

「誓うよ、心瑚。俺は決して君を裏切らない。君と咲良さんは、俺の人生で最も大切な二人の女だ!」
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