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第1037話

Author: 金招き
家族四人でこうしてお出かけするのは、実は珍しいことだった。

香織は、双の髪を優しく撫でながら微笑んだ。

「そんなに嬉しいの?」

双は元気よくうなずいたあと、彼女の胸に顔を埋めた。

「どこに行くの?」

香織は笑いながら、運転席に目を向けた。

「どこに行くのか、パパに聞いてみようか?」

次男も一緒だった為、香織は助手席には座れず、後部座席にいた。

前方には圭介が一人、運転をしている。

「今日は俺に任せて」

圭介は言った。

香織はにこっと微笑んだ。

「わかったわ」

確かに見所は多いが、圭介は既にそれらに飽き飽きしていた。

何より子供が喜ぶ場所ではなさそうだ。

彼は子供向けの場所を探していた。

M国は広大で人口密度も低く、良い場所がたくさんある。

車はしばらく走り続け、いくつかの住宅街を通り過ぎた。

この国の住宅はほとんどが一戸建てで、国内のような窮屈さはない。

住環境だけを見れば――たしかに、ここはとても快適だ。

晋也がここに居着いたのも納得できる。

やがて車が停まった。

周囲は木々に囲まれ、空気も澄んでいた。

車を降りると、圭介は次男を抱き上げた。

とはいえ、次男は大きくなってきて、抱っこされるのを嫌がり、自分で歩きたがった。

しかし小さな体では歩くのも遅く、本当に手がかかる。

圭介でなければ、とても抱えきれないだろう。

香織は一方で、双の手をしっかり握っていた。

夫婦並んで、一人は赤ん坊を抱き、もう一人は子供の手を引いている。

そんな光景は、まさに「幸せな家族」そのものだった。

もし次男が女の子なら、さらに完璧だったかもしれないが、今のままでも十分羨ましがられるに違いない。

「ここはどこ――」

双の言葉は目の前の景色に遮られた。

細い林を抜けると、目の前には透き通った湖が広がっていた。

縁取る緑の草地は広々として平らで、ピクニックに最適な場所だ。

そよ風が吹き、清々しい空気が漂う。

双は香織の手を離し、嬉々として湖へ走り出した。

どうやら野外が好きなようだ。

香織はその背中を微笑ましく見つめながら、ぽつりと呟いた。

「こんなことなら、少し食べ物を持って来ればよかったね」

圭介は彼女に目を向け、冗談っぽく言った。

「なんだか、俺の準備が足りなかったって言ってるように聞こえるけど?」

「違
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