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第929話

作者: 金招き
圭介は沈黙した。

転倒する前は、確かに何の異常もなかった。

たった一度の転倒で、視力を失うなんてことがあるのか?

足の怪我なら、まだ納得がいく。

昏倒する直前、確かに右足に強烈な痛みを感じていたのだ。

「お水を持ってくるわね」

婦人が湯呑みを差し出したが、圭介は飲まずに尋ねた。

「ここはどこだ?」

「D国よ」

「もっと、詳しくは?」

返ってきた地名は、圭介の耳には全く馴染みのないものだった。

D国と言えば、有名な都市なら知っている。

だが、こんな地名は聞いたことがない。

「電話を貸してくれないか?」

圭介は尋ねた。

婦人はきょとんとした表情で、逆に訊ねてきた。

「でんわ……って、何?」

「……」

圭介は言葉を失った。

本当にD国なのか?

電話も知らないというのか?

あり得ない。

いったい何者だ?

圭介は無表情で黙り込んだ。

「ゆっくり休んでね。主人と葡萄狩りに行かなくちゃ」

婦人はそう言うと部屋を出ていった。

圭介は目の前の黒い影が消えるのを感じた。

目を閉じ、再び開いてみたが、相変わらず視界はぼやけたまま。

むしろさらに暗くなり
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