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第981話

Author: 金招き
「あなたは既婚者でしょ?何を恥ずかしがることがあるのよ?」

由美は顎を上げて見上げた。

その瞳を見つめながら、明雄の目の色は徐々に深みを帯び、次の瞬間、ふっと唇を吊り上げた。

「そうだな」

その後、彼は由美に反論の隙を与えず、強く抱きしめながら深いキスをした。

――そのあとは、言うまでもない。

またしても、火がついたように、お互いを求め合う時間が始まった。

まさに、新婚夫婦の日常。

結婚してから、決して短くない時間が経っているが、本当に夫婦になったのは、ほんの数日前のこと。

彼らにとっては、今こそが「新婚」だった。

由美は明雄の肩に頬を寄せながら、ぽつりと呟いた。

「あなたの休暇……もうすぐ終わりじゃない?」

明雄は静かに頷いた。

「……まだ仕事に行ってほしくないか?」

「そうじゃないの」

由美は彼の横顔を見つめた。

「ただ、心配なの」

彼の仕事には危険が伴う。

また何かがあったら――そう思うと、胸が締めつけられる。

彼女は明雄の胸にある手術の痕をなぞった。

「……一緒に、ずっと年を重ねていきたいの」

明雄は彼女をそっと抱き寄せ、優しく囁いた。

「きっとそうなる」

由美は彼の顎を指でつまんで、自分の方を向かせた。

「その言葉、忘れないでよ?嘘ついちゃだめだから」

「誓約書でも書こうか?」

明雄は笑いながら聞いた。

由美はまばたきし、「いい考えね」と言ってベッドから起き上がった。

しかし明雄が彼女の手を引き留めた。

「本当?」

「なにか問題でも?」

彼女は小首をかしげた。

「……分かったよ」

明雄は笑った。

だが、由美は突然動きを止めた。

「紙に書いたらなくしちゃうかも」

彼女は彼の鍛え抜かれた体をじっと見つめながら、いたずらっぽく言った。

「いっそ、あなたの体に彫ってしまおうかしら?」

明雄は呆れたように彼女を見つめた。

「警察関係者だったのに、そんな規律も知らないのか?」

由美は笑いながら、再び彼の胸に身を預けた。

「冗談よ、本気にしないで」

明雄は携帯を手に取り、由美のラインに音声メッセージを送った。

「俺は由美と死ぬまで別れない。約束だ」

由美は笑った。

「この音声、永遠に保存しておくわね。これでもう逃げられないわよ」

その後、珠ちゃんが泣き出し、彼女をあやすのは明雄の
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