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第6話

Penulis: あほう
詩葉のまぶたがぴくりと跳ねた。

彼はいきなり、私を社長アシスタントに昇格させるつもり?

これ、絶対ろくなことにならない気がする……

「社長、私はこれまでアシスタントの仕事なんてしたことがありません。たぶん務まらないと思います……」詩葉は反射的に断ろうとした。

だって今の自分の頭の中は、彼に抱かれたいという思いでいっぱいだったのだ。

もし社長アシスタントになれば、毎日彼の顔を見ることになる。

そんなの、耐えられるわけがない。

蒼空は深い眼差しで彼女を見つめた。「昇進が不満か?」

詩葉は赤い唇を舐める。「その……私は……」

だが蒼空は途中で遮った。「お前は社長か?」

詩葉の笑顔が一瞬固まる。「す、すみません……」

蒼空は有無を言わせぬ口調で命じた。「引き継ぎを済ませろ。明日から社長室勤務だ」

「でも……」詩葉は言葉を濁す。

彼、本当にこれでいいの?

もし私が理性を保てなくなって、勢いで彼を押し倒したらどうするの?

蒼空はわずかに苛立ったように眉を寄せた。「やりたくないなら辞めろ」

詩葉は一瞬呆れた。

小さく頭を下げる。「……分かりました」

蒼空は彼女が了承したと思ったのか、それ以上何も言わずデスクに戻り、再び仕事を始めた。

詩葉は自分の部署に戻った。

悠真の嫌味混じりの詮索も、周囲の同僚たちの好奇の視線も無視する。

席につくなりパソコンを開き、退職願を書き始めた。

不思議なことに、辞めると決めた途端、体の熱も少し落ち着いた。

「ねえ詩葉、社長はなんであなただけ社長室に呼んだの?もしかして気に入られた?」莉央が身を乗り出し、目を輝かせて聞いてくる。

「まさか。相手は社長だよ?私みたいな平凡な女に興味持つわけないでしょ」詩葉はキーボードを打ちながら答えた。

莉央は呆れた顔をする。「どこが平凡なのよ?今月だけであなた宛てのバラ、二十束以上処理してるんだけど?その顔とスタイルなら、社長が一目惚れしても全然おかしくないって!」

――一目惚れ。

詩葉の指が一瞬止まる。

もし本当に社長が自分を好きなら、彼とそういうことをするチャンスもあるのでは?

あの高身長に細い腰、長い脚。

あんな人に抱かれたら、どうなっちゃうんだろう……

――って何考えてるの!?

また症状が出てる!?

詩葉は顔を真っ赤にし、慌てて首を振った。「ありえないから!変な想像しないで、仕事しなさい!」

そう言って再び退職願に集中する。

そして終業前ギリギリで、人事部長のメールアドレスに送信した。

詩葉は荷物をまとめ始める。私物は全部持って帰るつもりだった。

その時、悠真が大量の資料を彼女の机にドサリと置く。

「今日は残業してもらうぞ。これ全部やっとけ」作り笑いを浮かべながら言った。

目の前の資料の山を見て、詩葉は呆れる。

どう考えても、また嫌がらせだった。

悠真は涼子から金を受け取り、自分を「教育」する役目を担っている。

悠真の下で働くこの二年間、理不尽な残業など日常茶飯事だった。

しかも今日は、新社長に名指しで呼ばれた。

当然、悠真の嫉妬と不満を刺激したのだろう。

だが彼は勘違いしている。今までみたいに、好き勝手使われると思ったら大間違いだ。

「桐生マネージャー、もう定時です。すみませんけど、私は帰ります」詩葉は冷たく拒絶した。

悠真は信じられないという顔をする。

いつも従順だった詩葉が、逆らったのだ。

「今日社長室に呼ばれたくらいで、俺を上司とも思わなくなったか!?この部署じゃ俺がルールだ!上司命令に逆らうなら、評価に響くぞ」悠真は顔を歪め、怒鳴り散らす。

詩葉はただ冷淡に彼を見た。「じゃあ、そうしてください」

そう言い捨てると、荷物を抱えたまま振り返りもせず会社を出た。

背後では悠真の怒鳴り声が響いていたが、もう気にするつもりもない。

……

退勤した詩葉は帰宅せず、ぼんやり街を歩いた。

この時間なら、夫の哲也もまだ家にはいないだろう。

結婚してからの一年、二人はほとんど別々に暮らしていた。夕食を一緒に取ることすら少ない。

以前は、彼が元々冷たい性格で、新婚生活に慣れていないだけだと思っていた。

でも今なら分かる。ただ、彼の心が自分にないだけだった。

適当に外で食事を済ませ、家に帰った頃にはかなり遅い時間になっていた。

それなのに哲也は、まだ帰宅していない。

普段どれだけ彼女を避けていても、夜九時までには必ず帰ってきていたのに。

もう十一時近いのに、人影すらない。

詩葉はソファで長いこと迷った末、ようやく勇気を出して哲也に電話をかけた。

「……はい、どちら様ですか?」

長いコールの後、ようやく電話が繋がる。

「……私よ」詩葉の顔が僅かに強張った。

――この人、まだ私の番号登録してないの?

結婚してもう一年になるのに、夫の携帯に妻の連絡先が登録されていないなんて。

そんなの、あり得る?

「何か用?」詩葉だと分かった途端、哲也の声は露骨に冷たくなった。

「もう遅いし……あなた、今日はいつ頃帰ってくるのかなって……」彼女は恐る恐る尋ねた。

電話の向こうで、哲也は数秒黙った。

やがて、不機嫌そうに「ああ」とだけ返す。

……それ、帰るってこと?帰らないってこと?

詩葉は聞き返そうとした。

だがその瞬間、通話終了の無機質な音が響く。

「……」詩葉は言葉を失った。

まさか切られたとは。

彼女は携帯を握ったまま、眉を寄せる。

妻として心配して電話しただけなのに、そこまで鬱陶しがられる?

もう待つのも馬鹿らしくなり、詩葉は浴室に向かって熱いシャワーを浴び、そのままベッドに入った。

それでも哲也は帰ってこない。

その時点で、もう深夜零時近かった。

結局その夜、詩葉は一晩中ほとんど眠れなかった。

浅い眠りの中で、悪夢ばかり繰り返す。

会社では悠真に責め立てられ、次の瞬間には、哲也が自分と離婚して姉の七海と結婚する夢を見る。

詩葉が悪夢から目覚めた時には、すでに朝になっていた。

――そうだ、もう辞表を出したんだから、今日は出社しなくていいんだ。

そう思って再び目を閉じる。

だが昨夜の夢が頭から離れず、どうしても眠れなかった。

しかも体の奥には、また熱が生まれ始めている。呼吸も徐々に乱れていく。

また、欲しくなってる。

詩葉は苦しさを堪えながらベッドを降り、気を紛らわせるため朝食を作ろうとした。

だが隣室を覗き、哲也の部屋が空っぽで、昨夜一度も帰っていないことを知った瞬間、体の熱はさらに強くなった。

また症状が出てしまったのだ。

詩葉は再びベッドに倒れ込み、苦しげに身を捩る。

頭の中では、哲也が帰ってこなかった理由ばかり考えてしまう。

もしかして昨夜、姉の七海と一緒にいたのでは――考えれば考えるほど苦しくなる。

心よりも、むしろ体の方が。

手に入らないほど、欲しくなる。

蒼空から電話がかかってきた時、詩葉はちょうど顔を赤くしていて、本当は電話に出る余裕なんてなかった。

だが誤って指が画面に触れてしまい、そのまま電話が繋がってしまった。

蒼空が口を開こうとしたその瞬間、受話口の向こうから、詩葉の乱れた息遣いが聞こえてきた。

「……何をしているんだ?」
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