老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

老婆令嬢と呼ばれた私ですが、死んで灰になりました。~さあ、華麗なる復讐劇をお見せしましょうか!~

last update最終更新日 : 2026-06-26
作家:  伊藤ほほほ完了
言語: Japanese
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概要

異世界ファンタジー

ミステリー

ハッピーエンド

浮気・不倫

裏切り

天才

ノブルス子爵家の長女マーガレットは、幼い頃から頭の回転が早く、それでいて勉強を怠らない努力家。 婚約者も決まっており、相手はなんと遥か格上の侯爵家で、王都で噂されるほどの美貌の持ち主らしい。田舎貴族のノブルス子爵家にとって、奇跡に等しい縁談であった。 そして二人は結婚し、いつまでも幸せに暮らしましたとさ……と、なればよかったのだが。 新婚旅行の当日、マーガレットは何者かに殺されてしまった。 しかし、その数日後、マーガレットは生き返ることになる。 全財産を使い、蘇りの秘薬を購入した人物が現れたのだ。 信頼できる仲間と共に復讐を誓い、マーガレットは王国のさらなる闇に踏み込んでいく。

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第1話

プロローグ

むかしむかし。

杖をつく一人の老婆が、街角でひとりの青年とぶつかり、地面に倒れてしまった。

膝を痛め、自力では立ち上がれない。

だが青年は手を差し伸べるどころか、冷たい言葉だけを浴びせ、そのまま去っていった。

そのときだった。

通りに、きらびやかな馬車が静かに止まる。

中から降り立ったのは、高潔な王子だった。

王子は、老婆の汚れた身なりに眉一つひそめることなく、その身体を優しく抱き起こす。

そして治療院へ運ぶため、当然のように自らの馬車へと乗せた。

温かな手が触れた、その瞬間。

奇跡が起きた。

老婆の姿は眩い光に包まれ、白い髪は艶やかな黒髪へと変わっていく。

皺だらけの肌はみるみる若さを取り戻し、やがてそこに現れたのは、息を呑むほど美しいひとりの令嬢だった。

老婆の正体は、悪い魔女に呪いをかけられた公爵家の令嬢。

その魔法を解く鍵は、見返りを求めない優しさだった。

令嬢はすぐに王子に恋をした。

そして二人は、いつまでも、いつまでも幸せに暮らしました――。

それは、『老婆姫』という物語だった。

マーガレットが幼い頃から何度も読み返してきた、大好きな物語である。

本を開くたび、彼女は主人公の令嬢に自分を重ねていた。

人は老いれば、やがて髪も白くなる。

だが、この国でただひとり、生まれながらに白い髪を持っていたのは彼女だった。

その容姿ゆえに、老婆令嬢と蔑まれる。

王都から遠く離れた田舎子爵家の娘である自分にも、いつか幸せは訪れるのだろうか。

そんな淡い期待と諦めの入り混じった思いを胸に、彼女は日々を過ごしていた。

だが、その日常はある日を境に一変する。

婚約者が決まったのだ。

相手は、その美貌と薄紫の髪から“藤の貴公子”と呼ばれ、社交界の中心に立つ男。

王都でも強い発言力を持つファーブリック侯爵家の一人息子、キルエン・ファーブリック。

あまりにも釣り合わない相手だった。

まるで、自分だけが『老婆姫』の物語の中へ迷い込んでしまったかのようだった。

ついに王子様が迎えに来てくれたのだ、と。

眩いほどに輝く幸福な未来を夢見て、こんな奇跡があってもいいのかと神に感謝した。

――あのときまでは。

愛に裏切られ、彼女が殺されてしまう、その瞬間までは。

結婚式を終え、いよいよ新婚旅行へ向かう日がやって来た。

行き先は、ランダーク伯爵家が管理する温泉地だという。

山間に抱かれた小さな観光地。

朝霧に濡れた木々の香りが漂い、湯けむりが屋根の隙間から立ちのぼる、静かな町――そう聞かされていた。

新婚旅行と聞けば、誰もが幸福に満ちた旅路を思い浮かべるだろう。

だが、そのときのマーガレットにとって、その言葉は重苦しい響きしか持たなかった。

胸の奥には、冷えた石のようなものが沈んでいる。

それはじわじわと重さを増し、胃の底にまで鈍い圧迫感を広げていた。

愛情の欠片もないまま、夫婦として旅をする。

それはもはや旅ではなく、光の差さない檻に閉じ込められることと何も変わらない。

その理由は、結婚式の披露宴――ダンスパーティの最中にまでさかのぼる。

豪奢なシャンデリアが光を砕き、きらびやかな輝きが会場全体を包み込んでいた。

その華やかな世界の中心で、マーガレットはキルエンと踊っていた。

腰を抱かれ、彼の導きに合わせて一歩ずつステップを踏む。

練習してきたはずの踊りなのに、心はどこまでも重かった。

笑顔を作ろうとしても、胸の奥では拭えない違和感が渦を巻き続けている。

婚約の儀式では、夫が妻に口づけを捧げる。

だが彼女の唇は最後まで触れられることがなかった。

勇気を振り絞り、マーガレットは問うた。

どうしても確かめなければならないことだった。

「あなたは口づけを避けた。私を愛する気などなかったのですね」

返ってきたのは、あまりにも軽い言葉だった。

――なんだ、そんなことを気にしていたのか。僕らは夫婦になったんだ。これから何度でもすることになるじゃないか。

こんなに近くに立っているのに。

彼のアメジストを思わせる美しい瞳は、マーガレットではなく、どこか遠くばかりを見ていた。

その瞬間、悟ってしまったのだ。

国王の前で誓った愛も、優しい微笑みも、すべて偽りだったのだと。

そこまで思い返せば、ため息が漏れるのも無理はなかった。

屋敷は驚くほど静かだった。

その静けさが、かえって心の暗さを際立たせる。

「……気が重い」

小さく漏れた声は、広い室内に吸い込まれるように消えていった。

屋敷の使用人たちは、皆休暇を与えられていた。

結婚式の後は、新郎新婦に感謝を捧げつつ、その余韻に浸る。

それが古くから続く貴族の習わしなのだと、昨日メイドのサーシャがにこやかに説明していた。

だが、いまの彼女にとって、その風習に有り難みなど微塵もなかった。

さらに追い打ちをかけるように、義母には急ぎの重要な仕事が入り、一人では対処できないため義父も同行することになったという。

朝早く、馬車へ乗り込む二人を見送った。

石畳を打つ馬の蹄の音だけが遠ざかっていき、やがて虚しく消えていく。

それで、屋敷にはキルエンと二人きりが残された。

まるで廃屋に迷い込んだようだった。

空気はひんやりと肌に貼りつき、物音ひとつしない。

もぬけの殻とは、まさにこういう状態を指すのだろう。

「さて……準備を始めましょうか」

マーガレットは鏡の前に立ち、旅支度を整えていく。

黒いプリーツスカート。

レースで縁取られた白いブラウス。

そこへ、晴れ渡る空を思わせる空色のスエードのコートを羽織る。

首元には黒いスカーフをふんわりと巻き、口元を隠した。

足元は同色のショートブーツ。

さらに毛糸の帽子をかぶり、最後にサングラスで目元まで覆い隠す。

それは、普段の彼女とはまるで違う装いだった。

藤の貴公子が結婚したことで、噂は平民にまで広がり、王都は大騒ぎになっている。

だから新婚旅行では、二人だと気づかれない服装にしよう――そう言ったのはキルエンだった。

その言葉を受けて、メイドのサーシャが慌てて揃えてくれた服である。

鏡に映る自分は、見慣れたマーガレットではない。

別人の真似をしているようで、どうにも落ち着かなかった。

そして――彼女が覚えているのは、そこまでだった。

このあたりの記憶は、どれもひどく曖昧だ。

ただ、ひとつだけ確かなことがある。

マーガレットは、その新婚旅行の日に殺された。

そして一か月後、蘇りの秘薬によって再び生を得たのだ。

これは、失われた記憶をたどる物語。

愛そうと努力した夫に裏切られたひとりの女が、やがて激しく歪んだ執着を向ける伯爵に見初められ、再び愛という感情を知っていく物語である。

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むかしむかし。 杖をつく一人の老婆が、街角でひとりの青年とぶつかり、地面に倒れてしまった。膝を痛め、自力では立ち上がれない。 だが青年は手を差し伸べるどころか、冷たい言葉だけを浴びせ、そのまま去っていった。そのときだった。 通りに、きらびやかな馬車が静かに止まる。中から降り立ったのは、高潔な王子だった。 王子は、老婆の汚れた身なりに眉一つひそめることなく、その身体を優しく抱き起こす。 そして治療院へ運ぶため、当然のように自らの馬車へと乗せた。温かな手が触れた、その瞬間。 奇跡が起きた。老婆の姿は眩い光に包まれ、白い髪は艶やかな黒髪へと変わっていく。 皺だらけの肌はみるみる若さを取り戻し、やがてそこに現れたのは、息を呑むほど美しいひとりの令嬢だった。老婆の正体は、悪い魔女に呪いをかけられた公爵家の令嬢。 その魔法を解く鍵は、見返りを求めない優しさだった。令嬢はすぐに王子に恋をした。 そして二人は、いつまでも、いつまでも幸せに暮らしました――。それは、『老婆姫』という物語だった。 マーガレットが幼い頃から何度も読み返してきた、大好きな物語である。本を開くたび、彼女は主人公の令嬢に自分を重ねていた。 人は老いれば、やがて髪も白くなる。 だが、この国でただひとり、生まれながらに白い髪を持っていたのは彼女だった。その容姿ゆえに、老婆令嬢と蔑まれる。 王都から遠く離れた田舎子爵家の娘である自分にも、いつか幸せは訪れるのだろうか。 そんな淡い期待と諦めの入り混じった思いを胸に、彼女は日々を過ごしていた。だが、その日常はある日を境に一変する。婚約者が決まったのだ。相手は、その美貌と薄紫の髪から“藤の貴公子”と呼ばれ、社交界の中心に立つ男。 王都でも強い発言力を持つファーブリック侯爵家の一人息子、キルエン・ファーブリック。あまりにも釣り合わない相手だった。 まるで、自分だけが『老婆姫』の物語の中へ迷い込んでしまったかのようだった。ついに王子様が迎えに来てくれたのだ、と。 眩いほどに輝く幸福な未来を夢見て、こんな奇跡があってもいいのかと神に感謝した。――あのときまでは。愛に裏切られ、彼女が殺されてしまう、その瞬間までは。結婚式を終え、いよいよ新婚旅行へ向かう日がやって来た。 行
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1.老婆令嬢と婚約写真
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