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第3話

Author: また溺愛されちゃった
離婚協議書を作るなら、まず財産関係を洗い出さなければならない。玲司の会社の半分は、私が時間も情熱も注ぎ込んで築いたものだ。すべてを手放して追い出されるつもりなど、少しもなかった。

翌朝、私はいつもどおり、自分が共同経営するデザイン事務所へ向かった。

第一線から退いた今も、事務所の共同経営者であることに変わりはない。ただ、現場の案件からは長いあいだ離れていた。

席に腰を下ろして間もなく、若い受付スタッフが何とも言えない顔で駆け込んできた。

「薫さん、受付に久世様と林様がお見えです。赤ちゃんの部屋のデザインを、ぜひ先生にお願いしたいとのことです」

マウスを握る指が止まった。胸の底から、冷たい笑いがこみ上げる。

玲司。いったい、どこまで私を踏みにじれば気が済むの。

応接室の扉を開けると、依美は玲司にもたれかかり、手にしたデザインカタログをめくっていた。

こちらに気づいた途端、依美は立ち上がった。満面の笑みをたたえ、待ちかねていたように歩み寄ってくる。

「薫さん、来てくれたんですね!

玲司さんが、薫さんはこの街で一番腕のいいデザイナーだって。私たちの新居、とくに赤ちゃんの部屋は、どうしても薫さんにお願いしたいんです」

依美は「赤ちゃん」だけをことさら強く口にし、挑発するような目を私に向けた。

玲司はソファに腰かけたまま、落ち着き払った顔で私を見た。「薫、この家は、依美が出産まで静養できるよう俺が買ってやったものだ。

大きな仕事を受けたがっていただろう?デザイン料は相場の2倍払う」

施しでもくれてやるような、その顔。見ているだけで胃の奥がひっくり返りそうになる。

「さすが久世社長、気前がいいですね」冷たく口元をゆがめた。「でも残念ながら、私のデザイン料はあなたに払える額ではありません。

それから、うちの事務所では、不倫中のお二人からの依頼はお受けしておりません」

玲司の顔が一気に険しくなった。「薫、いい加減にしろ。俺がここまで折れて、歩み寄ってやっているんだぞ!」

「それが歩み寄り?」まっすぐ目を見返した。「玲司、お金さえ出せば、私があなたにすがって許すとでも思ってるの?」

それを見た依美の目がみるみる潤んだ。玲司の袖をつかみ、声を詰まらせる。

「玲司さん、怒らないでください。私が悪いんです。薫さんを不快にさせてしまって。

別の方を探しましょう。これ以上、薫さんを困らせたくありません……」

「依美、大丈夫だ」玲司は心配そうに、その手をそっとたたいた。だが、こちらを見る目には怒りがにじんでいる。

「薫、俺が業界にひと言言えば、おまえは二度と仕事を受けられなくなる。それでもいいのか?」

「いいわ。やってみれば?」一歩も引かず、その視線を受け止めた。

そのとき、依美が不意に短い声を上げた。腹を押さえてしゃがみ込み、顔からみるみる血の気が引いていく。

「玲司さん……お腹がひどく痛い……出血したみたい……」

玲司の顔色まで変わった。依美を急いで抱き上げ、立ち去る間際、憎しみのこもった目で私をにらみつける。

「薫、もし俺の子に何かあったら、絶対に許さない!」

2人の背中が遠ざかるのを、冷めた目で見送った。それから振り返り、清掃スタッフに声をかける。

「消毒液を持ってきて。応接室の床を3回、きれいに拭いてください。汚らわしいから」

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