เข้าสู่ระบบ私が支援を続けていた女子大生から届いたのは、妊娠を告げ、どうすればいいかと助けを求めるメッセージだった。 彼女はまだ大学2年生。私は、まず学業を大切にするよう諭した。 ところが、返事を送り終えたあと、彼女からの連絡はぱったり途絶えた。その後、何度メッセージを送っても、既読がつくことはなかった。 それからしばらくたったある日、足をくじいた私は、親友に付き添ってもらい、病院へ向かった。 産婦人科の前で寄り添う若いカップルを見つけると、親友はその姿を指さし、うらやましそうにこぼした。 「旦那さんがそばにいたら、あんただって、きっとあんなふうに大事にしてもらえたのにね。 まったく、何を考えてるんだか。わざわざあんな遠い異国へ行くなんて」 私は顔を上げることもなく、何でもないことのように答えた。 「私たちの未来のためだもの。責める理由なんてないわ。心のどこかに私がいるなら、それで十分」 やがて帰ろうと向きを変えた、そのときだった。先ほどのカップルと正面から鉢合わせた。男は若い女性をそっと抱き寄せ、優しい声でなだめている。 「依美、もう少しだから。今回の健診が終わったら、あの限定バッグを買ってあげる」 その瞬間、全身の血が凍りついた。私はその場に立ち尽くし、一歩も動けなかった。 そこにいたのは、遠い異国にいるはずの夫、久世玲司(くぜ れいじ)だ。 しかも、彼が大事そうに抱き寄せているのは、私が支援してきた女子大生、林依美(はやし えみ)だ。
ดูเพิ่มเติม玲司の顔がぱっと明るくなった。急いで手を拭き、置いていかれまいと私のあとをついてきた。向かったのは、病院の屋上。夜風は肌を刺すほど冷たく、思考だけが澄んでいった。「薫、やっと俺と話してくれるんだな」玲司は両手を擦り合わせながら、期待と不安の入り混じった目を向けてきた。「お義父さんの容体はもう安定した。専門医が……」「玲司」その先を断ち切り、バッグから作り直した離婚協議書と離婚届を取り出した。2通の書類を、玲司の目の前へ差し出す。「ここに署名して。これが最後よ。今度も拒むなら、明日、家庭裁判所に離婚調停を申し立てる」玲司の口元に浮かんでいた笑みが、音もなく固まった。差し出された二つの書類を呆然と見つめている。先ほどまで宿っていた光が、瞳の奥から少しずつ消えていった。「どうして……?」喉の奥で声が震えた。「俺は、もう変わろうとしてる。金だって全部渡した。毎日、罪を償おうとしてる……それなのに、どうして許してくれない?」「一度壊れたものは、もう元には戻らない。今さら愛していると言われても、私の心は動かない」声は、自分でも驚くほど穏やかだった。まるで今日の天気を告げているかのように。「あなたがいましているのは、私のためじゃない。自分を慰めているだけ。だから、どれほど尽くされても私の心には届かない。あなたの顔を見るたびに、林依美を大事そうに抱き寄せていた姿を思い出す。彼女のために、父の治療費を止めたことも。もう、私を解放して。あなたも、自分を解放して」玲司は血走った目をそらそうとしなかった。やがて、こらえきれなくなった涙が目尻を伝った。張りつめた沈黙が続いた。やがて玲司は、震える手で書類を受け取った。署名欄に目を落としたまま、ペンを握る指はいつまでも動かない。ペン先にたまった黒いインクが、紙の上へじわりと広がっていく。傷を重ね、ぼろぼろになった私たちの5年間そのものに見えた。「薫……」最後の望みにすがるように、玲司が顔を上げる。「これに署名したら、俺たちは……本当に終わりなのか?」「そうよ」答えは、考えるより先に口をついて出た。玲司は固く目を閉じた。頬を伝った涙が、離婚協議書に重い染みをつくる。長く息を吸い込み、玲司はついにペンを下ろした。離婚届と協議書の署名欄へ、自分の名を1画、
依美との騒動が片づいて、玲司はようやく、妻である私の存在を思い出したらしい。それからというもの、彼は血眼になって私を探し始めた。電話もメッセージも止まらず、ついには父と母の入院する病院で待ち伏せるようになった。母の検査に付き添った、ある日のこと。病院の正面玄関を出ると、降りしきる雨の中に玲司が立っていた。傘も差さず、頭の先から靴までずぶ濡れになっている。いつもは一分の隙もなく整えている髪が、いまは雨に乱され、額へ張りついている。目は赤く血走り、やつれた顔にかつての面影はない。私を見つけた途端、沈んでいた玲司の瞳に光が戻った。足をもつれさせながら駆け寄り、両腕を伸ばしてくる。その腕が届くより早く、私はすっと1歩退いた。冷えきった目だけを向ける。行き場を失った両手が、宙で止まった。雨に濡れた唇から、すり切れたような声がこぼれる。「薫……俺が悪かった。本当に、悪かったと思ってる。俺は目が曇ってた。あの女の嘘に、まんまと踊らされたんだ。おまえを信じなかったことも、お義父さんの治療費を盾に脅したことも……全部、俺が間違ってた」玲司は胸元から、水を吸って重くなった書類袋を取り出した。小刻みに震える手で、それを私へ差し出す。「会社の株式の80パーセント、それから俺名義の不動産も車も、すべて薫に移すための書類だ。離婚しないでくれるなら、俺の命だって差し出す」なりふり構わずすがる玲司を見ても、胸の内は驚くほど静かだった。怒りも、もう残っていない。底の見えない疲れと嫌悪だけが、冷たく沈んでいた。「玲司、いまこんなことをしているのは、私を愛しているからだと思う?」「愛してる!」すがるように、玲司は何度も激しくうなずいた。私はその目をまっすぐ見返し、一言一言、突きつけるように言った。「違う。それは私への愛じゃない。誰かにいいように利用された愚か者だったと、認めたくないだけ。詐欺師のために自分で完璧な人生を壊した。その事実から目をそらしたいだけよ。今さら私にすがるのも、罪悪感を軽くしたいから。まだ自分を必要とする人がいると、確かめたいだけ」打たれたように、玲司の全身がびくりと跳ねた。顔から血の気が引き、必死に首を振る。「違う!薫、本当に愛してるんだ!5年も一緒にいて、おまえはあんなにも苦労をともにしてくれた。愛し
離婚協議書の署名欄は、空白のままだった。玲司はまだ、私の言葉をただの脅しだと決めつけていたのだ。そして1週間後。会社恒例のパーティーが幕を開ける。共同創業者である以上、私も当然、招待客の名簿に入っていた。それでも玲司は、私が姿を見せるはずはないと思い込んでいたらしい。真紅のオートクチュールドレスをまとい、会場の光を浴びながら歩み入る。私を見た玲司は一瞬、驚いたように目を奪われた。だが次の瞬間、不快そうに眉をひそめる。依美も来ていた。ゆったりした白いドレスに身を包み、相変わらず可憐でか弱い女を装っている。視線が合った一瞬、依美の瞳に嫉妬が走った。だが、すぐに従順そうな笑みで塗り隠し、玲司の腕に自分の腕を絡めて近づいてくる。「薫さん、今日はとてもきれいですね。玲司さんから、こういう場はお好きじゃないと聞いていたので、来ないと思っていました」ワイングラスを手に取り、一口だけ飲んだ。依美には視線すら向けなかった。玲司が私にだけ届く声で警告した。「薫、今日は大事な取引先が大勢来ている。面倒を起こすな」グラスの縁越しに、わずかに笑う。「ご心配なく、久世社長。今日はとっておきの贈り物を届けに来ただけです」宴が半ばにさしかかるころ、玲司は壇上へ上がった。スポットライトを一身に浴び、会社の明るい未来をよどみなく語っていく。その声にも立ち姿にも、揺るぎない自信がにじんでいた。乾杯しようとしたそのとき、背後の大型スクリーンの映像が突然乱れた。用意されていた会社紹介映像が消え、代わりに鮮明な動画と大量のメッセージ履歴が映し出される。どよめきが波のように会場を駆け抜けた。スクリーンの中では、依美がバーで若い男と口づけを交わしている。画面に残る日付は、玲司が長期の海外出張へ出てから2か月目を示していた。続いて現れたのは、依美が「親友」と呼ぶ相手とのメッセージ画面だった。【玲司さんってほんと、ちょろい。ちょっと泣いただけで、数百万円のバッグを買ってくれた】【妊娠?誰の子かなんて私だって知らない。でも時期さえ合わせれば、玲司さんの子ってことにするのが一番得じゃない?】【奥さんには子どもができないんだし、あの人がこの子を手放すわけないでしょ】【子どもが生まれたら、あのおばさんを追い出して、久世家の財産は全部私のも
母は救急処置室へ運ばれた。幸い処置が間に合い、どうにか一命を取り留める。病床に横たわる母の顔は青白く、ひどくやつれていた。その枕元でスマートフォンを握り、大学時代の先輩で弁護士の拓海へメッセージを送る。【……離婚協議書の案はできましたか?財産分与では一歩も譲りません。合意しないなら、すぐ離婚調停を申し立ててください】拓海から返事が届いた。【お二人の財産関係は複雑だ。遅くとも3日でまとめる】約束の3日後。出来上がった離婚協議書を手に、私は玲司の会社へ乗り込んだ。場所を選び、内装を整え、最初の取引先をつかんだのも私だ。今の規模に成長するまで、この会社のすべてに私が関わってきた。なのに今、その入口で受付係が私の行く手をふさいだ。「薫様、久世社長は会議中です。お通しできません」「私はこの会社の共同創業者よ。あなたに止められる筋合いはないわ」受付係の制止を振り切り、社長室まで一直線に進む。そのままドアを勢いよく押し開けた。デスクの奥では、依美が玲司の膝に腰を下ろし、一切れのケーキを互いの口へ運んでいる。私の姿を認めるや、依美は小さく悲鳴を上げた。あわてて玲司の膝から離れ、その背後へ逃げ込む。玲司が険しい顔で立ち上がる。「薫、正気か?誰が勝手に入っていいと言った?」玲司の怒鳴り声を無視して、手にしていた離婚協議書をデスクへ叩きつけた。ばさりと書類が床へ散る。その中で「離婚」の二文字だけが、玲司の視線を縫い止めた。「署名して」冷え切った目で玲司を射抜く。「その不倫相手を連れて、私の前から消えて」床の書類へ目を落とした玲司の口元が、やがて皮肉にゆがんだ。ふん、と鼻で笑う。拾い上げた協議書を、内容も確かめず真ん中から破り、そのままごみ箱へ放り込んだ。「薫、いいかげんにしろ」ゆっくり距離を詰めてきた玲司が、頭上から私を見下ろす。「こんな駆け引きをして、面白いか?知らないとでも思ったのか?お義父さんの治療費はもう支払っておいたし、お義母さんには評判のいい介護スタッフも手配した。こんな紙切れを持ってきたのも、俺に頭を下げさせたいだけだろう」頬へ伸びてきた手を、私は顔をそむけて避けた。触れられると思うだけで、全身がぞっとする。拒まれても玲司は腹を立てない。それどころか、口元には勝ち誇ったような笑み