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絶頂と崩壊

Author: 中岡 始
last update Huling Na-update: 2025-08-17 10:09:48

湯浅の腰がゆっくりと動きを変えた。

奥を擦るたびに、藤並の身体は微かに震えた。

逃げたいのに、逃げられない。

もう、どこにも逃げ道はなかった。

「っ……」

かすれた吐息が、喉の奥から漏れた。

身体の奥が、じんわりと熱くなっていく。

湯浅の手が、藤並の髪を撫でている。

それだけで、背中が痺れたように震えた。

「律さん……」

唇が勝手に名前を呼んだ。

止めようとしても、声が出てしまった。

湯浅は、何も言わなかった。

ただ、動きを変えずに、藤並の中をゆっくりと突いている。

優しく、でも逃げられない深さで。

「社長のときは、何も感じなかったのに」

心の中で、藤並はそうつぶやいた。

あのときは、身体を差し出すことは、ただの取引だった。

何も感じなかった。

感じないようにしていた。

感じたら壊れるから、心を閉じていた。

でも、今は違う。

湯浅の動きに合わせて、身体が勝手に反応してしまう。

脚がまた湯浅の腰に絡んでしまっている。

自分で解こうともしなかった。

「もう、商品ではいられない」

その事実が、胸の奥を締めつけた。

「身体が、生き返ってしまった」

それが、一番怖かった。

美沙子に抱かれているときのように、無になっていれば楽だったのに。

湯浅の手が、藤並の髪を撫でながら、腰の動きを早める。

そのたびに、奥を擦られて、身体が跳ねた。

「っ、律さん……」

喉の奥が震える。

息が詰まりそうだった。

「いいよ。出していい」

湯浅の声が耳元に落ちた。

その声に、胸の奥が熱くなった。

「やだ……やだ、のに……」

泣きそうな声が喉の奥で揺れた。

けれど、もう止められなかった。
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