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第5話

Author: にゃー
木の下にどれほど座っていたのか分からない。

やがて背後から、ハイヒールが地面を軽く叩く音が聞こえてきた。

真帆は紗良の前まで来ると、勝ち誇った笑みを隠そうともせず、見下ろすように彼女を見た。

「この前、奏人くんが結婚式に乗り込んできたとき、紗良さんがいたの、見えてたよ。人混みの後ろに隠れて、つらかったでしょう?」

紗良は何も言わず、頬の涙をゆっくり拭った。

「本当は、とっくに分かってたんでしょう?私、がんなんかじゃないの。奏人くんが私をそばに置いてるのは、私のことが好きだから。私がいないと駄目だから」

真帆はしゃがみ込み、紗良と目線を合わせた。

蜜のように甘い声には、毒が混じっていた。

「奏人くんは、二人とも愛してるって言った。でも見て。あなたたちの未来は捨てたのに、私との願いはここに埋めた。紗良さん、あなたの完敗よ」

紗良は顔を上げ、真帆の化粧の整った顔を見た。

わざと自分に似せたことで、どこか面影はある。

けれど中身があまりにも違うせいで、その顔はひどく見知らぬものに見え、嫌悪感さえ覚えた。

急に、ひどく疲れた。

もう一言も口にしたくないほどに。

「話は終わった?」

紗良の声はかすれていた。

「終わったなら、消えて」

真帆の笑みが消え、代わりに険しい色が浮かんだ。

「何様のつもり?私に消えろなんて言える立場?消えるべきなのは、あなたでしょう!奏人くんをいつまでも独り占めしてるくせに!」

真帆は勢いよく立ち上がると、紗良を強く突き飛ばした。

もともと脚が不自由な紗良は、とっさに踏ん張ることもできず、後ろへ倒れた。

後頭部を、背後に積まれていたレンガへ強く打ちつける。

鈍い音が響いた。

温かい液体がたちまち髪を濡らし、首筋を伝って流れ落ちた。

そのまま、深い闇にのみ込まれた。

再び目を覚ますと、目に入ったのは、見慣れた病院の真っ白な天井だった。

後頭部が裂けそうに痛んだ。

紗良が苦労しながら指先を動かすと、ベッド脇にいた人物がすぐに気づいた。

「紗良!目が覚めたのか?!」

奏人が勢いよく顔を上げた。

充血した目には、大きな喜びと安堵が浮かんでいた。

「やっと目を覚ました……どれだけ心配したと思ってるんだ。あんなに血が出て……医者には、もう少し遅かったら、もしかしたらって……」

奏人は声を詰まらせ、最後まで言えなかった。

ただ、紗良の手をさらに強く握った。

その掌は熱かった。

紗良は、奏人の顔に浮かぶ本物の恐怖と安堵を見つめた。

一瞬だけ、昔に戻ったような気がした。

紗良が病気になるたび、一晩中眠らずにそばにいてくれた、あの頃の奏人に。

だが、そのわずかな温もりも、すぐに現実に凍りつかされた。

「紗良、誰に突き飛ばされた?誰がこんな目に遭わせたんだ?必ず代償を払わせる」

奏人は振り返り、そばに立っていた秘書へ低い声で命じた。

「調べろ。すぐに学校の防犯カメラを確認して、その場にいた人間にも全員話を聞け。俺の大切な人に手を出したことを、必ず後悔させる」

秘書はすぐに答えた。

「はい、朝倉社長」

ほどなくして、秘書は慌ただしく戻ってきた。

奏人の耳元で、声を潜めて何かを伝えた。

奏人の顔に浮かんでいた怒りが、たちまち固まった。

眉を強く寄せ、その目には驚きと信じられないという色、そしてわずかな迷いが浮かんだ。

病室に、不自然な沈黙が落ちた。

紗良の心は、少しずつ沈んでいった。

奏人を見つめ、静かに尋ねた。

「分かったの?」

奏人は口を開いたが、何も言えなかった。

そのとき、病室の扉が勢いよく開いた。

目を真っ赤にし、顔を涙で濡らした真帆が、よろめくように飛び込んできた。

そのまま紗良のベッドの前に膝をついた。

「紗良さん、ごめんなさい!本当にごめんなさい!わざとじゃなかったの!」

真帆は息もまともにできないほど泣きながら、紗良の手をつかもうとした。

だが、紗良は避けた。

「私、あのとき……ただ、かっとなって……紗良さんがつらそうだったから、慰めようと思ったの。でも……消えろって言われて、腹が立って……あんなに強く押すつもりじゃなかった!転ぶなんて思わなかったの!本当にごめんなさい……殴っても、怒鳴ってもいい。何でもするから!」

真帆は涙に濡れた顔を上げ、すがるように紗良を見た。

それから奏人へ顔を向けた。

「奏人くん、私を怒って。罰を受けるから。私が悪かったの……でもお願い、私を追い出さないで……私にはもう何もないの。奏人くんしかいない……奏人くんのそばを離れたら、私、本当に生きていけない……」

真帆は涙を流しながら、恐怖と興奮で小さく震えていた。

見るからに痛々しく、哀れに見えた。

奏人は床に膝をついて泣く真帆を見つめ、眉を寄せた。

その目には、明らかな痛ましさと、突き放しきれない気持ちが浮かんでいた。

喉を鳴らしてから、紗良へ視線を向ける。

その口調には、なだめるような響きがあった。

「紗良、真帆も反省してる。それに、お前も知ってるだろ。体も弱いし、医者には、もう長くないと言われてる。今回のことは……これで終わりにできないか?真帆は、やっぱり……」

「やっぱり何?」

紗良は奏人の言葉を遮った。

その声は、不気味なほど静かだった。

奏人の目をまっすぐ見つめながら、言った。

「あなたにとって何より大切な人だから、誰にも責めさせられない。そういうこと?」

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