LOGIN「キレイだよ」 構図は、この間とそう変わらない。 違うとすれば寝室の隅でじっと探るように俺たちを見つめているリナちゃんと、俺の目の前でバスタオル一枚を身に纏ったエリーが。「あ、う……」 戸惑ったように、照れたようにそっぽを向いて頬を染めているあたりだろう。「どうした? ここは、それほどでもない、とかありがとう、とか言って余裕を見せるところじゃないのか?」 「も、もう……本当に、あなたはいぢわる、ね」 揶揄うように言ってみればエリーが頬を膨らませた。 そうとも確信犯だ。 今の彼女にそんな余裕がない事なんて流石にわかっている。「きゃっ」 「悪かったよ。俺もなんだかんだ緊張してるんだ、許して欲しい」 出来るだけ優しくベッドへと押し倒す。 緊張しているって言うのは嘘じゃない。 エリーが感情を消して……と言うか、平坦でいることで本来の感情の動きを偽っていたように。 俺もまた、無自覚でプロとしてふるまうことでそう言った感情を無視できていた。「……嘘」 「だと思うか?」 恨みがましそうな目を向けられてしまったよね。 本当だよってのを伝えるために、エリーの手を取って俺の胸へと手のひらを当てれば。「あっ」 「本当、だろう?」 バクバクと緊張で跳ねている鼓動が伝わった。 伝わったから、嘘じゃないとわかったからだろう。「あ、う、うぅ……」 エリーの羞恥がより一層高まってしまったようで、頬の赤らみは顔中に広がった。「わかるよ、本当に」 「だ、だい、ち……?」 リナちゃんには聞こえないよう、エリーの耳元へ唇を寄せる。「コレが、お互い武器であり防具、だったもんな」 「……」 自分が手にしているものだから、纏っているものだから。 武器として通用してもしなくても仕方ないで割り切れるし、防具だから自分の心や気持ちにまで響かない。「剥き出しの心ってのか、感情って言うのか……やっぱり、俺も少し怖いよ」 「ダイチ……」 エリーだから、エリー相手だから言えることだろうこれは。 こと、素の自分ってヤツを育てられなかったから。 弱いまま、強い武器や防具を手にしてしまったから。「本当に、あなたは」 「うん?」 不意に、伸し掛かった俺をエリーが下から優しく抱きしめて来た。「愛しい人、ネ」 「……ありがとう」 一瞬
リナちゃんが望むのならそうするだけだ。 と言えば他責思考が過ぎるなのだろう、あるいは今までならそう言っていた。 あるいはそう言った自分の割り切り方や無自覚な部分が、ハマってくれた理由の一つと言えるのかもしれないが……中途半端に都合が良いを目指すと決めた自分でも、そこはきっちりしておくべきだと思う。 すなわち、双方良し。 お互いが、またお互いの取り巻く環境が良いと認めたことをしようという話。 全員が納得して折り合いをつけられたのなら、ということだ。 もちろんそう簡単じゃないことだと思う。 美香なんてそりゃもう嫉妬するだろうし、やっぱり一番気持ち良くできるのは自分だという回数は増える。 優菜にしても、あまり教え役としていい背中を見せることには繋がらないとも思う。 ただ、それでも。 世間様が定める普通には生きられない。 わがままだという自覚はある、結局はみ出し者でいることを許容したとも言える。 だけど。 俺は俺の普通を探して、作り上げて、その中に生きたいと思う。「――ってなわけで、どうだろう?」 さて、改めてのお話合いである。 夜、リナちゃんの前でもう一度セックスをして欲しいと他ならぬ本人に言われたと言えばエリーは。「……えぇ?」 見事な困惑の表情を浮かべた。 たっぷり5秒くらい首を傾げた後、ゆっくり視線を隣にいるリナちゃんへとエリーは移して。「シて、欲しいです」 「……」 何か言葉を紡ぐ前にリナちゃんの要望で口を防がれた。 不謹慎と言うべきなのかはわからないが、少し面白い。 正直エリーは二つ返事だろうと予想はしていたんだけどな、何を困惑する必要があるのだろうとも少し思うが。「その、ダイチ? 本当に?」 「俺からイヤだとは言わないし、思わないよ」 「う、うぅ……」 どうにも羞恥心があるらしい。 頬を染めて俺の目から視線を外し、冷蔵庫のほうへと目を泳がせた。 なんとも可愛らしい反応をしたなと言えばエリーには失礼なんだろうが、許してほしいよね。「あの日とは何かが違うセックスになる。そんな予感は俺にもあるよ」 「せ、セックスとか、えぇと、その……あ、あまり簡単に言わないで欲しいのだけれド」 「お、おお……」 そっぽを向いたままエリーは言うが、これまた予想外だ。 加えて言うのならリナち
いやまぁ、本当に。「どうしてこうなるもんかね」 「も、申し訳、ありまセン」 「いや、リナちゃんとは妙な縁が出来てるって思っただけだよ」 「それは……ハイ……」 優菜からリナちゃんの相談に乗ってあげて欲しいなんて言われたわけだが。 ――間違えなかったアタシだと思うんだ、リナちーは。 なんて言われたら断れない。 きっと、このまま間違えないようにしてあげて欲しいってことだろう。 少なくとも、変な形で夜の世界に突っ込んでしまうようなことはなくしてあげて欲しいと。「とりあえず、先に。この前キミにパパとは言ったけど、あくまでも父と娘って関係に似た何かって話だ。少なくとも俺とエリーの名前が付けられない関係はしばらく続く。その間俺は、キミのケアも考えるべきだと思っている」 相談に乗れって言われて応じたんだからこっちから話を振るのは間違いなんだろうが……。 はっきりさせておかないといけないことではあるだろう。 何よりここが定まらないとどういう話をすればいいのかが見えないままだ。「……ケア、ですカ」 「言葉を飾った方が良かったのならごめんな?」 我ながらもっと上手い言い方はあっただろうってのはわかっている。 ただ、優菜のリクエストである間違えないって部分を考えるのなら。「キミには、あまり夜の顔を見せないほうが良いと思って」 「……」 「もっとも、既にホストとしての顔も、エリーとの肉体関係者としての顔も見せてしまってるから今更と言えばそうだけどな」 間違いなく今更だ。 今更ではあるけれど、俺にとっては昼でも夜でもない、素で生きて行こうという第一歩だ。 リナちゃんにそこを許してほしいというのは間違っているだろうが……それでもである。「その……管理人、さんハ」 「うん」 「ママのことを、愛して、いるのですカ?」 ふむ。 上手くやるのなら愛していると言っておくべきだろう。 その方がリナちゃんの理解が及びやすく、納得しやすい。 でも、だ。「愛しているってのがどういう意味なのか、俺にはよくわからないよ」 「わ、わからない、ッテ!」 「少なくともエリーのことは……多くの意味で相性が良い相手だと思っている。それが好意によるものなのか、リナちゃんの言う愛ってものなのかは、わからない」
――そうなんですね、わかりました。でも私が一番大地さんを気持ち良くできますから。 せんせがアタシたちにエリーさん? との愛人契約がどうなったかを話してくれたんだけど、美香さんはそんな一言で終了だった。「やぁっぱ、あの人すげーわ」 格の違いってーのかな? 多分、同じ女ってステージで美香さんはアタシの遥か先に居る人だなって思う。 勝った負けたじゃないけれど、どうなっても先生のことを好きで居続けますというか……言葉を借りるなら一番気持ち良くできる人で居続けるって覚悟? そんなんをしてるってよくわかった。「ある意味、愛人ってーなら美香さんみたいな人を言うんだろうなー」 ぼんやりと考える。 多分美香さん自身は愛人体質ってヤツだ、それもママの店にいるような仕方なく一時的にそういう関係を作るとかじゃない、根っからの。 あの人は他人の中に居場所を作る。 アタシなんかは、ママに言われたように愛される自分ってーのを作ってくれる人を好きになるわけで。「全然、違うタイプだねー……どっちがいいとかわからんケド、同じ女でも全く別物だぁ」 昼の街を歩けば、ガラスに映った自分が半分口を開けていて、慌てて唇をきゅっと結ぶ。 アタシはどうなんだろう。 ダイチさんは、先生だ。 ダイチさんのことが大好きで、ダイチさんに認められる自分っていうのを夜の世界で作りたいなんて思っている。 だからまだ先生と生徒って間柄で、授業としてエッチもする。 そんな風に思ってたら急にダイチさんの素で抱いてくれるようになったりで……あうぅ。「む、むつかしすぎる……」 まー好きな人に求められる自分であるならそれでいっかって感じ。 結局、その人との関係なんてものはお互いが納得してりゃそれでいいわけで、エリーさんってリナちーのママと先生の関係もそうだ。 嫉妬しちゃうってトコはあるケド、関係が被らなきゃそれでいいんじゃねってところで。「……ん?」 難しいことを考えるのは、難しいことを考えられる自分になってから。 そんな風に思って何気なく視線を向けた先に。「よっすー! リナちー! んなトコで何してんの? 新しい配信ネタ探し?」「あっ……ユーナ、ちゃん」 さっきまでのアタシと同じような、むつかしー顔したリナちーがいた。「――リナちーのママは、凄い人だね」「す、すごい、人?」 近く
なんでもない顔をして。「きっと一番辛い道、ね」 彼は、ダイチは選んだ、提示した。 さもこれが一番ラクだろうなんて雰囲気を出していたけれど、それはまったくもって違うとワタシは思う。 言葉に収まらない関係とは特別な関係という事だ。 それも、恋人だとか夫婦だとか、セフレだとか愛人だとかに当てはまらない、ワタシでも想像できないし経験したことのない種の特別ということ。「……まったく。なんて顔をしているの? エリー」 鏡の前に居る自分へ呆れてしまう。 デートから帰ってきてから、どうにも頬が緩んで仕方がない。 観覧車の中でしたキスから。 あの、約束も契約もない情の交わし合いから、ずっと。「恋、か」 何年振りか、何十年振りか。 久しく芽生えなかった感情が、胸の内で咲き誇っている。「ほんとに、ずるい人ね、あなたは」 だから先に釘を刺されたとも言えるのでしょう。 どう関係が進んでも、恋人や夫婦にはなれない、ならないと。 この関係は自分たちだけのモノで、自分たちのものだからこそ全く普通ではない行き着く先があると。「元々望みすぎではあったのだから……はぁ。罪深いわ、ダイチ」 年齢差だってある。彼の子供を望む気持ちはあるけれど、無事に産めるかはわからない。 そういう意味で、深い関係を求めてはいけないと自分を戒めてはいた。ある意味だからこそ愛人なんて契約を持ち掛けたのだから。 でも。「期待、しちゃうわ……本当に」 辛い道というか、苦しい道だと思っているのに。 結局寄りかかることを選んでしまったのだ私は、こんな弱さが嫌になる。 ……それ、でも。「幸福で満たされる、なんて。リナを産んだ時以来、ね」 あのキスは本当に、満たされたものだった。 もしかしたら、ダイチとのセックス以上に。 いえ、ダイチのプロとしてのセックスを先に知ったから、なのかもしれない。 私が仮面を剝がされたように、彼もまた仮面を脱いで、唇を重ねてくれたのだから。「――ママ」 「うん? リナ、まだ寝ていなかったの?」 「……ん」 シャワーを終えて、ドライヤーで髪を乾かしてからリビングへ戻ればリナが浮かない顔をしてソファに座っていた。 ……改めて。「失敗、だったわね」 「え?」 「何でもないわ。少なくとも、大人
「まったク。何度も言ったケド、ワタシはもうあなたほど若くないのヨ? それをこんなに引っ張りまわしてくれちゃッテ」 「でも、楽しかっただろう?」 「だから、悔しいのヨ。楽しいと思ってしまっタ自分に思うところがあっテ、八つ当たりしてるだけヨ」 「ははは」 締めの観覧車に乗ってすぐ、エリーはむすっとした顔でそんなことを言った。 随分と表情が豊かになったもんだと思う。 やってたことなんて、大人のデートと言うよりは学生デートのようなもんだけど、大人の仮面を剥がすには十分だったらしい。「……不思議、ネ」 「何が?」 「この景色より遥かに綺麗なモノを見たことがある。それでも……」 それでもの先に言葉はなかった。 ただ少し、憂いを帯びたエリーの横顔だけがそこにある。 小さい窓から見える外の景色は、確かにそう綺麗なものではない。 夜の帳が落ちて、ぽつりぽつりと灯りが灯っているだけの、ちょっと背の高いマンションからいくらでも見えるものだ。「ねぇ、ダイチ?」 「うん?」 「ワタシは、どうすればいいと思ウ?」 顔をこちらには向けないままで、エリーは口を開く。「思ったワ、こんな経験をリナに与えたい……いエ、父親とワタシとリナの三人でまた来たいっテ」 楽しんでくれたからこそ、なのだろう。 素顔を覗かせても、母親の仮面は脱ぎ捨てるわけにはいかない。 夢の時間が終わればやってくるのは現実だ。 目が覚め始めれば一番先に母親としての自分がやってくるあたり、エリーはやっぱり良い母親と言えるのだろうと思う。「あなたと……リナのパパ契約を結んだら。またこの時間をくれるの? それなら」 「それがエリーの欲しい何かなのか?」 「……わからないワ。この時間をワタシだけのモノにしたいとも、思ってしまウ。同じくらい、リナにも感じて欲しいと、思ウ」 女と母親の境界線に今、エリーは立っている。 きっと、俺がこうしろと言えばエリーはこれ幸いと頷くだろう。 この状態を、かつての俺ならしめたと思っていたのだろうか? そうとすら思わなかった気がするな、無関心っぽくへーなんて言って受け入れていたと思う。「きっと、さ」 「ええ」 「リナちゃんのパパって仮面を被ることは、できないと思う」 「……」 良い父親なんて仮面は被れる気がしない。 何せ子供を
漫画のような展開を喜びつつありがたがるべきなんだろうが、実際に起こってしまえばどうしたらいいのか分からなくなるというのが、偽らざる本音というもので。「あー……えっと、上がられ、ます?」「は、はいっ、その、おじゃま、します」 混乱したままの頭でありがとうございますと言えたのは良い。 が、鍋を受け取っても帰ろうとしない早瀬さんへ言えたのはそんな言葉だった。 部屋にあげてどうするんだって話なんだけど、いやでも帰ろうとされなかったし……どうしたらいいんだ。「あ、やっぱり、うちと同じ間取り、なんですね」「そのはず、ですけども……あ、あぁ、お茶淹れますね? 座ってて下さい」「い、いえい
人間、分不相応な金の手に入れ方をしてしまうとダメだなと思う。 宝くじの一等を当ててしまった人は、抜け殻のような毎日を送るようになってしまうなんてのは本当の話なんだろう。 いや、そんな話に比べればスケールはもっと小さいし、ただの言い訳なのかもしれないけど。 大学卒業を目前に控えても内定を貰うどころか何処の面接も受けないまま卒業してしまったのは、並べられた求人票の月給を、一週間程度で稼げてしまうバイトで常識をおかしくしまったせいだと言いたい。「――ここがマンション、セルヴィスね」 スマホから案内を終了しますという音声が流れ、見上げたのは3階建て、総部屋数21のマンションがあ
うつ伏せになった体勢のまま、ひたすらに手マンを続けどれくらい経ったか。「んお゛っ♡ ら、らめらめらめっ♡ イってる♡ もうさっきからずっとイ゛――♡♡♡」 感覚では一時間は経っていないくらいの今、すっかり腰を持ち上げては俺の指に合わせて腰をくねらせ完全に出来上がってしまった。「――か、は♡ イ゛ってりゅ♡ からぁっ♡ ゆびっ♡ ゆびほじほじするのもう――ひぐぅっ♡♡♡」 ずぼずぼと同じペース、同じ力加減でお姉さんのイイ所を刺激し続ける。 変化を出すのは左手でだけ、時折クリトリスをこすったり、お腹へと手を回して外からポルチオを圧迫する程度。「お゛ほっ♡♡♡ むりっ♡ むりむりむ
「こんばんは。ご指名、ありがとうございます」 「こんばんは、ダイ君。今日も、よろしくね」 部屋に漂うアロマの香りをいい匂いだと思わなくなったのはいつだったか。 やってきたお客さんは一週間に一度のペースでやってきてくれる、俺がこの店に勤め始めた頃から俺を気に入ってくれていた40手前のお姉さん。「聞いたよ? 今日で最後なんだって?」 「そうなんです。大学卒業をキリに」 「勿体ないなぁ……ううん、寂しいな。このお店では初めてのお気に入り君だったのに」 「あはは、すみません。でも、嬉しいです」 この業界から考えれば、三年も自分にハマらせているのはそこそこ凄いことだなんて店長は言って