『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』

『学校では地味、配信では人気VTuber、さらに隠し事まである僕の青春ラブコメは最初から難易度が高すぎる』

last update最後更新 : 2026-08-12
作者:  常陸之介寛浩剛剛更新
語言: Japanese
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7章節
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故事簡介

現代

ラブコメ

コメディ

アーティスト

隠し身分

学園

誤解

普通の高校生活を送りたい転校生・久瀬湊人。学校では目立たず地味に過ごすつもりなのに、礼儀正しい所作や妙に整った振る舞いのせいで、隣席の柊坂真白から「変なやつ」と目をつけられてしまう。しかも湊人の裏の顔は、人気VTuber「天瀬アルト」。学校では存在感を消し、配信では“王子”として何万人もの視聴者を魅了する二重生活に加え、彼にはまだ誰にも明かせない秘密まであった。鋭い真白との距離が縮まるほど、平穏な青春は少しずつ難しくなっていく。

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7 章節
第1話 普通になりたい僕は、初日からちっとも普通じゃない
 春の朝というのは、どうしてこうも人の決意を試してくるのだろう。 まだ少しだけ冷たい空気。通学路に浮かぶ白い光。新品の制服に袖を通した生徒たちの、妙に浮ついたざわめき。校門前に立った瞬間、久瀬湊人は胸の奥で小さく息を吐いた。 ――大丈夫。今日はただの転校初日だ。 それ以上でも、それ以下でもない。 目立たない。波風を立てない。誰かの記憶に強く残らない。 それが、今日からこの学校で生きていくための最重要方針だった。「普通に……普通にいこう」 自分に言い聞かせるように呟く。 だが、その「普通」が湊人にとって最も難しいことだと、本人だけがよく知っていた。 校門をくぐる直前、反射的に立ち止まる。先に入ろうとしていた女子生徒がいたからだ。無意識に身体を半歩引き、手で軽く進路を示す。「どうぞ」「あ……え、あ、うん」 女子生徒は一瞬きょとんとした顔をして、それからぺこりと頭を下げて通り過ぎた。 しまった、と思ったのは、その直後だった。 別に、そんなことをしなくてもよかったのだ。校門など広いし、譲り合うほどの狭さでもない。なのに、身体が勝手に動いた。 家では当たり前だった。誰かと鉢合わせれば、相手を先に通す。とくに女性や年長者ならなおさら。何も考えず、呼吸のように染みついている。 でもここは、そういう場所ではない。 湊人は自分の額に手を当てて、小さく項垂れた。「初手からだめじゃないか……」 校舎に向かう途中、何人かの生徒とすれ違った。誰も彼も、新しい年度特有のそわそわした空気をまとっている。クラス替えに一喜一憂しているらしい声があちこちから聞こえてきた。 そんな中、湊人はなるべく俯きがちに歩いた。背筋まで丸めすぎると今度は不自然だ。だから、ほんの少しだけ視線を落とし、気配を薄くする。あくまで自然に。あくまで地味に。 ……のつもりだった。「ねえ、あの人かな」「転校生って」「え、なんかすごくない?」「なにが?」「いや、なんか……雰囲気?」 小さなひそひそ声が耳に届く。 反射的に聞こえてしまうのも困りものだった。湊人は聞こえないふりをしながら、心の中で泣きそうになった。 いや、待ってほしい。まだ何もしていない。今日はまだ校門で一人先に通しただけだ。なのに、どうしてもう“なんか”で見られているのだろう。 答えは分かっていた。 た
last update最後更新 : 2026-08-01
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第2話 地味な僕の隣席は、ぜんぜん優しくない
 転校二日目の朝、久瀬湊人は目覚ましが鳴るより少し早く目を開けた。 窓の外は、まだ薄く青い。夜と朝のあいだにあるような静かな色だった。布団の中でしばらく天井を見つめ、それから小さく息を吐く。「……今日こそ、普通に」 昨日も言った気がする台詞だった。 しかも昨日は、その決意が見事なまでに空回りした。初日だから多少は仕方ないとはいえ、購買で立ち尽くし、隣の席の女子には何度も“変”と言われ、ついでに教室では“王子っぽい”などという、この上なく困る評価まで受けてしまった。 目立たない高校生活への道は、想像以上に険しい。 だが、まだ巻き返せるはずだ。二日目から地味に馴染んでいけばいい。昨日の転校生フィーバーさえ抜ければ、きっと周囲の熱も落ち着く。落ち着いてくれないと困る。 ベッドを出て、顔を洗い、制服に袖を通す。ネクタイを締める手は、意識しないとすぐ整いすぎる。少しだけ緩めようとしてみて、鏡の中の自分を見てやめた。似合わない。無理をしている感がすごい。「普通って難しいな……」 誰に聞かせるでもなく呟く。 朝食を簡単に済ませ、家を出る。春の朝の空気はまだ少し冷たく、吐く息が完全には白くならないくらいの温度だった。通学路には同じ制服の生徒が点々と見え、二日目の湊人は昨日よりも少しだけ、学校へ向かう実感があった。 校門前に差しかかったところで、またしても反射的に道を譲りかけて、寸前で踏みとどまる。 危ない危ない。 普通の高校生は、毎回そんな丁寧な動きをしない。多分しない。少なくとも、昨日の自分のように“なんか雰囲気ある”認定を受けるほどにはしない。 今日は気をつけようと決めて、教室へ向かう。 廊下を歩きながら、湊人は昨日の隣席――柊坂真白のことを思い出していた。 口が悪い。目つきが鋭い。妙に噛みついてくる。 でも、購買では助けてくれたし、完全に嫌っているわけでもなさそうだった。というより、あれは嫌っているというより“放っておけないから腹が立つ”に近い空気だった気がする。 そういう相手は正直、苦手だ。 何を考えているのか分からない人より、分かりやすすぎる人の方が、時として対処に困る。 教室へ入ると、昨日ほどではないが、やはり数人分の視線が向いた。転校生への興味はまだ完全には消えていないらしい。湊人はそれに気づかないふりをして席へ向かう。 真
last update最後更新 : 2026-08-01
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第3話 推しの話になると、人は急に早口になる
  柊坂真白による“購買チャレンジ予告”を受けた翌朝、久瀬湊人はいつもより少しだけ複雑な気分で登校していた。 別に約束をしたわけではない。 ただ、流れで「明日、購買チャレンジする?」と言われ、「ご指導いただけるなら」と返し、「その言い方ほんとやめて」と怒られただけだ。 ……改めて思い返すと、だいぶ妙な会話だった。 転校三日目にして、隣の席の女子と購買の攻略法を共有することになるとは予想していなかった。高校生活とはもっとこう、静かに、薄く、気配を消しながら進んでいくものではなかったか。 いや、たぶん普通の人にとってはそうなのだろう。問題は、自分が“普通の人として振る舞うこと”にあまり向いていないことだ。 校門をくぐりながら、湊人は小さく息を吐いた。「今日は、余計なことを言わない」「変に丁寧にしすぎない」「あと、なるべく目立たない」 いつものように心の中で三つほど目標を立てる。 しかし、この手の目標はだいたい午前中のうちに崩れる。自分でも学び始めていた。 教室に入ると、真白はまだ来ていなかった。窓際の席に鞄を置き、湊人は少しだけ肩の力を抜く。真白がいると落ち着かないわけではないのだが、あの鋭い観察眼を朝一番から浴びるのは、さすがに気疲れする。 そんなことを考えていると、教室の後ろの方から元気のいい声が飛んできた。「お、久瀬おはよー」 前の席の男子――日野直純が片手を上げる。明るくて、距離の詰め方が早いタイプだ。悪い人ではない。むしろかなり話しやすい部類だが、話しやすい相手ほど、うっかり素が出そうで怖い。「おはようございます」「また丁寧だなあ。もうちょい力抜いていいって」「努力はしているんですが」「努力でどうにかするもんなんだ、それ」 笑われた。 最近、笑われる機会が多い気がする。いや、配信でも笑われることはある。ただ、あちらは“そういう流れ”を自分で作っている時が多い。学校では、こっちにそのつもりがないのに笑いが起きる。そこが難しい。 真白が教室に入ってきたのは、その少しあとだった。 朝の光を背に、少し眠そうな顔で鞄を肩にかけている。こちらに気づくと、彼女はいつものように一瞬だけ目を細めた。「……おはよう」「おはようございます」「それ、先生にも同じテンションで言ってるでしょ」「挨拶は平等にと思いまして」「意味わ
last update最後更新 : 2026-08-09
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第4話 配信の僕は、学校の僕よりずっと上手に笑える
 翌朝、久瀬湊人はスマホの通知欄を見た瞬間に、静かに目を閉じた。 昨夜のクラス連絡グループは、鳴海すばるの投下したアーカイブURLをきっかけに、思っていた以上に賑わっていたのである。『また鳴海の布教始まってる』『夜更かししたくなるからやめろ』『この人たしかに声いいな』『真白、見た?』『転校生にもおすすめでしょこれ』『王子様系ってやつ?』 王子様系、という言葉がやけに目に刺さる。 ベッドの上で上半身だけ起こした湊人は、そのログを無言で見つめたまま、しばらく動けなかった。自分の配信アーカイブが、自分の学校生活の会話材料になっている。しかも本人がそのグループの中にいる。 冷静に考えると、かなり妙な状況だ。 いや、妙どころではない。危うい。 鳴海すばるが勢いに任せて貼っただけならまだいい。問題は、それに何人かが実際に食いつき始めていることだった。クラスメイトたちにとっては、ただ“オタク女子がまた推しを共有してきた”程度の出来事なのだろう。けれど湊人にとっては、自分のもう一つの顔が教室の話題として浸透し始める前兆にしか見えない。「……これは、あまり良くないな」 
last update最後更新 : 2026-08-09
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第5話 優しくしただけなのに、ちょっと距離が近くないか
  その日の朝、教室の空気はどこか落ち着いていた。 転校して一週間にも満たないのに、久瀬湊人はすでに二年三組の景色の中へ、うっすらと溶け込み始めている。 もちろん、本人の理想からすればまだまだ目立ちすぎだ。 隣の席の柊坂真白にはことあるごとに“変”と言われるし、鳴海すばるには相変わらず推し布教の対象として狙われている。日野直純はもう最初から友達みたいな距離で話してくるし、クラスの何人かも「転校生」ではなく「久瀬」として話しかけるようになってきた。 それはたぶん、学校生活としては悪くない兆候なのだろう。 だが湊人の中では、まだ「目立たず、普通に」が最優先事項であることに変わりはない。 問題は、その“普通”が日に日に遠ざかっている気がすることだった。「おはよう、柊坂さん」 席に着きながら声をかけると、真白は机に突っ伏しかけた姿勢のまま、ゆっくりと顔を上げた。「……おはよう」 返事はあった。 けれど、いつもより少しだけ覇気がない。 湊人は何となくその顔を見る。いつものようにきつめの目元ではあるが、今日はそれに加えて、微妙な白さがあった。肌の色も、ほんの少し冴えない。髪も乱れてはいないけれど、朝の整え方に余裕がなかったような気配がある。「どうかしましたか」「なにが」
last update最後更新 : 2026-08-10
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第6話 推しと似てるなんて、そんな都合のいい話あるわけない
  翌朝、鳴海すばるはいつもより十五分早く教室へ来た。 本人いわく、たまたま目が覚めただけで、別に特定の誰かを待っていたわけではない。 ……という建前を、自分で自分に言い聞かせるために、教室へ入る直前までコンビニで買ったカフェオレを無駄に振っていたくらいには、少し落ち着きがなかった。「いや、待ってないし」 小声で呟く。「ただ確認したいだけだし」 何を確認したいのかと問われれば、答えは一つだった。 久瀬湊人の声が、どこまで“推し”に似ているのか。 昨日の昼休み、そして一昨日の何気ない会話、さらにその前の自己紹介。点と点だった違和感が、すばるの中で少しずつ線になり始めていた。 もちろん、理屈では分かっている。 人気VTuber《天瀬アルト》と、庶民派高校へ転校してきたちょっと変な地味男子が、同一人物であるわけがない。 そんな都合のいい話、あるはずがない。 あるはずがないのだが――。「似てるんだよなあ……」 机に鞄を置きながら、すばるは小さくため息をついた。 声質だけなら、世の中には似ている人もいるだろう。 喋り方だって、丁寧な人はいる。 返し方が綺麗な人も、きっと探せばいる。
last update最後更新 : 2026-08-11
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第7話 新人は、まだ遠い場所で頑張っている
 その夜、天瀬アルトとしての仕事を一通り終えたあと、久瀬湊人は珍しくすぐには配信アプリを閉じなかった。 デスクトップの右下に、小さく通知が出ている。 AstraLink内部共有サーバー。 新人支援チャンネル。 普段なら、必要な連絡だけを確認して終える。自分は事務所の中でも登録者二百万人を超える看板クラスのライバーで、ありがたいことに個別案件も多い。全体チャットや新人向けの共有に深く関わる余裕は、正直そこまでない。 けれど今日は、なんとなく目が止まった。 理由は分かっている。 小毬こはく、という名前だ。 まだ会ったことのない後輩。 同じ箱に所属している新人ライバー。 デビューからそこまで長くはないのに、登録者は二十万人を超えている。 数字として見ればかなり順調だ。だが、新人本人がその順調さをちゃんと“順調”として受け止められるかどうかは、また別の話だった。 湊人は通知を開く。 画面には、先輩ライバーたちの軽い雑談と、その合間に挟まる小毬こはくの短い発言が並んでいた。『本日の雑談枠、ありがとうございました。思っていたより緊張してしまって、言葉が飛んでしまいました』『いやいや、全然かわいかったよ〜』 緋月セレナだ。『
last update最後更新 : 2026-08-12
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