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第21話
Pinakabagong kabanata
星は私のために輝かなかった 第23話
火が完全に鎮火し、尚弥に怪我がないことを確認した菫花は、ようやく隅で沈黙を守っていた慶真に視線を向けた。すべての元凶が彼だったと知ってから、腫れぼったい目元には怒りではなく、冷めきった嫌悪が宿っていた。また、彼だ。まるで厄介なガムみたいに、しつこくまとわりついてくる。以前は気づかなかった——こんなにも図々しく、自分本位な人間だったとは。「御堂慶真、またひとつ、あなたに対する認識を新たにさせてもらったわ。放火してまで救うだなんて……よくそんな発想できたわね」憤りで燃えるような視線を向けながら、彼女は一言も無駄にせずスマートフォンを取り出し、ためらいなく通報ボタンを押した。「菫花」慶真は、すべてを計算していた。火が回りきった絶妙なタイミングで飛び込み、救い出す。例え腕が折れようと、脚が砕けようと構わなかった。そうすれば、彼女の中に後悔や感謝が芽生えるかもしれない。もう一度、自分を見つめ直してくれるかもしれない。だが——全ては失敗に終わった。彼は負傷しただけでなく、菫花の心も、再び失った。「名前を呼ばないで。聞くだけで吐き気がする。御堂慶真、これが今生であなたと会う最後になることを、私は心から願う。あなたのしたことには、法で裁きが下る。私はすべての証拠を提出する。あなたは、自分の罪を償うの。もしも……もしも本当に、あなたが言うように私を愛してるというのなら——どうか、静かに、私の世界から姿を消して。二度と現れず、ただ一人で、自分の犯した罪と向き合って。できる？」そう言い終えると、菫花は尚弥の手を握り、振り返ることなくその場を去った。彼女の背中は、一片の迷いもなく、冷たく、そして美しかった。追いかけようとした慶真だったが、脚の激痛で体が動かず、ただ呆然と、遠ざかる二人を見送ることしかできなかった。彼女の言葉に嘘はないと分かっていた。彼女は本当に、自分を心底から嫌悪しているのだと。どんな手を使っても、どれだけ頭を下げても、もう覆ることはない。それはつまり——自分の終わりを意味していた。彼はそのまま救急車で病院へ運ばれ、応急処置を終えた直後、警察に連行された。故意による放火未遂および殺人未遂。たとえ御堂グループの影響力がいかに強大であろうと、尚弥の手が
星は私のために輝かなかった 第22話
研香のお腹の子は、紛れもなく慶真の子だった。彼が認めようとしなくても、彼のお母さんはその子を必ず産ませるだろう。彼女自身が子を持たなかったこと、御堂家の血筋が極めて薄いこと——それらを思えば、跡継ぎとなる子供が必要なのは明白だった。そして、慶真はその後、忙しさに追われ、菫花に構う余裕すらなくなった。彼女の生活から彼の執着が消えたことで、ようやく穏やかな日々が戻りつつあった。ただ、最近になって尚弥の気持ちが日に日に明確になってきて、菫花ももう見て見ぬふりはできなかった。ちゃんと向き合う時期が来たと感じた。尚弥は少し残念そうにしたが、それでも無理強いはせず、常にちょうどいい距離感で、そっと彼女を支え続けた。必要なときに、必要な場所で、さりげなく寄り添う存在として——気づけば半年が経ち、賀川グループの訴訟もようやく一区切り。尚弥は社員たちに休暇を与え、しばらくは休養に専念するようにと言った。疲労困憊の菫花は、帰宅するなりベッドに倒れ込んだ。夜半。焦げたような臭いで彼女は目を覚ました。目を開けると、黒い煙がドアの隙間から部屋にどんどん流れ込んでくる。慌ててドアに駆け寄り、取っ手に触れた瞬間——高温で火傷しそうになり、思わず手を引っ込めた。その瞬間、火の回りが尋常でないと悟った。この状況で自力で逃げ出すのは、到底不可能。彼女はすぐにバスルームへ走り、濡れタオルで口元を覆い、窓を開けて換気し、消防へ通報した。すべきことを終えたあとは、静かに窓際に腰を下ろした。人は死を目前にすると、自然と過去を思い出すという。彼女の脳裏にも、三十年の人生が走馬灯のように浮かび上がった。あの頃、世界の中心は慶真だった。どれだけ研香が彼の心にいたとしても、自分こそが彼にとって特別だと信じて疑わなかった。傷ついても、与えても、ただただ彼の傍にいたかった。時間がすべてを癒すと信じて、努力が彼の目に届くと信じて——けれど今になって思えば、自分の愚かさが身に染みる。簡単に裏切る男のために、何年も費やして、傷ついたせいで、新しい恋にさえ踏み出せなくなった。いつも迷っていた。いつも、前に進むことをためらっていた——煙がますます濃くなり、意識もだんだん鈍っていく。思考のスピードが落ち
星は私のために輝かなかった 第21話
慶真の声には、隠しきれない狂気が滲んでいた。研香はごくりと唾を飲み込み、そのまま慶真の殺意すら感じる冷酷な視線と目が合い、震え上がりながらも——一歩も動こうとはしなかった。彼女は、もう後がなかった。お腹の中の子供——それが唯一の切り札だった。それを盾に、御堂家の嫁の座に戻るつもりだった。だが慶真は彼女を完全に拒絶し、子供の存在すら認めようとしなかった。大学での医療課程は中退。医師としての道も絶たれ、以前、指示を改ざんして患者を死に追いやった過去も、もはや隠し通せない。それに自分が離れたのは慶真のお母さんに金を渡されて追い出されたという噂まで、慶真の耳に届いていた。今この場で菫花を完全に悪者にし、慶真に責任を取らせることができなければ——自分の人生はもう終わる。だから彼女は、腹を押さえながら顔を上げ、目に強い決意を宿した。「結局、あなたたち金持ちは、私みたいな背景もない人間を弄んで、いらなくなったら捨てるのね！お腹の子供でさえ、簡単に切り捨てられるの？一般人の命なんて、あなたたちには命じゃないのよ！もういい！あなたは私を娶るって言ってくれたのに、綾瀬さんは絶対に私を許さない……だったら、ここから飛び降りるしかないじゃない！それで満足なんでしょ、二人とも！」そう叫びながら、彼女は突如身を翻し、隣の湖へと駆け出した——その瞬間、場が凍りつく。だが、彼女が湖のほとりに辿り着く前に、制服姿の警官たちに取り押さえられ、地面に押し倒された。「離して！私は被害者よ！何で私を捕まえるの！放してぇぇっ！」もがく彼女の背後から、静かで淡々とした声が響いた。「通報したのは、俺だ」尚弥だった。いつの間にか菫花の隣に立ち、冷然と状況を見守っていた。彼は菫花にじっと視線を送り、怪我がないことを確認すると、ようやく安堵の息をついた。「国内で医療指示を改ざんして患者を死なせた件、故意による傷害の疑い。そしてここでの名誉毀損と業務妨害。逮捕は当然の処置だ。今夜、君を国内に送り返す。すべての報いは、本国で受けることになる」研香は絶望の中でもがいたが、警官たちの拘束は厳重で、彼女の力ではどうにもならなかった。最後の望みを、彼女は慶真に託した。「慶真さん、お願い……お腹の子はあなたの子よ……私を見捨て
星は私のために輝かなかった 第20話
「私と御堂慶真はもう何の関係もない。あなたのお腹の子供も、私には一切関係ない。ここで騒いだって無駄よ」菫花は冷静に言い切った。「もし本気で奥さんになって金が欲しいって思ってるなら……行くべき場所は私じゃなくて、御堂慶真のお母さんでしょう？あの人は跡継ぎに目がないから、満足のいく身分をきっと用意してくれるはず」それは、皮肉でも憎しみでもなく、心からの助言だった。だが研香は耳を貸そうとしない。お腹を抱き、今にも泣き出しそうな顔で、再び矛先を菫花に向けてくる。「綾瀬さん、お願い、お願いだから……この子にはパパが必要なの。あなたたちはもう離婚したんだから……お願い、私たちの家庭を壊さないで……慶真さんが私を認めてくれないの……あなたさえ首を縦に振れば、私と子供はどうにか救われるの。お願い、無理を承知で頼むわ。私には、慶真さんしかいないの……他には誰もいないの……お願い……お願いよ……！」そう言いながら、地面に額をつける彼女の姿は、一見追い詰められた可哀想な女そのものだった。だが——菫花は、ついに吹き出すように笑った。「家庭壊された？」その声は乾いていて、冷えきっていた。「最初に人の家庭を壊したのは、誰だった？一歩一歩、私を追い詰めてきたのは、誰？今さら被害者ヅラして、何を言ってるの？ずっと私がいない間に、彼を留めておくことすらできなかったくせに——今になって、子供を盾に私を脅すの？」周囲の野次馬は状況が分からず戸惑っていたが、ちょうど社内から出てきた社員たちが事情を知り、次々と菫花をかばい始めた。「妊娠したなら相手に責任取らせなよ、なんでうちの綾瀬さんに押し付けてんの？」「若いのに頭悪すぎ。自分で不倫しといて家庭壊されたって？どの口が言ってんの？」「金目当てで御堂慶真にしがみついてたくせに、相手にされなくなった途端に綾瀬さんのせいにするって……ほんと見苦しい」「いい加減にしろ。ここでこれ以上騒ぐなら、警察呼ぶからな？」社員たちの怒声に押され、研香は怯えたように顔を伏せる。それでも、涙は止めようとせず、時折周囲を見回しながら、芝居がかった声で叫ぶ。「綾瀬さん、お願いです……私たち家族を、壊さないでください……！」それは、誤解された怒りではなく、ただの軽蔑だった。菫花の瞳は冷たく、突
星は私のために輝かなかった 第19話
翌朝早く、尚弥が朝食を持って菫花の部屋の前に現れた。チャイムが二度鳴った後、菫花はドアを開け、彼を中に招き入れる。ちょうど薬を受け取ろうとしたその時——尚弥は彼女を軽く押さえてソファに座らせた。「先に朝ごはんを食べな。急がなくていいから」菫花は普段から食べ物にうるさいほうで、最初は断ろうとした。けれど、何気なく目をやると——不思議なことに、苦手なものが一つも見当たらなかった。「偶然かな……」そう思いながら箸を取ると、尚弥は静かに微笑んで見守っていた。食事を終えた後、菫花は薬箱を取り出し、彼に塗り薬をつけようとしたその時——尚弥が突然シャツをまくり、背中を彼女に見せた。菫花の顔がみるみる赤くなり、慌てて一歩後ずさる。だが、尚弥は彼女の動揺には気づかないふりをしたまま、何気ない様子でシャツの裾をまくり上げ、すっと背中を見せた。「昨日シャワー浴びてたら腰がちょっと痛くて……ぶつけたかもしれない。見てもらえる？」彼の言葉に、綾瀬の顔が一気に真っ赤になる。「あ、あの……」慌てて目を逸らそうとしたが、そこに広がる赤く腫れた痕を見て、すぐに冷静さを取り戻した。「待ってて、すぐ薬つける」湿布と軟膏を取り出し、そっと手を当てる。「い、痛い」わざとじゃないと分かってはいても、漏れ聞こえる息遣いに、菫花の顔はみるみるうちに赤く染まっていった。その時——「何してるんだ！！菫花、ドアを開けろ！！賀川はまだ部屋にいたのか！？昨日一晩ずっと一緒にいたってことか！？君、俺を裏切ったのか！？」慶真の怒鳴り声と、ドアを殴る激しい音が、部屋の空気を一変させた。尚弥の目が冷たく光り、菫花の顔からも笑みが消えた。菫花は慶真の怒声を完全に無視し、薬を丁寧に塗り終えてから、淡々と身支度を整えた。「行きましょう、賀川さん。仕事の時間です」ドアを開けると、慶真の歪んだ顔と真っ赤な目が視界に飛び込んできた。「精神的に不安定なら、病院に行ってください。私は弁護士ですけど、あなたのような人には何もしてあげられません」それだけ言い残し、菫花は尚弥と共にエントランスへ向かって歩き去った。どれだけ慶真が怒鳴ろうと、彼女は一度も振り返らなかった。薬草の香りが残る廊下に一人取り残された慶真は、ふとその匂いを吸
星は私のために輝かなかった 第18話
二人が去った後、菫花は再び同僚たちに丁寧に頭を下げた。ここまで騒動になってしまった手前、さすがに居づらくなった。「これ以上はご迷惑になるので……」と、バッグを手にして席を立とうとした。「ここはタクシーが捕まりにくいから、送っていくよ」そう言って立ち上がったのは、尚弥だった。菫花は一瞬迷ったが、黙って頷いた。車内では終始沈黙が続いた。尚弥は何度かルームミラー越しに彼女の様子をうかがっていたが、ようやく軽く笑いながら話しかけた。「何を考えてるの？まさか……復縁とか、思ってないよな？」手はハンドルをしっかり握ったまま、目線は動かさず、声だけを柔らかく投げた。するとミラー越しに、菫花が冷笑を浮かべたのが見えた。「くだらない人間に、あんなに長く時間を使ってしまったこと。今さらながら本当に馬鹿だったと思ってるの。しかも舞台が海外にまで移って……こんな醜態を晒して、同僚たちまで巻き込んで……情けない」その言葉に、尚弥はようやく小さく息を吐き出した。「君のせいじゃないよ。面倒になったらいつでも言って。俺が何とかする」その言葉に菫花はふと視線を上げる。熱を帯びた尚弥の眼差しと目が合い、慌ててそらした。彼の気持ちは、なんとなく察していた。でも、今の自分にそれを受け止める余裕はなかった。ありがたいけど、まだ……無理だった。ただのふりをして、やり過ごすしかなかった。尚弥が無理に踏み込んでこないことが、かえってありがたかった。ホテルに着くと、二人は並んでロビーを抜けた。だが、彼女は知らなかった。彼らが車に乗った瞬間から、黒いマイバッハが後を追っていたことを。慶真——その男は、ハンドルを握りしめ、目を真っ赤にして二人の姿を凝視していた。菫花と尚弥が肩を並べてホテルに入っていく様子を見て、その目に狂気の光が走った。そのまま車のドアを開けて、後を追う。エレベーターの前に着いたところで、ちょうどドア越しに尚弥の挑発的な視線とぶつかった。尚弥の目が一気に冷え、横のエレベーターのボタンを力強く押し、彼らと同じ階へと向かった。エレベーターを降りると、廊下の先には尚弥が彼を待ち構えていた。慶真は躊躇なく拳を振りかざし、一発を顔面に叩き込んだ。前から気に入らなかった相手に一発くらった
