共有

第5話

作者: ラッキーフラワー
凛の顔は真っ青になった。

震える声には、信じたくないという思いがにじんでいた。

「どういう意味だ?」

優奈は、凛の視線が自分の手の中の古びた缶に釘づけになっているのを見て、皮肉げに笑った。

「別に、深い意味なんてないわ。あんたたち、一日中騒いでいたのは梨央に会いたかったからでしょう?連れてきてあげたのよ。どうして開けて見ようとしないの?」

怜司は胸を押さえ、私の遺影へ視線を落とした。

その表情には、現実を受け止めきれない色が浮かんでいた。

「ありえない。俺を騙しているに決まってる」

二人が何度も何度も否定するのを見て、優奈はとうとう缶を開けた。

缶の中には、私の遺骨があった。

彼女はその缶を、凛と怜司の前へ差し出した。

「よく見なさい。これが梨央よ。もう焼かれて、灰になったの。それでもあんたたちの瑶子に腎臓を差し出せって言うの?それとも、その中をかき回してみる?瑶子に使える腎臓が一つでも出てくるかもしれないわよ!」

凛と怜司は、一歩、また一歩と迫る優奈に押され、埃まみれの壁に背中をつけた。

二人の顔から血の気が引いているのを見て、瑶子はこらえきれず前へ出た。

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • 時は命の傷を癒さない   第10話

    瑶子が死んだあと、怜司はようやく優奈のもとを訪ね、私の遺骨を引き取りに行った。優奈が墓地を買う余裕もなく、骨壺すら用意できなかったと知ると、怜司はまた声を上げて泣いた。優奈がどれだけ罵っても、彼は一言も言い返さなかった。私の遺骨を引き取ったあと、怜司は私を母の隣に埋葬した。瑶子の遺骨は、怜司がとっくに汚れた側溝へ捨てていた。私を埋葬したあと、怜司は自分名義の財産で優奈の借金を返した。残ったものは、すべて息子の名義にした。そこまで済ませてから、怜司は警察に出頭した。瑶子を殺した罪は、すべて彼一人が背負った。凛は罪に問われなかった。怜司が収監されたあと、凛は私たちが暮らしていた家を、昔の私が好きだった雰囲気に戻した。彼はよく息子を抱いて、私が好きだった寝椅子に座り、ぼんやりと時間を過ごしていた。息子を抱きしめながら、何度も何度も私の名前を呼んでいた。その姿を見ても、心は少しも揺れなかった。彼はある日、私が学生のころに弾いていたギターを見つけた。それを見つめているうちに、ゆっくりと目を赤くした。凛はギターの音が好きだった。きれいに弾けるようになりたくて、私は指先の皮がむけるまで練習した。それを見た彼は、ひどく胸を痛めていた。「梨央、どうしてそこまで無理するんだ。ただ一曲聴きたいだけなら、コンサートに行けばいい。こんなの、痛いだろう」あのとき私は、彼を抱きしめて笑った。「痛くないよ。あなたが喜んでくれるなら、それでいいの」けれどその後、私は痛みを怖がるようになった。それなのに彼は、私が痛がっているかどうかなど気にも留めなかった。瑶子のために、何度も私から血を抜かせた。昔のことを一つずつ思い出すたび、胸の奥に鋭い痛みが走った。私たちは、たしかに幸せだった。もし彼の心が変わらなければ、私は死ななかった。息子も、生まれた瞬間から母親を失うことはなかった。私たち三人は、きっと幸せに暮らしていた。けれど、すべては「もしも」でしかない。瑶子は、私がこの家の正式な娘であることを妬んだ。私に優しい兄がいて、優しい夫がいることを妬んだ。ただそれだけの理由で、あらゆる手を使って私を陥れた。めぐりめぐって、結局、誰も望みどおりにはならなかった。あれほど泣き崩

  • 時は命の傷を癒さない   第9話

    「梨央が味わった苦しみを、お前にも一つ残らず味わわせてやる。階段から落ちるのが好きなんだろう?なら、何度でも落ちればいい。自分を刺すのが好きなんだろう?なら、また刺せばいい」瑶子は首を押さえたまま、怜司の言葉を聞き、目を見開いた。命乞いをしようとしたのだろう。けれど、怜司と凛の冷えきった目を見た瞬間、瑶子はもう取り繕うのをやめた。床からゆっくり立ち上がると、今まで隠していた本性をあらわにした。「たしかに、私は梨央に濡れ衣を着せたわ。でも、あの女を殺したのは本当に私だけ?忘れないでよ。私があの女を陥れたとき、あの女はちゃんとあなたたちに説明していたじゃない。でもあなたたちは、最後まで聞こうともしなかった」瑶子は、何かを思い出したように笑った。「私のせいであの女が精神科病院に入れられたとしても、あの女が一番恨んでいるのは、きっとあなたたちよ。私はあの女にとって、ただの邪魔者でしかなかった。でもあなたたちは違う。血のつながった兄と、一生一緒にいると誓った夫だった。それなのに最後には、二人そろってあの女の敵になったのよ」瑶子は、そこで声を張り上げた。その顔には、場違いなほど歪んだ笑みが浮かんでいた。「だから、梨央に償うべきなのはあなたたちよ。私じゃない!」乾いた音が、病室に響いた。凛が瑶子を叩いたのだ。かなり強く打ったのだろう。彼女の頬には、たちまち赤い跡が浮かび上がった。「瑶子……本当に残酷だったのは、君だったんだな」瑶子は頬を押さえたまま、憎しみのこもった目で凛をにらみつけた。「凛、自分だけ被害者みたいな顔しないで。私に何の気持ちもなかったって、本気で言える?私は一応、怜司とは父親が同じ妹よ。怜司が私に甘くなるのは、まだわかる。でも、あなたは違うでしょう?義兄のくせに、自分の妻より妻の妹を大事にしてた。私のためなら、梨央を傷つけることだって平気だった。私を好きになったことなんてないって言っても、自分でも信じられないんじゃない?」図星を突かれた凛の顔が、みるみる赤くなった。「でたらめだ。俺が一番愛していたのは、ずっと梨央だ」瑶子は狂ったように笑った。「梨央を愛してた?笑わせないでよ。愛してたなら、どうして私のためにあの女から血を抜かせたりしたの?本当に愛してたなら、

  • 時は命の傷を癒さない   第8話

    凛が怜司のもとを訪ねてきた。どれほど泣いたのか、もう涙は出ないようだった。ただ、赤く腫れた目元だけが、その時間の長さを物語っていた。凛はおぼつかない足取りで玄関まで歩き、冷たい風に吹かれて小さく震えた。私は彼について、隣にある怜司の家へ向かった。怜司は、魂が抜けたような顔でソファに座っていた。凛の姿を見ると、怜司はしばらく彼を見つめ、氷のような声で言った。「けじめをつけなきゃならないことがある」凛はうなずき、スマホを取り出して秘書に連絡し、二人を病院へ送らせた。病室では、瑶子がすでに点滴を終えていた。化粧を落とすと、瑶子の顔色は思った以上に悪かった。血の気がなく、肌はくすんで、病室の白い照明の下ではひどく弱って見えた。仮病ではなかった。彼女には本当に、腎臓移植が必要だったのだ。看護師が出ていくのを待ってから、瑶子はどこかへ電話をかけた。「二時間以内に迎えに来て。覚えておいて。絶対に誰にも私の行き先をたどらせないで」相手が何を言ったのかはわからない。けれど瑶子の声は、急に高くなった。「怜司と凛は、梨央が死んだと知ってから、もう私のことなんて相手にしてくれないの。あの女をはめたのが私で、そのせいで精神科病院に入れられたってバレたら、あの二人は絶対に私を許さない。理由なんてどうでもいいでしょ。お金が欲しいなら、ちゃんと私を逃がして」最後には、瑶子の声に焦りが混じっていた。彼女はさらに4000万円を上乗せし、ようやく相手は迎えに来ることを承知した。満足げに電話を切り、荷物をまとめて出ていこうとした瞬間、扉の外に立っている二人を見て、彼女の顔から血の気が引いた。彼女はその場で固まり、それからすぐに、いかにも傷ついたような顔をした。「お兄ちゃん、凛さん、やっと会いに来てくれたのね。私、病院で何日も一人だったの。もう二人に見捨てられたのかと思った」凛は彼女を見つめた。その目の中の温度が、少しずつ失われていく。「俺たちが来たら、困るんじゃないのか。逃げるつもりだったんだろう?俺たちがここにいたら、どうやって逃げるんだ?」声はひどく穏やかだった。だからこそ、瑶子には死神の囁きのように聞こえただろう。怜司は、うろたえる彼女を冷たい目で見下ろした。「お前はこの家に来

  • 時は命の傷を癒さない   第7話

    凛は目を覚ますとすぐ、何かに取り憑かれたように家中を探し回った。私がここにいた証を、必死に探していた。けれど家中を見て回って、気づいてしまった。たった二年しか経っていないのに、私に関するものはすべて消えていた。以前、私と凛の結婚写真が飾られていた場所には、彼と瑶子のツーショット写真が置かれていた。カーテンも、ソファも、すべて瑶子好みのものに変わっていた。彼は充血した目で家政婦を呼びつけ、私のものはどこに消えたのかと問い詰めた。家政婦は、正気を失ったような彼の剣幕にすっかり怯えていた。「旦那様、奥様のものはすべて、瑶子様のご指示どおり処分いたしました。それも、事前に旦那様のご承諾をいただいております」凛は息を詰まらせ、その場に立ち尽くした。顔には苦痛が浮かんでいるのに、一言も出てこなかった。彼がまた取り乱しそうになったのを見て、家政婦は慌てて言った。「旦那様、思い出しました。奥様のお荷物の一部は、地下室にしまってございます」凛はすがるように地下室へ駆け下りた。靴を履くことさえ忘れていた。私と彼の結婚写真を見つけた瞬間、涙が一粒、写真の上に落ちた。それをきっかけに、堰を切ったように涙があふれ出す。彼は震える指で、写真の中の私の顔をなぞった。声はもう、嗚咽でまともに形にならなかった。「梨央……君はあんなに元気だったじゃないか。どうして死ぬんだよ……最期に会うことすらできなかった。君はきっと、俺を恨んでいただろうな。最後の瞬間まで、ずっと。小さい頃から一緒にいて、あんなに大事だったのに……俺はどうして、君を失うまで何もわからなかったんだ」凛の喉から、抑えきれない嗚咽が漏れた。まるで私への負い目と後悔を、すべて涙にして吐き出そうとしているようだった。私は彼の前に立ち、泣き腫らしたその目を見た。ふと、滑稽だと思った。その目は、私が泣いて輸血を拒んだとき、軽蔑に冷えきっていた。精神科病院へ送らないでとすがったときも、彼はただ、面倒そうに私を見下ろしていただけだった。今さら涙を流したところで、何になるというのだろう。私を死なせた人間の中に、彼も確かにいたのだから。私は冷たい地下室を見つめ、私が死んだ日のことを思い出した。悔しかった。私はまだ三十にもなっていなか

  • 時は命の傷を癒さない   第6話

    出ていく前、凛はボディーガードに抱かれている息子を一目見た。その顔に、私の面影を見たようだった。彼はボディーガードに命じ、その子を自宅へ連れて帰らせた。戻るなり、凛は親子鑑定を手配した。どういうわけか、優奈のそばに二年いた私は、そのまま凛について帰ってしまった。怜司は秘書に連絡し、この数年の私の生活状況と、最近の足取りを調べるよう指示した。それから三日間、凛と怜司は、まるで何事もなかったかのように過ごした。普段どおり仕事をし、普段どおり生活した。けれど一人でいるときの二人は、ひどく途方に暮れて見えた。瑶子は体調が悪いと言って、何度も二人を訪ねてきた。けれど、いつもならどんな願いでも聞いていた二人が、そろって彼女を拒んだ。三日後、秘書は調べ上げた資料を、怜司と凛に一部ずつ用意した。「白石社長、平井社長、梨央様は……本当に亡くなっています」秘書の声には、痛ましさがにじんでいた。怜司と凛は、資料を受け取る手がひどく震えていた。その様子を見た秘書は、いっそ口で説明することにした。「梨央様は精神科病院に送られたあと、人として扱われないような目に遭いました。逃げ出したときには、もう見る影もなく痩せ細っていたそうです。逃げたあと、妊娠がわかりました。時期から考えると、病院に入れられる前にはすでに身ごもっていたはずです。ただ、度重なる輸血のせいで、すぐには気づけなかったようです。彼女は医師に中絶の相談もしていました。けれど手術費がなく、産むしかなかったんです」凛の目には、必死にこらえた苦痛があふれていた。それは、優奈が凛に話していたことと同じだった。「ですが、妊娠でさらに体力を削られ、さまざまな要因が重なって早産になりました。さらにお金がなかったため、難産による大量出血にも救命処置が間に合いませんでした」怜司はもう聞いていられなかった。顔は涙でぐしゃぐしゃだった。「どうしてだ?梨央の口座にはずっと金があったはずだ。どうして金に困るんだ?俺が小さい頃から大事に育ててきた妹が、金がなくて助からずに死ぬなんて、あるわけないだろう?」私は、皮肉を込めて口元だけを上げた。彼が大事に育てていた妹は、とっくに私ではなくなっていた。瑶子こそが、そうだったのだ。秘書はしばらく沈黙し、最後に

  • 時は命の傷を癒さない   第5話

    凛の顔は真っ青になった。震える声には、信じたくないという思いがにじんでいた。「どういう意味だ?」優奈は、凛の視線が自分の手の中の古びた缶に釘づけになっているのを見て、皮肉げに笑った。「別に、深い意味なんてないわ。あんたたち、一日中騒いでいたのは梨央に会いたかったからでしょう?連れてきてあげたのよ。どうして開けて見ようとしないの?」怜司は胸を押さえ、私の遺影へ視線を落とした。その表情には、現実を受け止めきれない色が浮かんでいた。「ありえない。俺を騙しているに決まってる」二人が何度も何度も否定するのを見て、優奈はとうとう缶を開けた。缶の中には、私の遺骨があった。彼女はその缶を、凛と怜司の前へ差し出した。「よく見なさい。これが梨央よ。もう焼かれて、灰になったの。それでもあんたたちの瑶子に腎臓を差し出せって言うの?それとも、その中をかき回してみる?瑶子に使える腎臓が一つでも出てくるかもしれないわよ!」凛と怜司は、一歩、また一歩と迫る優奈に押され、埃まみれの壁に背中をつけた。二人の顔から血の気が引いているのを見て、瑶子はこらえきれず前へ出た。「もういい加減にして!お姉ちゃんが私に腎臓をくれたくないなら、私はいらない。それなのに、どうしてこんな芝居までして、お兄ちゃんと凛さんを騙すの?」そう言いながら、彼女は優奈が抱えていた缶を払い落とした。私の遺骨が、床に散らばった。それでも瑶子の怒りは収まらず、彼女はさらに足で何度か踏みつけた。「どこかの粉を持ってきて、お兄ちゃんと凛さんを騙そうなんて、許さない」優奈は目を見開き、怒りで全身を震わせた。彼女はついに耐えきれず、瑶子を床へ突き飛ばした。さらに手を振り上げ、容赦なく頬を叩いた。「この女!あんたのせいで梨央は死んだのよ!何度も何度もあの子を陥れて、追い詰めて……あんたさえいなければ、梨央はあんな死に方しなかった!」怒りで、優奈の理性は吹き飛んだ。彼女は半狂乱になって、瑶子に殴りかかった。瑶子は逃げ場もなく打たれ、ただ助けを求めて叫んでいた。凛が優奈を止め、瑶子を背後にかばった。優奈は血走った目で彼をにらんだ。「梨央の遺骨と遺影をその目で見ても、まだ瑶子の味方をするの?」凛は長く沈黙したあと、かすれた声で言った。「

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status