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ミレニア鉱石

last update Last Updated: 2025-11-04 08:00:40

◇◇◇◇◇◇◇◇第十五話◇◇◇◇◇◇◇◇

ファウスト商会に来たのはある商談を纏める為だった。ダーシャは四カ国を束ねている。別々の価値観の中で合致点を模索しながら各々の情報を一つの物事へと繋げていく。最近各国に出現したミレニア鉱石と呼ばれる鉱石の取り扱いについてだ。商品として一般に普及されていない新種の鉱石の為、取り扱いが限定されていた。

四カ国の中で中心となる街を起点にミレニア鉱石の価値を上げていく計画を立てていた。何に加工して売り出すかを協議するため、どうしてもファウスト商会の力が必要だった。後三箇所の商会には交渉と商談を取りまとめる事が出来たが、この商会だけは受け入れる素振りがなかった。

停滞していた流れを改善する為に、ファウスト商会の会長でもあり、友人でもあるファウストと話をするべきと考えていたようだ。蹴散らされると思っていたが、サリアを同行した事で、その素振りはなくなっていく。

ファウスト商会に資金提供として後ろ盾で守っているのがインリンス家だった。商業国家ヘイベスとして成り立つ前にこの世界を支配していた家名でもあった。商業国家ヘイベスの元の名前はメイベスだ。ダーシャの曽祖父メイベス・ヘイベスの名前が使われている。

祖父はインリンス家に目をつけ、2つの勢力を一つに纏める為にある少女と接触の機会を狙っていた。無理矢理、繋げようとしていた祖父の想いは違った意味で裏切られる事となる。何の縁があったのかダーシャとサリアは出会い、特別な想いを抱くようになったのだから。

この世界に引き戻されたサリアとインリンス家のサリアは同一人物だ。その事を知っているのはダーシャのみ。ヒエンが見た瞬間サリアと呼んだのも、本人だから当然の結果だった。

サリアの姿を見たファウストは時間が止まったように感じていた。何度か遠目で見た事はあったが、それは十年前の事になる。あの時と比べて成長した子供は綺麗な女性となり、再びファウストの前に姿を現したのだ。

彼がサリアに見惚れていた事実をダーシャは知らない。長い付き合いの二人だからこそ気付かれると感じていたが、平静を装うとどうにか誤魔化す事が出来た。

「初めまして、ファウスト商会の会長をしていますファウスト・ロンドと申します。奥方様、お見知り置きを」

違和感を感じさせないように初対面を装いながらサリアへ挨拶をする。内心ドキドキしながらも、切り分ける事が出来たと実感した。過去のサリアと現在のサリアに対しての感情を割り切るように、凌いでいった。

彼はサリアに合わせるように説明していく。全てを見通していたダーシャは考え通りに行動していく友人の姿を冷たい視線で観察している。口角は上げ、笑っているように見せながらも、瞳の奥は一切光はない。

全てはファウストを取り込む為、その土台作業をする為にはどうしてもサリアを呼び戻すしか方法を知らなかったのだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇第十六話◇◇◇◇◇◇◇◇

複雑な背景に包まれながら進む事を止める事はない。ダーシャはあたしが考えている以上に、先の事を見ている。例え彼が望む現実が、あたしにとっての後悔になったとしても、きっと彼は変わらず微笑んでるのだろう。

商談に入る為に休憩室から商談室へと案内された。一時の休息はあっと言う間に過ぎていった。それでも気を抜ける場所があっただけマシだろう。抜いていた緊張感を取り戻すように、吸い込んでいく。自分に出来るか分からないけど、それでもダーシャがいるなら大丈夫と自分に言い聞かせながら、席に着く。

「……サリア」

座ったあたしを見下ろす形でダーシャが名前を呼んだ。急に名前を呼ばれて反射的に彼を見る。そこには微笑んでいるけど、ほのかに怒りの炎が見えた気がした。ダーシャの様子を見ていると、座る事もせず、ただ誰かを待つように立っていた。彼が何を言いたいのか理解出来たあたしは、椅子から離れると、彼と同じように立った状態で待ち続けた。

自分は客人の前に商談を持ちかけている立場。相手が到着する前でよかったと胸を撫で下ろすと、タイミングを見図ったようにファウストが現れた。

「すまない、待たせてしまったな。二人とも座ってください」

ファウストの言葉を受け入れるように頷くと、ゆっくり丁寧に、上品に見えるように座っていく。一般人のあたしに礼儀作法なんて全くなく、なんとなくでやってみた。ファウストの視線を感じながらも、気にしないように集中する。やっと落ち着く事が出来た体は、異様に緊張をしていた。ガチガチで少し震えている。

そんなあたしの様子に気づいていたダーシャは不安を安心へと塗り替えるように、あたしの手を握る。トクトクと彼の音があたしの心と重ない、安心を手に入れていく。

「今回は『ミレニア鉱石』の事で来たんだろう? こちらとしてはあれに価値をつけるのは難しいと考えている」

「そこまであの鉱石には価値がないと?」

「……逆だ。あれは表に出してはいけない、危険なものだからな」

「そこまで言い切るのは理由があるのかい?」

二人はお互いの考えを探るように言葉を交わしていく。正直に見えても、その裏には複数の思惑と欲望が隠れている。二人についていく事が出来ないあたしは取り残されたように聞く事しか出来ない。

「ダーシャ、本当は気づいているんだろう? あの鉱石の正体をーー」

「……想像に任せよう」

「そうか。知ってて、ここに来たのか。いい根性しているな、お前は」

「照れるだろう」

「褒めてないぞ」

「……知っている」

ミレニア鉱石と呼ばれるもの、ただの石のようにしか見えない。これにそれほどの価値があるとは到底思えなかったあたしは、無意識に手を伸ばし、触ってしまった。

「「サリア」」

二人があたしを呼ぶ声が聞こえる。その瞬間、思い出した。素手で触ってはいけないとあれだけ忠告を受けたのに、何も考えずに手にしてしまった。ダーシャの声がどんどん遠のいていく。あたしは見えない空間に飛ばされたように、世界の出口に吐き出されてしまったんだ。

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