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第4話

Author: 六月の猫
翼がずかずかと入ってきて、冷たい目で使用人たちに合図し、梨花を解放させた。

「翼、この子が先に私に失礼な態度をとったのよ。彼女をかばって私をいじめるなんて許さないわ、私は目上なのよ」渚は顔を曇らせ、その目には動揺が走っていた。「こんなみっともない姿、山崎家の恥さらしじゃないの」

「俺の妻のことは、俺が一番わかってる」翼は梨花をかばい、渚を一瞥すると、冷静に言った。「事を大きくしたいのか?」

「もういいわ!」渚は怒りをあらわにして背を向けた。「でも、次に家のルールを破ったら、ただじゃおかないから」

渚が去ると、翼は梨花をちらりと見て、彼女の手を引いて裏庭のほうへ歩いていった。

「翼、どこへ連れていくの?」梨花は抵抗した。「気分が悪いの。今日は家のルールを書き写すのを休んじゃだめ?」

「仏壇には行かない」

梨花はほっと息をついた。でも、彼が祖父の剛の庭に自分を連れていくのを見て、なぜか胸騒ぎがした。

「翼、いったい何をするつもり?」

「そろそろ子どもを作るべきだ」翼の眉間に、梨花には読み取れない感情がよぎる。彼は梨花を横抱きにすると、剛の書斎へずかずかと押し入った。

「どういう意味?放して。子どもは作らない主義じゃなかったの?

それに今日は、あなたが決めた夜の約束の日でもないじゃない……

翼、やめて!ここはおじいさんの書斎なのよ、放して!

いやっ!」

翼は梨花を剛の書斎机に押さえつけ、スカートを乱暴に引き裂いた。思いやりも前戯もなく、ただ無理やり体をねじ込もうとしてくる。

梨花は痛みで全身が震え、恐怖に目を見開いた。翼の瞳の奥に渦巻く冷たさに気づき、はっと息をのむ。「翼、狂ってるの?」

翼の眉間に複雑な色がよぎる。彼は暴れる梨花の手を掴むと、眉をひそめて言った。「いい子だから、騒ぐな」

また、「騒ぐな」だって。

梨花の心は無理やり引き裂かれるようで、息もできないほど痛かった。彼女の声は途切れ途切れになり、それはほとんど懇願に近かった。「翼、お願い。お願いだから、せめてここではやめて……」

翼の動きが一瞬止まる。彼の目には、不憫さ、苦しみ、そして何か複雑な感情が入り混じって浮かんだ。

でも結局、翼は行為を続けた。

その瞬間、梨花は全身が凍りつくように冷たくなり、心も体も粉々に砕け散った気がした。

理性が屈辱と苦痛に飲み込まれた。彼女は力いっぱいもがき、指が机の上の万年筆に触れると、それを掴んで思いっきり翼の胸に突き立てた。

翼は驚いて、その場に呆然と立ち尽くした。正気に戻ったようでもあったし、梨花がこれほどの抵抗をするとは夢にも思っていなかったのかもしれない。

「お前……」

梨花は青ざめた顔で何も答えず、翼を突き飛ばして外へ駆けだした。でも、剛の庭を出る前にボディーガードに捕まり、反省部屋へと閉じ込められた。

このことを知った渚は、人を連れて駆けつけてきた。そして、梨花を床に押さえつけ、何十発も激しく平手打ちをした。

さらに人に命じて、翼を刺した彼女の手を折らせると、水も食事も与えずに二日二晩閉じ込めた。

梨花は抵抗もせず、もがきもしなかった。渚が気がすむまで殴り、罵るのを、ただ受け入れていた。

彼女はすっかり感覚が麻痺して、まるで魂のない抜け殻のようだった。

翼は現れなかった。梨花のために助けを求めることもしなかった。

彼女は痛めつけられ朦朧とし、ついには暗く湿った地下室で意識を失った。

目が覚めたとき、梨花は病院のベッドにいた。

病室には誰もいなかった。ベランダからかすかに翼の声が聞こえてくる。誰かと口論しているみたいだ。

梨花は何かに引き寄せられるようにベッドから降りて、そっと近づいた。ガラス戸の向こうには、感情をむき出しにした翼がいた。

目は充血し、額には青筋が浮かんでいる。いつものスマートな彼はどこにもいなくて、まったく感情をコントロールできていないようだった。

「おじいさん、俺は美羽とはやましい関係じゃないと、言ったよね。なぜ彼女に手を出したんだ?」翼の目には抑えつけられた苦しみと怒りが満ちていて、声も少し震えていた。

「お前は分別をなくした。ただの学生に心を奪われたんじゃ」電話の向こうから聞こえる剛の声は、歯がゆそうだった。「山崎家の脅威になるものは、いっさい許すわけにはいかん。あの子はお前の未来を邪魔するだけだ」

「彼女には手を出すな!ひ孫が欲しいなら、今すぐ梨花と作る。俺はもう態度で示したはずだ。それでも足りないのか?」翼は歯を食いしばって、興奮のあまり全身を震わせた。

「今回、彼女たち親子に怪我をさせたようなことは、二度としないでほしい。おじいさん、何かあれば俺がすべて引き受けるから、美羽を困らせないで」

その瞬間、梨花は雷に打たれたような衝撃を受け、全身の血が凍りついた。

そういうことだったんだ。

翼が理性を失ってまで、自分と子どもを作ろうとしたのは、美羽のためだったんだ。

美羽が怪我をして病院にいたのは、祖父の仕業。彼は、美羽の存在に気づいていたんだ。

そして、自分と子どもを作ることは、翼が美羽を守るための手段だった。

彼の人生計画に、子どもの存在はなかったはずなのに。

翼の実の母親は難産で亡くなって、継母は彼に冷たかった。そして10歳の時に叔母が難産で母子ともに亡くなってから、翼は固く子どもを持たないと決めていた。

去年、祖父が重い病気になって、何度もひ孫の顔が見たいと訴えても、彼は断り続けていた。

それなのに今、祖父に美羽へ手を出させないために、翼は子どもを作ることを承知したんだ。

翼が自分を祖父の書斎に引きずり込んだのは、たったひとつ、祖父に彼の「覚悟」を見せつけるためだったんだ。

梨花は全身が震えた。自分は翼という人間のことを、何もわかっていなかったのかもしれない。あんなに冷静で、信念を曲げない彼が、一人の女のためにこんな卑劣なことをするなんて。

「俺の我慢も1ヶ月が限度だ。その女子大生には、しばらく手出ししないでおいてやろう」電話の向こうから剛の冷たい声が聞こえてきたが、翼はもう何も言わなかった。
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