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第8話

Autor: ちびネジ
メッセージを確認した後、純佳はすぐにそれを削除した。

痛む体を無理やり起こし、集中治療室へと急ぐ。

「先生、娘の具合はどうでしょうか?」

観察室の窓越しに見える桃香は、深い眠りについていた。小さな体にはいくつものモニターが繋がれ、心電図の波形がゆっくりと動いている。

その痛々しい姿に、純佳は再び心臓が締め付けられる思いだった。

「現在のところ危険な状態は脱しましたが、まだ数日は経過観察が必要です。元々体が弱く、高熱だけでも厄介だったところに、こんな小さな子に度数の高い酒を飲ませるなんて……処置があと少しでも遅れていれば、取り返しのつかないことになっていたでしょう」

医師は搬送時の危険な容態を思い返したのか、青ざめた顔で語った。

なにもかも慎一のせいだ。佑紀子の歓心を買うためなら、あの男は見境もなく、どんな異常なことでも平気でやってのける。

桃香が不憫でならなかった。

まだこんなに小さな子が、どうしてあんな恐ろしい目に遭わなければならなかったのか。

「先生、詳細な診断書を書いていただけませんか。娘がこうなった原因が急性アルコール中毒であることを、はっきりと記載してほしいのです」

これらをすべて記録し、証拠として残しておくためだ。

いずれ裁判が開かれた時、これが慎一の許されざる罪を立証する強力な証拠となる。

診断書を手に医師の部屋を出ようとした時、廊下で若い看護師たちの噂話が耳に入ってきた。

「早川社長の内山さんへの執着、マジでヤバくない?鶴の一声でトップクラスの先生たち集めまくって、今、内山さんの処置室に市内の名医が勢揃いしてるらしいよ。内山さんも本当可哀想。小さい頃に両親亡くして苦労してるのに、あんな目に遭うなんてさ」

「ねえ聞いた?内山さん、事故で落ちたんじゃなくて、奥さんに突き落とされたらしいよ!普段はおとなしくて優しそうなのに、裏の顔ヤバすぎでしょ。マジでサイコパスじゃん。あんな女が妻だなんて、早川社長も気の毒すぎるわ……」

純佳は足を止め、集まって噂話をしている彼女たちを冷たい横目で見た。

歩み寄って反論しようとしたが、ふと廊下の奥に、回診中の看護師長が鬼の形相で立っているのに気づき、そのまま踵を返して歩き出した。

しばらくして、壁際で噂話をしていた看護師たちは看護師長に見つかって厳しく叱責され、あちこちで泣きべそをかいていたという。

そんなことには構わず、純佳は早川家の息がかかったこの病院を密かに抜け出し、遠く離れた別の総合病院へ向かうと、真っ直ぐに産婦人科の門を叩いた。

一通りの診察を終えた後、「左腕の骨折に関する傷害診断書」と、弁護士から送られてきた「離婚調停申立受理証明書」のデータ画面を提示した。

医師はそれらの書類を確認すると、深くため息をつき、静かに頷いた。

「……事情は分かりました。DVの記録があり、婚姻関係が破綻していると見なせる状況ですので、特例としてご本人の同意のみで手術を承ります。明日に予定を組みましょう。術前六時間は絶食してください」

この子を宿すのは、あまりにも時期が悪すぎた。純佳の体はすでに限界を超えている。桃香を出産した時点で大きなダメージを受けており、これ以上の出産には耐えられない。

静かに頷き、診察室を出る。

背後から医師の小さなため息が聞こえるような気がした。

どうしてあんな身勝手な夫に捕まってしまったのかと呆れているのだろう。

慎一のあの氷のように冷たい顔を思い浮かべ、純佳は思わず自嘲気味に笑ってしまった。

早川家の私立病院にある元の病室へ戻ると、佑紀子は骨折を二箇所しただけで命に別状はなく、すでに一般病棟に移ったと耳にした。

ほどなくして、スマートフォンが不意に震え出した。

【早川様、ご依頼のデータは指定のメールアドレスにお送りいたしました】

数分後、スマートフォンの画面上部に一通のメールがポップアップで表示される。指で軽くタップして開いた。

データ量が多すぎるのか、画面がしばらく真っ白になり、三十秒ほど経ってからようやく本文が表示された。

画面をスクロールしていくと、巨大な圧縮フォルダが添付されており、さらにその中にいくつもの小さなファイルが格納されている。

その中の一つのファイルを解凍すると、慎一と佑紀子が密会している写真が次々と現れた。写真のデータだけで十ギガバイトにも及ぶ。

他の証拠がどれほどの量に上るのか、想像するだけでも恐ろしい。

見るに堪えない不貞の証拠の数々を前にして、自分でも怒り狂うかと思っていたが、実際に目の前に突きつけられた時、純佳の心は不気味なほど凪いでいた。

すべてのファイルを解凍し終える頃には、すでに夜が更けていた。純佳はその一枚一枚の写真にじっくりと目を通していく。

写真の下に刻まれた日付のタイムスタンプが、忘れかけていたはずの残酷な記憶を、昨日のことのように生々しく抉り出していく。

慎一が佑紀子を雪景色を見に連れ出していた頃、純佳は妊娠後期に入っていた。足が頻繁に攣って苦しんでいたというのに、些細なことで蔵に閉じ込められ、一晩中冷たい床の上で過ごすことが何度もあった。

慎一が佑紀子をオーロラを見に連れて行っていた頃、純佳は罰として正座させられたせいで切迫早産を起こし、難産による大量出血で生死の境を彷徨っていた。パニックになりながら彼に電話をかけたのに、返ってきたのは「医者を信じろ。死にはしない」という軽い一言だけだった。

慎一が佑紀子に直筆のラブレターを書いていた頃、純佳は産後の悪露が止まらず、二度目の手術室へ運ばれていた。桃香も未熟児のため保育器に入り、一晩に三度も危篤状態に陥った。彼に戻ってきてほしいと懇願したが、慎一は「重要な取引先と話しているんだ、騒ぐな」と冷たく言い放った……

すべての証拠に目を通し終えた時、窓の外はすでに明るくなっていた。

これらの証拠を雅紀に転送し、相手から「確かに受け取った」という返信が来たのを見て、純佳はようやく深く息を吐き出した。

そして、すぐさま桃香の転院手続きを手配させる。

翌日。

看護師に付き添われ、再び冷たい手術台の上に横たわる。

天井の眩しい光の輪を見つめながら、静かに目を閉じた。麻酔が効き始めるとともに、胸の奥から、何かがゆっくりとこぼれ落ちていくのを感じた。

再び目を開けた時、すべては終わっていた。

「安静にしてくださいね。あなたの体は、これ以上の無理にはもう耐えられませんよ」

医師は険しい顔で念を押した。

差し出された術後の処方箋を受け取り、静かに頷く。もう二度と、彼らに自分の人生を蹂躙させはしない。

退院後、荷物をまとめるために早川家へ戻ったが、思いがけず屋敷は静まり返り、誰もいなかった。

桃香の荷物と必要な書類を素早くスーツケースに詰め込み、リビングのテーブルに離婚調停の申立書と、中絶手術の同意書の控えを残して、純佳は一人で早川家を後にした。

そして、少し離れた場所に停まっていた黒のカイエンに乗り込んだ。

「行きましょう。今後の裁判の準備をしなければ」

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