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元カノの愛は金まみれ

元カノの愛は金まみれ

作者:  花畑のベイベー已完成
語言: Japanese
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故事簡介

男性視点

御曹司

ひいき/自己中

後悔

夫を取り戻す修羅場

逆転

クズ成敗

俺、藤ヶ谷悠斗(ふじがや ゆうと)の彼女、神宮寺綾乃(じんぐうじ あやの)は東都でも名の知れた令嬢で、莫大な資産を持っている。 俺を試すために、付き合って七年になるのに、彼女は一度も俺にプレゼントを買ってくれたことがなく、俺のために一銭たりとも金を使わなかった。 コンビニで避妊具を買うときでさえ、きっちり割り勘だった。 その後、母さんが重い病気にかかり、俺は親戚や知人から借りられるだけ借りたが、手術費にはあと4万円だけ足りなかった。 どれだけ彼女に頭を下げて頼んでも、彼女は結局、その金を貸してくれなかった。 俺は一人で母さんの後始末を終え、部屋に戻って荷物をまとめていたとき、彼女が近所に住む年下の男――加藤蒼(かとう・あおい)のために用意していたプレゼントのリストを、思いがけず見つけた。 高級別荘、ブランド物の腕時計、オーダーメイドのスーツ…… 書斎のパソコン画面に、親友とのやり取りまで残っていた。 【綾乃、悠斗くんが4万円を借りるために、あなたに土下座したって聞いたけど、本当なの?】 綾乃のメッセージには、面白がるような嘲りと、どうでもよさそうな冷たさがにじんでいた。 【蒼の言う通りだわ。たかが4万円のために、あちこちで人に土下座するなんて、逆玉狙いじゃなかったら何なの。 まだ付き合ってたった七年よ。それなのに、もうこんなに必死で私から金を引き出そうとしてるなんて】 結局、七年にわたる試し行為のきっかけは、ただ近所の年下の男のひと言だったのだ。 もうどうでもいい。 どうせ母さんが亡くなったあの瞬間から、俺はもう彼女のもとを去ると決めていたのだから。

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第 1 章

第1話

俺、藤ヶ谷悠斗(ふじがや ゆうと)の彼女、神宮寺綾乃(じんぐうじ あやの)は東都でも名の知れた令嬢で、莫大な資産を持っている。

俺を試すために、付き合って七年になるのに、彼女は一度も俺にプレゼントを買ってくれたことがなく、俺のために一銭たりとも金を使わなかった。

コンビニで避妊具を買うときでさえ、きっちり割り勘だった。

その後、母さんが重い病気にかかり、俺は親戚や知人から借りられるだけ借りたが、手術費にはあと4万円だけ足りなかった。

どれだけ彼女に頭を下げて頼んでも、彼女は結局、その金を貸してくれなかった。

俺は一人で母さんの後始末を終え、部屋に戻って荷物をまとめていたとき、彼女が近所に住む年下の男――加藤蒼(かとう・あおい)のために用意していたプレゼントのリストを、思いがけず見つけた。

高級別荘、ブランド物の腕時計、オーダーメイドのスーツ……

書斎のパソコン画面に、親友とのやり取りまで残っていた。

【綾乃、悠斗くんが4万円を借りるために、あなたに土下座したって聞いたけど、本当なの?】

綾乃のメッセージには、面白がるような嘲りと、どうでもよさそうな冷たさがにじんでいた。

【蒼の言う通りだわ。たかが4万円のために、あちこちで人に土下座するなんて、逆玉狙いじゃなかったら何なの。

まだ付き合ってたった七年よ。それなのに、もうこんなに必死で私から金を引き出そうとしてるなんて】

結局、七年にわたる試し行為のきっかけは、ただ近所の年下の男のひと言だったのだ。

もうどうでもいい。

どうせ母さんが亡くなったあの瞬間から、俺はもう彼女のもとを去ると決めていたのだから。

プレゼントのリストを元の場所に戻したところで、玄関のドアが開いた。

綾乃はほのかに酒の匂いをまとわせながら、ずかずかとこちらへ来て、俺の隣にどかっと腰を下ろした。

「何日も姿を見せなかったから、てっきり意地を張って、もう戻ってこないのかと思ってた。

やっぱり私がいないとだめで、おとなしく戻ってきたのね」

さすがに口には出さなかったが、俺がまた戻ってきたのは、自分の金を当てにしてのことだとでも思っているようだった。

あるいは最初から、俺は彼女の中では、金目当てで女に取り入る男でしかなかったのかもしれない。

俺は視線すら向けず、わずかに身を横へずらした。

伸ばされてきた彼女の腕をかわすために。

綾乃は一瞬きょとんとして、自分の手を見てから、また俺を見た。

俺があの4万円のことで、すねているだけだと思ったらしい。

「少し飲んだから、喉が渇いたの。酔い覚ましのスープでも作ってきて」

彼女はいつもそうだった。無意識のうちに、お嬢様気取りになる。

だが七年前、彼女が俺に言い寄り始めた頃は、拙い芝居で、自分を貧しい女であるかのように装っていた。

そのせいで俺は、すっかり信じ込まされていた。

「悠斗、私には何もないし、あなたに安定した未来をあげることもできない。

でも、二人で頑張って、二人でいい暮らしを手に入れよう」

あのとき、あまりにも真剣な彼女の顔を見て、俺はうなずいた。

俺は金には困っていたが、それでも自分の力でやっていくことはできた。

それでも綾乃を選んだのは、二人で頑張って、二人でいい暮らしを手に入れよう――その言葉に心を動かされたからだった。

だが、一緒にいればいるほど、彼女は普通の人間とは違うと思うようになった。

手頃な値段の品に、ふとした拍子に嫌悪をにじませることもあった。

自分でできることなのに、俺に命じてやらせることもあった。

そしてアルバイト中、彼女が高級車から降りてきて、大勢にちやほやされながら高級クラブへ入っていく姿を目にした。

そのときになってようやく、俺たちの関係は嘘だらけだったのだと完全にわかった。

しかも彼女はずっと、俺が彼女の金を狙っていると警戒していたのだ。

綾乃が再び口を開き、俺の思考を遮った。

「これからお金が欲しいなら、私に直接言えばいいじゃない。自分の母親の病気を言い訳にするなんて。罰が当たるとか思わないわけ?」

彼女の言葉が、ひどくおかしくてたまらなかった。

俺は目を上げ、冷ややかに彼女を見た。

「直接言ったら、君はくれるのか?」

綾乃は一瞬言葉に詰まり、顔に迷いがよぎった。

だが次の瞬間、何かを確信したように、あからさまに嘲るような目を向けてきた。

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第1話
俺、藤ヶ谷悠斗(ふじがや ゆうと)の彼女、神宮寺綾乃(じんぐうじ あやの)は東都でも名の知れた令嬢で、莫大な資産を持っている。俺を試すために、付き合って七年になるのに、彼女は一度も俺にプレゼントを買ってくれたことがなく、俺のために一銭たりとも金を使わなかった。コンビニで避妊具を買うときでさえ、きっちり割り勘だった。その後、母さんが重い病気にかかり、俺は親戚や知人から借りられるだけ借りたが、手術費にはあと4万円だけ足りなかった。どれだけ彼女に頭を下げて頼んでも、彼女は結局、その金を貸してくれなかった。俺は一人で母さんの後始末を終え、部屋に戻って荷物をまとめていたとき、彼女が近所に住む年下の男――加藤蒼(かとう・あおい)のために用意していたプレゼントのリストを、思いがけず見つけた。高級別荘、ブランド物の腕時計、オーダーメイドのスーツ……書斎のパソコン画面に、親友とのやり取りまで残っていた。【綾乃、悠斗くんが4万円を借りるために、あなたに土下座したって聞いたけど、本当なの?】綾乃のメッセージには、面白がるような嘲りと、どうでもよさそうな冷たさがにじんでいた。【蒼の言う通りだわ。たかが4万円のために、あちこちで人に土下座するなんて、逆玉狙いじゃなかったら何なの。まだ付き合ってたった七年よ。それなのに、もうこんなに必死で私から金を引き出そうとしてるなんて】結局、七年にわたる試し行為のきっかけは、ただ近所の年下の男のひと言だったのだ。もうどうでもいい。どうせ母さんが亡くなったあの瞬間から、俺はもう彼女のもとを去ると決めていたのだから。プレゼントのリストを元の場所に戻したところで、玄関のドアが開いた。綾乃はほのかに酒の匂いをまとわせながら、ずかずかとこちらへ来て、俺の隣にどかっと腰を下ろした。「何日も姿を見せなかったから、てっきり意地を張って、もう戻ってこないのかと思ってた。やっぱり私がいないとだめで、おとなしく戻ってきたのね」さすがに口には出さなかったが、俺がまた戻ってきたのは、自分の金を当てにしてのことだとでも思っているようだった。あるいは最初から、俺は彼女の中では、金目当てで女に取り入る男でしかなかったのかもしれない。俺は視線すら向けず、わずかに身を横へずらした。伸ばされてきた彼女の腕を
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第2話
「蒼の言う通りね。やっぱりあなたが私のそばにいたのは、私のお金が目当てだったんだ」そう言いながら、彼女はスマホで俺にわずか100円を送ってきた。しかも、わざわざ送金メモまで添えていた。そこに書かれていたのは、たった一言。【逆玉狙い】彼女と付き合って丸七年、俺は彼女の金を一銭だって使ったことがない。それどころか、祝日や記念日には、俺のほうが彼女にプレゼントを用意してきた。彼女はそれを当然のように受け取っておきながら、自分が何も用意していないことについては、男が彼女を喜ばせるためにプレゼントを買うのは当たり前でしょ、と皮肉っぽく言っていた。そんな俺のことを、彼女はことあるごとに逆玉狙いだと決めつけていた。それが、莫大な資産を持つ東都のお嬢様だった。彼女が蒼のために用意したプレゼントのリストを思い出す。病に蝕まれてやつれ果て、それでも治療費がなく、苦しみながらこの世を去った母を思い出す。もう一秒たりとも、こんな女と向き合っていたくなかった。俺は立ち上がって出て行こうとしたそのとき、玄関のほうでまた物音がした。蒼は中に入ってくるなり、上着を脱ぎ始めた。その下には、体の線をやたらと強調する、男にしては妙に色気を狙った服を着ていた。だが俺の姿を見た途端、驚いたように目を見開き、慌てて上着を羽織り直した。「悠斗さん、どうしてここに?」俺は顔を綾乃へ向けた。「俺の記憶違いじゃなければ、ここって俺たちで借りてる部屋だったよな。それを勝手に他人に暗証番号まで教えて、好きに出入りさせてるのか?」俺がそう言うと、蒼はとんでもない仕打ちを受けたみたいな顔をした。そして数歩で綾乃のそばまで行き、隣に座って彼女の腕をつかんだ。「綾乃さん、僕をまるで他人みたいに扱わないでよ。鍵を忘れちゃって、今夜だけ泊めてもらおうと思って来ただけなのに。それに、綾乃さんが一緒に住んでくれなかったら、悠斗さんは家賃を一人で払わなきゃいけなかったんだよ。どう考えても、得をしてたのはそっちじゃないか」こんなふうに煽るようなことを、俺の知らないところでいったいどれだけ吹き込んでいたのか知れない。綾乃はそれを聞いても、自分が悪いとは少しも思わなかったどころか、蒼の言うことに理があるとまで思ったらしい。「蒼の言う通
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第3話
「綾乃さんのお金が目当てじゃないって、さすがに無理があるんじゃない?だって綾乃さんがいなかったら、こんないい部屋に住めるわけないだろう。綾乃さん、来月にはもう解約したほうがいいと思うな。だって、いつまでも他人にいい思いさせる必要なんてないじゃん。それかさ、悠斗さんにちゃんと借用書書いてもらえば?そのほうがお互い安心だし、フェアでしょ」人を殴っても罪にならないなら、こいつらに一発ずつ平手打ちを食らわせてやりたかった。だが本当に手を出せば、こいつらは間違いなくそれを口実にして金をむしり取ろうとするだろう。品のない金持ちほど好んでやる、下衆な遊びだった。七年だ。俺はもう十分すぎるほど、こいつらの遊びに付き合ってきた。もう付き合うつもりはない。「借用書なんか書かない。金が欲しいなら、勝手に訴えればいい。裁判所が俺の負けだと判断するかどうか、見てみればいい。この部屋にももう住まない。加藤さんがここに住むつもりなら、綾乃にちゃんと家賃を払ってくれ。じゃないと、君も逆玉狙いだよ」俺が立ち去ろうとしたそのとき、綾乃がいきなり俺の腕をつかんだ。さっきまでの面白がるような表情はもう消えていて、代わりに責めるような怒りが浮かんでいた。「悠斗、そこまで大げさにすること?私も蒼も、ただ冗談で言っただけじゃない。よく考えなさいよ。ここを出たら、もう二度とこんなにいい部屋には住めないわよ」俺は本当に間違っていた。どうしようもないほど、ひどく間違っていた。綾乃が東都のお嬢様だと知ったとき、少しなだめられただけで、別れようという気持ちを引っ込めてしまったこと。それに、俺が金目当てだと疑われるたびに、恋愛に金を持ち込むべきじゃないという彼女の言葉を、俺は何度も信じてしまった。真冬の寒い日には、自分の腹に俺の手を押し当てて温めてくれたことも、俺が頭痛のときには温かい手で優しくさすってくれたことも、俺はずっと心に残していた。俺たちはたしかに愛し合っていたし、甘い時間だってあった。だが俺たちの愛は、金と少しでも結びついた瞬間に、もう成り立たなかったんだ。「綾乃、別れよう」別れる――その言葉が俺の口から出た途端、彼女はようやく、薄らと浮かべていた嘲るような笑みを消した。同時に、その顔にはわずかな焦りがにじんだ。「別
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第4話
「辞める?神宮寺社長の許可は取ったのか?そうだ、今辞めるとなると、今月のボーナスはほとんど出ないはずだし、今後の給与は、あのカードに紐づいた口座へまとめて振り込めばいいな」俺は眉をひそめた。入ってくる情報が多すぎて、一瞬まったく理解が追いつかなかった。一つの口座に振り込むって、どういうことだ。それに、俺にボーナスなんていつあった。何より――神宮寺社長って何だ?俺がわけもわからない顔をしていたからか、上司のほうも不思議そうな顔をした。「君、社長と付き合ってるんじゃなかったのか?社長が特別に経理へ指示して、君の給料は分けて振り込むようにしてたんだよ。基本給は君の口座に、ボーナスと昇給分は別のカードに紐づいた口座へ入れておけって。社長みたいな彼女がいて、そこまで倹約してるなんて、たいしたもんだよ」つまりこの何年ものあいだ、俺の手元に入っていたのは、入社当時の給与額だけだったということだ。何度も昇給を求めてきたのに、仕事への努力が足りなかったからじゃなかった。綾乃が、別のカードへ回していたからだった。経理に給与明細の履歴を出してもらったとき、支給されるはずだったボーナスの欄には、はっきりと4万円と書かれていた。数日前、最後の4万円をどうしても工面できず、病院への支払いが一日遅れた。そのせいで母さんは手術を受ける前に、この世を去った。しかも皮肉なことに、この七年間で綾乃に取り上げられていた俺のボーナスを合計すれば、母さんの治療費なんてとっくに払えていた。俺は本当に馬鹿だった。生活のあてを失うのが怖くて、クビにならないよう必死で働くことしか頭になかった。そのうえ綾乃にいいように騙されていたことにすら、気づけなかった。彼女に逆玉狙いだと思われたくなくて、彼女の金にはいっさい手をつけなかったどころか、自分が働いて得た金まで、彼女に横取りされていた。嘘と侮辱に満ちたこの関係を、俺はそれでも七年も続けてしまった。給与の履歴を手に、綾乃に問いただしに行こうとしたとき、当の彼女が平然と俺の前に現れた。「悠斗、ただ少し言い合いになっただけなのに、家出して退職騒ぎまで起こすなんて。ずいぶん気が強くなったものね」その後ろにいる蒼は、いかにも愉快でたまらないという顔をしていた。わざとらしくこちらへ歩
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第5話
「金だけはしっかり欲しがるくせに、自分は悪くないって顔までしたがるとか、さすがに厚かましすぎない?」その一言をきっかけに、その場は一瞬で騒然となった。その場にいた全員が軽蔑の目で俺を見て、罵声まで次々に浴びせてきた。俺は綾乃を見たが、彼女は相変わらず何とも思っていないような顔をしていた。むしろ、蒼が自分の気持ちを代わりに言ってくれたとでも言いたげに、妙に被害者ぶった顔までしていた。俺は口元を引きつらせ、ひどくばかばかしい笑みを浮かべた。何か言おうとしたそのとき、綾乃のほうがあっさり俺の腕をつかみ、わざと寛大なふりをして仲裁役を演じ始めた。「もういいでしょ、もういい。終わったことは終わったことなんだし、私だってそんなはした金、別に惜しくないわ。これからお金が欲しいなら、変に遠回しなことをしないで、堂々と私に言えばいいのよ。いちいちこんなに言い訳を並べる必要なんてないでしょ」綾乃が口を開いた途端、オフィスの空気はさらに険悪になり、誰も彼もが俺を恩知らずだと決めつけた。「そうだよなあ、社長くらい金があるなら、欲しいなら最初から言えばいいだけだろ」「母親をダシにして金をせびるなんて、人として終わってるよ」「藤ヶ谷がこんなやつだったなんてな。前は節約家だと思ってたし、よく食べ物も分けてやってたのに」「こういうやつこそ社長に捨てられて、東都で生きていけなくなればいいんだ」前までは俺と親しくしていた同僚たちまで、ここぞとばかりに俺を叩いてきた。それに綾乃のやってきたことを思い返すと、もう何もかも、ひどくくだらなく思えてきた。どうせもう去るのだ。たとえ今ここで給与の振込履歴を突きつけたところで、綾乃と蒼はまた都合のいい理屈を並べて、みんなに俺を叩かせるだけだろう。俺は黙って給与の履歴をポケットにしまい込んだ。そして顔を上げ、綾乃に向かって薄く笑ってみせた。「俺たち、七年付き合ってたんだよな。だったら一度ちゃんと数えてみろよ。俺がいったい、君の金をいくら使ったのか。もし俺のために一円でも使った金があるっていうなら、言ってみろ。言えないなら、今度は君が俺に返すべき金を返せ。それができないなら、君もこの会社も、訴えられる覚悟くらいしておけ」口では、金の絡まない恋愛だと何度も言っていたくせに、実
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第6話
俺のボーナスや昇給分を勝手に押さえていただけじゃなく、綾乃は社員向けの弔慰金にわざと署名もしなかった。給料の前借り申請書でさえ、彼女の手で取り下げられていた。たった4万円だった。ただそれだけの金額なのに、どうしてそれすら渡してくれなかったのか。どうしてあそこまで俺を追い詰めたのか。これまで何年も綾乃のためにしてきたことを思い返すたび、自分が愚かで哀れに思えて仕方がなかった。もし別の会社で働いていたら、あんなに苦しまずに済んだはずだし、もっと貯金できていたはずだ。そうしていれば、母さんも助かったかもしれない。いっそ最初から、綾乃に出会わなければよかった。さっきまで、金をせびるために自分の母親まで利用したのかと俺を責めていた同僚たちは、上司の言葉を聞いた瞬間、みんな一斉に口をつぐんだ。誰もがうつむき、俺の顔を見ようともしない。あまりにも早く、自分たちが間違っていたと突きつけられたからだろう。けれど相手が綾乃となると、誰一人として彼女を問い詰めようとはしなかった。人はいつだって弱い者をいじめる。強い者が間違っていてもだ。そんなことはとっくにわかっていた。だが実際に目の当たりにすると、ただただやるせなかった。企画書作りを手伝ってやった同僚も、子どもの世話を手伝ってやった知人も、かつて俺が手を貸してきた人間たちも、真実を知ってなお、誰一人として俺のために声を上げようとはしなかった。滑稽で、皮肉で、どうしようもなかった。気持ちを落ち着けてから、俺は静かに口を開いた。「神宮寺社長、計算はできたか。俺はいったい、君からいくら巻き上げたんだ?」俺が落ち着いているのとは対照的に、綾乃は明らかに取り乱していた。俺に金を使った場面なんて、思い当たるはずもない。水一滴、塩一粒に至るまで。綾乃は突然、上司の手首をぎゅっとつかんだ。声がわずかに震えていた。「悠斗のお母さん……本当に亡くなったの?」上司は事情がわからないまま、うなずいた。「はい。社長、ご存じなかったんですか?」綾乃は目の前が暗くなったように、危うくよろめきかけた。いつも自分を「綾乃ちゃん」と呼んでくれていたあの人が、本当に亡くなってしまったなんて信じられなかった。しかも、自分がその死の一端を担ってしまったのだと気づいたからだ。
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第7話
「綾乃さん、悠斗さんに仕事の機会を与えたのは綾乃さんだよ。でなきゃ、あいつは東都に残ることすらできなかった。母親が死んだなら、それで終わりでしょう。大したことじゃないよ。これでもう、そのことを口実にして、綾乃さんの金をかすめ取ることもできなくなったんだから。今、綾乃さんがあいつに会いに行ったら、つけ上がる隙を与えるだけだ。男のことは男がいちばんわかる。悠斗さんはただ、駆け引きをして気を引こうとしてるだけだよ」綾乃はその瞬間、目の前の蒼がひどく見知らぬ人間に思えた。俺がどれほど優秀か、彼女がいちばんよく知っているはずだった。この数年、会社は俺が牽引してきたことで、少なからぬ価値を生み出してきた。それなのに、陰でずっと俺を押さえつけてきたのは、ほかでもない綾乃だった。生きた人間の命でさえ、蒼の口から語られると、まるで何の重みもないもののように扱われる。綾乃はついさっき、俺と自分のこれまでをようやくきちんと思い返したばかりだった。彼女は俺のために一銭も使っていないし、俺が逆玉狙いだったという事実もどこにもなかった。思えば、あの頃の俺の取り乱した訴えも、何度もの抗議も、必死の弁解も、綾乃はそのたびに蒼の言葉に惑わされていた。彼女の中では、俺が金目当ての男だという思い込みが、もうすっかり出来上がっていた。こんなことになったのも、結局は俺と彼女が揉めるたびに、蒼が間に入っては関係をかき回していたせいだった。聞き慣れた言葉だった。聞き飽きた言い回しだった。なのに今の綾乃には、それがただただ吐き気のするものにしか思えなかった。もし蒼がいなければ、綾乃の恋愛観も、ここまで歪んだものにはならなかったのかもしれない。だが彼女がそれに気づいたときには、もう何もかも手遅れだった。エレベーターの前に立ちはだかる蒼を見て、綾乃は珍しく冷え切った顔になった。「どいて」蒼は納得できないまま、目に悔しさをにじませた。「綾乃さん、僕は――」最後まで言わせず、綾乃は彼を突き飛ばした。「これ以上邪魔するなら、もう二度とあなたには会わない」ようやく一階にたどり着くと、綾乃は出口へ走りながら叫んだ。「悠斗、行かないで!」俺は振り返りもせず、そのまま車のドアを開けて会社をあとにした。綾乃が出口まで来たときには、
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第8話
俺は故郷へ戻った。かつて母さんと二人で身を寄せ合って暮らしていた、小さな庭付きの家の門を開けた。懐かしい空気に触れた瞬間、また目いっぱいに涙があふれた。俺はどうしようもなくなって、母さんの遺骨を抱きしめたまま、その場にしゃがみ込んで泣き崩れた。ごめん、母さん。いい暮らしをさせてやれなかった。ごめん、母さん。いちばん大事なときに、手術代を用意できなかった。ごめん、母さん。俺が結婚する姿も見せてやれなかった。……母さんに申し訳ないことなんて、本当にいくらでもあった。泣き疲れてふと顔を上げると、庭にあった小さな腰掛けが目に入った。そこには、昔母さんが描いてくれた笑顔の絵柄がまだ残っていた。ただ、長いこと使っていなかったせいで、腰掛けには苔がびっしりと生えていた。俺はそれを拾い上げて、小川のほとりまで持っていった。そしてブラシで、何度も何度も表面の汚れをこすり落としていく。すると腰掛けに描かれていた笑顔も、少しずつはっきり見えるようになっていった。その笑顔は、母さんの笑顔にどこかよく似ていた。俺はそっとその絵柄を指先でなぞりながら、小さくつぶやいた。「母さん、俺、ちゃんと生きていくから……」その言葉がこぼれ落ちたのと同時に、涙もしずくになって腰掛けの上に落ちた。やっぱり俺は、母さんがいないとだめなんだな。気持ちをどうにか立て直してから、俺は庭へ戻った。人は何かしているあいだだけは、悩みを忘れられるものだ。庭を掃除し終えるころには、少しだけ気持ちも軽くなっていた。この数日、俺は近所をあちこち歩き回っていた。自分に向いていそうな仕事がないか、探してみたかったからだ。だが、これといったものは何一つ見つからなかった。その代わり、この村には蓮池がいくつもある。それを見ているうちに、ここで養魚場を始めるという考えがふと浮かんだ。半分は養殖用に、もう半分は上質な客向けの釣り場として整備して、質のいい客を呼び込む。うまくいけば、この一帯の経済を動かすことだってできるかもしれない。口座の残高を見つめながら、俺は頭の中で少しずつ養魚場の構想を思い描いていった。だが、こういうことは俺にとってまったくの初めてだった。何もかも手探りで、そう簡単にはうまくいかない。結局、毎日
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第9話
正直、嬉しかった。あれだけ忙しいのに、適当に理由をつけて断ることだってできたはずなのに。俺は服を着替えて、瑠璃と一緒に養魚場へ向かった。「この池の広さなら、水深は2.5メートルくらいは確保したほうがいいわね。池を整えるなら、面積に応じて生石灰を入れる必要があるし、養殖するなら今の水深じゃ少し足りないわ」俺はメモを取りながら何度もうなずき、慌てて尋ねた。「魚の種類にも条件がありますか?」瑠璃は少し考えてから答えた。「一般的には、この規模の池なら、フナが2000尾、コイが1500尾、ハクレンが20尾前後ってところね。でも始めたばかりなら、まずは生存率の高い魚から育てたほうがいいわ。人手のことは心配しなくていい。そのときになったら、経験豊富な人を何人か紹介してあげる。それから、あなたがやりたい高級釣り場だけど、池はちゃんと区分けしないとだめ。初心者とベテランを同じ場所に入れたらだめよ。初心者は釣れないし、隣でどんどん釣り上げられたら気落ちしてしまうから。それと、交流の場としての釣り場っていう形もあるわ。そこは釣ること自体が主な目的じゃないから、お客さんを呼ぶなら宣伝の打ち出し方も考えないとね」瑠璃は午後いっぱい、俺に付きっきりで話してくれた。最初は、ただ養魚で成功しただけの成金なのかと思っていた。だがよく知ってみると、彼女は農学分野の博士だった。水産養殖に関するSCI論文まで何本か発表しているらしい。瑠璃に助けてもらいながら、俺の養魚場と釣り場も少しずつ形になっていった。初心者向けの釣り堀は一律半額にした。たとえ一匹も釣れなくても、帰るときに一匹持ち帰れるようにした。そういうときに、養殖池の魚が役に立つ。二つ目の池では入場料を取らず、釣れた魚を重さで量って精算する方式にした。それが客の満足感を大いに高めた。さらに奥のエリアには食事処も併設し、ワンランク上の区画には水上レジャーまで取り入れた。資金はやや心もとなかったが、序盤は瑠璃の助けもあって、どうにか回していくことができた。養魚場の利益はすぐに伸び始め、俺の資産もそれにつれて大きく膨らんでいった。ここ数か月の付き合いで、俺と瑠璃の距離はかなり縮まった。俺ももう彼女を結城社長とは呼ばないし、彼女も俺を藤ヶ谷さんとは呼ばなくなった。
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第10話
報告書をまとめ終えるころには、ラーメンもちょうど俺の前に運ばれてきた。半分ほど食べたところで、瑠璃が笑いながら口を開いた。「もうおなかいっぱい?」俺は満腹になると、食べる速さがいつも目に見えて遅くなる。人の気持ちがこもったものは、最後までちゃんと食べたい。たとえおなかがいっぱいでも、俺はゆっくり全部食べきろうとするのだ。「おなかいっぱいなら、もう無理して食べなくていいよ。食べすぎると苦しくなるから」俺は思わず笑ってしまった。「瑠璃、俺の心でも読めるのか?なんでそこまでわかるんだよ」「ははは、だってしょうがないでしょ。あなた、考えてることが全部顔に出るくらい単純だもん。知りたくなくてもわかっちゃうよ」単純?そんなふうに言われたのは初めてだった。綾乃はいつだって、俺のことを損得勘定ばかりしている逆玉狙いだと思っていた。もし本当に瑠璃の言うような人間なら、どうしてあれだけ長いあいだ、綾乃は一度も俺の気持ちを気遣ってくれなかったのだろう。俺の顔色が少し曇ったのに気づいたのか、瑠璃は慌てて口を開いた。「どうしたの?私、変なこと言った?」俺は笑って首を振り、いつもの顔に戻った。すると瑠璃は、背中の後ろから小さな箱を取り出した。「ほら、見て。気に入るかどうかわからないけど」俺も遠慮せず、そのまま受け取って開けた。中に入っていたのは、腕時計だった。「先月、ジュエリーの展示会に招待されて行ったんだけど、そのとき主催者から急にもらってね。なんとなくあなたに似合いそうだなって思って。はは……ずっと渡す機会がなくて。もし気に入らなかったら、その、どこか適当にしまっておいてくれればいいし、別に……」「気に入った」「え?」瑠璃は、俺の返事に目を丸くした。彼女はこれまでにも何度か俺に物をくれたことがあったが、俺はいつも礼儀として受け取るだけだった。これを好きだとはっきり口にしたのは、これが初めてだった。社交辞令じゃない。本当に嬉しかったのだ。ぽかんとした瑠璃の顔は、初めて会ったときと少しも変わらなかった。「だから、すごく気に入ったって言ったんだよ」さっきまでしどろもどろにごまかそうとしていた様子が、なんだか妙に可笑しかった。俺のことを単純でわかりやすいなんて言っていたくせに、瑠璃だ
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