Share

第8話

Author: キャンディーとても甘い
希枝は、スマホを手に取りながら得意げに話し、首を傾けては誇らしげに笑っていた。その表情は、醜悪という言葉以外に形容のしようがなかった。

「あらあら、あんた見てないでしょ?あの女の手がぶら下がって、皮一枚で繋がってるだけなのよ。

あぁ、気持ち悪くて仕方なかったけど……それでも、ほんっとにスカッとしたわ、はははは!」

彼女の声は次第に興奮を帯び、その誇らしげな笑い声が病室に響き渡った。南雄が今まで一度も見たことのない、彼女の本性だった。

南雄は病室の入り口に立ったまま、全身が凍りついたかのように硬直していた。耳に飛び込んでくるその言葉が、悪魔の囁きのように彼の心を一言一句抉り続けている。

血が逆流するかのように頭へと上り、頭蓋の中で耳鳴りが暴れ狂った。

「それにね、あの女に汚らしい男をそそのかしてやったの。カメラだってちゃんと用意してたのに、まんまと逃げられちゃった。

惜しいことしたわ。あらかじめもっと人数を揃えておけばよかったかしら?門司家のお嬢様のあんな写真、考えるだけで間違いなく大儲けできるのにね」

希枝は、口を滑らせることも気にせず、悪意に満ちた計画を嬉々として語った。その一言一言が鋭い刃となって、南雄の心を容赦なく切り裂いた。

彼は信じられなかった。自分が守り、愛してきた希枝が、ここまで蛇蝎のごとく冷酷で、手段を選ばない女だったとは。そして、自分はその計略に嵌められ、自らの手で茜にあんな残酷な仕打ちをしてしまったのだ。胸を締め付けるのは、悔恨と自責の念であり、今すぐにでも過去へ戻って、この悲劇を阻止したい衝動だった。

「清水は私には落とせなかったけど、南雄なら思いのままよ。あの人は何年も私に媚を売ってきたんだもの。

私が泣き真似をすれば、まるで馬鹿みたいに尽くしてくれる。今だって、ちょっと手招きすれば喜んで飛んでくる犬よ」

その声には、軽蔑と得意さがたっぷりと滲んでいた。

「信じる?私が一言言えば、結婚式の最中だって茜を捨てて私のところに来るわよ」

彼女はますます調子に乗り、その傲慢な態度は吐き気を催すほどだった。

その嘲笑は鋭い針となり、南雄の胸に突き刺さると同時に、中でぐりぐりと抉り回す。

それは肉体的な痛みではなく、魂の奥底を切り裂く激痛であり、息をすることさえ困難にさせた。

南雄は、怒りと後悔で震える体を必死に押さえ込
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 月明かりの下でさよならを   第17話

    承平の温かく、そして安心感に満ちた腕の中に包まれ、茜は彼にしっかりと寄り添っていた。この瞬間、茜の心は未来への憧れと喜びで満ちていた。彼女は知っていた。自分と承平の美しい未来は、まるで昇り始めた朝日と同じように、いま幕を開けたばかり。希望と無限の可能性にあふれているのだと。これからの日々は、きっと、いつも笑顔で、すべてが思い通りになる。……後日談1一年後。茜は、自分が新しい命を授かったことに気づき、驚きと喜びで胸がいっぱいになった。その知らせを聞いた承平は、茜を抱き上げて何度も回り、なかなか手を離そうとしなかった。茜は驚いて声をあげた。「きゃっ!」すると、承平は彼女の小さな顔を両手で包み、何度も何度もキスをした。「本当に……よかった。結局巡り巡って、こうして君に出会えた。本当に……よかった」茜は目を細めて笑った。「愛してる」その言葉を聞いた瞬間、承平は一瞬きょとんとし、次の瞬間には目が赤くなった。彼女が初めて、自分に「愛してる」と言ってくれたのだ。彼の茜が、ついに心を完全に開いてくれた。妊娠中の茜を、承平はこれまで以上に大切に扱った。まるで雛を抱く親鳥のように、些細なことにも息を詰めるほど細心の注意を払った。彼は多くの仕事を断り、検診は一度も欠かさず付き添った。さらに料理まで学び、彼女のために栄養たっぷりの食事を用意した。十ヶ月後、生まれた小さな周藤家の赤ちゃんは、目元は承平にそっくりで、笑顔は茜を思わせる愛らしさを持っていた。承平はその子を抱き、初めて父となった喜びと優しさで目を細めた。茜はベッドの上からその光景を見つめ、胸いっぱいの幸福を感じた。これからの日々、この小さな命が、二人の家庭にもっと多くの笑顔と甘やかさをもたらすだろう。そして彼らの幸福な物語は、子どもの成長とともに、永遠に続いていくのだ。後日談2薄暗い病室で、南雄は病床に横たわり、消毒液の鼻を刺す匂いと、長年の酒とタバコが染みついた腐敗のような臭気に包まれていた。痩せ細り、骨と皮だけの体。かつての整った顔立ちはやつれ果て、深く落ち込んだ眼窩には絶望と虚無が漂っている。末期の胃癌による痛みは、まるで悪魔のように彼の身体をむしばみ、一呼吸ごとに拷問を受けているかのようだった。だが

  • 月明かりの下でさよならを   第16話

    絶望の叫び声が、この静まり返った部屋に虚しく反響した。しかし、それはもはや茜の心を動かすことはなかった。南雄は狂気に陥ったかのように、両眼を血走らせ、絶望と無念を湛えた視線を浮かべ、口の中で何度も繰り返し呟いた。「もうすぐ俺たちは結婚するはずだったのに……あとほんの少しだったのに……どうしてこんなことになったんだ!どうしてだ!」そう言うと、彼は狂ったように拳を振り上げ、地面を何度も何度も力任せに叩きつけた。「ドン、ドン」という音が静寂の中に響き渡り、その一撃、また一撃が、彼の胸の奥底に渦巻く無限の後悔と痛苦を吐き出しているかのようだった。彼は胸を引き裂くように泣き、絶望、自責、そして茜を失う恐怖がその涙に混ざり合い、溢れ出した涙は堤防が決壊した洪水のように頬を伝って流れ落ち、眼前の床を濡らしていった。しかし、茜の表情にはかけらの哀れみも、心の揺らぎも見られなかった。彼女はただ一瞥、その混乱と絶望に満ちた光景を見やると、きっぱりと顔を背け、二度と南雄を見ることはなかった。彼女はそっと承平の腕に手を添え、互いに目を合わせる。二人は以心伝心のように小さく頷き、そして一度も振り返ることなく、確かな足取りでその場を後にした。残されたのは、空っぽの部屋に響き続ける南雄の悲痛な泣き声だけであり、茜はすでに、承平と共に歩む幸福な未来へと、揺るぎなく進み始めていた。数ヶ月の時が流れた。承平と過ごす甘やかな日々の中で、茜の生活は次第に穏やかさを取り戻し、南雄との過去の因縁も、次第に遠い記憶の彼方へと消えていった。ある日、何の変哲もない午後。茜のスマートフォンに、見知らぬ番号から一通のメッセージが届いた。開いてみると、それは一本の動画であった。画面の中には、血の気が失せた顔に決意の色を宿した南雄が映っている。彼は手に固く金槌を握りしめ、その目は狂気と絶望で満ちていた。次の瞬間、彼は何のためらいもなくその金槌を振り上げ、自らの誇りであった――手術台で幾多の奇跡を生み出してきた両手を、容赦なく打ち砕いた。鈍い衝撃音とともに、その両手は惨たらしい姿で砕け、瞬く間に鮮血が噴き出し、床を赤く染め上げた。不意を突く血生臭く狂気じみた光景に、茜は目を見開き、息を呑んだ。だが、その視界を遮るように、大きな手が彼女の目を覆い、これ以上

  • 月明かりの下でさよならを   第16話

    絶望の叫び声が、この静まり返った部屋に虚しく反響した。しかし、それはもはや茜の心を動かすことはなかった。南雄は狂気に陥ったかのように、両眼を血走らせ、絶望と無念を湛えた視線を浮かべ、口の中で何度も繰り返し呟いた。「もうすぐ俺たちは結婚するはずだったのに……あとほんの少しだったのに……どうしてこんなことになったんだ!どうしてだ!」そう言うと、彼は狂ったように拳を振り上げ、地面を何度も何度も力任せに叩きつけた。「ドン、ドン」という音が静寂の中に響き渡り、その一撃、また一撃が、彼の胸の奥底に渦巻く無限の後悔と痛苦を吐き出しているかのようだった。彼は胸を引き裂くように泣き、絶望、自責、そして茜を失う恐怖がその涙に混ざり合い、溢れ出した涙は堤防が決壊した洪水のように頬を伝って流れ落ち、眼前の床を濡らしていった。しかし、茜の表情にはかけらの哀れみも、心の揺らぎも見られなかった。彼女はただ一瞥、その混乱と絶望に満ちた光景を見やると、きっぱりと顔を背け、二度と南雄を見ることはなかった。彼女はそっと承平の腕に手を添え、互いに目を合わせる。二人は以心伝心のように小さく頷き、そして一度も振り返ることなく、確かな足取りでその場を後にした。残されたのは、空っぽの部屋に響き続ける南雄の悲痛な泣き声だけであり、茜はすでに、承平と共に歩む幸福な未来へと、揺るぎなく進み始めていた。数ヶ月の時が流れた。承平と過ごす甘やかな日々の中で、茜の生活は次第に穏やかさを取り戻し、南雄との過去の因縁も、次第に遠い記憶の彼方へと消えていった。ある日、何の変哲もない午後。茜のスマートフォンに、見知らぬ番号から一通のメッセージが届いた。開いてみると、それは一本の動画であった。画面の中には、血の気が失せた顔に決意の色を宿した南雄が映っている。彼は手に固く金槌を握りしめ、その目は狂気と絶望で満ちていた。次の瞬間、彼は何のためらいもなくその金槌を振り上げ、自らの誇りであった――手術台で幾多の奇跡を生み出してきた両手を、容赦なく打ち砕いた。鈍い衝撃音とともに、その両手は惨たらしい姿で砕け、瞬く間に鮮血が噴き出し、床を赤く染め上げた。不意を突く血生臭く狂気じみた光景に、茜は目を見開き、息を呑んだ。だが、その視界を遮るように、大きな手が彼女の目を覆い、これ以上

  • 月明かりの下でさよならを   第14話

    男の顔は紙のように真っ白で、血の気が一切なく、今にも倒れそうなほどふらついていた。次の瞬間、「ガシャーン」という鋭い音が響き、南雄の手に握られていたワイングラスが床に叩きつけられ、ガラスの破片が四方に飛び散った。まるで制御不能の獣のように、彼の両目は血走って、その瞳には一切を顧みない狂気が宿っていた。周囲の人々が反応する間もなく、彼は一切お構いなしに赤いバージンロードへと突進してきた。「茜!」声を張り裂くように叫び、その声には果てしない絶望と悔しさが滲んでいた。「彼に嫁ぐな!」その叫びは、静かで厳かな結婚式の会場に反響し、一瞬で全ての調和と静寂を打ち砕いた。茜の胸がきゅっと締め付けられる。彼の絶叫は式場の空気を震わせ、招待客たちの視線を一斉に引き寄せた。人々は驚きと困惑を隠せず、この異様な光景へと顔を向けた。混乱の中、屈強な警備員たちが素早く動いた。数歩で南雄を取り囲み、有無を言わせず腕を取り、あっという間に式場の外へと引きずり出した。扉の外に押し出された彼の両目は、怒りと絶望で見開かれ、今にも裂けそうなほど充血していた。その視線は火花を散らすかのように鋭く、式場内の光景を睨みつけて離さなかった。式場の中では、茜と承平が招待客たちの祝福に包まれながら、厳かに指輪を交換していた。永遠の誓いを象徴する二つの指輪がライトに照らされ、煌めきを放ちながら互いの指に収まっていく。司会者の重々しく長い誓約の言葉が会場に響き渡った。茜は静かで揺るぎない表情のまま、真っ直ぐ承平の目を見つめ、はっきりと力強く言葉を落とした。「私、誓います」短い言葉だったが、その響はとんでもない重みを持ち、この結婚への確固たる決意と彼への深い愛情を宣言していた。式場の外でその言葉を耳にした瞬間、南雄はまるで金縛りにあったかのように動きを止めた。頭の中が真っ白になり、体から一気に力が抜け落ちた。魂を失った木偶人形のように、壁に背を預けてゆっくりと座り込み、虚ろな瞳に絶望を浮かべたまま、かつて愛した女性が他の男に生涯を誓う姿をただ見つめるしかなかった。やがて招待客たちは三々五々会場を後にし、華やかだった式場は少しずつ静けさを取り戻していった。茜は疲れながらも幸せに満ちた体を引きずり、控え室にやって来た。しかし、目

  • 月明かりの下でさよならを   第13話

    華やかな結婚式の準備品の数々だけでなく、承平は、心を温める数多くの行動を取っていた。彼は南城の外科医の第一人者であり、その卓越した技術と名声は広く知られている。日頃は目の回るような忙しさの中にあっても、彼は毎日欠かさず茜のもとを訪れ、その負傷した手首の手当てを自ら行った。薬を優しく取り替え、傷の回復を丁寧に確認した。その一つ一つの動作には、深い気遣いと痛ましさが込められていた。まるで茜の手首が、この世で最も大切な宝物であるかのように、一切の妥協を許さない。さらに、結婚式当日に彼女が何の後悔もなく、最高の美しさを披露できるよう、彼は特別に一双の婚礼用グローブを誂えた。そのデザインは驚くほど巧妙で、婚紗との相性も抜群だった。しかも、そのグローブは茜の手首に残る治りきらぬ傷跡を、完璧に覆い隠すことができた。この政略結婚に対し、茜は当初、大きな期待を抱いてはいなかった。家族の意向に従う、それだけのことだと思っていたのだ。だが、予想に反して、この縁談は彼女に数々の嬉しい驚きをもたらすことになった。茜の誕生日がきた。承平は、失われた十五年の時を埋め合わせるかのように、心を込めて一つ一つの贈り物を用意した。それはどれも、かつて茜が心から愛し、今もなお大切に思っている品々だった。実はこの十五年、彼はずっと茜の好みを記録し続けていたのだ。幼い頃にお気に入りだったぬいぐるみ。夢中になって眺めた画集。大人になってから憧れたアクセサリー。それらを一つも欠かさず覚え、手を尽くして探し出し、贈り物として彼女のもとへ届けた。承平が深い愛情を込めた表情で片膝をつき、きらめくダイヤの指輪をそっと取り出した時、茜の目には、一瞬で涙が浮かんだ。それは、この世で一度きりの愛を象徴するブランドのリングであり、「唯一の愛」を意味する、何物にも代えがたい逸品だった。しかし茜はその指輪を見つめながら、思考はいつの間にか南雄と過ごした日々へと迷い込んでいた。あの時、彼女は南雄の金庫でまったく同じこの指輪を見かけた。一瞬、胸が躍った――きっと彼が自分のために用意してくれたに違いない、そう信じて。いつか南雄が大勢の前でこの指輪を持ち、ロマンチックなプロポーズをしてくれると、夢見るように想像していた。だが、希枝が戻ってきたあの夜、全てが変わった。

  • 月明かりの下でさよならを   第12話

    その時、車内で承平がゆっくりと口を開いた。声には感慨と深い情愛が滲んでいた。彼は茜を見つめ、その瞳には感謝と愛惜が満ちている。「茜、僕の母は早くに亡くなり、継母はずっと僕に悪意を抱いていた。彼女は僕を殺そうとしていたんだ。もし君がいなかったら、きっと僕はとうに乗り越えられなかっただろう」そう言って一度小さく息を詰めた。まるで過去の痛みを思い返すかのように、そして再び口を開いた。「恩を返し、身を捧げるべきなのは、本当は僕の方だ」その言葉が終わったと、車内の空気は一層温かく、そしてどこか微妙な色を帯びた。承平の視線は終始、優しく茜に注がれ、この一瞬、過去の出来事はすべて、二人を固く結びつける目に見えぬ絆に変わっていく。茜はその真摯で深い言葉を聞き、心臓が一拍遅れたように跳ねた。今まで感じたことのない胸のざわめきが、静かに広がっていく。その微妙な空気を少し和らげようと、彼女は無意識に冗談を口にした。「まさか私に会うために、わざわざ同じ便に乗ってきたんじゃないでしょうね?」軽口のつもりだったが、承平は驚くほど真剣に答えた。彼は茜の目を真っ直ぐに見据え、ためらいなく言った。「ああ。僕はずっと南城にいた。そして、君に恋人がいることも知っている……」そう言いかけた時、その瞳に一瞬翳りが差し、彼はゆっくりと目を伏せ、声を潜めた。「もし君が本当に彼を好きなら、僕は遠くから二人を祝福し、結婚祝いだって贈るつもりだった。でも、ほんの少しでも彼が君を大切にしないなら、僕は迷わず君を奪い返す」茜の胸が震える。南雄に傷つけられた記憶が、瞬く間に押し寄せた。口を開きかけるも、何から言えばいいのか分からない。ふと、茜は何かを思い出したように、目に一瞬のひらめきを宿し、静かに問いかけた。「じゃあ、あの日ホテルの個室の外で騒ぎを起こして、私を救ったのは……あなた?」承平は彼女の傷ついた手を見つめ、その表情には痛ましさが溢れ、目の縁が赤く染まった。小さく頷き、悔しさを滲ませながら言った。「遅れてしまった……結局、あいつに君を傷つけさせた」その言葉に、茜の心には温かな流れが広がった。それは冬の日差しのように、彼女の全身をやわらかく包み込んだ。彼女は無傷の手を伸ばし、そっと彼の手を握った。そして優しく、し

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status