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第8話

Author: 桜庭蒼
美咲は手を振って断り、美和と一緒にロビーのソファに腰を下ろした。

ロビーではちょうど子どもの誕生日会が開かれていて、賑やかな笑い声が響いていた。

五段重ねの大きなバースデーケーキが豪華に飾られ、誕生日の帽子をかぶった男の子が目を閉じて願いごとをしている。

隣では男が女を抱き寄せ、一緒にバースデーソングを口ずさんでいた。

女は優しく男の子の頭を撫で、穏やかで幸せそうな表情を浮かべている。

その光景に、美咲の胸は見えない手でぐちゃぐちゃにかき乱されるように痛んだ。

かつて、その男の手は自分を抱きしめて囁いてくれたのだ。

「美咲ちゃん、信じて。これからもっと幸せになるから」

けれど、その「幸せ」には、いつの間にか自分の居場所はなくなっていた。

「何見てるの?そんなに夢中になって」美和に声をかけられ、美咲ははっと我に返る。

「……なんでもない。行こう」

エレベーターに乗ろうとしたそのとき、思いがけず加藤里穂(かとう りほ)が追いかけてきた。

「美咲さん、ごめんなさい。今日恭介くんを呼んだのは私なの。子どもの誕生日だから、どうか大目に見て。恭介くんと喧嘩しないでね」

口では申し訳なさそうに言いながら、目には露骨な挑発が光っている。

そう言って美咲の手を取ろうとした瞬間、美和がつい足を蹴り出し、里穂を突き飛ばした。

「美咲、いい加減にしろ!」背後から恭介の鋭い声が飛んでくる。

敵意むき出しの彼は里穂をかばい、美咲を氷のような視線でにらみつけた。

その姿に、彼女はふと思い出す。昔、スラム街で「びっこの女」と罵られたときも、彼は同じように彼女を背中で守ってくれたことを。

でも、目の前にいるのはもう別人だった。

次に口を開いた彼の声は、氷の破片のように冷たい。「美咲……まさかホテルまでつけてくるなんて。俺がちゃんと解決すると言ったのに、君はいつだって俺を信じない」

「里穂とはもう話がついてる。彼女も手を引くと言ってくれた。君の足のこともあるし、俺に任せて安心していろって」

「それなら、どうして隠したの?」美咲は問い詰める。

「隠したのは……ただ子どもにちゃんとした誕生日を過ごさせてやりたかっただけだ。なのに、君は俺を疑って里穂を傷つけるなんて……本当にがっかりだ」

そのとき、男の子が彼女を見つけ、甲高い声を上げた。

「足の悪いばばあ!何しに来たんだよ!パパは絶対にお前なんかと帰らない!」

幸せそうな三人の姿を前に、美咲は悟る。この関係がきれいに終わるはずもない。子どもを理由に何度も会い、計算高い女がそばにいれば、余計に自分の居場所はなくなるだけだ。

美和は歯ぎしりして吐き捨てる。

「どこのクソガキだ、もう一度言ってみろ」

「誰に向かって言ってるの?恭介くん、見てよ。類は友を呼ぶっていうけど、美咲の周りにいるのなんてこの程度よ」

里穂は軽蔑を隠そうともせず美和を指さす。

美和が美咲に目配せする。「知り合い?」

美咲は自嘲気味に笑った。「知らない人よ。行こう」

美和は思わず目を見開く。

思い返せば、美咲は本気で愛する人と結婚すると決めたとき、家族と大喧嘩してまで押し通し、結婚式も秘密裏に行い、友人すら招かなかった。

その本気で愛する人が、この男だったのか。浮気するどころか、子どもまでいたなんて。

彼女は美咲の不幸があまりにも不憫でならなかった。

別れ際、美和は一通の招待状を差し出す。「十日後、あなたのお父さんの誕生日パーティーよ。春町市の重鎮がみんな集まる。会社も私ひとりじゃ限界。そろそろ、裏方じゃなくて表に出るときでしょ」

美咲は手にした招待状を見つめ、しばし茫然とする。もう父が七十になるなんて。

「父さんの意向なの?」

「ええ」美和は彼女の肩を軽く叩き、にっこり笑った。「親子の仲に本当のわだかまりなんてないのよ。ちゃんと戻るときが来たんだわ」

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