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第1611話

Penulis: 夏目八月
木漏れ日が差し込む中、鬱蒼と茂る枝葉の隙間から、白い小脚がのんびりとぶらぶら揺れているのが見え、何とも長閑な光景だった。

彼女の本名は影森冴子。その名は皇族の系図に刻まれた格式あるものだった。

しかし後年、「室美」という幼名を持つことになった。母親が彼女のあまりに活発でおしゃべりな性格を心配し、「少しは落ち着いてほしい」と願ってつけられた名だという。

冴子本人は、そんな名前を付けたところで何の効果もないと思っていた。そもそも「室美」なんて響きも気に入らない。「部屋に閉じこもる美人」という意味だろう?せっかくこんなに長い足があるのに、どこへも行かず、ただ部屋でぼんやり過ごすだけだなんて。

それじゃあ、気がおかしくなってしまうじゃないか。

「おやまあ、ここにいらっしゃいましたか、姫君様。お探ししましたよ」お珠は樹の下から見上げて、呆れたような、それでいて笑いをこらえているような表情を浮かべた。「早く降りてきてくださいまし。親王様と王妃様がお探しですよ」

「お珠おばさん、何の用なんです?」樹上から、朗らかで、どこか満ち足りたような澄んだ声が響いてきた。

「王妃様が梅月山へお出かけになるそうで、あなたも一緒に連れていくとおっしゃっていますよ。どうされます?行かれますか?」とお珠が言った。

冴子はそれを聞くと、するりと素早く幹を滑り降りてきた。両方の肩には、二匹の白い愛猫がぴたりと張り付いている。彼女は満面の笑みで言った。「本当?じゃあ急がなくちゃ」

その二匹の猫、一匹は「玄雀」、もう一匹は「白虎」という名を付けられていた。昨年、彼女の元へやってきて以来、冴子はそれはもう大切にしており、しつけも行き届いていて、実に聞き分けがよかった。

さくらと玄武が小広間にいると、娘がぴょんぴょんと弾むように駆けてくるのが見えた。しかし、肩に乗った二匹の猫だけは微動だにせず、その姿に思わず、二人して笑みがこぼれた。

冴子は二人の元へ駆け寄ると、「お母様!」「お父様!」と声を上げた。

「そんな状態でくっつかれて、暑くないの?」さくらは懐紙を取り出し、彼女の額の汗を拭い、髪についていた木の葉をそっと取り除きながら、呆れたように言った。

二匹の猫は、それまで目を閉じて微睡んでいたが、さくらの声が聞こえた途端、目を見開き、琥珀色の瞳をさらした。だらしなかった姿勢が、途端にぴ
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