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第402話

Auteur: 夏目八月
次々と、都にいる皇族の親族たちも続々と宮中に参上した。

淡嶋親王と淡嶋親王妃は数人の大長公主たちと一緒に来ていた。大長公主たちはそれぞれ夫や子供たちを連れており、大勢の人々が一度に到着し、殿内は一気ににぎやかになった。

その後、すでに降嫁した二人の長公主、清良長公主と山吹長公主が到着した。二人とも天皇の姉妹で、清良長公主は太后の娘で天皇の姉、山吹は斎藤貴太妃の娘で天皇の妹だった。

清良姫は弾正尹の次男、越前楽天に嫁いでいた。その名の通り楽天的な性格で、治部で閑職に就いていた。

越前家は宰相夫人の実家で、代々詩文と礼儀を重んじる家柄だった。ただ、越前弾正尹は頑固で強情な性格で、天皇にさえ意見するような人物だった。長公主は公主邸を持っていたが、毎月一日と十五日には越前家に行って挨拶をしなければならなかった。これは嫁としての礼儀であり、越前弾正尹は彼女が皇族だからといって特別扱いすることを許さなかった。

しかし、清良姫は夫と仲睦まじく、太后の教育も行き届いていたため、越前家の人々に対して決して高慢な態度を取ることはなかった。そのため、越前家の上下から称賛を得ていた。

一方、山吹姫は兵部大臣の清家本宗の甥、清家飛遊に嫁いでいた。清家飛遊は閑職に就くのではなく、姫の田荘や店舗の管理を手伝っており、商売の才能に長けていた。

さくらは辺りを見回したが、蘭の姿が見当たらなかった。

蘭は姫君ではあるが、嫁いだ後は当然夫の家で新年を過ごすのだろう。蘭の夫、梁田孝浩については、さくらは好感を持てなかった。あまりにも頑固な考え方の持ち主で、蘭は苦労しているに違いないと思った。

そう考えていると、太后が淡嶋親王妃に話しかけるのが聞こえた。「永平姫君がしばらく私に挨拶に来ていないわね」

淡嶋親王妃は笑顔で答えた。「はい、上皇后様。蘭は身重になりまして、今は屋敷で静養しております」

「まあ、本当?それは素晴らしいわ」太后は顔を輝かせた。「私はてっきり侍医を遣わして診てもらおうかと思っていたのよ。嫁いでからもう随分経つのに、良い知らせがないものだから。まさか、お正月にこんな嬉しい報告が聞けるとは思わなかったわ」

淡嶋親王妃も安堵の表情を浮かべた。「そうなんです。妊娠が分かって、私もほっとしました。承恩伯爵家でも蘭の妊娠を知ると、すぐに多くの品々を用意してくれて、付き添いの者
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