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第528話

Author: 夏目八月
二人は必死に応戦したが、たちまち劣勢に追い込まれ、血しぶきを散らしながら苦戦を強いられた。

刺客たちは戦いを引き延ばすつもりはなかった。一人が北條次男の父子三人を相手取る中、残る三人が鋭い剣を琴音の胸元へと突き出した。琴音は慌てふためき、咄嗟に剣を投げ捨てると、守を掴んで自分の盾にした。

「やめて!」老夫人と夕美が悲鳴を上げた。

守は夢にも思わなかった。琴音にこんな仕打ちを受けるとは。負傷した体を琴音に両腕を掴まれ、剣を振るうこともできず、ただ目の前で三振りの剣が自分の心臓を貫こうとするのを見つめるしかなかった。

誰もが凍りついたように動けず、老夫人は目を背けた。我が子が刺客の手にかかる惨状を見る勇気もなかった。

その危機一髪の瞬間、「シュッ」という音とともに一振りの桜花槍が空中から飛来し、見事に三振りの剣を弾き飛ばした。刺客たちは手の付け根を痺れさせながら、慌てて後退した。

一つの影が空から舞い降り、つま先で地面を素早く蹴って桜花槍を回収すると、躊躇することなく銀光の如く槍を振るい、三人の刺客を押し返した。

誰が来たのか見極める暇もない。その人物は既に刺客たちと戦いを始めており、槍さばきは速く、力強く、正確で、一切の無駄がなかった。

刺客たちは連戦連敗を強いられ、先ほどまでの鋭い剣さばきも、桜花槍の前ではまったく通用しなかった。

わずか十合、刺客たちの剣はことごとく地に落ちた。

二十合目には、刺客たちは全員地に倒れていた。手足の筋を切られ、丹田の気も尽き果て、剣すら持ち上げられない状態だった。

夏の夜風が、その人物の乱れた髪を揺らした。廊下の灯りに照らされて顔を上げた時、皆がようやくその正体を認識した。

「上原さくら?」震え上がっていた夕美が思わず声を上げた。

さくらは白い衣装に身を包み、真珠の刺繍が施された靴を履いていた。広袖の長衣が、すらりとした体つきを引き立てている。

ただ、その眉目には未だ殺気が残り、白い衣装には刺客の血が点々と付き、雲鶴緞子の上で椿の花のように滲んでいた。

全員が驚きで凍りついている中、北條次男の北條剛が即座に前に出て命じた。「彼らを縛り上げ、京都奉行所に引き渡せ」

「医者を!早く医者を!」老夫人が急いで駆け寄り、蒼白な顔をした守を支えながら叫んだ。「どこを傷つけられたの?どこが?」

守は充血した目でさく
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