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第1055話

Author: かんもく
「結菜だって、結局見つかっただろ?」奏は眉をひそめ、別の案を提示した。「黒介を殺さないというなら、和夫一家を始末するしかない」

とわこは沈黙した。

その提案は、彼女には到底受け入れられない。

彼に人を殺してほしくなかった。

「奏、まだ風邪が治ってないんだから、まずはゆっくり休んで」彼女は目を伏せ、そっとささやいた。「黒介のことは急がなくていい。病院にはボディーガードをつけてるし、和夫も簡単には近づけないわ。あなたの体調が良くなったら、もっといい方法を一緒に考えよう」

「とわこ、逃げても何も解決しない」彼の声は冷たく、刃のようだった。「俺と奴は、共存できない」

「どうして?黒介はあなたの何も奪わない。結菜と同じ普通の意味での人じゃない。もし結菜が生きてたら、あなたは結菜まで殺すつもりなの?」

彼女は眉をひそめ、問い詰めた。

「そんなのは詭弁だ。結菜はもう死んでる。だからその仮定は成り立たない」彼は鋭く言い返す。

「詭弁を言ってるのはどっちよ?黒介は一体何をしたっていうの?どうしてあなただけが彼を受け入れられないの?」とわこは、こうなることを予想していた。けれど、彼がここまで強硬だとは思っていなかった。

「彼に罪はない。悪いのは俺だ」奏の顔には陰りが差し、低く言い放った。「俺は、奴の人生を奪っておきながら、それを一生返すつもりもないんだ」

「奏、私はあなたを責めてなんかない」彼女は苦しげに息を吸った。「あなたの人生は、自分で選んだものじゃない。あなたもまた、被害者なのよ」

彼は黙って布団をはねのけ、ベッドを降りた。

彼女は、彼が長い足取りで洗面所へ入っていくのを見つめながら、胸が締め付けられる思いだった。

彼を説得するのは、無理かもしれない。

この問題に、正解なんてないのかもしれない。

彼の言う通り、もし黒介を隠したとしても、和夫は命をかけて探すだろう。和夫が生きている限り、それは止まらない。

つまり、黒介が死ぬか、和夫が死ぬか。どちらかが消えない限り、この問題は永遠に火種を抱え続ける。

朝食の時間。

千代は彼ら二人をそっと観察した後、何も言わずに立ち去った。

どうやら、二人の間の溝はまだ埋まっていないようだった。

千代が出ていった後、とわこは重い沈黙を破った。「奏、私、考えてみたの。仮に黒介の存在が知られて、あなたの出自が公に
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Comments (2)
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
奏とは合わないんだよ 合ってれば離婚しない こんなに揉めない
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
奏と結婚止めて とわこは黒介と暮らしていけば 黒介はとわこに依存しているから 奏と結婚すれば崩壊する
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