Share

第963話

Author: かんもく
「社長、毎回の出張に僕を連れて行くわけじゃないしな」子遠は水を飲み干してから、鋭く問い返した。「ところで、とわこがなんで急に社長に興味持ち始めたんだ?自分で聞けばいいだろ?」

「今日から彼女も出張だってさ。一週間。だから、ふと奏がどこに出張に行ったか知ってる?って聞かれただけ」マイクは大笑いした。「でさ、彼女、自分と奏が同じ場所に行くんじゃないかって、ちょっと妄想してたっぽい。俺は即座に言ってやったよ、あり得ねぇってな!あんなプライドの塊が社長研修なんてくだらねぇもんに参加するかっての!あいつが講師席に立つなんて、想像するだけで笑えるわ。あの氷みたいな顔で講義してる姿とか、マジでホラーだろ」

子遠は違和感を覚え、眉をひそめた。「とわこって、どこに出張に行ったの?」

「青山大学だよ。で、奏は?」

「社長も青山に行ってるぞ!」子遠の声が一気に明るくなった。「もしかしてとわこも講師として行ったのか?」

「ブフッ!」マイクは思わず吹き出した。「何が講師だよ!彼女は生徒として行ったんだってば!マジで、これってもしかして、誰かが仕組んだ罠なんじゃねぇのか?なあ、子遠、正直に言えよ。これ、奏がとわこに仕掛けた罠じゃないのか?」

「それはないよ。少なくとも、僕は何も知らされてない」子遠はそう断言した。

マイク「なるほどな。そもそもうちの副社長が申し込んだ研修だったんだよ。で、そいつが急用で行けなくなって、代わりにとわこが行くことになったんだ。まさか、うちの副社長まで奏にコントロールされてるってことは、ないよな?」

子遠「たぶん偶然だよ。きっと、神様があの二人をくっつけたいんだよ」

マイク「ははっ、冗談はやめてくれ。神様はむしろ、あの二人がくっつくのを嫌がってるようにしか見えねぇよ。だって何年もお互いウダウダして、結婚もしてないじゃん?大変だろう」

子遠「それでも、今回の青山の旅で何か良い展開があるかもよ」

マイク「そうなるといいけどな。あ、そうだ!今日のとわこ、ちょっとひどかったんだぞ。突然、いつ家から出ていくの?なんて聞いてきたんだ。もしかして、俺のこと邪魔だと思ってるのか?」

子遠は鼻で笑った。「ずっと自分のこと歓迎されてる存在だと勘違いしてたのか?」

マイク「おいおい、喧嘩売ってんのか?」

子遠「今めちゃくちゃ忙しいから、夜に会ったときに続き話そう
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第1087話

    悟の話は、本当なの?奏は本当は常盤家の跡取りじゃなくて、しかも清を殺したって?そんなことって!とわこは、近くのローマ柱にしがみつかなければ、その場で足元が崩れ落ちて倒れていたかもしれなかった。あまりにも衝撃的な内容に、頭がクラクラする。まるで悪夢の中に迷い込んだかのようだった。別荘を飛び出したとわこの後を、すぐにボディーガードが追いかけてきた。「社長、落ち着いてください!今のまま外に出ると、周囲の人に注目されてしまいます!」ボディーガードは慌てて、とわこをなだめながら言った。「旦那様は外に出ておりますが、それほど遠くには行っていないはずです。お電話いただければ、すぐに戻ってこられるかと」とわこの胸は大きく上下し、呼吸が乱れていた。彼女は震える手でスマホを取り出し、彼の番号を探して発信する。コールは繋がっていたが、彼は電話に出なかった。「どうか中でお待ちください。私が代わりに旦那様を探してきます。見つけたらすぐに連絡するよう伝えます」ボディーガードはとわこの肩を支え、再び別荘の中へと促した。「外には人も多くて騒がしいですし、その格好で出歩けば余計な噂も立ってしまいます。それに、せっかくのドレスが汚れてしまいますよ」とわこは深く息を吸い込んだ。何があっても、今日の結婚式は必ず挙げようって、彼に言ったじゃない。自分に言い聞かせるようにして、気持ちを少しだけ落ち着けた。「行って。彼を見つけたら、すぐに連れて戻ってきて。もし帰ろうとしないなら、『私はここで待ってる』って、伝えて」目に涙を浮かべながら、とわこは静かに言った。「かしこまりました」ボディーガードは彼女を別荘に送り届けると、そのまま足早に出て行った。リゾートの外。奏は警察による聞き取りに応じていた。「奏さん、病院に確認したところ、甥っ子さんは命に別状なかったとのことです。ですので、そちらの件で問題になることはありません」奏「彼は俺の甥じゃない。常盤家とは何の関係もない」「は、はい、常盤家の血筋かどうかは、我々の管轄外なので、ですが、悟さんが言っていた、父親を殺したという件についてですがそれは事実なのでしょうか?」警官は恐る恐る尋ねた。奏はしばらく沈黙したのち、喉を鳴らしてから静かに答えた。「ああ。俺が常盤清を殺した」「なぜですか?今こ

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第1086話

    この記者会見は、無数のメディア関係者を前に行われ、その様子は同時にネット上でも生配信された。世間に大きな衝撃を与えたいなら、これくらいの騒ぎにはしないと意味がない!奏と命を懸けて戦う覚悟を決めた悟は、感情を露わにして会見に臨んでいた。彼は現場で、さまざまな証拠を提示した。DNA鑑定結果や、かつて母親が奏に送金した際のスクリーンショットも含まれていた。一通り証拠を提示し終えた後、悟は涙を浮かべながらカメラを見据えた。「奏は俺の弟の人生を奪い、常盤家の金を使って常盤グループを立ち上げた。母はすでに亡くなったけど、当時、弟と運転手の子供がどうしてすり替わったのかは分からない。ただ、もう真実は明らかなんだ。これ以上傷つけられたくない!奏が常盤家から奪った金を返す気がなくても、父の命まで奪った責任は、絶対に取ってもらう!」この生配信は瞬く間に拡散された。奏ととわこの結婚を祝福するハッシュタグは、たちまち別の話題で埋め尽くされていった。みんな、悟のライブ見た?内容が衝撃すぎる、今すぐ検索してみて、「悟」って入れれば出てくるよ!急げ!ライブ、もうすぐ消されるかもしれないよ!あいつ、A国じゃ何でも揉み消せる力あるから!誰か要点まとめてくれない?仕事中でライブ見られない。1、奏は常盤家の子供じゃなくて、運転手の子供だった!完全にすり替え事件!2、十代の頃に常盤家の当主常盤清を殺した。3、常盤グループは常盤家の資金で立ち上げたくせに、今は悟に一銭も渡そうとしない。つまり、カネで揉めてるってこと。奏が少しでも分けていれば、こんな暴露はなかったかもね。うそでしょ!奏って運転手の子供だったの?親父が勝手にすり替えたってこと?どうりで、常盤家の他の人たちと顔立ちが違うと思ったよ!私だけ?なんで奏が清を殺したのか気になるの?人殺しは犯罪だよ?そのとき、自分が常盤家の人間じゃないって、知らなかったはずでしょ。やっぱり成功する人って、普通じゃないんだな。悟の暴露を聞く限り、奏って、めっちゃ怖い人間じゃん!今日、とわこが彼と結婚するけど、とわこはこのこと全部知ってたのかな?知ってたとしても、もう子供までいるし。きっと似た者同士なんでしょ。類は友を呼ぶってやつ。今の奏の地位を揺るがすのは、誰にもできないんじゃない?国に毎年膨大な税金を納めて

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第1085話

    なるほど最近悟が現れなかったのは、この要求を突きつけるのにそれだけの覚悟が必要だったからか。「悟、自分の言ってることが正当だとでも思ってるのか?」奏の表情は冷たく、声はさらに冷え切っていた。「まるで2億をお前が出したみたいに言うなよ。お前の母親が俺に金を渡した時、借用書なんて一枚も書かされてねぇんだぞ」「つまり、お前は返すつもりがないってことか!」怒りに震える声で悟が叫んだ。「返せと言うなら、返してやるよ。2億なんざ利子つけて全額返済してやる。だがなうちの会社の株を寄越せだと?冗談も休み休み言え!夢でも見てろ!」奏の拳はぎゅっと握りしめられ、我慢の限界はとっくに過ぎていた。悟は内心焦っていた。自分には“秘密”という切り札があると思っていた。なのに奏はまったく動じない。まるで、暴露されることなど恐れていないようだ。本当に、あの事実が世間に出ても平気なのか?「さすがだな、チンピラの息子!お前の父親とまったく同じ、暴力で奪うしか能がない下劣な奴だ!叔父の人生を奪い、俺たちの財産まで盗み取っておきながら、まだ足りないってのか!今お前が社会的に地位を得てるからって、好き勝手できると思うなよ!お前の本性を暴いてやる!名誉もキャリアも、全部終わらせてやる」そう怒鳴ったのは弥だった。彼は父の怒りに我慢できず、立ち上がって怒鳴り声を上げた。奏は悟に対して、まだどこかで兄弟としての情を残していた。だが弥?何様のつもりだ。弥が怒声を上げたその瞬間、奏は椅子から立ち上がり、弥の前へと無言で歩み寄った。そしてその胸ぐらを掴み、一発、強烈な拳を顔面に叩き込んだ。真っ赤な血が、弥の口から飛び散り、奏の礼服に染みを作った。弥はその場で意識を失い、床に崩れ落ちた。奏は自分の血に染まった拳を見下ろし、思わず息を呑んだ。まさかここまでの力が自分にあったとは。「殺人だ。殺人だ」悟は恐怖で顔を引きつらせ、叫んだ。「奏、お前は狂ってる!!俺の父親を殺しただけじゃなく、今度は息子まで殺すつもりか?今すぐ警察に通報してやる!覚悟しておけ!」彼は慌ててポケットからスマホを取り出し、通報し始めた。それを見た常盤家の者たちは、慌てて奏を押さえにかかった。「奏、やめなさい!もうやめろ!過去のことなんて、誰が悪いとも言いきれないだろ?兄弟同士で殺し合いなん

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第1084話

    すぐに電話が繋がった。「奏、どこに行ったの?」不安で張りつめていた心が、少しだけ緩んだ。ほんのさっきまで、彼の電話が繋がらないのではないかと、胸がざわついていた。「お客さんの対応に行ってたんだ。君はヴィラで待ってて。外には出ないで」奏の声は落ち着いていた。「そう。悟から連絡は?」とわこは声を落として聞いた。「いや、まだだ」だが、実際には悟ではなく、彼の叔父から連絡が来ていた。そしてその叔父も、結局悟に頼まれて彼に会いに来たのだった。叔父は前日からすでにリゾート地に来ていたが、今は外にいる。そして彼にこう伝えた。悟が個人的に話をしたいと望んでいる。どうしても今日、会って話す必要があると。奏はとわこに余計な心配をさせたくなかった。だからこそ、まずは悟が何を持ちかけてくるのかを見極めることにした。リゾートの外にあるレストランの一角。そこには悟、弥、そして常盤家の数名の年長者たちが席に着いていた。奏が店に入ると、彼ら全員の視線が一斉に彼に向けられた。「奏、今日はお前の晴れの日だな。結婚おめでとう。俺は招待されなかったけどな」悟は顔に作り笑いを浮かべて言った。奏は無言で彼の正面に座った。「で?何が目的だ」「被害者ぶった態度はやめろよ」悟の笑顔はすぐに消え、冷たい声に変わった。「今日はな、俺たち常盤家の当然の権利を取り返しに来たんだ!」その横柄な物言いに、奏の心は一気に冷えた。常盤家のもの?それはまさか、「奏」という名前すら含まれるのか?彼の目が険しくなっていくのを見て、悟はさらに語気を強めた。「今日が結婚式だからって、気を遣ってやってるだけだ。恥をかかせたくないだけだ。でもな、常盤家の恩をタダで受け取って知らん顔ってわけにはいかない。俺は黒介とDNA鑑定をした。結果、彼は間違いなく俺の実の弟だった。つまり、お前は俺の弟じゃない。お前はもう常盤家の人間じゃないんだよ!」その言葉に、席にいる年長者たちの顔色が一斉に曇った。彼らは今朝、この事実を悟から聞かされ、ショックを受けていた。これまで奏と良好な関係を築いてきた彼らにとって、それは耐え難い現実だった。どれだけ情があっても、「常盤家の人間ではない」という事実を前に、彼らはもう堂々と奏の味方ではいられない。「起業する前のお前に、うちの両親がどれ

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第1083話

    「なんでみんなパパを責めるの?」レラは本気でそう思ったのか、少し悲しげな顔をした。とわこは、なんと答えればいいのか分からなかった。本当のことを話したら、娘はきっと今夜眠れなくなる。だから、とわこは口をつぐんだ。「何でもない。ただのたとえ話よ」とわこは静かに言った。「いい?ママのことば、よく覚えて。パパは立派な人よ。たとえどんなに世間が彼を非難しても、あなたは絶対に彼を嫌わないで」「うん」レラは少し納得できない様子だったが、最後には素直に頷いた。「分かった。ママの言うこと、ちゃんと聞く」その後、とわこはレラを寝かしつけた。主寝室に戻った時には、すでに夜の十時を回っていた。「ちょっと何か食べる?」奏が、執事が運んできた夜食を指差して聞いた。「いらない。夜中に食べると太るでしょ?明日は私、人生で一番綺麗な花嫁になるんだから。誘惑しないでよ」「じゃあ、片づけてもらうよ」奏はすぐに執事に電話をかけた。まもなく、執事が夜食を下げにやってきた。「じゃあ、寝て。ちょっと眠くなってきたわ」とわこが言った。「うん。アロマキャンドル、消そうか?」「ううん、大丈夫。いい香りだし」「わかった。じゃあ、電気消すね」「うん」部屋の灯りが落ちると、柔らかな暗闇がふたりを包んだ。とわこはいつものように、彼の腰に腕を回し、顔を胸に擦り寄せた。香るアロマと、彼の馴染み深い匂いが混ざり合って、まるで眠りを誘う薬のようだった。彼の鼓動を感じながら、とわこはすぐに深い眠りに落ちた。再び目を開けた時には、朝の光が部屋いっぱいに差し込んでいた。「起きた?」奏が彼女の目が開いたのを見て、ベッドから起き上がった。「もう起きよう。メイクさん、もう来てるよ」「私のアラーム、止めたでしょ?」とわこはスマホを手に取って時間を確認し、驚いた。いつの間にか寝過ごしていたのだ。「ちょっとくらい多く寝ても大丈夫」奏はそう言いながら、布団をめくり、すらりとした脚を床に下ろして立ち上がった。「執事に朝食を運んでもらうように頼むよ」「うん」とわこは体をぐっと伸ばし、ベッドを降りると、カーテンを大きく開け放った。金色の光がまるで粉のように部屋に降り注ぎ、まばゆいほどに輝いていた。その光景に、自然と彼女の顔にも明るい笑みが咲いた。朝食を

  • 植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた   第1082話

    「怖いよ」とわこは、彼の前で自分の本音を隠そうとはしなかった。「静かな生活が壊されるのが怖い。この時間は、私たちが一緒になってから一番幸せな時期だった。壊したくない。でも壊される気がしてる」弥がこの近くに現れたのは、決して偶然ではない。彼と悟には、間違いなく何か計画がある。とわこには確信に近い予感があった。明日、悟はきっと、奏のすべての秘密を暴くつもりだ。わざわざ明日を選んだのは、明日がこのリゾートで一番賑やかになるからだ。明日は、各メディアも取材に訪れる。そこで情報を暴露すれば、最大限の注目を集められる。「でも、君と子どもたちが俺のそばにいてくれれば、それだけで壊れない」奏の声は低く、けれど心に響く温かさを帯びていた。「うん、私もそう思いたい。でもあなたにあんな大きな世間の非難が向くと思うと、どうしても心が落ち着かない。たとえ真実が明らかになって、ほとんどの人があなたは悪くないって理解してくれても、絶対にあなたを責める人たちもいる」とわこは自分が少し欲張りだと分かっていた。だって真実が暴かれたら、奏はきっと何も気にしてないフリをするだろう。けれど本当は、心の奥で傷つくはず。あれほどプライドの高い人が、自分の過去を晒されて、何も感じないはずがない。「とわこ、他人がどう思うかなんて、俺には関係ない」奏は彼女の目をまっすぐ見つめた。「俺はそんなに弱くない。信じてくれ」「うん、信じてる。ずっと信じてるよ」とわこは頷いた。「ただ、私自身がまだ勇気を持てていないの。ちゃんと気持ちを整えるようにする。さ、早くお風呂入ってきて。私、蒼と少し遊んでくる」「レラは?今夜一度も見てないけど」奏はシャツのボタンをひとつひとつ外しながら聞いた。「マイクにべったりだよ。このところマイクが不在だったから、すごく会いたがってたみたい」「そうか。涼太は明日来るのか?」「今日の夜は撮影が入ってるって言ってた。終わり次第、夜中にこっちへ来るって。だから、私たちは待たなくていいって」とわこは蒼をベッドに寝かせると、スーツケースから彼のパジャマを取り出した。その時、奏はバスルームへと向かいちょうどそのタイミングで、三浦がレラを連れて帰ってきた。レラは汗びっしょりになって遊んできたようで、まだまだ遊び足りなさそうに口をとがらせている。「

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status