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第7話:家賃と口座残高

Author: fuu
last update Petsa ng paglalathala: 2026-06-10 20:01:09

 詰むまで、あと三週間。ATMの残高を見て、私はそう計算した。

 路頭に迷うほどじゃない。でも、収入がゼロのまま固定費だけが続けば、引き算はいつか必ず底を打つ。当たり前の算数だ。私は何度も、客の代わりにこの算数を解いてきた。今度は、自分の番だった。

 底打ちの日付まで分かっているのに、止める手立てがない。それが、静かに怖かった。

 翌日、追い打ちのように管理会社から電話が来た。

「更新のお手続きですが、審査のために勤務先の確認をお願いしておりまして」

 詰まった。「あの……今、転職活動中でして」

「では、収入を証明できる書類が、何か」

 ない。退職したばかりで、次が決まっていない。電話の向こうの声が、ほんの少し冷たくなった。

 それで、思い知った。信用は、仕事だけの話じゃない。仕事を失うと、住む場所まで揺らぐ。信用は見えない土台だった。崩れて初めて、それがすべてを支えていたと分かる。

 母に頼る選択肢が、頭をよぎった。でも、横領犯とうわさされた娘が転がり込めば、母の小さな暮らしまで世間の目にさらされる。私には帰る場所があった。けれど、戻れる場所はなかった。

 夜、スマホを開く。沙耶さやからの返信は、もう来ていた。

「事務だけ、ってわけにはいかないよ。最初はフロアの手伝いもある。でも金払いは早いし、過去は聞かれない。あんた、たぶん向いてる」

 向いている。何に。接客にじゃないだろう。沙耶は、別の何かを見ている。

 夜の店。自分が行く場所じゃない。ずっとそう思ってきた。行ったら終わりだと。――でも、まっとうな道は、もう私を受け入れない。私が外れたんじゃない。私は、外された。

 どこかで、夜の店を見下していた。そこで働く女たちを、「自分とは違う人間」だと思っていた。でも今、その世界の方が、過去で人を弾かないぶん、ずっと公平に見える。

 何度も打っては消して、最後に、短く打った。

「仕事内容を、もう少し詳しく。事務寄りの仕事が、あるなら」

 すぐ既読がついた。

「あんたみたいな子に向いてる場所、一個だけ知ってる。普通の店じゃない。金の流れが見える子は、別の値段がつくの」

 別の値段。安く買いたたかれてきた人生だった。パートだから。女だから。後ろ盾がないから。私にはずっと、安い値段しかつかなかった。

 黙って切られて、泣いて、消えていく女には、もう戻らない。そう決めた瞬間、口座の残高より、その四文字のほうが、明日へ足を向けさせた。

「いつ、会えますか」

 送信した。画面の向こうで、何かが動き始めた気がした。

 私は知らなかった。その「別の値段」をつける男が、もう私の名前を、自分の机の上に置いていることを。

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